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78 令嬢は薬草園を作る①
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従姉妹たちより少ないが、私は週に2回の家庭教師の授業を受けている。
今日は午前の授業を経て、午後は家庭教師の宿題を済ませ、魔術師協会でまとめたノートを復習しながら、図書館で借りた魔術理論の本を読んで過ごしている。
ふいに昨日のことを思い出す。
オロオロしていた私は、顔色の悪くなったソニアさんに、逆に「大丈夫だよ」と宥められてしまった。
未来で起こりうる可能性があるからといって、今の彼を断罪するわけにはいかない。
それを知りつつも、それでも私はカゲロウという男性をソニアさん達に近づけるべきではないと思った。
彼の代わりに依頼を受けられそうな人物を内心探し始めたその時、ソニアさんはそっと私の手を握り、焦茶の瞳でまっすぐに見つめてきた。
その瞬間、私は自分が傲慢にも、他人が決めたことを勝手に無視して、覆そうとしていることに気づき、途端に顔が熱くなるほど恥ずかしくなった。
ソニアさんは、何も知らない弱い女性ではない。むしろ自分の力で困難に立ち向かえる人だ。
良くも悪くも、これまでの経験が彼女を今日まで導いてきた。少しの助言ならまだしも、何の根拠もない子供の我儘で、彼女が考えた上で決めたことを曲げさせるわけにはいかない。
……とはいえ、助言と言われても、未来のことは話せない。
――前にシズが、ふいに何かを思い出したかのように、「そう言えば、伝えなかったな」と言った。
ゴーレムの攻撃を必死に防いでいる最中に何を、と少し不満に思ったが、彼はさりげなく、雑談でもするかのように「他人に、君が“人生をやり直した”ことを悟られないように、今まで通りに振る舞いなさい。さもなくば、世界が崩壊する」と、すごく淡々とした口調で告げた。
秘密を語れるほど親密な関係を他人と築けなかったから、これまで誰にも明かさずにきた。
でも、『世界が崩壊する』などという恐ろしいことが私に関係しているなんて……「こんな重要なこと、最初から教えるべきではないの?」と文句を言う間もなく、恐怖に気を取られ、防御結界が砕け散り、私は攻撃をそのまま受けてしまった。
だから、結局、ソニアさんにあの男を注意するように釘を刺すことしか出来なかった。
だが、やはり不安なので、ないよりましと思って、後でライラに相談して、あのスラムの子供たちに時間がある時にソニアさん達が暮らす寮の周辺を見回るよう、頼んでみよう。
我ながら、すごくお節介だと思う。
でも、過去の私は怠慢すぎた。勝手に自分が世界で一番不幸な人間だと思い込んで、自分のことしか考えなかった。
私がまだ貴族の位置にいるなら、そんな上に立つ立場にいるからこそ、少しでも領民たちの生活の役に立ちたい。
お母さんの期待に応えて、恵まれたもう一度の人生に悔いを残さないためにも、役に立つ人になりたい。
「お嬢様、侯爵夫人からお茶会の招待状が届いています」
「えっ、叔母様から? 何かあったのかしら?」
ライラから招待状を受け取り、内容を確認すると、それは明後日の午後、申請した庭園について話したいことがあるとのことだった。
実は、私は先週、園芸の勉強と称して、もう廃れた西北の庭園を使いたいとメイド長に伝えたのだが、なかなか許可が下りなかった。
やはり、叔母様のところで止まっていたのね。
私は返事をカードに書き、ライラにメイド長へ渡すようにお願いした。
***
約束の時間、前回と同様、お茶会は温室で開かれた。
私は叔母様に勧められ、席につき、出されたお茶とお菓子を堪能した後、お茶会は始まった。
「フリージア様。最近、家庭教師たちが口々に、フリージア様がめざましく成長なさったと話しておりましたわ。叔母であるわたくしとしても、喜ばしい限りです」
褒められているはずなのに、背中がゾクリとし、素直に喜べないのは何故だろうか。
「叔母様、お恥ずかしいことをおっしゃらないでくださいませ。今までのわたくしは、公爵令嬢としての自覚が本当に足りませんでしたわ。今、深く反省しておりますの」
そう言って、私は恥ずかしそうに両手を頬に当て、叔母様の射抜くような視線から顔を逸らした。
叔母様は昔から、彼女の実の子供たちよりも私を褒めていた。私が優秀だと、よくできる子だと、錯覚してしまうくらいに。
でも、実際は――
「ふふっ、そんなに謙遜なさらなくてもよろしくてよ。なにしろ血筋は争えないもの。フリージア様がここまでご成長なさるには、さぞ努力されたことでしょう」
彼女は扇子で口元を隠し、慎ましく微笑んだ。
あれ? これって褒め言葉?
