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第二章
第40話 合流
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「声が……聞こえる」
それは四十五階を探索している最中の出来事だった。
砂漠地帯で爆発音が続いている。吹き荒ぶ風に乗って誰かの声も。
自分たちの居場所を伝えるかのように。すぐストブリの姿を思い浮かべた。
「どこかで誰かが戦っているんだ、きっとレイリアさんたちだよ!」
助けを求めるのにわざわざこんな手間をかけるだなんて。
余程緊急事態なんだろう。二人で逃げられる状況じゃないんだ。
「コクエン、出番よ!」
「はひっ、承知しました! コクエン跳びますううううううううう!」
アイギスのシールドバッシュを踏み台に、コクエンが遥か上空に飛翔する。
フォルネウス戦で見せた連携だ。砂漠の丘を越え、遥か先を見通してくれる。
「おー……たかい」
「ご主人様、見えましたーーーー! この先に複数の人影が戦闘中ですーーーー!」
「ありがとう! いつも助かっているよ!」
「ぶふっ……お役に立てて幸せ……」
コクエンは鼻血を出しながら垂直に突き刺さった。
だ、大丈夫かな。擬人化の子たちは常人より頑丈だけど。
「おー……ひくい」
「ちょっとなに着地に失敗してるのよ。ごほっ、砂だらけじゃない!」
「アイちゃん、避けませんでしたか? 私様の気のせいでなければ」
「あひっ……いひひ……」
「幸せそうに気を失っています……癒しの水!」
ついに居場所を突き止めた僕たちは急ぎその場所に向かう。
「ライブラさん、四十五階層のフロアボス情報は!?」
「私様たちと同様に引き寄せられていますね……接触まで数十分といったところでしょうか」
「能力喰らいと同時戦闘になるのは避けたいね。すばやく片付けないと……!」
まともにやりあえば人間の集団は魔物以上に手強い相手だ。
そこにフロアボスも乱入すると、被害は甚大なものになりかねない。
「ご主人様、懐刀である私めが先行いたします。どうか単独行動の許可を!」
「頼める? 僕の数少ない大事な友人なんだ。助けてあげて!」
「もちろんです。命に代えてもこのコクエンがお守りいたします! アイギス様!」
「ほらっ、行ってきなさい!!」
フードを深く被り、アイギスの両腕に飛び乗る。
再度大ジャンプでコクエンが砂漠の丘を越えていった。
頼りになる懐刀さんだ。きっと時間を稼いでくれるはず。
「トロン、ここは遮蔽物のない開けた地形、君の援護が重要だよ!」
「了解。ますたのてき、うつ」
見晴らしのいい砂丘に狙撃手として待機してもらおう。
相手が複数人である以上、後方支援は必要だろうから。
龍の魔力水が入った革袋を幾つかトロンに預ける。
「私様がトロちゃんの補佐をいたしましょう。アイちゃん、ロロアさんを任せましたよ!」
「言われなくてもそのつもりよ! エル、負傷した子がいるはずだから、処置は貴女に任せるわ」
「エルのスキルの出番ですね! やっとこくえんさん以外でお役に立てます!」
流れるようにそれぞれの役割を見つけて、持ち場についてくれる。
元がアイテムだからこそ。自分の用途を深く理解しているんだ。
そして僕も。人間を相手にだからこそできる事があるはずだ。
◇
「いい加減諦めろよ王女様。粘ったところで苦しみが増すだけだぜ? 早く楽になっちまいな」
「くっ……」
矢を受けて負傷した右腕を押さえ、レイリアは呻く。
麻痺毒が塗られていたのか、下半身が痙攣して動かない。
「レイリア、気を強く持ってください! 私が……王女の剣が守りますです!」
ストブリが一人で善戦しているが、あまりに戦力差があり過ぎる。
先程から賊を倒しても倒しても、治療魔法ですぐに復活してくるのだ。
遠距離から魔法が降り注ぎ、近距離では攻撃スキルを押し付けられる。
こちらの反撃も、回避、防御スキルですべて対応されてしまう。
対人戦で一番重要なのは、相手にスキルを使わせる暇を与えない事だ。
異界の神が与えた可能性は、どんな人間も一時的な達人技能に目覚めさせる。
スキルの付け替えが自由に出来るようになり。
相手がどの技能を扱うのか予測が困難となっているのだ。
やられる前にやれが鉄則。一度防戦になれば逆転は難しい。
【王女の激励】を受けた国宝級のストブリならそれが可能だった。
――だが、これほどの人数差が生じると。その鉄則も厳しくなる。
ストブリのスキルは威力は高いが、効果範囲が狭いのだ。
相手は大きく横に広がっていて、被害を最小限に抑えてくる。
【理の破壊者】は人間を専門に襲う犯罪者組織であり。
