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37 令嬢は実践訓練に参加する③
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「リリア、そこに角兎がいるよ」
「そんな弱っちいものに興味ないわ~」
「あっ、爆果樹ならあちらに――」
「ただ立っているだけの植物類魔物なんてつまらないのよ。ああ、もう!あんたね、ついてくるなら黙ってついてきなさいよね。いちいちうるさいんだから!」
「……はい」
「ふんっ」
少しでも役に立とうと魔物を見つけるなり、リリアに伝えたら、彼女は振り返りもせず手をひらひらさせるだけ。しまいには叱られてしまった。
何もできないまま、結局、私はただ後をついていくだけだった。
リリアには目当ての魔物がいるらしく、迷いなくどんどん進んでいく。気づけば地図に示された新人用エリアの端を越えそうな場所まで来ていた。
周囲からはビリビリとした嫌な気配が漂っていて、私は不安に駆られ、地図を確認しながらそわそわと見回す。
小走りでリリアに近寄り、できるだけ大きな声で呼びかける。
「あの、リリア、道を間違っていないかな?もう緑色の区域を越えているよ」
協会が配布した地図は『緑』、『オレンジ』、『赤』の三色で区域が分けられている。緑色の区域は、新人冒険者が許される安全な区域で、それを越えれば、私たちFランク冒険者では到底対抗できない危険な魔物が潜んでいる。
リリアは足を止め、振り返ると、狡猾にニヤリと笑った。
「なんだ、のうのうとついてきていると思ったら、やっと気づいた?安心しなさいな、あたしだってバカじゃないわよ。狙っているのはオレンジ色区域の外壁近くにいる魔獣、三つ星の毒牙猪よ」
「えっ?三つ星って……今のFランクの私たちには、かなり厳しい相手ではないかな?」
冒険者ギルドでは、冒険者たちをその能力や依頼の成功数に応じてランク付けしている。ランクはFから始まり、E、D、C、B、A、S、SS、そして最高のSSSまで続く。そして今、私たちは最下位のFランクだ。
私は不安になり、さっきリリアが渡したバックを強く抱き締めた。リリアはそんな私を見て、軽く肩をすくめながら気軽に答えた。
「そうね。でも、一つ星や二つ星ばかりじゃ、見習いの時にはもう飽きるほど戦ったわ。せっかくの実践訓練なんだから、もっと強い奴と戦いたいわ。それに、三つ星を討伐できれば5ポイントも手に入るのよ!あんたもポイントが欲しいでしょ?」
私は思わず言葉を飲み込んだ。
正直、ポイントなんてどうでもいい。私にとって大事なのは、無事に課題を終えることだ。
それに、私みたいな足手まといがいる状態で、本当に三つの魔獣なんて討伐できるのだろうか。
でも、すでに気持ちが高ぶっているリリアを止めるのは、私には無理だと思った。今さら一人だけ戻るも……それに、先ほど言った通り、チームは一緒に行動する必要があるのはただの言い訳ではない。監視の先生がいないとはいえ、チームが別々に行動すれば課題は失敗とみなされるのだ。
「リリア、本当に大丈夫かな……?」
「平気平気。何よ、別にあんたが戦う必要なんてないんだから。ただ隣で隠れて、見ているだけでいいのよ」
「でも……」
「もう、ごちゃごちゃうるさいわね。救援の腕輪もあるんだから、何かあったら、ちゃんと転移して逃げられるわよ。」
<救援の腕輪>は協会から私たちの安全を守るために支給された、緊急脱出用の魔導具。使用すれば課題は失敗に終わるが、安全なスタート地点へと瞬時に転移することができる。
確かに、いざというときのための保険にはなるけれど、それでも不安は拭えなかった。
「そんなに怖いなら、ここで待っていなさいよ」
そう言い残し、リリアは魔導具の指輪を弓へと変形させ、戦いの姿勢で森の奥へと走り去っていった。
その場に取り残されたまま私は、しばらくリリアの背中を見送り、自分の心臓がドキドキしているのを感じる。
もうこんな所まで来たんだ。猪なら怖くない。ゴブリンとか、人型に似た魔物や、蛇のようなぬるぬるした魔物よりは、ずっとましだ。
いずれ、私も討伐任務に出るかもしれない。その時、リリアのように迷わずに戦いたいのだ。
意を決して、私はリリアの足跡を追い、森の中を急いだ。
***
リリアが見つかったとき、彼女は弓を構え、木陰に身を潜めていた。鋭い目つきで一匹の毒牙猪をじっと観察している。その慎重な様子を見て、無鉄砲に飛び出して攻撃するのではないことに、少し安心した。
私も魔術師協会で学んだ気配を消す技術を活用し、近くの木の背後に身を隠す。
