とうちゃんのヨメ

りんくま

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2章 楔

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「先輩、何か用があるんですか?」

俺をみるその瞳は、熱を孕んでいる。あれから、人目を避けて俺の前にこの男は現れるようになった。

「いつものして欲しいんだ…」

人差し指と中指を立てて、俺は自分の口に入れ、唾液を纏わせわざと音を立てて舐る。

「あぁ、頼む…」

頬を紅潮させ唇をだらしなく開けて、男は答えた。汚らしい心でそう罵倒しながら俺は返事を待たずに歩き出した。

男は俺と距離を保ちながら後をついて来る。

「今日は、ここで良いかな?」

人が殆ど出入りすることがない社会科準備室。地球儀やら世界地図などの物置として使われているが、高校の授業で教師が使うことは殆ど無い。

先に部屋に入り、そこら辺の椅子に腰掛けた。俺が準備室に入るのを確認した途端、パタパタ走る足音が近づき、ガラスに影が映った。

滑稽だな

左右を確認し、音を立てないように開くと男は急いで入ってきて扉を閉めた。

「藍之介は、麻薬だな。一度味を知ってしまうと手放せない」

俺を抱くタニマチの一人がそんな事をベッドで囁いていた。この男も漏れなく溺れたということか?

座る俺の顔を、両手で包み込み唇を貪り始める。汚らしい舌を唾液ごと吸い上げてやると、俺の頭を抱え込み、後頭部を掻き乱す。

「愛してる」

唇が離れるたびに、男は呪いの言葉を紡いでいく。男は、俺の言葉を求めない。

男は俺の前に立ち上がると下着ごと自分のズボンをずり下げ、涎を垂らして聳え立つ熱を俺の顔の前に突き出した。

「愛してる、愛してる」

俺の顎を引き下げ、有無を言わさず熱を咥えさせる。俺の頭を掴み何度も何度も喉奥へ送り出す。ドロドロと青臭い不味いものを喉奥に撒き散らし勝手に果てる。

いっそ噛みちぎるのも面白いかも、そんな事を考えながら、口の端から舌で残骸を押し出し、上目遣いで男を見上げた。

勝手に俺に堕ちていく馬鹿な奴ら。俺を見て身悶える男。口に残ったものを床に吐き出し、口元をハンカチで拭いた。

「掃除は、先輩がしておいてくださいね。キレイに出来なかったら、もう相手しませんから」

そう言い残し、俺は準備室を後にした。トイレで口を濯ぎ、ミントのタブレットを口に放り込む。何事もなかったように教室に戻った。

信が手を振り俺を呼んでいる。男に凌辱された身体で、信に抱きつく。欲を吐き出された唇で真愛の証だと頬に口付ける。

だけど信は穢れない。口付けだって、外国人では当たり前という俺の言葉を鵜呑みにして、照れながら受け容れる。だけど、信の心は堕ちてこない。

汚れた俺を浄化していく信。いつか、俺の傍まで堕としてあげるから。

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