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二章
一話 淫魔の血を引く獣人
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迷宮都市ミズガルズの中心、神樹を取り囲む冒険者街。
安宿から一人の少女が出てきた。銀色の髪を揺らして、長い耳と尻尾を動かしている。
背中には少女の身体とほぼ同じ刀身がある大剣バスタードソードが、軽々と背負っている。
道行く男たちの好奇の目が一点に集まってくる。逆に女からは嫌悪の目。
それも仕方がない。少女は獣人族であり、同時に淫魔の血を引くクォーターだ。
纏わりつく視線を無視して、獣人の少女は慣れた足取りで通りを駆け抜け、一軒の酒場の扉を開ける。
「マスター、カナデお姉ちゃんはいる?」
冒険者たちが談笑する一角で、その騒音に負けず劣らず声を張り上げる。
カウンターに立つ、頭が妙に涼しい男が、コップにミルクを注いで少女に渡す。
「ノノお嬢ちゃん、今日も元気そうだな。君のお姉ちゃんは用事があると言って席を外しているぞ」
「え、またあそこなの? もうっ、カナデお姉ちゃん一途なんだから」
ノノはやれやれといった様子で席に座る。
カナデもまた獣人族で、ノノの血の繋がらない姉である。
「噂で聞いたけど、カナデさんはずっと罠師の少年を探しているんだって?」
「そうなの。お姉ちゃん一度パーティを組んだだけなのに、その子が随分と気に入っちゃったらしくて」
ノノはミルクを一気に飲み干すと口元を白く汚す。
「なるほど。【月の雫】はその少年と専属契約を結ぼうってわけだ」
「わざわざ借りている宿まで探し出して、毎日通っているの。……いつも不在だけど」
「他のパーティと探索中か。しかし、それはマズいね。そのパーティに盗られるかもな」
「それもあってお姉ちゃん凄く焦っているんだ。無駄だとわかっても、動かないと落ち着かないって」
契約と呼ぶと仰々しく聞こえるが、今後も優先的にパーティに入って欲しいと頼むだけだ。
優秀な罠解除役はそれだけ競争率が高いのだ。早めに唾を付けるに越した事はない。
それにしても毎日宿に通うのはやり過ぎであると、ノノは思うのであった。
「その少年は今は無名だろうけど、近いうちに誰かに囲われるだろうな。獣人族と組んで迷宮探索に臨める人間なんてそうそういない。将来性を感じる。何より根性がありそうだ」
「まぁね。お姉ちゃんも驚いてたよ。軽い気持ちでパーティに誘ったらそのまま第五層まで行けちゃって、最初は二層攻略すら無理だと思ってたみたいなのに。その子は最後は力尽きて気絶しちゃったみたいだけど。お姉ちゃんそれで惚れ込んじゃったんだって、若いのに根性があるって」
「是非、うちの店にも欲しい人材だ」
カナデが率いる【月の雫】はBランクの上位パーティだ。
全員が獣人という構成であり、罠解除役は別で雇う形となっていた。
というのも、人間の血が薄い獣人族はスキルの数と質が劣る傾向にあるのだ。
ノノ自身もスキルを一つしか持たず。十六になっても変わらない。
彼女くらいの歳では、三つから五つは習得してもおかしくないのだが。
罠解除ができる獣人が生まれないので、そこだけは人間の力を借りる必要が生じる。
ただ、身体能力が優れている獣人族のパーティに人間がついていくのは厳しいものがある。
探索速度も尋常ではなく、戦闘も勇猛果敢。付き合うには並外れた体力かもしくは根性が求められる。
「罠解除ができる人って、悪い噂がある奴か怠惰な奴ばっかだし。真面目な子ってだけで貴重だから」
ギルドからの要請もあって、各パーティには必ずと言っていいほど罠解除要員の枠がある。
そのせいかミズガルズでは、罠を解除できるだけで特権を得られたと勘違いする輩が多いのだ。
