結婚してるのに、屋敷を出たら幸せでした。

恋愛系

文字の大きさ
105 / 170
第四部第四章 模擬戦

五話

しおりを挟む
 決勝戦の相手であるクリスタルは、類い稀な頭脳を持つ男だ。彼は単なる武力や魔力に頼る戦士ではなく、その冷徹な知性と卓越した戦略眼で敵を支配する。表向きは無表情で、時には穏やかとも取れる態度を保ちながらも、クリスタルの眼光には常に鋭い計算が潜んでおり、一瞬たりとも油断を許さない。

 クリスタルは、幼少の頃から特異な才能を持っていたと言われる。彼の家系は王族に近い名門貴族の家系で、魔法や武術の教育はもちろんのこと、戦略や外交、さらには統治術まで叩き込まれて育った。その中でも特に秀でていたのが、彼の知的な分析力と計画立案の能力だった。どんな複雑な状況でも、彼は一瞬で問題を理解し、最も効果的な解決策を見つけ出すことができる。そしてその知性は、単なる学問的な理論にとどまらず、実戦においても発揮される。

 彼は決して力任せの戦いを好まず、むしろ相手の行動を徹底的に読み、数手先を見越した戦術を用いることで、じわじわと相手を追い詰める。その戦い方は、まるで壮大なチェスゲームをしているかのようだ。敵が攻撃してくる前にその意図を見抜き、その攻撃を無効化する策を瞬時に講じ、徐々に相手を絶望へと追い込んでいく。これまでのトーナメントでは、派手な動きや大技はほとんど見せていないが、いずれも冷静かつ計算された動きで圧倒的な勝利を収めてきた。

 トーナメントの準々決勝では、相手が彼に猛攻を仕掛けたが、クリスタルはわずかな動きだけでそれを回避し、その後相手の隙をついて決定的な一撃を放った。観客は一見すると地味な勝利と見なしたが、その裏には緻密な戦略があり、彼がすでに戦闘開始前から勝利を確信していたことがわかる。彼の目的は、敵を一瞬で倒すことではなく、相手の心理を徹底的に追い詰めることだ。相手が自分の敗北を悟った瞬間こそが、クリスタルにとっての真の勝利なのだ。

 クリスタルとの戦いは、力や魔力の強さだけでなく、冷静さと知恵が試される場だ。彼は対戦相手が動揺し、感情に流される瞬間を待ち構えている。そして、その瞬間が訪れたとき、冷徹な一撃を加える。これまで彼が倒してきた対戦者たちは、いずれもその計略にはまり、最後には絶望的な表情を浮かべて敗北を受け入れるしかなかった。

 クリスタルはまた、戦場全体を一つの大きな盤面として捉え、その中で最も有利な位置を確保し続けることに長けている。魔力や剣技の他にも、罠や環境を巧みに利用し、敵の行動を制限することを得意としている。彼は決して自分から派手な攻撃を仕掛けることはせず、相手が自らの戦略に絡め取られていくのを待つ。まるで蜘蛛が獲物を網に誘い込むように、クリスタルは少しずつ相手の逃げ道を塞ぎ、最終的に勝利を手中に収める。

 今回の決勝戦も、彼はすでに何通りもの勝利のシナリオを頭の中で描いていることだろう。彼が一手一手をどのように打ってくるか、その全貌は予測しがたいが、確かなのは、その全てが彼の手中にあるということだ。俺はその戦いに挑むにあたり、全力で立ち向かわなければならない。クリスタルとの戦いは、力のぶつかり合いではなく、頭脳戦だ。彼の罠にかからず、冷静に戦局を見極め、最後に勝利を手にするためには、俺もまた戦略的に立ち回らなければならない。

 決勝戦が近づくにつれ、クリスタルの存在感はますます大きくなる。彼がどのような戦術を用いてくるのか、それをどう打ち破るか。観客の注目は、間違いなくこの知恵と技術が交錯する戦いに集まるだろう。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

三年の想いは小瓶の中に

月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。 ※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...