対するレイリアたちは、対人戦の経験が圧倒的に不足していた。
「【王女の激励】は本人には効果が及ばないんだったよな? どうした、疲れているようだが。護衛一人じゃ守り通せないぞ? ほらほら、自分の力で戦わないと。王族は剣術を学んでいるんだろぉ!?」
「ああっ」
カナンの追撃の矢が肩に刺さる。鋭い熱と痛みに視界が歪む。
「可哀想に。ユニークスキルはそれ一つで器を埋めてしまう。どう足掻いても王女様は個人技では俺たち賊にすら敵わない。……貴重な研究材料を殺しはしない。最後の最期までしゃぶりつくしてやる」
「……どうして……私はいつも……!」
レイリアは砂の地面を見つめる。心が乾いてくる。
人間が嫌いだ。誰も彼もすぐに裏切る。傷付けてくる。
いつもそうだ。ユニークスキルばかりで誰も私を見てくれない。
【王女の激励】がなければ。家族からも冷遇され。
賊だって、ユニークスキルにしか興味を持っていない。
自分は誰からも必要とされていない。所詮、おまけなのだ。
「もう……いい。もう……楽にして」
目の前に細剣が転がっている。ここで自ら命を絶てば。
その瞬間だけでも。私を見てもらえるのだろうか。
こんな苦しい思いをしないで済むのだろうか。
「レイリア駄目です! 諦めないでくださいです!」
「やっと大人しくなったか……手間を掛けさせやがって」
「やめて、レイリア! 私が、私がついていますです!」
生きる気力を失い、呆然と座り込むレイリアに。
賊の一人が近付いてくる。道具として手荒く扱おうとする。
「だ、誰か……誰か助けてくださいです! レイリアを、救ってください! 創造主様!!」
ストブリは叫んだ。最後に求めたのは自分を生み出してくれた少年だった。
「――まずは一匹目です! 闇の劫火に呑まれろ!」
「ぐぎゃああああああああああああああああ」
天から降り注ぐ一筋の炎が煌めいていた。
賊の背中を手刀で斬り付けて、闇の炎に包み込む。
消えない劫火に苦しみもがきながら倒れた。砂に沈んでいく。
「あひっ、一撃必殺です。ご主人様にまたお褒めの言葉をいただけるかもっ!」
「え、どちら様……?」
突然上空から現れた謎の人物は、奇声を発して跳ねている。
あまりの場違いな存在に、賊たちの動きも固まっていた。
レイリアも瞳に光を取り戻し、ただその人物を見つめる。
「あれ、そういえば誰をお守りすればいいのでしょう? はっ、人相を聞いておくのを忘れていました!」
「……お願いしますです! どなたかはわかりませんが、レイリアを、助けてくださいです!」
「あっ、そちらの方は同士ではありませんか。私めは新人のコクエンと申します。以後お見知りおきを」
ストブリの願いを聞いてコクエンは、呑気に礼儀正しくお辞儀していた。
「ストブリの仲間……もしかして、貴女はロロア様の……?」
瞬間、レイリアの身体が浮かび上がった。コクエンに抱きかかえられたのだ。
「誰だか知らないが邪魔をしやがって! たった一人の援軍で何ができる、後悔させてやる!」
カナンが拳を握り叫ぶ。呼応して賊たちが包囲の円を狭めていく。
「私めに触れると火傷をしますよ? その前に、捕まる気もさらさらありませんが」
コクエンは襲いくる賊を華麗な足捌きで躱していく。
砂場という悪環境をものともしない、速さで翻弄する。
如何にスキルが優れていようと。それを扱うのも人間だ。
足場の悪さに本来の効果を発揮できず。また王女を殺せない。
レイリアを抱えて回避に専念するコクエンには届かないのだ。
「どうしてこの場所に、上層にロロア様のお仲間の方が……?」
「――ご主人様にお申し付けられたのです。ご友人のレイリア様を必ずやお守りせよと。その為に、地上からここまで長い月日を掛けて駆け付けてまいりました! 私めは途中参加ですけれども」
「……っ」
とめどなく涙がこぼれた。心から欲していた。
ロロアは自分を王女ではなく友人と呼んでくれたのだ。
黙って立ち去ったのに。大きな心配を掛けたのに。
ずっと追いかけてきてくれた。ただ友人を助ける為だけに。
聞こえのいい取り繕った言葉ではなく。少年は行動で体現してくれた。
人間不信から、レイリアの乾き切った心には何よりも効く特効薬だ。
「相手は女を抱えているんだぞ! どうして苦戦するんだ!?」
カナンたちは力任せに数の力で攻めてくるが。
コクエンの肉体に【王女の激励】が効いていたのだ。
レイリアの心は動いていた。信頼の大きさが激励の効果に比例する。
「死にやがれえええええええ!」
斧を持った賊がスキルを発動させる。
斬撃が分裂してコクエンの逃げ道を塞いだ。
「ぐがああああああああああああ!?」
