とうちゃんのヨメ

りんくま

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2章 楔

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「信君、おはよう?」
「藍之介君、おはよう…ございます」

朝から、僕はテンションダダ下がり。

「信君……どうしたの?それ」

藍之介君が、僕の足元を指差して尋ねてきた。やっぱり、おかしいと思うよね。来客用のスリッパなんて履いていたら。

「上履き…忘れちゃって」

ウソです。上履きは、有りました。だけど、履ける状態じゃあ有りませんでした。今朝、登校して靴箱を開けると、何故か水浸しになっていた僕の上履き。事務室で事情を説明してスリッパを借り、履いている状態です。

最初は勘違いかと思っていた。
上履きに画鋲が入っていたり、砂がこんもり入っていたり、教科書が忘れたと思ったら、放課後に出てきたり。

「ふーん、良いなぁスリッパ!俺も借りてこよう」
「え?藍之介君は、上履きあるんでしょ?」
「あるよ!だけど、信君と一緒が良いな」

沈んでいた気持ちが、藍之介君の気遣いで嬉しくなってくる。トウちゃん、僕、今友達を実感しているよ!

「藍之介君、ありがとう」
「あはは、なんでお礼言われるのかわかんないや。俺、事務室でスリッパ借りてくるね」

藍之介君は、元気よく手を振って事務室へ移動していった。藍之介君と一緒に帰った日から、一気に僕たちの距離は縮まったと実感している。

ただ、元々外国人などと交流があるらしく、藍之介君はスキンシップがなかなか激しい。やっぱり雪ちゃんの弟なんだと改めて思っている。

「いつも美味しいお弁当をありがとう」

そう言って頬にキスしてくる。

「眠たい」

そう言って、僕の膝を枕にする。

僕がおやつとしてクッキーを焼いて持ってきたら、大喜びで抱きしめられた。

無邪気で天真爛漫で可愛らしく、そしてカッコいい。

僕が勉強で数学の公式で解らない事があると丁寧に教えてくれるし、教室移動で僕が準備に手間取っていても、優しく声をかけてくれ、待っててくれるんだ。

「僕、友達っていなかったから…嬉しい」

素直に感謝して気持ちを伝えたら、物凄い笑顔を返してくれた。あの表情を破顔って言うのかな?



「信君…なかなかシュールな教科書だね」

鞄から取り出した化学の教科書。丁寧に10ページずつホッチキスでぴっちり止めてあった。

「僕も、シュールなデザインだと思うよ」

チミチミと止められたホッチキスの針を外していくけど、なかなか手強い。

「これは、俺と一緒に教科書を見ろって言うお告げだね」

落ち込んだ僕を明るく励ましてくれる。そうだね、イタズラなんて、気にすればする程相手の思うツボだもんね。

「藍之介君、一緒に教科書見せてもらえるかな?」
「もちろん、一緒に見よう!」

僕は、初めて一緒に教科書を見せてもらう経験をした。
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