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6 酒場騒動
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森を抜けて、俺たちは急ぎ足でエステルへと帰還する。
ちょうど他の冒険者たちも、依頼を終え戻ってくる時間帯だ。
このままでは受付で順番待ちになる。その間に安宿が満室になるかもしれない。
「わうわん! うう~!」
「はぁはぁ、あと少しで……ギルドに着くよ。つ、疲れた……!」
「リンネ、いきなり慌ただしくて悪いな。もっとゆっくり街を案内したかったんだが」
「主様、お気になさらずとも、我も楽しんでおりますので」
リンネはこれまでずっと、大陸各地の山々を根城にしていたようで。
運命の相手である俺の魂を感じ取って、近くの森まで下りてきたようだ。
行き交う人々の姿を興味深く観察していた。ちなみに向こうもリンネを見ている。
獣人と呼ばれる種族はこの辺りでは珍しいので、注目を浴びていたのだ。
厳密にはリンネは獣人でなく神獣だが。この際、獣人で通した方がいいだろう。
「なんだこのちびっ子狼は。誰かのペットか?」
「小さくて可愛いわね。モフモフしてるわ」
「おっと、尻尾を踏みそうになった。悪いな」
冒険者たちの足元で、白い狼が元気よく走り回る。
何度か踏まれそうになりながらも、街の喧騒に呼応する。
「わうわう! う~うぅうぅ、わう~!」
「”ガルムちゃん”あんまり吠えたらダメだよ? 周りの人を驚かせるから……」
「わうっ! へっへっ、わうわうわん!」
「あ、もうっ……嬉しそうに飛び跳ねて。可愛いけど、ダメなんだよっ!」
白い狼――ガルムがエレナと追いかけっこを始めていた。
住処だった森とは別世界の街並み。匂いに好奇心が収まらない様子。
「ま、待って……! はぁはぁ、つ、疲れ……あうっ」
「わう? がぶがぶ」
体力のないエレナが早々に倒れた。心配になったのか、ガルムが戻ってくる。
地面に落ちた黒い三角帽子が気になるらしい、口に咥えて振り回し始める。エレナが涙目に。
「……悪戯好きなんだな。ガルムがああして人懐っこいのも、リンネの素の性格からか?」
「そんな意地悪を言わないでくださいませ。我ながらお恥ずかしい……主様に顔向けができません」
俺が尋ねると、リンネは頬を朱くさせ両腕で顔を隠した。
リンネの本体である白い狼には、便宜上ガルムという名が付けられた。
どちらもリンネではあるが、同じ名前だとややこしいので。命名したのはエレナだ。
「くんくん、くんくん、へっへっ」
「やっと……やっと捕まえたよ……! 帽子返してね……?」
ようやくエレナに捕まったガルムは、尻尾を振り終始きょろきょろしている。
視線の先には道沿いに並んでいる屋台。出店の数々。帽子では満足できなかったか。
涎を垂らすガルムの影響が、リンネにも届いていた。彼女もまた若干声が上擦っている。
「自然界にはない、香辛料やお酒の匂いが漂っています……少し酔いそうです」
「くぅ~ん」
「……もしかして、ガルムちゃんさっきからお腹が空いている? もう少しの辛抱だよ」
「よし、依頼報告と納品をさくっと済ませたら、すぐに宿を見つけて、それから食事だな!」
俺たちは寄り道せず冒険者ギルドの門を通る。街一番の大きな建物だ。
依頼を受けた際は疎らだった人の数も、今の時間は数十倍に膨れ上がっている。
隣に併設されている酒場が営業を開始しているからだ。年寄りたちが大騒ぎしていた。
リンネほど鼻が利かなくても、雰囲気だけで酔いそうな気分になる。
長い行列に並び、少しずつ前へ進んでいく。あと少しで受付といったところで。
酒場の方から酔っ払いの団体がやってきた。椅子を倒しながら、こちらを睨んでくる。
「おいおい、Gランクの落ちこぼれ風情が。こんな所で何をしているんだ? んん? ここはお前らのような冒険者未満が訪れていい場所じゃないぞ。さっさと家に帰って両親の乳でも吸ってな! けけけけ!」
「かーっ、ホーガンの兄貴。父親しかいない場合はどうするんっすか?」
「そりゃあお前ら、吸える場所はあそこしかないだろ!?」
「ブハハハ! きったねぇなぁ! 酒を噴き出すところでしたぜ!」
下品な会話を大声で交わす男たち。顔に見覚えがある。
エレナは眠そうにしているガルムを抱きながら、眉をひそめた。
「……Eランククラン【蛇の足】……本当、最低……」
「それは俺たちの台詞だ。仕事終わりの余韻に浸っていたというのに、てめぇらの顔を見て酒が不味くなっちまったじゃねぇか。最低な気分だ。どうしてくれるんだ? んん? 台無しになった酒代くらいは支払ってもらおうかな」
「はいはい。落ち着けって。俺たちにそんな余裕がないのは知っているだろう。こっちはGランクだ」
俺はいつものようにすぐさま間に入り、両者との距離を作る。
周囲に列を乱した事を謝りながら、穏便に済ませられるよう尽力する。
「底辺が威張るんじゃねぇよ。余裕がないって、今から依頼報酬を受け取るところだろ? 多少は金が入ってくるだろうが。景気がいい話じゃねぁか。是非、あやかりたいねぇ」
「おおう、蛇の名を冠している癖に、目聡いな」
「けけけけ」
「おらおら。ホーガン兄貴に睨まれて、ブルっちまう前に出すもの出して楽になりな!」
「出すって言っても下半身じゃねーぜ。おおっと、女のものなら大歓迎だが」