遠方から降り注ぐ雷光弾が、賊の斧を持つ腕を吹き飛ばした。
追撃の弾が片足を貫いて戦闘不能に追い込む。見覚えのある援護だ。
「まだ仲間が居やがるのかっ!? もういい、この際王女の生死は問わない。死体でも持ち帰れば使い道はあるだろう!」
カナンの命令で、賊たちは形振り構わず魔法と矢を放った。
遮蔽物のない砂漠で、広範囲の攻撃は避けられるものじゃない。
「あら、その判断をするには一足遅かったみたいよ?」
全方位から襲い掛かる衝撃を、金髪の少女が受け止めていた。
「貴女は、アイギスの神盾さん!」
「久しぶりねストームブリンガー。私の認めたライバルが、こんな雑魚に苦戦しないでよね。私の価値まで下がるじゃないの!」
「ごめんなさいです! だけど、今からが本番ですから!」
二人が並んで賊を蹴散らしていく。更に続けて雷光弾が。
苛烈な攻撃は敵の治療速度を遥かに上回り。追い詰めている。
「お姫さま、身体を治しますね! 癒しの水!」
「貴女は……エル?」
「はいっもう大丈夫ですから!」
エルの指先から流れる水が、血を止めて痛みを和らげてくれる。
下半身の痺れも弱まり、何とか自分の足で立ち上がれるようになった。
そして遠方から、彼は走りながらやってきた。
命と心を救ってくれた。大切な、掛け替えのない友人が。
「レイリアさん、やっと追い付いた! 僕たちと一緒に最上層を目指しましょう!」
「……っ、ロロア様……!」
目の前に現れた少年は、記憶していた姿よりもずっと成長した顔付きで。
レイリアを責めるのではなく。日常の続きで、笑顔でそう伝えてくれたのだ。
それは四十五階を探索している最中の出来事だった。
砂漠地帯で爆発音が続いている。吹き荒ぶ風に乗って誰かの声も。
自分たちの居場所を伝えるかのように。すぐストブリの姿を思い浮かべた。
「どこかで誰かが戦っているんだ、きっとレイリアさんたちだよ!」
助けを求めるのにわざわざこんな手間をかけるだなんて。
余程緊急事態なんだろう。二人で逃げられる状況じゃないんだ。
「コクエン、出番よ!」
「はひっ、承知しました! コクエン跳びますううううううううう!」
アイギスのシールドバッシュを踏み台に、コクエンが遥か上空に飛翔する。
フォルネウス戦で見せた連携だ。砂漠の丘を越え、遥か先を見通してくれる。
「おー……たかい」
「ご主人様、見えましたーーーー! この先に複数の人影が戦闘中ですーーーー!」
「ありがとう! いつも助かっているよ!」
「ぶふっ……お役に立てて幸せ……」
コクエンは鼻血を出しながら垂直に突き刺さった。
だ、大丈夫かな。擬人化の子たちは常人より頑丈だけど。
「おー……ひくい」
「ちょっとなに着地に失敗してるのよ。ごほっ、砂だらけじゃない!」
「アイちゃん、避けませんでしたか? 私様の気のせいでなければ」
「あひっ……いひひ……」
「幸せそうに気を失っています……癒しの水!」
ついに居場所を突き止めた僕たちは急ぎその場所に向かう。
「ライブラさん、四十五階層のフロアボス情報は!?」
「私様たちと同様に引き寄せられていますね……接触まで数十分といったところでしょうか」
「能力喰らいと同時戦闘になるのは避けたいね。すばやく片付けないと……!」
まともにやりあえば人間の集団は魔物以上に手強い相手だ。
そこにフロアボスも乱入すると、被害は甚大なものになりかねない。
「ご主人様、懐刀である私めが先行いたします。どうか単独行動の許可を!」
「頼める? 僕の数少ない大事な友人なんだ。助けてあげて!」
「もちろんです。命に代えてもこのコクエンがお守りいたします! アイギス様!」
「ほらっ、行ってきなさい!!」
フードを深く被り、アイギスの両腕に飛び乗る。
再度大ジャンプでコクエンが砂漠の丘を越えていった。
頼りになる懐刀さんだ。きっと時間を稼いでくれるはず。
「トロン、ここは遮蔽物のない開けた地形、君の援護が重要だよ!」
「了解。ますたのてき、うつ」
見晴らしのいい砂丘に狙撃手として待機してもらおう。
相手が複数人である以上、後方支援は必要だろうから。
龍の魔力水が入った革袋を幾つかトロンに預ける。
「私様がトロちゃんの補佐をいたしましょう。アイちゃん、ロロアさんを任せましたよ!」
「言われなくてもそのつもりよ! エル、負傷した子がいるはずだから、処置は貴女に任せるわ」
「エルのスキルの出番ですね! やっとこくえんさん以外でお役に立てます!」
流れるようにそれぞれの役割を見つけて、持ち場についてくれる。
元がアイテムだからこそ。自分の用途を深く理解しているんだ。
そして僕も。人間を相手にだからこそできる事があるはずだ。
