パーティに見捨てられた罠師、地龍の少女を保護して小迷宮の守護者となる~ゼロから始める迷宮運営、迷宮核争奪戦~

お茶っ葉

文字の大きさ
3 / 28

三話 地龍の少女

しおりを挟む
 ドクン、ドクンと波打つ赤い宝珠。
 心臓のような得体の知れない物体を抱えた少女は、僕の姿に驚いた表情を見せる。
 僕もまた声を出せずにいた。彼女は龍だ。人の姿をしているけど、小さい角が生えている。
 
 先ほどの龍の亡骸と同じ種類の角だ。上級魔族は人に化けられると聞く。
 黄土色の肩まで伸ばした短めの髪。薄着の痩せ細った身体はボロボロで酷い傷だ。
 足元もおぼつかず、血で固まった右目はずっと閉じられている。
 左腕も動かないのか、ぶら下がったままで揺れている。痛々しく直視するのが辛くなる。

「どうしてここに人間が……」
「ごめん、荒らすつもりはないんだ。偶々迷い込んでしまって……その、探索中に色々あって」
 
 仲間だと思っていた連中に裏切られ、食われそうになるという。
 色々で流すには酷過ぎる内容だけど。少女はそれだけで僕の状況を察してくれたのか。
 悲しげな表情で「そうですか……」と呟いた。とりあえず悪い子ではなさそうだ。

「僕はリーン。冒険者をやっているんだ。君は?」
「フォン……です。その、地龍……です」

 恐る恐るといった様子で彼女は答えてくれた。
 何故だろう、龍である彼女の方が生物として優れているはずなのに。
 人である僕を怖がっている。――いや、彼女が地龍だとすれば恐怖するのも当然か。

「えっと、フォンはここに住んでいるの?」
「はい……ずっと、隠れていました」
「すると、僕は招かれざる客ってことになるね」
「……リーンは、私を……討伐しに来たのでは?」
「まさか。さっきも言ったけど偶々入ってしまっただけだよ。やっぱり、人は信用できない?」
 
 フォンは何も答えずにずっと僕を見ていた。

 地龍は、龍族の中でも最弱とされるほど弱いことで有名だ。
 頑丈な鱗に、巨大な体躯。太古では最強とされた能力も魔法の発展によって無意味となった。
 足の遅さはそのまま数を減らす要因になり、空も飛べないので逃げる事も叶わない。
 一時期、巷で龍装備が流行していたのもあって、見える範囲で狩り尽くされてしまったのだ。

 しかも、地龍の素材で作られた龍装備が別の龍を狩る道具として使われる。
 それが他の龍の怒りを買ったのか、仲間からも迫害されたとかで、絶滅したと考えられていた。
 彼女が希少な地龍の生き残りだとすれば、さっきの亡骸はきっと――

 ――ぎゅるるる

「あっ……」

 フォンのお腹から心地のいい音が響いた。同時に僕のお腹からも。
 お互い食べる物に困っているらしい。外の食べ物は毒性のものばかりだし。
 
「好みに合うかわからないけど、これ食べる?」

 袋から乾パンを取り出し、二つに割ってフォンに手渡す。
 フォンは最初は戸惑っていたものの、やがてゆっくりと手を伸ばし受け取ってくれた。
 冷たい地面に腰を下ろして、まずは僕が一口食べて安心させる。フォンもそれに続いた。

「こういう保存食ってあまり好きじゃなかったんだけど。今は何でも美味しいや」

 パサパサして味も単調なのに、お腹を満たしてくれるだけでご馳走のように感じる。
 残り少ない水も喉に流し込む。これで全部使い切った。カルロスから奪った袋は空っぽだ。

「どうして……私に優しくしてくれるのですか……? 人間なのに、魔族の私を……」
「ん? まぁ、酷い目にあったばかりでさ。裏切られて殺されかけて、そんなのがあったばかりだから。僕は目の前の弱者を虐めようだなんて、アイツらと同じことをしたくない。死んでもごめんだよ」