誰しもが過酷な訓練を乗り越えて上位パーティを目指すのに、スキル一つで枠を埋める。
そこに反感を持つ者も少なくない。更には違法に報酬を吹っ掛けてくる愚者まで現れる始末。
そうして真面目な人間が割を食う羽目になっている。罠師の少年も今まで苦労してきた事だろう。
「んで、ノノお嬢ちゃんの方はどうなんだい? お姉ちゃんのパーティに入れそうかい?」
「このあいだ一人で【森林の殺戮者】を討伐したところ。これでも認めてくれないんだから。お姉ちゃんって意地悪だよね」
「変異種を一人で? そいつは凄まじいな……流石は魔獣と淫魔の血を引くだけある」
ノノの実力はミズガルズでも上位に位置するだろう。
マスターは空になったコップの中にミルクを注いでいく、
「しかしだ。迷宮探索は常にパーティ単位で行動する。個人の腕よりも仲間との連携の方が重要だ。ノノお嬢ちゃんは信頼できる仲間を作れたのかい? そうじゃないと正当な評価は受けられないぞ?」
ミズガルズの冒険者は個人の能力以上にパーティでの役割が求められる。
同じことしかできない人物を多く集めても仕方がない。戦闘要員は特に被りやすい。
腕っ節の強さはわかりやすい指標なので、何かと評価基準が厳しくなりがちだ。
「それはわかってるけど! わかってるけど……一緒に組めるパーティが見つからないの! マスターもノノの体質を知ってる癖に!! ばかばかばか!」
「わ、悪い悪い。俺の配慮が欠けていた。ミルクは奢りにするから」
ノノは可愛らしい怒り顔でマスターに詰め寄っていた。
「……ノノがパーティに入ると必ず言い寄ってくる男が現れる。そこから徐々に人間関係が拗れて内部崩壊するの。今月だけで三つのパーティを潰したわ。悪気はないのに女の子には嫌われるし、本当自分の体質が嫌になる……!」
「俺のように《精神耐性》スキル持ちじゃないと、満足に異性と会話ができないのは可哀想だな」
ノノの体質である淫魔の血が、彼女を孤独たらしめていた。
本人にその気がなくても異性を誘惑してしまう。つまらない争いが生じるのだ。
過酷な迷宮探索に女性だけのパーティなんてまず存在しない。ノノの悩みは深刻だった。
「ねぇ……マスター。この際だし、ノノと組まない?」
「俺はもう引退の身だ。老人を戦場に立たせないでくれ」
「あぅ、残念」
ミルクを飲み干して、ノノは椅子から飛び降りる。
右手の指から銀硬貨を弾き飛ばす。マスターがそれを片手で受け取った。
「ミルクは俺の奢りだと言ったが?」
「カナデお姉ちゃんに厳しく言われてるの。マスターの奢りはあとで高くつくって。タダより高い物はないってね!」
「……こいつは参ったね。姉妹揃って堅物ばかりだ」
明らかに相場以上の代金を受け取って、マスターは作業に戻っていった。
◇
「あら、ノノちゃん。こんなところでどうしたの? 今日は修行じゃなくて街でお買い物?」
冒険者街でも荒くれ者が多く集う貧困地区。
寂れた敷地から場違いなほど美しい女性が現れる。
眩い金色の長髪を揺らして、上品な装備を身に着けている。
ノノの姿を見つけて人好きのする笑顔を振り撒く。花のように可憐であった。
「カナデお姉ちゃん!」
ノノは急いで駆け出すと、その豊満な胸に飛び込んだ。
「ノノちゃん聞いて。リーンくんが【鋼の剣】というパーティに参加してしまったみたいなの」
「ふーん、ソイツらに先を越されたんだ。残念だったね。まぁ、諦めて別の子を探せば?」
ノノとしては自分の事で精一杯なので、罠師の少年に関してはどうでもよかった。
しかしカナデは珍しくかなり落ち込んでいる。よほど少年を仲間に加えたかったらしい。
「むぅ……」
ノノは何となく不機嫌になる。自分の方が【月の雫】に所属したい気持ちが強いのに。
何故、罠師の少年の方が優先されるのかと。罠解除ができるだけでズルいと思ってしまう。
