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26 朧、油断する

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佐久夜が、布団を二組並べて敷くと、京平は、ごろりと布団の上に横になった。

京平は、側に置いていたカバンから、今日、用意した鏡を数個取り出した。

「今日は、めちゃ楽しかった!」

一つ一つ鏡を見ながら、京平は思い出し笑いをする。神さまの反応、朱丸の合いの手、朧の無関心さ、人ではない者達との交流。どれもが、京平にとっては新鮮だった。

カリカリっと襖から音がすると同時に、襖がゆっくり開いた。十センチ程の隙間が開くと、当たり前の様に朧が、部屋の中に入ってきた。

「朧、見回りありがとう」
「ここは、オイラの縄張りにゃ!パトロールするのは当然にゃ」

ツンと澄ました顔をするが、佐久夜の膝に乗って、丸くなる。

「朧センセは、いつも佐久夜と寝てんの」
「うん、まあ。……気にはなってたんだけどさぁ、何でセンセなの?」

佐久夜は、朧の背中を撫でながら、京平に尋ねた。

「あぁ、最初は[にゃんこセンセ]って呼んだんだ。そしたら、噛みつかれた」
「オイラは、猫じゃないにゃ」

プイっと、そっぽを向く朧。

「次に名前を知って、[朧]って呼んだら、また噛みつかれた」
「人間のクセに馴れ馴れしいにゃ」

ププイっと、また朧は、そっぽを向いた。朧は、神さま曰くツンのデレ。基本、ツン率がかなり高い。

「それで[朧センセ]って呼んだら、噛みつかれなかった」
「仕方ないから、それで許してやったにゃ」

朧の顎の下に、両手の指を当てがい、マッサージをしてやると首を伸ばして、ぐるぐると喉をを鳴らし始めた。

京平は、両手に持った鏡を向かい合わせにしたり、覗き込んだりしながら、佐久夜と朧に話しかける。

「ところでさぁ、合せ鏡って知ってる?」
「よく、怖い話しとかで聞くアレか?」
「そうそう!」

怪談や都市伝説として、鏡に纏わる話しはよくある。深夜零時、合せ鏡を覗き込むと、将来の自分が映るとか、学校の廊下の突き当たりにある鏡を使って、深夜二時に鏡を合わせると、悪魔が現れるとなどなど。

佐久夜は、仕切りに鏡を合わせて覗き込んだりしている京平を見て、そういう事かと納得した。

「合せ鏡は、三枚の鏡が必要にゃ」
「!!」

何気ない朧の答えに、京平がピクンと反応した。そっと、佐久夜に一枚手渡す。佐久夜も、朧が普通に話し出すため、鏡を疑問も持たずに受け取ってしまった。

「正の三角形で三枚の鏡を合わせるにゃ」

京平は、佐久夜の位置を拠点に、両手に持つ鏡の位置を調整していく。

「合せ鏡は、鍵にゃ」
「へぇ、何の鍵?」
「裏に行く鍵にゃ」

朧は、目を閉じたまま、気持ち良さそうに喉を鳴らしている。佐久夜の指先が片腕だけになっても問題ないらしい。

佐久夜は、京平がやりたいように、鏡の角度を合わせてやる。

三点の鏡の位置が、かっちりと調整された瞬間、鏡から鏡へと光が走り出す。三角形の中心に渦が浮かび上がった。

「絶対に、妖気や神気がいっぱいあるこんな場所でやったら駄目にゃ!巻き込まれるにゃ!」
「!!」
「朧、それ先に行って!もう遅いから!」

あっという間に、渦が広がる。
そして、渦は、佐久夜、京平、朧を飲み込み消えた。

渦と共に、三人の姿は部屋の中から忽然と消えてしまった。

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