◇
「いい加減諦めろよ王女様。粘ったところで苦しみが増すだけだぜ? 早く楽になっちまいな」
「くっ……」
矢を受けて負傷した右腕を押さえ、レイリアは呻く。
麻痺毒が塗られていたのか、下半身が痙攣して動かない。
「レイリア、気を強く持ってください! 私が……王女の剣が守りますです!」
ストブリが一人で善戦しているが、あまりに戦力差があり過ぎる。
先程から賊を倒しても倒しても、治療魔法ですぐに復活してくるのだ。
遠距離から魔法が降り注ぎ、近距離では攻撃スキルを押し付けられる。
こちらの反撃も、回避、防御スキルですべて対応されてしまう。
対人戦で一番重要なのは、相手にスキルを使わせる暇を与えない事だ。
異界の神が与えた可能性は、どんな人間も一時的な達人技能に目覚めさせる。
スキルの付け替えが自由に出来るようになり。
相手がどの技能を扱うのか予測が困難となっているのだ。
やられる前にやれが鉄則。一度防戦になれば逆転は難しい。
【王女の激励】を受けた国宝級のストブリならそれが可能だった。
――だが、これほどの人数差が生じると。その鉄則も厳しくなる。
ストブリのスキルは威力は高いが、効果範囲が狭いのだ。
相手は大きく横に広がっていて、被害を最小限に抑えてくる。
【理の破壊者】は人間を専門に襲う犯罪者組織であり。
対するレイリアたちは、対人戦の経験が圧倒的に不足していた。
「【王女の激励】は本人には効果が及ばないんだったよな? どうした、疲れているようだが。護衛一人じゃ守り通せないぞ? ほらほら、自分の力で戦わないと。王族は剣術を学んでいるんだろぉ!?」
「ああっ」
カナンの追撃の矢が肩に刺さる。鋭い熱と痛みに視界が歪む。
「可哀想に。ユニークスキルはそれ一つで器を埋めてしまう。どう足掻いても王女様は個人技では俺たち賊にすら敵わない。……貴重な研究材料を殺しはしない。最後の最期までしゃぶりつくしてやる」
「……どうして……私はいつも……!」
レイリアは砂の地面を見つめる。心が乾いてくる。
人間が嫌いだ。誰も彼もすぐに裏切る。傷付けてくる。
いつもそうだ。ユニークスキルばかりで誰も私を見てくれない。
【王女の激励】がなければ。家族からも冷遇され。
賊だって、ユニークスキルにしか興味を持っていない。
自分は誰からも必要とされていない。所詮、おまけなのだ。
「もう……いい。もう……楽にして」
目の前に細剣が転がっている。ここで自ら命を絶てば。
その瞬間だけでも。私を見てもらえるのだろうか。
こんな苦しい思いをしないで済むのだろうか。
「レイリア駄目です! 諦めないでくださいです!」
「やっと大人しくなったか……手間を掛けさせやがって」
「やめて、レイリア! 私が、私がついていますです!」
生きる気力を失い、呆然と座り込むレイリアに。
賊の一人が近付いてくる。道具として手荒く扱おうとする。
「だ、誰か……誰か助けてくださいです! レイリアを、救ってください! 創造主様!!」
ストブリは叫んだ。最後に求めたのは自分を生み出してくれた少年だった。
「――まずは一匹目です! 闇の劫火に呑まれろ!」
「ぐぎゃああああああああああああああああ」
天から降り注ぐ一筋の炎が煌めいていた。
賊の背中を手刀で斬り付けて、闇の炎に包み込む。
消えない劫火に苦しみもがきながら倒れた。砂に沈んでいく。
「あひっ、一撃必殺です。ご主人様にまたお褒めの言葉をいただけるかもっ!」
「え、どちら様……?」
突然上空から現れた謎の人物は、奇声を発して跳ねている。
あまりの場違いな存在に、賊たちの動きも固まっていた。
レイリアも瞳に光を取り戻し、ただその人物を見つめる。
「あれ、そういえば誰をお守りすればいいのでしょう? はっ、人相を聞いておくのを忘れていました!」
「……お願いしますです! どなたかはわかりませんが、レイリアを、助けてくださいです!」
「あっ、そちらの方は同士ではありませんか。私めは新人のコクエンと申します。以後お見知りおきを」
ストブリの願いを聞いてコクエンは、呑気に礼儀正しくお辞儀していた。
「ストブリの仲間……もしかして、貴女はロロア様の……?」
瞬間、レイリアの身体が浮かび上がった。コクエンに抱きかかえられたのだ。
「誰だか知らないが邪魔をしやがって! たった一人の援軍で何ができる、後悔させてやる!」
カナンが拳を握り叫ぶ。呼応して賊たちが包囲の円を狭めていく。
「私めに触れると火傷をしますよ? その前に、捕まる気もさらさらありませんが」
コクエンは襲いくる賊を華麗な足捌きで躱していく。
砂場という悪環境をものともしない、速さで翻弄する。