(あー、ダメダメ。罠師の子は悪くないの。ノノが不甲斐ないのがダメなんだから……)
そこまで考えて、赤の他人に当たってしまう自分が嫌になって、ノノは一人落ち込んだ。
「あんなにいい子の代わりなんて見つかるかしら? あぁ……惜しい事をしてしまったわ」
「あとから慌てるくらいなら、最初から契約の話をしておけばよかったのに」
「本当にそうね……ほら、やっぱり種族の差もあるから。少し遠慮してしまったの」
カナデはそう苦笑する。他種族の者をパーティに誘うのは意外と難しいものだ。
ノノもちょっとした人間関係の縺れで、崩壊したパーティを見ているので他人事ではない。
それでもリスクばかりを気にしていては、足踏みするばかりで、前に進めない事も事実なのだ。
「カナデお姉ちゃんは優しいけど。優しさだけじゃ【月の雫】を維持できないよ?」
「本当にそうね。ノノはあの方たちの血を引くだけあって、私よりも決断力があるわね?」
「ノノは……パパとママの顔は覚えてないけど」
「私も当時は子供だったから、ハッキリとは覚えてないけど、お二人は今のノノのような感じだったわ」
「そうなんだ」
ノノの両親は【月の雫】の創設者だ。
二人は十五年前のとある魔物討伐戦で亡くなり、成長したカナデが跡を引き継いでいる。
カナデがノノをパーティに入れるのを渋るのは、両親の一件が絡んでいるのは確かだった。
「カナデお姉ちゃん。素質があるのなら、ノノを【月の雫】に入れて!」
「……それはできないわ。いつも言っているけど、自分でパーティを見つけて五層まで辿り着けなければ、仲間として認められないわ。私は、貴方が大切な妹だからって特別優遇するつもりはないの」
カナデはノノの要求を突っぱねる。
姉としてではなく、上位パーティを率いる者の厳しい表情であった。
「……最初から上位のパーティに入っても、素人が周りに迷惑を掛けるからでしょ?」
「そう。これは例え身内だとしても譲れないものなの。いえ……身内だからこそ、厳しくあるべきね」
「でも……ノノの体質じゃ、碌にパーティを組めないし……!」
「上層はそんな言い訳が通用する甘い世界じゃないの。貴方のミスで仲間を失ったとして、責任を取れる? 淫魔の血が悪いってそれで周囲を納得させられる?」
カナデの言うことはもっともな話だ。
淫魔の血を言い訳にしたところで、実際に被害を被るのは周りなのだ。
弱点を克服しろというのは間違ってはいない。しかし、簡単に克服できるものでないのも事実。
「あぅ、お姉ちゃんの意地悪……! ノノだって好きでこの身体に生まれたわけじゃないのに!」
「ノノちゃん……」
カナデを強く押して離れると、ノノはそのまま背中を向ける。
そこまでして、またもや他人に八つ当たりする自分が嫌になって、ノノは首を振った。
「あぅ、ごめんね……カナデお姉ちゃん。ノノ、頭を冷やしに一層で修行してくる……」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
◇スキル
人間が神から与えられた異能であり、祝福の証。
スキルには生まれ持った先天性のものと、後天的に習得するものがある。
後天的に得られるスキルは、その人物の経験に基づいたものになるのが通例。
例えば、武芸に秀でた人間は、後天的に戦闘用のスキルを習得する。
魔法に特化した人物であれば、魔法に関連したスキルを習得したりと。
ある程度欲しいスキルを自分で調節できるようになっている。
ただし、人間には器の限界があり、スキルを所持できる数が決まっている。
その為、自分の得意分野に関連した補助スキルを得るのが一般的な考え方になる。
罠解除役の大半が戦闘の役に立たないのも、探索系のスキルばかりを習得するのが原因。
冒険者の多くが特化型になってしまうので、逆に万能型が希少になるという現象が起こっている。