……あぁ、私、また勘違いしていたのね。
私は口を閉ざし、わざと感情を我慢するように顔を伏せた。
過去、幼かった私の周りに頼れる大人は叔母様だけだった。だからか、彼女のその手の言葉を全て鵜呑みにし、自ら母を貶し、自分自身のことも卑屈に見えた。
平民上がりの母を持つことに恥ずかしさを覚え、あまつさえ、一時期、早くに亡くなった母を憎んでいたのかもしれない。
そして、叔母様が私を疎んじていることに薄々気づいていたにも関わらず、その一つ一つの違和感を無理やり押し殺し、彼女を母のように慕った。私が努力し続ければ、いつか、彼女がルクレティアにするように、ただ上辺だけで褒めるのではなく、たまには厳しく叱ってくれるのではないかと、愚かにも期待すらしていた。
「そこで、来月、春を迎える夜会のことですが。貴女には今回の参加を見送ってはいかがでしょうか?」
「見送り、ですか? 叔母様、申し訳ありません、理由をお教えいただけますか?」
たわいのない雑談の後、ようやく本題である西北の庭園の話に移ると思ったが、突然夜会のことを言われ、私は疑問に首を軽く傾けた。
夜会と言えば、昔は確か、まだ公爵令嬢として宴に出られる水準に達していないため、気落ちせず次回参加できるように励むように言われた気がする。
しかし今は、流石に一度王都でお父様より厳しい家庭教師の躾けを受けただけある。過去に戻ったことで記憶が少々曖昧にはなっているが、なぜか体だけは本能的に公爵令嬢としての振る舞いを覚えているようで、そのおかげで家庭教師のゆるい授業も問題なくこなし、他のことに専念できた。
人形のようにじっと立っているだけの夜会自体にはあまり興味はないとは言え、さて、今回はどんな理由で私を参加させないつもりだろうか。
「そうですわね。わたくし、三人の子を持つ母として、子供のお披露目は親が同伴するべきだと思っておりますの。御父上と御兄上にお手紙を送りましたけれど、どうやらお仕事やご学業で大変お忙しいご様子でして……どうしてもお戻りになれないとのことでした」
叔母様はため息をつき、申し訳なさげに私を見つめた。
対して、私は少し驚いたように、そして悲しむように、口を微かに開けては閉じ、目に涙を溜めて俯いて見せた。
内心、『言い訳だ』、と可笑しくて仕方がなかった。
馬鹿な私でも、それが取り繕った嘘だと知っている。
私はただの子供だと思っていたのか、叔母様は精巧な嘘を用意する必要すら感じなかったのだろう。
貴族学園に入学する前に、王都で十三歳から十六歳の貴族の子供達が集められて行われる正式なお披露目では、親族の付き添いが必須とされている。
しかし、今回の集まりは、ただの内輪の夜会、つまり領地内の貴族同士が顔を合わせる程度の、いわば軽い練習の場にすぎない。
お父様とお兄様が不在の今、表向きにはこんな幼い小娘の私がその場で最も地位の高い立場にあり、将来のためにも領地の有力貴族との関係を早めに築くことは大切だ。
けれど、表面上の敬意など必要ないわ。貴族社会において、私が“ただの飾り”に過ぎないことは、皆が承知しているのだから。
捨てられた娘のために、お父様とお兄様がわざわざ屋敷に戻るはずがないことくらい、知っているのに。
あえて私に恥をかかせ、自分が不要な存在だと再確認させるような真似をするなんて……叔母様は想像以上に私を嫌っているらしい。
それに、貴族令嬢が夜会に出るには色々と準備が必要だ。例えば参加者に関する情報の確認や、流行やテーマに沿ったドレスの仕立てなど、少なくとも三ヶ月前には準備を始めなければならない。
なのに、叔母様は一ヶ月前になって声を掛けてくるなんて、主催者としてかなり失礼なことだ。
もし私が目を潤ませて「叔母様たちがわたくしにとっての親代わりです」と言ったら、どんな返事が返ってくるだろうか。
だが、そうしたやりとりには疲れる。
何よりも、私自身も夜会など参加したいとは思わない。
それに、今回のお茶会の本題である西北の庭園の話題が未だに切り出されていない。どうにも、その使用権の件を人質に取られている気がする。
もし、夜会の欠席と引き換えに、西北の庭園を自由にいじれる権限や、研究したい種や作物に詳しい人材などの助力が得られれば、むしろ私にとっては望ましい。
