とうちゃんのヨメ

りんくま

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2章 楔

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お昼休み、今日は場所に迷う事なく、昨日と同じ中庭に足を運んだ。藍之介君は、一人ベンチに座って、牛乳を片手に読書に勤しんでいる。

「今日も隣良いかな?」
返事はなくとも、勝手に隣に座った。鞄からお弁当を二つ取り出して、藍之介君に手渡した。

「作って来ちゃった。良かったら食べて?」

キョトンとした藍之介君にお弁当を一つ押し付けて、僕はもう一つのお弁当を膝の上で開いていく。僕が自分のお弁当を食べ始めると、藍之介君も僕と同じように膝の上でお弁当を広げた。

「……ありがとう」

小さな呟きだったけど、僕の耳にしっかり届きました。

「気にしないで、僕料理するのが好きなんだ。こちらこそ、食べてくれてありがとう」

今日の卵焼きは、昨日のだし巻きとは違って、甘い卵焼きにしてみた。シャケの切り身も安かったので、塩焼きにしてご飯の上に載せている。お野菜は、ほうれん草を少し茹でて、だし醤油と鰹節であえてみた。果物は、ウサギりんご。色が変色しないように塩水に浸したものだ。

藍之介君は、やはり卵焼きがお好きなようで、真っ先にお箸をつけた。ウサギりんごは、初めて見たらしく、「…可愛い」とポソリと呟いていた。

藍之介君が気にならないように、食べる姿を凝視しないよう気をつけて、ゆっくりと僕は咀嚼していく。藍之介君は、ご飯粒一つも残さずに、完食してくれた。食べ終わると、お弁当箱を再び包み、僕の方に差し出した。

「…美味しかった」

少し俯き加減に、頬を染めて囁いた。

「ありがとう!また、明日からも期待してね」
「……明日も、……食べさせてくれるの?」

藍之介君は、驚いた表情で僕を見ていた。

「もちろん!」

僕の答えを聞いて、藍之介君はさらに目を見開いた。何をそんなに驚くんだ?

「あの…その…、お礼…は…」
「お礼?そうだなぁ、これからも一緒にお昼ご飯、食べてくれる?」
「…それだけ?」

藍之介君って、なんだか本当に野良猫みたいだと思った。

「別にそれくらいで良いかなぁ。でも、お弁当を渡すのに、遠慮してしまうんなら、お昼のお茶を買ってよ」
「お茶……わかった」
「やった!約束だよ」

それから、僕たちはお昼ご飯を一緒に食べるようになった事で、学校で一緒に過ごすことが増えた。
もっと藍之介君と、仲良くなれると良いなと僕は、思っていた。
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