ちなみに人と魔の血を引く亜人もスキルを持っている。
人の血が薄まっているので、純血の人間と比べると数と質で落ちる。
安宿から一人の少女が出てきた。銀色の髪を揺らして、長い耳と尻尾を動かしている。
背中には少女の身体とほぼ同じ刀身がある大剣バスタードソードが、軽々と背負っている。
道行く男たちの好奇の目が一点に集まってくる。逆に女からは嫌悪の目。
それも仕方がない。少女は獣人族であり、同時に淫魔の血を引くクォーターだ。
纏わりつく視線を無視して、獣人の少女は慣れた足取りで通りを駆け抜け、一軒の酒場の扉を開ける。
「マスター、カナデお姉ちゃんはいる?」
冒険者たちが談笑する一角で、その騒音に負けず劣らず声を張り上げる。
カウンターに立つ、頭が妙に涼しい男が、コップにミルクを注いで少女に渡す。
「ノノお嬢ちゃん、今日も元気そうだな。君のお姉ちゃんは用事があると言って席を外しているぞ」
「え、またあそこなの? もうっ、カナデお姉ちゃん一途なんだから」
ノノはやれやれといった様子で席に座る。
カナデもまた獣人族で、ノノの血の繋がらない姉である。
「噂で聞いたけど、カナデさんはずっと罠師の少年を探しているんだって?」
「そうなの。お姉ちゃん一度パーティを組んだだけなのに、その子が随分と気に入っちゃったらしくて」
ノノはミルクを一気に飲み干すと口元を白く汚す。
「なるほど。【月の雫】はその少年と専属契約を結ぼうってわけだ」
「わざわざ借りている宿まで探し出して、毎日通っているの。……いつも不在だけど」
「他のパーティと探索中か。しかし、それはマズいね。そのパーティに盗られるかもな」
「それもあってお姉ちゃん凄く焦っているんだ。無駄だとわかっても、動かないと落ち着かないって」
契約と呼ぶと仰々しく聞こえるが、今後も優先的にパーティに入って欲しいと頼むだけだ。
優秀な罠解除役はそれだけ競争率が高いのだ。早めに唾を付けるに越した事はない。
それにしても毎日宿に通うのはやり過ぎであると、ノノは思うのであった。
「その少年は今は無名だろうけど、近いうちに誰かに囲われるだろうな。獣人族と組んで迷宮探索に臨める人間なんてそうそういない。将来性を感じる。何より根性がありそうだ」
「まぁね。お姉ちゃんも驚いてたよ。軽い気持ちでパーティに誘ったらそのまま第五層まで行けちゃって、最初は二層攻略すら無理だと思ってたみたいなのに。その子は最後は力尽きて気絶しちゃったみたいだけど。お姉ちゃんそれで惚れ込んじゃったんだって、若いのに根性があるって」
「是非、うちの店にも欲しい人材だ」
カナデが率いる【月の雫】はBランクの上位パーティだ。
全員が獣人という構成であり、罠解除役は別で雇う形となっていた。
というのも、人間の血が薄い獣人族はスキルの数と質が劣る傾向にあるのだ。
ノノ自身もスキルを一つしか持たず。十六になっても変わらない。
彼女くらいの歳では、三つから五つは習得してもおかしくないのだが。
罠解除ができる獣人が生まれないので、そこだけは人間の力を借りる必要が生じる。
ただ、身体能力が優れている獣人族のパーティに人間がついていくのは厳しいものがある。
探索速度も尋常ではなく、戦闘も勇猛果敢。付き合うには並外れた体力かもしくは根性が求められる。
「罠解除ができる人って、悪い噂がある奴か怠惰な奴ばっかだし。真面目な子ってだけで貴重だから」
ギルドからの要請もあって、各パーティには必ずと言っていいほど罠解除要員の枠がある。
そのせいかミズガルズでは、罠を解除できるだけで特権を得られたと勘違いする輩が多いのだ。
誰しもが過酷な訓練を乗り越えて上位パーティを目指すのに、スキル一つで枠を埋める。
そこに反感を持つ者も少なくない。更には違法に報酬を吹っ掛けてくる愚者まで現れる始末。
