とうちゃんのヨメ

りんくま

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1章 絆

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事後処理を山前に任せ、藤原と雪之丞は救急車に同乗した。藤原は、搬送先に藤吉が入院中の病院を指定した。幸い致命傷ではなかったため、搬送先の希望は叶えられた。

藤原は、改めて信の姿を見て、胸の内に怒りが込み上げる。何度も殴打され腫れ上がる顔面。首筋にはスタンガンを押し付けられてできた火傷痕ができ、側にはうっすらと古くなった傷跡も見えた。久美子と暮らしていた期間は短くとも、過去にも同じような暴行を受けていたのだと予測できた。

隣に座る雪之丞は、守れなかった事への後悔の念から俯き拳を握りしめていた。

「雪君が責任を感じる必要はないよ。罰すべき人物は別にいる。雪君は、信君が安心して暮らせるように、安らぎを笑顔を提供してあげるだけで良いんだよ」

雪之丞の肩をポンと叩き、笑顔を見せる。

意識を取り戻した信が、ゆっくり周りを見回す。そして自分を見守る藤原と雪之丞の姿が目に入った。

「雪…ちゃん 大…せん…せ、たす…けて……あり…がと」

藤原はにっこり笑い、雪之丞は泣きながら笑った。

「もう、大丈夫だから。ゆっくりお休み」



搬送中も救急隊員は、信の応急処置を施して行く。同時に無線で事前情報を搬送先に伝えていく。

「腹部右側に裂傷。出血もかなりあります。血液型はO型。顔面は打撲による裂傷有り。頸部に火傷。手首に摩擦による内出血が見られます」

病院に到着し、信はストレッチャーに乗せられたまま治療室に運ばれた。藤原は、雪之丞に待機させ、自分は藤吉の病室に向かった。

状況を簡単に藤吉に説明し、車椅子に乗った藤吉を連れて治療室に戻ってきた。

「雪、信を助けてくれてありがとう」

先にお礼を伝える藤吉を見て、藤原はやっぱり信の家族だなと改めて感じさせられた。

「大先生も尽力していただき、ありがとうございます。おかげで信を失わずにすみました」
「取り敢えず、お前と相部屋になるように病院側にはお願いした。今、一番必要なことは、信君の心のケアだ。藤吉、頼んだぞ」
「もちろんです。雪、これからも助けてくれな」
「うん!うん!」

ブレのない藤吉を見て、藤原も一安心した。雪之丞は、張り詰めた緊張が切れ、完全に涙腺が崩壊していた。

藤原は、医師に診断書の作成を依頼した。被害届を提出するために絶対に必要であった。また断りを入れ、ストレッチャーで眠る信の全身についた傷跡の写真を隈なく撮影していった。

信の治療が終わると、ストレッチャーに乗せられたまま信を病室へ移動。藤原と雪之丞も藤吉と一緒に信の目覚めをまった。

程なくして三人が見守る中、信は目を覚ました。麻酔が効いて意識が朦朧としているだろうと思われるが、三人の顔を見て声にならないお礼の形に唇が動く。そして柔らかい笑みを浮かべて、信は再び眠りについた。

信の意識が戻った事を確認し、藤原は病室を出た。

藤原は、藤吉に伝えていない事が一つあった。信について、搬送中に気がついてしまった事があった。

「まさか、O型とは…」

藤原は、救急隊員が無線で報告した信の情報に驚きを隠せないでいた。外傷及び出血多量の患者を搬送する場合、直ぐに処置ができるよう事前に、患者の状況を連絡する。その為に、採取した血液で血液型を事前に検査をしている。

信は、織田信三と織田寧々の実子として出生届が出されていた。出生届に血液型の申告は不要だ。父親は名前を記載するだけで良い。

「信君に父親の事を多く語れなかった理由は、これだったのか」

この事実を藤原は、藤吉にも伝えるつもりはなかった。藤吉の父親のように、胸の内に秘める決意をしたのだった。











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