そっと木陰から覗いてみると、そこには体高が大人の腰ほどもある、猪に似た魔獣がいた。灰色の毛並みは硬そうで、光を浴びるたびに金属のような冷たい光沢を放っている。特徴的な鋭い牙が、威圧的な存在感を醸し出していた。
リリアは弓を引き絞り、魔力を込めると、弓の上に安定した美しい火属性の魔力矢が浮かび上がった。
彼女は数秒間、その態勢を保ち、1秒、2秒、3秒……と息を整え、タイミングを見極めて、満を持して矢を放った。その矢は一瞬にして、まるで意思を持っているかのように一直線に飛び、見事に毒牙猪の足元に命中し、魔獣は驚いたように短い咆哮を上げた。
「これで少しは動きが鈍るはず」
リリアがそうつぶやいた次の瞬間、毒牙猪の反応は予想以上に早く、怒りに満ちた目で周囲を見渡すと、リリアが隠れている方向に向かって突進してきた。
「リリア!」
私は咄嗟に声を上げたが、リリアは冷静そのものだった。木を盾にして猪の突進をかわし、すかさずもう一本の矢を放つ。しかし、毒牙猪の勢いは衰えず、その鋭い牙で木に噛みつくと、紫色の毒液がじわじわと流れ出し、木の幹を腐らせていく。
「チっ、思ったより素早いわね!」
リリアは歯を食いしばりながらも軽やかに木に登り、次々と矢を放ち始めた。一本一本の威力は大きくないものの、矢の数で猪を攻め立てる。猪の体には次々と矢が突き刺さり、激痛に怒り狂った咆哮が周囲に響く。
だが、リリアは冷静に次の動きに移っていた。毒牙猪の突進が木に命中する直前にさらに隣の木へと飛び移り、さらに矢を撃ち込む。そして最後の一矢が、毒牙猪の片方の目と口元を正確に射抜いた。
毒牙猪は一声低い呻き声を上げて地面に倒れ込み、激しい息遣いを最後に動かなくなった。
「倒した……のかな?」
私は木の陰からひょいと顔を出して、警戒しながら様子を伺う。
リリアは慎重に、倒れた猪にさらに矢を数本放ちました。暫く待って、魔獣が完全に反応がなくなったのを確認した後に、木から降りた。
腰にあるナイフを取り出し、猪の額に刃を立てて魔石を取り出す。それを水魔法で丁寧に清潔にすると、手際よくポケットに収めた。
鼻をつく血の匂いが辺りに漂う中、私は木陰から出て、リリアの見事な戦いぶりに感心した。
「リリア、すごいね。毒牙猪をあんなに簡単に倒すなんて」
「ふん、当然でしょ。私は未来のS級冒険者になる女よ!」
私たちは戦いが終わり、達成感に包まれていたその時、不意に上空から影がサッと過ぎ、思わず空を見上げると、そこには巨大な鳥型の魔獣、風刃鳥の姿がいた。
五つ星の魔物に分類されるその獣は、翼を大きく広げて空を舞い、鋭い爪で一人の人間の女性をしっかりと掴んでいた!
「そんな弱っちいものに興味ないわ~」
「あっ、爆果樹ならあちらに――」
「ただ立っているだけの植物類魔物なんてつまらないのよ。ああ、もう!あんたね、ついてくるなら黙ってついてきなさいよね。いちいちうるさいんだから!」
「……はい」
「ふんっ」
少しでも役に立とうと魔物を見つけるなり、リリアに伝えたら、彼女は振り返りもせず手をひらひらさせるだけ。しまいには叱られてしまった。
何もできないまま、結局、私はただ後をついていくだけだった。
リリアには目当ての魔物がいるらしく、迷いなくどんどん進んでいく。気づけば地図に示された新人用エリアの端を越えそうな場所まで来ていた。
周囲からはビリビリとした嫌な気配が漂っていて、私は不安に駆られ、地図を確認しながらそわそわと見回す。
小走りでリリアに近寄り、できるだけ大きな声で呼びかける。
「あの、リリア、道を間違っていないかな?もう緑色の区域を越えているよ」
協会が配布した地図は『緑』、『オレンジ』、『赤』の三色で区域が分けられている。緑色の区域は、新人冒険者が許される安全な区域で、それを越えれば、私たちFランク冒険者では到底対抗できない危険な魔物が潜んでいる。
リリアは足を止め、振り返ると、狡猾にニヤリと笑った。
「なんだ、のうのうとついてきていると思ったら、やっと気づいた?安心しなさいな、あたしだってバカじゃないわよ。狙っているのはオレンジ色区域の外壁近くにいる魔獣、三つ星の毒牙猪よ」
「えっ?三つ星って……今のFランクの私たちには、かなり厳しい相手ではないかな?」
冒険者ギルドでは、冒険者たちをその能力や依頼の成功数に応じてランク付けしている。ランクはFから始まり、E、D、C、B、A、S、SS、そして最高のSSSまで続く。そして今、私たちは最下位のFランクだ。
私は不安になり、さっきリリアが渡したバックを強く抱き締めた。リリアはそんな私を見て、軽く肩をすくめながら気軽に答えた。
「そうね。でも、一つ星や二つ星ばかりじゃ、見習いの時にはもう飽きるほど戦ったわ。せっかくの実践訓練なんだから、もっと強い奴と戦いたいわ。それに、三つ星を討伐できれば5ポイントも手に入るのよ!あんたもポイントが欲しいでしょ?」