そうして真面目な人間が割を食う羽目になっている。罠師の少年も今まで苦労してきた事だろう。
「んで、ノノお嬢ちゃんの方はどうなんだい? お姉ちゃんのパーティに入れそうかい?」
「このあいだ一人で【森林の殺戮者】を討伐したところ。これでも認めてくれないんだから。お姉ちゃんって意地悪だよね」
「変異種を一人で? そいつは凄まじいな……流石は魔獣と淫魔の血を引くだけある」
ノノの実力はミズガルズでも上位に位置するだろう。
マスターは空になったコップの中にミルクを注いでいく、
「しかしだ。迷宮探索は常にパーティ単位で行動する。個人の腕よりも仲間との連携の方が重要だ。ノノお嬢ちゃんは信頼できる仲間を作れたのかい? そうじゃないと正当な評価は受けられないぞ?」
ミズガルズの冒険者は個人の能力以上にパーティでの役割が求められる。
同じことしかできない人物を多く集めても仕方がない。戦闘要員は特に被りやすい。
腕っ節の強さはわかりやすい指標なので、何かと評価基準が厳しくなりがちだ。
「それはわかってるけど! わかってるけど……一緒に組めるパーティが見つからないの! マスターもノノの体質を知ってる癖に!! ばかばかばか!」
「わ、悪い悪い。俺の配慮が欠けていた。ミルクは奢りにするから」
ノノは可愛らしい怒り顔でマスターに詰め寄っていた。
「……ノノがパーティに入ると必ず言い寄ってくる男が現れる。そこから徐々に人間関係が拗れて内部崩壊するの。今月だけで三つのパーティを潰したわ。悪気はないのに女の子には嫌われるし、本当自分の体質が嫌になる……!」
「俺のように《精神耐性》スキル持ちじゃないと、満足に異性と会話ができないのは可哀想だな」
ノノの体質である淫魔の血が、彼女を孤独たらしめていた。
本人にその気がなくても異性を誘惑してしまう。つまらない争いが生じるのだ。
過酷な迷宮探索に女性だけのパーティなんてまず存在しない。ノノの悩みは深刻だった。
「ねぇ……マスター。この際だし、ノノと組まない?」
「俺はもう引退の身だ。老人を戦場に立たせないでくれ」
「あぅ、残念」
ミルクを飲み干して、ノノは椅子から飛び降りる。
右手の指から銀硬貨を弾き飛ばす。マスターがそれを片手で受け取った。
「ミルクは俺の奢りだと言ったが?」
「カナデお姉ちゃんに厳しく言われてるの。マスターの奢りはあとで高くつくって。タダより高い物はないってね!」
「……こいつは参ったね。姉妹揃って堅物ばかりだ」
明らかに相場以上の代金を受け取って、マスターは作業に戻っていった。
◇
「あら、ノノちゃん。こんなところでどうしたの? 今日は修行じゃなくて街でお買い物?」
冒険者街でも荒くれ者が多く集う貧困地区。
寂れた敷地から場違いなほど美しい女性が現れる。
眩い金色の長髪を揺らして、上品な装備を身に着けている。
ノノの姿を見つけて人好きのする笑顔を振り撒く。花のように可憐であった。
「カナデお姉ちゃん!」
ノノは急いで駆け出すと、その豊満な胸に飛び込んだ。
「ノノちゃん聞いて。リーンくんが【鋼の剣】というパーティに参加してしまったみたいなの」
「ふーん、ソイツらに先を越されたんだ。残念だったね。まぁ、諦めて別の子を探せば?」
ノノとしては自分の事で精一杯なので、罠師の少年に関してはどうでもよかった。
しかしカナデは珍しくかなり落ち込んでいる。よほど少年を仲間に加えたかったらしい。
「むぅ……」
ノノは何となく不機嫌になる。自分の方が【月の雫】に所属したい気持ちが強いのに。
何故、罠師の少年の方が優先されるのかと。罠解除ができるだけでズルいと思ってしまう。
(あー、ダメダメ。罠師の子は悪くないの。ノノが不甲斐ないのがダメなんだから……)
そこまで考えて、赤の他人に当たってしまう自分が嫌になって、ノノは一人落ち込んだ。
