とうちゃんのヨメ

りんくま

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2章 楔

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僕が入学する市立西高等学校は、トウちゃんと雪ちゃんが卒業した高校でもある。トウちゃんは、行きたい高校があるなら私立でも構わないと言ってくれたけど、僕の気持ちは西校一択だった。トウちゃんと雪ちゃんの思い出が詰まった高校で学びたいと思うのは、当然のことだと思う。ただ、志望校を決めたのは良かったが、この高校は意外と偏差値が高かった。合間合間にトウちゃんや雪ちゃんに解らないところを教えてもらったけど、覚えているかなと言いながら、教科書をパラリと見るだけで、的確に説明ができる二人は、地頭が賢いんだと改めて思った。

この高校のクラス分けは、少し変わっている。まずクラス名が、五輪書をなぞった[地・水・火・風・空]であることだ。[地・水]は文系に特化し、[火・風]は理系に特化、そして[空]特進クラスという感じだ。[空]組は、学年の上位30名で編成され、年度毎の最終成績で翌年度のクラス分けが決まる。僕は、以外にも[空]に編成されてしまった。

クラス分けについては、入学式当日に掲示板で発表される。保護者としてついて来ていたトウちゃんが、この特殊なクラス分けについて説明をしてくれた。

入学式が行われる体育館の入り口では、お手伝いに借り出された先輩たちが、新入生を誘導して、僕は生徒席、トウちゃんは保護者席に案内された。

同じ中学からも何名か進学していたけど、顔見知りは幸いにも誰もいなかった。僕が西校を選んだ理由でもあった。

僕の一身上の都合ではあるが、苗字が変わったことを詮索されるのも、好ましくはなかったし、何よりトウちゃんと雪ちゃんの心配を少しでも減らしてあげたかった。

式は、生徒会副会長の進行のもと、校長先生の挨拶、来賓の挨拶、PTA会長の挨拶、そして入学生の挨拶と進む。

「在校生代表、柴田 藍之介君」

名前を呼ばれ、席を立つ藍之介君。綺麗な姿勢で壇上に上がった。

先日の勝十郎さんの乾杯の挨拶と重なって見えた。やはり、親子だと思った。体育館の隅々まで通る、凛とした声。マイクがなくても後ろの席までよく聞こえたと思う。ペーパーなどなく、しっかり前を見て、自分の選んだ言葉を並べ、これからお世話になる先生や先輩へ、自分達新入生を暖かく迎えてくれた事への感謝を述べた。3分にも満たない挨拶は、先生や先輩たちを笑顔にした。逆に辛いのは、この後に挨拶をする生徒会長だろうなと思った。

「良かったな、藍之介と同じクラスじゃん」

新入生代表は、入試のテストが首席だった生徒がするらしい。要するに必然的に、僕と同じ[空]になる。
式が終わり、トウちゃんが教えてくれた。

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