如何にスキルが優れていようと。それを扱うのも人間だ。
足場の悪さに本来の効果を発揮できず。また王女を殺せない。
レイリアを抱えて回避に専念するコクエンには届かないのだ。
「どうしてこの場所に、上層にロロア様のお仲間の方が……?」
「――ご主人様にお申し付けられたのです。ご友人のレイリア様を必ずやお守りせよと。その為に、地上からここまで長い月日を掛けて駆け付けてまいりました! 私めは途中参加ですけれども」
「……っ」
とめどなく涙がこぼれた。心から欲していた。
ロロアは自分を王女ではなく友人と呼んでくれたのだ。
黙って立ち去ったのに。大きな心配を掛けたのに。
ずっと追いかけてきてくれた。ただ友人を助ける為だけに。
聞こえのいい取り繕った言葉ではなく。少年は行動で体現してくれた。
人間不信から、レイリアの乾き切った心には何よりも効く特効薬だ。
「相手は女を抱えているんだぞ! どうして苦戦するんだ!?」
カナンたちは力任せに数の力で攻めてくるが。
コクエンの肉体に【王女の激励】が効いていたのだ。
レイリアの心は動いていた。信頼の大きさが激励の効果に比例する。
「死にやがれえええええええ!」
斧を持った賊がスキルを発動させる。
斬撃が分裂してコクエンの逃げ道を塞いだ。
「ぐがああああああああああああ!?」
遠方から降り注ぐ雷光弾が、賊の斧を持つ腕を吹き飛ばした。
追撃の弾が片足を貫いて戦闘不能に追い込む。見覚えのある援護だ。
「まだ仲間が居やがるのかっ!? もういい、この際王女の生死は問わない。死体でも持ち帰れば使い道はあるだろう!」
カナンの命令で、賊たちは形振り構わず魔法と矢を放った。
遮蔽物のない砂漠で、広範囲の攻撃は避けられるものじゃない。
「あら、その判断をするには一足遅かったみたいよ?」
全方位から襲い掛かる衝撃を、金髪の少女が受け止めていた。
「貴女は、アイギスの神盾さん!」
「久しぶりねストームブリンガー。私の認めたライバルが、こんな雑魚に苦戦しないでよね。私の価値まで下がるじゃないの!」
「ごめんなさいです! だけど、今からが本番ですから!」
二人が並んで賊を蹴散らしていく。更に続けて雷光弾が。
苛烈な攻撃は敵の治療速度を遥かに上回り。追い詰めている。
「お姫さま、身体を治しますね! 癒しの水!」
「貴女は……エル?」
「はいっもう大丈夫ですから!」
エルの指先から流れる水が、血を止めて痛みを和らげてくれる。
下半身の痺れも弱まり、何とか自分の足で立ち上がれるようになった。
そして遠方から、彼は走りながらやってきた。
命と心を救ってくれた。大切な、掛け替えのない友人が。
「レイリアさん、やっと追い付いた! 僕たちと一緒に最上層を目指しましょう!」
「……っ、ロロア様……!」
目の前に現れた少年は、記憶していた姿よりもずっと成長した顔付きで。
レイリアを責めるのではなく。日常の続きで、笑顔でそう伝えてくれたのだ。
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王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。
しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。
突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。
スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。
王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。
そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。
Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。
スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが――
なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。
スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。
スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。
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