私は思わず言葉を飲み込んだ。
正直、ポイントなんてどうでもいい。私にとって大事なのは、無事に課題を終えることだ。
それに、私みたいな足手まといがいる状態で、本当に三つの魔獣なんて討伐できるのだろうか。
でも、すでに気持ちが高ぶっているリリアを止めるのは、私には無理だと思った。今さら一人だけ戻るも……それに、先ほど言った通り、チームは一緒に行動する必要があるのはただの言い訳ではない。監視の先生がいないとはいえ、チームが別々に行動すれば課題は失敗とみなされるのだ。
「リリア、本当に大丈夫かな……?」
「平気平気。何よ、別にあんたが戦う必要なんてないんだから。ただ隣で隠れて、見ているだけでいいのよ」
「でも……」
「もう、ごちゃごちゃうるさいわね。救援の腕輪もあるんだから、何かあったら、ちゃんと転移して逃げられるわよ。」
<救援の腕輪>は協会から私たちの安全を守るために支給された、緊急脱出用の魔導具。使用すれば課題は失敗に終わるが、安全なスタート地点へと瞬時に転移することができる。
確かに、いざというときのための保険にはなるけれど、それでも不安は拭えなかった。
「そんなに怖いなら、ここで待っていなさいよ」
そう言い残し、リリアは魔導具の指輪を弓へと変形させ、戦いの姿勢で森の奥へと走り去っていった。
その場に取り残されたまま私は、しばらくリリアの背中を見送り、自分の心臓がドキドキしているのを感じる。
もうこんな所まで来たんだ。猪なら怖くない。ゴブリンとか、人型に似た魔物や、蛇のようなぬるぬるした魔物よりは、ずっとましだ。
いずれ、私も討伐任務に出るかもしれない。その時、リリアのように迷わずに戦いたいのだ。
意を決して、私はリリアの足跡を追い、森の中を急いだ。
***
リリアが見つかったとき、彼女は弓を構え、木陰に身を潜めていた。鋭い目つきで一匹の毒牙猪をじっと観察している。その慎重な様子を見て、無鉄砲に飛び出して攻撃するのではないことに、少し安心した。
私も魔術師協会で学んだ気配を消す技術を活用し、近くの木の背後に身を隠す。
そっと木陰から覗いてみると、そこには体高が大人の腰ほどもある、猪に似た魔獣がいた。灰色の毛並みは硬そうで、光を浴びるたびに金属のような冷たい光沢を放っている。特徴的な鋭い牙が、威圧的な存在感を醸し出していた。
リリアは弓を引き絞り、魔力を込めると、弓の上に安定した美しい火属性の魔力矢が浮かび上がった。
彼女は数秒間、その態勢を保ち、1秒、2秒、3秒……と息を整え、タイミングを見極めて、満を持して矢を放った。その矢は一瞬にして、まるで意思を持っているかのように一直線に飛び、見事に毒牙猪の足元に命中し、魔獣は驚いたように短い咆哮を上げた。
「これで少しは動きが鈍るはず」
リリアがそうつぶやいた次の瞬間、毒牙猪の反応は予想以上に早く、怒りに満ちた目で周囲を見渡すと、リリアが隠れている方向に向かって突進してきた。
「リリア!」
私は咄嗟に声を上げたが、リリアは冷静そのものだった。木を盾にして猪の突進をかわし、すかさずもう一本の矢を放つ。しかし、毒牙猪の勢いは衰えず、その鋭い牙で木に噛みつくと、紫色の毒液がじわじわと流れ出し、木の幹を腐らせていく。
「チっ、思ったより素早いわね!」
リリアは歯を食いしばりながらも軽やかに木に登り、次々と矢を放ち始めた。一本一本の威力は大きくないものの、矢の数で猪を攻め立てる。猪の体には次々と矢が突き刺さり、激痛に怒り狂った咆哮が周囲に響く。
だが、リリアは冷静に次の動きに移っていた。毒牙猪の突進が木に命中する直前にさらに隣の木へと飛び移り、さらに矢を撃ち込む。そして最後の一矢が、毒牙猪の片方の目と口元を正確に射抜いた。
毒牙猪は一声低い呻き声を上げて地面に倒れ込み、激しい息遣いを最後に動かなくなった。
「倒した……のかな?」
私は木の陰からひょいと顔を出して、警戒しながら様子を伺う。
リリアは慎重に、倒れた猪にさらに矢を数本放ちました。暫く待って、魔獣が完全に反応がなくなったのを確認した後に、木から降りた。
腰にあるナイフを取り出し、猪の額に刃を立てて魔石を取り出す。それを水魔法で丁寧に清潔にすると、手際よくポケットに収めた。
鼻をつく血の匂いが辺りに漂う中、私は木陰から出て、リリアの見事な戦いぶりに感心した。
「リリア、すごいね。毒牙猪をあんなに簡単に倒すなんて」
「ふん、当然でしょ。私は未来のS級冒険者になる女よ!」
私たちは戦いが終わり、達成感に包まれていたその時、不意に上空から影がサッと過ぎ、思わず空を見上げると、そこには巨大な鳥型の魔獣、風刃鳥の姿がいた。
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