「あんなにいい子の代わりなんて見つかるかしら? あぁ……惜しい事をしてしまったわ」
「あとから慌てるくらいなら、最初から契約の話をしておけばよかったのに」
「本当にそうね……ほら、やっぱり種族の差もあるから。少し遠慮してしまったの」
カナデはそう苦笑する。他種族の者をパーティに誘うのは意外と難しいものだ。
ノノもちょっとした人間関係の縺れで、崩壊したパーティを見ているので他人事ではない。
それでもリスクばかりを気にしていては、足踏みするばかりで、前に進めない事も事実なのだ。
「カナデお姉ちゃんは優しいけど。優しさだけじゃ【月の雫】を維持できないよ?」
「本当にそうね。ノノはあの方たちの血を引くだけあって、私よりも決断力があるわね?」
「ノノは……パパとママの顔は覚えてないけど」
「私も当時は子供だったから、ハッキリとは覚えてないけど、お二人は今のノノのような感じだったわ」
「そうなんだ」
ノノの両親は【月の雫】の創設者だ。
二人は十五年前のとある魔物討伐戦で亡くなり、成長したカナデが跡を引き継いでいる。
カナデがノノをパーティに入れるのを渋るのは、両親の一件が絡んでいるのは確かだった。
「カナデお姉ちゃん。素質があるのなら、ノノを【月の雫】に入れて!」
「……それはできないわ。いつも言っているけど、自分でパーティを見つけて五層まで辿り着けなければ、仲間として認められないわ。私は、貴方が大切な妹だからって特別優遇するつもりはないの」
カナデはノノの要求を突っぱねる。
姉としてではなく、上位パーティを率いる者の厳しい表情であった。
「……最初から上位のパーティに入っても、素人が周りに迷惑を掛けるからでしょ?」
「そう。これは例え身内だとしても譲れないものなの。いえ……身内だからこそ、厳しくあるべきね」
「でも……ノノの体質じゃ、碌にパーティを組めないし……!」
「上層はそんな言い訳が通用する甘い世界じゃないの。貴方のミスで仲間を失ったとして、責任を取れる? 淫魔の血が悪いってそれで周囲を納得させられる?」
カナデの言うことはもっともな話だ。
淫魔の血を言い訳にしたところで、実際に被害を被るのは周りなのだ。
弱点を克服しろというのは間違ってはいない。しかし、簡単に克服できるものでないのも事実。
「あぅ、お姉ちゃんの意地悪……! ノノだって好きでこの身体に生まれたわけじゃないのに!」
「ノノちゃん……」
カナデを強く押して離れると、ノノはそのまま背中を向ける。
そこまでして、またもや他人に八つ当たりする自分が嫌になって、ノノは首を振った。
「あぅ、ごめんね……カナデお姉ちゃん。ノノ、頭を冷やしに一層で修行してくる……」
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◇スキル
人間が神から与えられた異能であり、祝福の証。
スキルには生まれ持った先天性のものと、後天的に習得するものがある。
後天的に得られるスキルは、その人物の経験に基づいたものになるのが通例。
例えば、武芸に秀でた人間は、後天的に戦闘用のスキルを習得する。
魔法に特化した人物であれば、魔法に関連したスキルを習得したりと。
ある程度欲しいスキルを自分で調節できるようになっている。
ただし、人間には器の限界があり、スキルを所持できる数が決まっている。
その為、自分の得意分野に関連した補助スキルを得るのが一般的な考え方になる。
罠解除役の大半が戦闘の役に立たないのも、探索系のスキルばかりを習得するのが原因。
冒険者の多くが特化型になってしまうので、逆に万能型が希少になるという現象が起こっている。
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