とうちゃんのヨメ

りんくま

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2章 楔

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扇を翻し、くるりと回る。たんたんと脇でなるお囃子に合わせ、ひらり、ひらりと俺は舞う。

舞台は、何も考えずにいられるから好きだ。

「今日は、ここまで」

他の兄弟弟子と舞台上で三つ指をつき、お辞儀をする。あぁ、夢の時間が終わる。

「藍之介さん、行きますよ」
「はい、母さま」

母に誘われ、練習場を後にした。

「貴方は、柴田屋を背負うもの。そこを忘れないで」
「はい、母さま」

母さまは、俺に何を求めるの?

「母さまの子なのだから、勝十郎を越えることができなければなりません」
「はい、母さま」

母さまは、俺に何をして欲しいの?

「藍之介さんは、母さまの言う通りにしてれば大丈夫」
「はい、母さま」

いつからだろう、俺は母さまに意見をすることがなくなったのは。

「今日のお約束は、鏡さまです。きっと良いお力添えになって下さいます。決して粗相のないようになさい」
「はい、母さま」

今日も母さまは、俺を母さまが管理する洋館へ連れてくる。
母さまに言われるまま、シャワーを浴び、用意されたバスローブを羽織る。
扉を開けると薄暗い、ベッドの脇に腰をかける初老の男性。

「鏡さま、藍之介です。本日は、ご教授お願いします」

母さまは、手短に挨拶を済ませると、俺を残して部屋を退出する。

鏡という名の初老の男性に近づき、俺は傅いた。下から見上げると、喉を下げる不様な男。

「もっと近くに来なさい」
「はい、鏡さま」

俺は立ち上がり、来ていたバスローブの紐を解く。

「早く来なさい」
「はい、鏡さま」

急かす男を煽るように、一歩、また一歩、ゆっくりと近づいた。男も立ち上がり急いで自分のバスローブを脱ぎ捨てた。腕を掴まれ、俺はベッドに押し倒された。

今日は、男に抱かれるのか。

母さまは、俺を差し出す。
男を抱いたこともある。女も抱いたこともある。今日のように男に抱かれることもある。

ギシギシと俺の中に押し込まれ、好き勝手に男は果てる。悦ばせろというものだから、汚い物を咥えてもやった。

感情は要らない。誰も僕を見てくれないから。兄さんだって、僕を見ていなかった。父さまも、ただ他の兄弟弟子と同じように接するだけだ。

俺はクソジジイの気が済むまで汚される。早く舞の稽古がしたい。体を突き上げられながら、今日の舞の稽古を思い出していた。
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