 あとは絶望的な状況に陥って、逆に余裕が生まれたというか。
 もう半分死んでいるようなものなので、怖いものがないのもある。

「だから僕は君に何もしないよ。安心して欲しい」
「……はい。その、助かります」

 フォンはおずおずと頭を下げた。

 彼女の怪我の原因はわからないけど。
 龍の強靭な肉体を傷付けるほどの暴力を受けたのだろう。
 血で汚れた身体を、怯えた瞳を見るだけで、胸が苦しくなる。

「そのままにするのは危険だ。ちょっとだけ僕を信じてくれないかな?」
「あっ……」

 せめて潰れた片目だけでもなんとかしてあげようと、包帯を出す。
 フォンは抵抗せずに受け入れてくれた。とりあえず今はこれが限界だ。
 動かない左腕は、地上でなら治療できるかもしれない。右目よりは原型がある。

「……あの、大丈夫ですか? 貴重な道具だったのでは……? 私なんかに使って……」
「いいんだ。僕にはもう不要だから。君の役に立てて道具も喜んでいるよ」

 心配してくれる優しい彼女に、僕はただ苦笑を返す。
 正直、この小迷宮に食料がなかった時点で、僕の命運は尽きたに等しい。
 今から急いで第一層を目指しても、飲まず食わずで魔物をやり過ごすのは厳しすぎる。

 運が良ければ別の探索中の冒険者に出会えるだろうが。
 食料を分けてもらえるとも限らないし、今は人を信用できる気がしない。
 魔族である彼女は、別種族だからだろうか。そういうの抜きで考えられる。
 
 だったら最期くらい、目の前の女の子にカッコつけるのもいいだろう。
 非常食にだって選ぶ権利はある。どうせ食われるならカルロスよりフォンの方がいい。
 よく見ると彼女は顔が血で汚れているけど、可愛いし。一度そう覚悟を決めると、肝が据わる。

「ふぅ、今日は疲れたよ。悪いけどフォン、ここで寝かせてもらってもいいかな?」
「えっ……? あっ、はい……どうぞ」
「ありがとう」

 許可を貰って岩肌がごつごつした天井を見上げる。
 肌寒さと腐敗臭も意識から遮断して目を閉じる。身体から力が抜けていく。 
 野宿が多い冒険者はどこでも眠れる訓練をしている。小迷宮内でもなんのそのだ。

「……不思議な人です。……おやすみなさい」

 暗闇に包まれる直前に、フォンの優しげな声が耳をくすぐった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 ◇上級魔族
 ユグドラシルに生息する魔族の大半が元々は地上で暮らしていた。
 人間が地上世界を統べるようになってからは、新天地に迷宮異世界を選ぶ。
 上級の冠を持つ魔族は人の姿に化ける事ができる。能力が衰えるものの魔力を温存できる。
 若い上級魔族は常に人に化けており、成長と共に本来の姿で活動するようになる。
 これは主に魔力を主食とする変異種や、人間などの外敵から身を守るための機能だとか。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

学園長からのお話です

ラララキヲ
ファンタジー
 学園長の声が学園に響く。 『昨日、平民の女生徒の食べていたお菓子を高位貴族の令息5人が取り囲んで奪うという事がありました』  昨日ピンク髪の女生徒からクッキーを貰った自覚のある王太子とその側近4人は項垂れながらその声を聴いていた。  学園長の話はまだまだ続く…… ◇テンプレ乙女ゲームになりそうな登場人物(しかし出てこない) ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

【完結】勇者と国王は最悪。なので私が彼らを後悔させます。

凛 伊緒
ファンタジー
「お前はこのパーティーに相応しくない。今この場をもって、追放とする!それと、お前が持っている物は全て置いていってもらうぞ。」 「それは良いですわね、勇者様!」 勇者でありパーティーリーダーのゼイスに追放を宣言された。 隣にいる聖女メーシアも、大きく頷く。 毎日の暴行。 さらに報酬は平等に分けるはずが、いつも私だけかなり少なくされている。 最後の嫌味と言わんばかりに、今持っている物全てを奪われた。 今までの行いを、後悔させてあげる--

処理中です...