とうちゃんのヨメ

りんくま

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1章 絆

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久美子は、信じられなかった。何度も何度もかけ直すが、結果は全て同じ着信拒否だった。

代理人は言った。
「あなたににもう利用価値が無くなりました」

代理人は言った。
「既に警察に包囲されています」

代理人は言った。
「あなたともう話すことはありません」

久美子は、待機していた倉庫の事務所を飛び出した。そして、裏口の鍵を開け、ゆっくり、音を立てないように扉を開けた。

ドアノブが、思いっきり開かれ、男が二人体を割り込ませた。

「藤…原?」

藤原と見知らぬ男が目の前に現れた。男を聞きつけ、後から雪之丞もやってきた。

「えっと、織田久美子さん?ハイ コレ確認してちょうだい。操作に協力してもらうよ」

呆然とする久美子を他所に、男が倉庫に入ってくる。有無を言わさず、久美子は藤原が倉庫の中に追いやった。

放心状態となった久美子が、我に帰り知らぬ男を問い詰める。

「アンタたち何勝手に入って来てるのよ!」
「家主さんには、すでに許可もらってるよ?俺は、南署の山前。ハイ、コレ手帳ね。勝手に倉庫利用したアンタは、不法侵入だからね。後で、ゆっくりお話ししようか?」

逃げ去ろうとする久美子の手首を山前は掴み、捻り上げた。

「ダメダメ、逃げるとさらに不利な状況になっちゃうからね」

山前は、藤原に信のスマートフォンを鳴らすように指示をした。倉庫の奥にある扉の奥から呼び出音が聞こえる。雪之丞は、扉に駆け寄り耳を当て、場所を確認した。藤原が電話を切ると音が止み、頷いた。雪之丞がドアを蹴破るとうつ伏せに倒れた信を発見した。

「信君!」

雪之丞は、駆け寄り口を塞いだガムテープを剥がし、両頬を軽く叩いた。眉を歪めながらうっすらと信は目を開けた。意識があることを確認して、そっと雪之丞は抱きしめた。

「よかった、本当によかった」

雪之丞の匂いを嗅いで、安心した信はそのまま頭を預けた。信を抱きかかえ、藤原の元に連れて行った。信を側にある椅子に座らせ、テーブルの上のハサミを手に取って、手首と足首に巻かれたガムテープを取り除いた。

「8月16日 18:36 誘拐、監禁、そして暴行の現行犯として織田 久美子を逮捕します」

山前は手錠を久美子の両手首にかけた。
久美子は、憎々しいとばかりに信を睨みつけた。

「アンタのせいで、こんな目にあってるのよ。大袈裟な雰囲気出すんじゃないわよ」

信を怒鳴りつける久美子の胸ぐらを藤原は掴んだ。

「信君は、何一つ悪いことはしていない。思い違いをするな」

藤原は、久美子に言い放つと、久美子はありえない力で暴れ出した。思わず山前が手を離した隙に、テーブルの上のハサミを握りしめた。

ハサミの動きに信は視線を合わせた。久美子が藤原めがけてハサミを振り回す姿が目に入った。

すべてがスローモーションに信は見えた。力を振り絞り、椅子から立ち上がる信。もつれそうな足を動かして藤原と久美子の間に割り込んだ。

雪之丞が叫ぶと同時に藤原と信と久美子は床に絡み合うように倒れた。

最初に動いたのは久美子だった。

「ハハ アハッハ アハハハハハハ」

倒れたまま肩を震わせ笑う声が倉庫内に響く。

山前が久美子を引き剥がし、テーブルに押さえつけた。

「信くん、大ちゃん大丈夫か?」

信の下からのそりと藤原が動く。

「俺は大丈夫だ。信君、大丈夫…!」

藤原の声が止まる。

「山前さん、救急車を手配してくれ!」
「信君!」

信の脇腹が赤く染まる。引き剥がされた久美子の手には、ハサミが握られ刃に付着した血液が何が起きたか物語っていた。

「アハハハハハハ!アハハハハハハ!最初からこうしとけば良かった」

藤原は上着を脱いで、信の脇腹を抑え止血をする。雪之丞は、何度も信の名を呼びかけ続けた。

山前はパトカーに待機していた警官を呼びつけ、拘束した久美子を引き渡した。
気が狂ったように笑いながら、久美子は連行された。

山前により直ぐに救急車が駆けつけ、信は藤吉が待つ病院へ搬送された。



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