なにしろ叔母様は、私が“令嬢らしくない”ことを期待しているはずだから。
「わたくしのために、お父様とお兄様へご連絡くださり、嬉しく存じます。叔母様のおっしゃる通り、わたくしも……叶うことなら、社交界デビューにはお二人にもいらしていただきたかったのですわ。あのお二人が自慢に思ってくださるような娘、妹になれますよう、わたくしももっと精進しなければなりませんね」
私は健気な女の子を装い、ハンカチで目元の涙を拭い、満足げな表情を浮かべる叔母様に無害な笑みを返した。
「ところで、叔母様。メイド長を通じてお願いしておりました、西北の庭園の件ですが……」
「ああ、そのことですね。申し訳ございません、春の支度で立て込んでおりまして、お返事が遅れてしまいましたわ。もちろん、この屋敷はすべて御父上の所有物。娘であるフリージア様が何をなさっても宜しくてよ。必要なものがございましたら、どうぞ遠慮なくお申し付けくださいませ」
「まぁ、ありがとう存じます、叔母様」
何はともあれ、これで私の薬草園が作れる!
————————————
悠月:
生活よりも、まずは生存の確保。
前回、本編を進めようと意気込んだものの、すみません、急用でまたリアルの方に集中しなければならなくなりました。
週一回の更新も難しそうなので、数ヶ月間は不定期更新になります。(まあ、元から不定期更新ではありますが)
更新日は変わらず日曜日、頻度については私の自律性次第です……が、既に何年も不規則な生活習慣に慣れてしまった私にとって、それを正すのは非常に困難です。どうしても自分には甘いので。
とてつもなく遅い更新速度ではありますが、私自身もこの物語の続きを楽しみにしています。せっかく発表して、読んでくださる方もいるので、ちゃんと最後まで書き終わりたいと思います。
(第二部についてはもういろいろ考えていて、個性豊かなキャラクターが数多く登場し、少し残酷で暗い背景ではありますが、書くのを楽しみにしています)
今日は午前の授業を経て、午後は家庭教師の宿題を済ませ、魔術師協会でまとめたノートを復習しながら、図書館で借りた魔術理論の本を読んで過ごしている。
ふいに昨日のことを思い出す。
オロオロしていた私は、顔色の悪くなったソニアさんに、逆に「大丈夫だよ」と宥められてしまった。
未来で起こりうる可能性があるからといって、今の彼を断罪するわけにはいかない。
それを知りつつも、それでも私はカゲロウという男性をソニアさん達に近づけるべきではないと思った。
彼の代わりに依頼を受けられそうな人物を内心探し始めたその時、ソニアさんはそっと私の手を握り、焦茶の瞳でまっすぐに見つめてきた。
その瞬間、私は自分が傲慢にも、他人が決めたことを勝手に無視して、覆そうとしていることに気づき、途端に顔が熱くなるほど恥ずかしくなった。
ソニアさんは、何も知らない弱い女性ではない。むしろ自分の力で困難に立ち向かえる人だ。
良くも悪くも、これまでの経験が彼女を今日まで導いてきた。少しの助言ならまだしも、何の根拠もない子供の我儘で、彼女が考えた上で決めたことを曲げさせるわけにはいかない。
……とはいえ、助言と言われても、未来のことは話せない。
――前にシズが、ふいに何かを思い出したかのように、「そう言えば、伝えなかったな」と言った。
ゴーレムの攻撃を必死に防いでいる最中に何を、と少し不満に思ったが、彼はさりげなく、雑談でもするかのように「他人に、君が“人生をやり直した”ことを悟られないように、今まで通りに振る舞いなさい。さもなくば、世界が崩壊する」と、すごく淡々とした口調で告げた。
秘密を語れるほど親密な関係を他人と築けなかったから、これまで誰にも明かさずにきた。
でも、『世界が崩壊する』などという恐ろしいことが私に関係しているなんて……「こんな重要なこと、最初から教えるべきではないの?」と文句を言う間もなく、恐怖に気を取られ、防御結界が砕け散り、私は攻撃をそのまま受けてしまった。
だから、結局、ソニアさんにあの男を注意するように釘を刺すことしか出来なかった。
だが、やはり不安なので、ないよりましと思って、後でライラに相談して、あのスラムの子供たちに時間がある時にソニアさん達が暮らす寮の周辺を見回るよう、頼んでみよう。
