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2章 楔
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乾杯が終わると、招待客は挨拶回りに動く人、食事を楽しむ人と行動が分かれていた。もちろん僕は、食事を楽しむ。
気になったメニューをちょっとずつお皿に乗せていき、テーブルまで持っていく。その場で焼いてくれるステーキや屋台風の焼き鳥などは、人気があった。
変わり種としては、綿菓子の屋台もあり招待された人たちは、昔を懐かしむべく楽しんでいる様子だった。
「雪、お出ましだよ」
僕たちのテーブルに近寄ってくるオーラが半端ないグループ。先頭に乾杯の挨拶をした雪ちゃんのお父さん、柴田 勝十郎さん一向が近づいてきた。
「雪之丞、久しいな」
「わざわざ、そちらから出向いて来なくても良かったのに」
「来なければ、お前からは、あいさつにも来ないだろう?」
勝十郎さんは、お供にお弟子さん、その後ろに僕と同じ歳頃の男の子、そして品が良いけど感情があまり見えない和服の女性を連れていた。
「お久しぶりです」
トウちゃんはお辞儀をしたので、僕も一緒に頭を下げた。顔を上げると勝十郎さんは、僕の顔をじっと見ていた。じっと…じっと…いつまで見ているんだと思うくらい見つめられた。タジタジになっているとトウちゃんが、そっと前に出て、視線から遠ざけてくれ、ホッとした。
「そちらのお嬢さんは?」
「姉の子で、今は俺の籍に入っている木下 信と言います」
トウちゃん、お嬢さんを否定してください。って心の中で訴える。
「あぁ、寧々さんのお子さんか。なぜ藤吉君の籍に?」
「姉は亡くなりまして、いろいろ訳があって、俺が引き取りました」
勝十郎さんは、お母ちゃんが亡くなった事実を知って、ホロリと涙を流す。何も隠そうとせずに泣くその姿は、ただの悲しみというよりも、なんとも言えない哀愁を感じた。
「そうか…」
僕は、トウちゃんより少し前に出て、勝十郎さんの両手を握った。
「僕のお母ちゃんのことを偲んでくれてありがとうございます。きっとお世話になったんだと思います。生前は、いろいろお世話になりました」
「そうか、君は男の子だったんだね。間違えて悪かった」
僕は特に性別を訂正したわけではなかったが、僕の仕草や声色で男か女かくらいは見分けが付くらしい。伊達に女形も極めているため、それ位は簡単なことらしい。
だけど、今度は僕の前に雪ちゃんがぐいっと出てきて、僕と勝十郎さんの間に立つ。勝十郎さんは、ピクリと眉を顰めた。
「雪、何のつもりかな?」
「いえ、節操のない自覚があまり無いのかと思いまして、違いましたか?」
「お前は、自分の親を信じていないのか?」
「芸のためなら、老若男女問わない問わないと昔教わりましたけど?」
雪ちゃんの言葉を聞いて、トウちゃんまで僕の前に立ちはだかった。
「トウちゃん、僕、勝十郎さんとお話ししたいんだけど?」
「えらくナイトたちに警戒されてしまったな。信君、いずれゆっくり話をしよう。もし興味があるのなら、一度舞台を観においでよ」
勝十郎さんは、お付きのお弟子さんに耳打ちをして、僕にチケットを渡してくれた。
物々しい集団は、勝十郎さんと共に、去っていった。
「雪ちゃんと勝十郎さんって、もっと距離があるのかと思ってた」
以前聞いた雪ちゃんの生い立ち。聞いてはいけないと思っていたから、敢えて検索はしなかった。だけど、今日の雰囲気では、左程距離を感じることはなかった。
「あれでも実の父親だからね」
ただ、後ろに控えていた女性は、勝十郎さんの奥さんで、雪ちゃんにとっては義母になり、僕と同じ歳頃の男の子は、腹違いの弟だと聞かされた。
気になったメニューをちょっとずつお皿に乗せていき、テーブルまで持っていく。その場で焼いてくれるステーキや屋台風の焼き鳥などは、人気があった。
変わり種としては、綿菓子の屋台もあり招待された人たちは、昔を懐かしむべく楽しんでいる様子だった。
「雪、お出ましだよ」
僕たちのテーブルに近寄ってくるオーラが半端ないグループ。先頭に乾杯の挨拶をした雪ちゃんのお父さん、柴田 勝十郎さん一向が近づいてきた。
「雪之丞、久しいな」
「わざわざ、そちらから出向いて来なくても良かったのに」
「来なければ、お前からは、あいさつにも来ないだろう?」
勝十郎さんは、お供にお弟子さん、その後ろに僕と同じ歳頃の男の子、そして品が良いけど感情があまり見えない和服の女性を連れていた。
「お久しぶりです」
トウちゃんはお辞儀をしたので、僕も一緒に頭を下げた。顔を上げると勝十郎さんは、僕の顔をじっと見ていた。じっと…じっと…いつまで見ているんだと思うくらい見つめられた。タジタジになっているとトウちゃんが、そっと前に出て、視線から遠ざけてくれ、ホッとした。
「そちらのお嬢さんは?」
「姉の子で、今は俺の籍に入っている木下 信と言います」
トウちゃん、お嬢さんを否定してください。って心の中で訴える。
「あぁ、寧々さんのお子さんか。なぜ藤吉君の籍に?」
「姉は亡くなりまして、いろいろ訳があって、俺が引き取りました」
勝十郎さんは、お母ちゃんが亡くなった事実を知って、ホロリと涙を流す。何も隠そうとせずに泣くその姿は、ただの悲しみというよりも、なんとも言えない哀愁を感じた。
「そうか…」
僕は、トウちゃんより少し前に出て、勝十郎さんの両手を握った。
「僕のお母ちゃんのことを偲んでくれてありがとうございます。きっとお世話になったんだと思います。生前は、いろいろお世話になりました」
「そうか、君は男の子だったんだね。間違えて悪かった」
僕は特に性別を訂正したわけではなかったが、僕の仕草や声色で男か女かくらいは見分けが付くらしい。伊達に女形も極めているため、それ位は簡単なことらしい。
だけど、今度は僕の前に雪ちゃんがぐいっと出てきて、僕と勝十郎さんの間に立つ。勝十郎さんは、ピクリと眉を顰めた。
「雪、何のつもりかな?」
「いえ、節操のない自覚があまり無いのかと思いまして、違いましたか?」
「お前は、自分の親を信じていないのか?」
「芸のためなら、老若男女問わない問わないと昔教わりましたけど?」
雪ちゃんの言葉を聞いて、トウちゃんまで僕の前に立ちはだかった。
「トウちゃん、僕、勝十郎さんとお話ししたいんだけど?」
「えらくナイトたちに警戒されてしまったな。信君、いずれゆっくり話をしよう。もし興味があるのなら、一度舞台を観においでよ」
勝十郎さんは、お付きのお弟子さんに耳打ちをして、僕にチケットを渡してくれた。
物々しい集団は、勝十郎さんと共に、去っていった。
「雪ちゃんと勝十郎さんって、もっと距離があるのかと思ってた」
以前聞いた雪ちゃんの生い立ち。聞いてはいけないと思っていたから、敢えて検索はしなかった。だけど、今日の雰囲気では、左程距離を感じることはなかった。
「あれでも実の父親だからね」
ただ、後ろに控えていた女性は、勝十郎さんの奥さんで、雪ちゃんにとっては義母になり、僕と同じ歳頃の男の子は、腹違いの弟だと聞かされた。
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