我ながら、すごくお節介だと思う。
でも、過去の私は怠慢すぎた。勝手に自分が世界で一番不幸な人間だと思い込んで、自分のことしか考えなかった。
私がまだ貴族の位置にいるなら、そんな上に立つ立場にいるからこそ、少しでも領民たちの生活の役に立ちたい。
お母さんの期待に応えて、恵まれたもう一度の人生に悔いを残さないためにも、役に立つ人になりたい。
「お嬢様、侯爵夫人からお茶会の招待状が届いています」
「えっ、叔母様から? 何かあったのかしら?」
ライラから招待状を受け取り、内容を確認すると、それは明後日の午後、申請した庭園について話したいことがあるとのことだった。
実は、私は先週、園芸の勉強と称して、もう廃れた西北の庭園を使いたいとメイド長に伝えたのだが、なかなか許可が下りなかった。
やはり、叔母様のところで止まっていたのね。
私は返事をカードに書き、ライラにメイド長へ渡すようにお願いした。
***
約束の時間、前回と同様、お茶会は温室で開かれた。
私は叔母様に勧められ、席につき、出されたお茶とお菓子を堪能した後、お茶会は始まった。
「フリージア様。最近、家庭教師たちが口々に、フリージア様がめざましく成長なさったと話しておりましたわ。叔母であるわたくしとしても、喜ばしい限りです」
褒められているはずなのに、背中がゾクリとし、素直に喜べないのは何故だろうか。
「叔母様、お恥ずかしいことをおっしゃらないでくださいませ。今までのわたくしは、公爵令嬢としての自覚が本当に足りませんでしたわ。今、深く反省しておりますの」
そう言って、私は恥ずかしそうに両手を頬に当て、叔母様の射抜くような視線から顔を逸らした。
叔母様は昔から、彼女の実の子供たちよりも私を褒めていた。私が優秀だと、よくできる子だと、錯覚してしまうくらいに。
でも、実際は――
「ふふっ、そんなに謙遜なさらなくてもよろしくてよ。なにしろ血筋は争えないもの。フリージア様がここまでご成長なさるには、さぞ努力されたことでしょう」
彼女は扇子で口元を隠し、慎ましく微笑んだ。
あれ? これって褒め言葉?
……あぁ、私、また勘違いしていたのね。
私は口を閉ざし、わざと感情を我慢するように顔を伏せた。
過去、幼かった私の周りに頼れる大人は叔母様だけだった。だからか、彼女のその手の言葉を全て鵜呑みにし、自ら母を貶し、自分自身のことも卑屈に見えた。
平民上がりの母を持つことに恥ずかしさを覚え、あまつさえ、一時期、早くに亡くなった母を憎んでいたのかもしれない。
そして、叔母様が私を疎んじていることに薄々気づいていたにも関わらず、その一つ一つの違和感を無理やり押し殺し、彼女を母のように慕った。私が努力し続ければ、いつか、彼女がルクレティアにするように、ただ上辺だけで褒めるのではなく、たまには厳しく叱ってくれるのではないかと、愚かにも期待すらしていた。
「そこで、来月、春を迎える夜会のことですが。貴女には今回の参加を見送ってはいかがでしょうか?」
「見送り、ですか? 叔母様、申し訳ありません、理由をお教えいただけますか?」
たわいのない雑談の後、ようやく本題である西北の庭園の話に移ると思ったが、突然夜会のことを言われ、私は疑問に首を軽く傾けた。
夜会と言えば、昔は確か、まだ公爵令嬢として宴に出られる水準に達していないため、気落ちせず次回参加できるように励むように言われた気がする。
しかし今は、流石に一度王都でお父様より厳しい家庭教師の躾けを受けただけある。過去に戻ったことで記憶が少々曖昧にはなっているが、なぜか体だけは本能的に公爵令嬢としての振る舞いを覚えているようで、そのおかげで家庭教師のゆるい授業も問題なくこなし、他のことに専念できた。
人形のようにじっと立っているだけの夜会自体にはあまり興味はないとは言え、さて、今回はどんな理由で私を参加させないつもりだろうか。
「そうですわね。わたくし、三人の子を持つ母として、子供のお披露目は親が同伴するべきだと思っておりますの。御父上と御兄上にお手紙を送りましたけれど、どうやらお仕事やご学業で大変お忙しいご様子でして……どうしてもお戻りになれないとのことでした」
叔母様はため息をつき、申し訳なさげに私を見つめた。
対して、私は少し驚いたように、そして悲しむように、口を微かに開けては閉じ、目に涙を溜めて俯いて見せた。
内心、『言い訳だ』、と可笑しくて仕方がなかった。
馬鹿な私でも、それが取り繕った嘘だと知っている。
私はただの子供だと思っていたのか、叔母様は精巧な嘘を用意する必要すら感じなかったのだろう。
貴族学園に入学する前に、王都で十三歳から十六歳の貴族の子供達が集められて行われる正式なお披露目では、親族の付き添いが必須とされている。
しかし、今回の集まりは、ただの内輪の夜会、つまり領地内の貴族同士が顔を合わせる程度の、いわば軽い練習の場にすぎない。
お父様とお兄様が不在の今、表向きにはこんな幼い小娘の私がその場で最も地位の高い立場にあり、将来のためにも領地の有力貴族との関係を早めに築くことは大切だ。
けれど、表面上の敬意など必要ないわ。貴族社会において、私が“ただの飾り”に過ぎないことは、皆が承知しているのだから。
捨てられた娘のために、お父様とお兄様がわざわざ屋敷に戻るはずがないことくらい、知っているのに。
あえて私に恥をかかせ、自分が不要な存在だと再確認させるような真似をするなんて……叔母様は想像以上に私を嫌っているらしい。
それに、貴族令嬢が夜会に出るには色々と準備が必要だ。例えば参加者に関する情報の確認や、流行やテーマに沿ったドレスの仕立てなど、少なくとも三ヶ月前には準備を始めなければならない。
なのに、叔母様は一ヶ月前になって声を掛けてくるなんて、主催者としてかなり失礼なことだ。
もし私が目を潤ませて「叔母様たちがわたくしにとっての親代わりです」と言ったら、どんな返事が返ってくるだろうか。
だが、そうしたやりとりには疲れる。
何よりも、私自身も夜会など参加したいとは思わない。
それに、今回のお茶会の本題である西北の庭園の話題が未だに切り出されていない。どうにも、その使用権の件を人質に取られている気がする。
もし、夜会の欠席と引き換えに、西北の庭園を自由にいじれる権限や、研究したい種や作物に詳しい人材などの助力が得られれば、むしろ私にとっては望ましい。
なにしろ叔母様は、私が“令嬢らしくない”ことを期待しているはずだから。
「わたくしのために、お父様とお兄様へご連絡くださり、嬉しく存じます。叔母様のおっしゃる通り、わたくしも……叶うことなら、社交界デビューにはお二人にもいらしていただきたかったのですわ。あのお二人が自慢に思ってくださるような娘、妹になれますよう、わたくしももっと精進しなければなりませんね」
私は健気な女の子を装い、ハンカチで目元の涙を拭い、満足げな表情を浮かべる叔母様に無害な笑みを返した。
「ところで、叔母様。メイド長を通じてお願いしておりました、西北の庭園の件ですが……」
「ああ、そのことですね。申し訳ございません、春の支度で立て込んでおりまして、お返事が遅れてしまいましたわ。もちろん、この屋敷はすべて御父上の所有物。娘であるフリージア様が何をなさっても宜しくてよ。必要なものがございましたら、どうぞ遠慮なくお申し付けくださいませ」
「まぁ、ありがとう存じます、叔母様」
何はともあれ、これで私の薬草園が作れる!
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悠月:
生活よりも、まずは生存の確保。
前回、本編を進めようと意気込んだものの、すみません、急用でまたリアルの方に集中しなければならなくなりました。
週一回の更新も難しそうなので、数ヶ月間は不定期更新になります。(まあ、元から不定期更新ではありますが)
更新日は変わらず日曜日、頻度については私の自律性次第です……が、既に何年も不規則な生活習慣に慣れてしまった私にとって、それを正すのは非常に困難です。どうしても自分には甘いので。
とてつもなく遅い更新速度ではありますが、私自身もこの物語の続きを楽しみにしています。せっかく発表して、読んでくださる方もいるので、ちゃんと最後まで書き終わりたいと思います。
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