お酒の入ったジョッキを振り回し、舌なめずりする男たちが取り囲んで来る。
【蛇の足】は後方支援を専門に、罠設置や搦手を得意とするクランだ。構成員は一〇人。
人間性はともかく。支援職自体は貴重である為に、クランとしての評判は上々と聞いている。
決して、正面切っての戦いを好む連中ではないのだが。
酔っているのと、こちらがGランクとわかって喧嘩を売りに来ている。
「主様、話の流れが理解できないのですが。何故、主様たちが金銭を要求されて……?」
「何と説明すればいいのか、まあ、いつもの事だな。リンネは気にしなくていい」
「は、はぁ……?」
俺は、まだ状況を把握し切れていないリンネに下がっているよう伝える。
基本【鍋底】で依頼を探す際は俺が出向いていたので、もう慣れてはいるが。
人見知りのエレナはすっかり怯えていた。腕の中でガルムが唸り声を鳴らしている。
「大の男がお酒の勢いに任せて、寄って集って恥ずかしくないのか? 俺がお前の立場なら、明日思い出して憤死するけどな。せっかくEランククランに所属しているんだ。落ちこぼれの俺たちの模範となるような行動を心掛けてくれると助かる」
「……オルガ、女連れだからって調子に乗るなよ? 世の中には痕跡を残さず対象の息の根を止める毒だって存在するんだぜ? つまり、楯突く相手は慎重に選んだ方が賢明って話だ」
「それはわざわざ教えてくれてどうも。今後は毒に侵されたら最初にお前を疑うとしよう」
「ちっ、ヘラヘラ笑いやがって。相変わらず脅しがいのない野郎だ」
望んでいた反応を引き出せず、苛立つホーガン。
この手の連中は一度弱みを見せればそこに付け込んでくる。
虚勢でもふてぶてしく笑って受け流せば、勝手に向こうから飽きてくれる。
「いい加減、Gランクに関わるのはやめようぜ。無駄な時間だし、お前たちにも利がないだろ?」
「んなっ、関わってきているのはお前たちの方だろうが!! 今日だって、お前たち【鍋底】の失敗の後始末をさせられたんだぞ!? 落ちこぼれたちが馬鹿な真似をするたび、迷惑を被る人たちが存在するという自覚もないのか!! ギルドに保護されているからって、好き勝手していい訳じゃねぇぞ!?」
「ぐっ、そういう人間がいるのは……謝るが。すまない」
受け流すつもりが、余計な事を言ってしまった。しかも結構耳が痛い。
Gランク冒険者は能力の低さから、一回の仕事での稼ぎがとにかく少ない。
まとまったお金を稼ぐ為に、手当たり次第依頼を引き受ける愚者が居るのは確かだ。
当然、失敗すれば他の誰かが尻拭いをしないといけない。ビッグボア討伐戦がいい例だ。
悪評が立たぬよう【鍋底】では教育を徹底していた。が、一部は以前暴走したままで。
その一部にグラディオが存在したのが、頭の痛い問題だった。
結局、俺たちがどれだけ徹底していても、一度付いた印象は拭えない。
多くのクランに迷惑を掛けたのも事実で、ホーガンの怒りもそれなりに正当性はある。
「理解したらさっさと迷惑料を出しな。出せないなら俺たちに詫びとして一発づつぶん殴らせろ。少しでも利口なら格上クランの機嫌を損ねる真似はするなよ。大切な後輩たちにもまた悪影響が出るぜ?」
「お前ら、俺の後輩にも手を出していたのか……」
「少々金の無心をさせてもらっただけだ。散々世話をしてやったんだ。使った道具代くらいは出してもらえないかと頼んだら、利子を付けて返してくれたぜ。優しいよな?」
「はぁ……殆ど脅しじゃないか」
しかしだ。こちらにも非があるとはいえ、すべてを許容できる訳ではない。
冒険者は一度舐められたらお終いだ。依頼人にすら足元を見られるようになる。
ここは金銭で解決するのは愚策。俺は溜め息を一つ付いて、【蛇の足】の前に立つ。
「主様?」
「オルガくん……?」
「お、何だ? やるってのか。契約獣のいないテイマーが俺たちに敵うと思っているのか?」
「……ここに居るリンネは部外者で、エレナは血が苦手なんだ。殴るなら俺だけにしろ」
「けけっ、けけけけけ! お前ら聞いたか? 落ちこぼれは喧嘩のやり方もわからないらしい。笑えるよな! これで冒険者を自称しているんだぞ!」
殴られる為だけに出てきた俺を、ホーガンは大声で笑い者にする。
周囲の冒険者たちからも失笑を受けた。いつもの事だ。そう自分に言い聞かす。
残念だが、俺の実力では【蛇の足】に対抗する術はない。
勝てない相手に無策で挑むのは、冒険者として落第だ。
悔しさはあるが、ここは一発殴らせて満足させた方がいい。
ギルド関係者の目もある中で、無意味に長引かせる意味もない。
寧ろ、殴られただけで解決できるだなんて、とても楽な話ではないか。
「はっ、最初からそうやって素直に頭を下げていれば良かったんだよ! Gランクの雑魚は雑魚らしく、土に頭を擦り付けておけ!!」
「……やめてっ! 迷惑料を支払うから、暴力だけはやめて!」
エレナを無視してホーガンが拳を振り上げる。俺は歯を食い縛った。
「ぐるるるるるる、わうわう! がりがりがりがり」
「な、なんだこの狼は!? いってえぇぇぇ、足を噛むな、引っ掻くな! 誰のペットだ!?」
「よせ、ガルム! そこに居ると蹴られるぞ!」
ガルムがホーガンの汚い足を噛んで、相手の身体を吹き飛ばしていた。
俺の命令を聞いてすぐに戻ってくるが、盾となって相手に牙を向けている。
「うぅぅぅぅ!」
「我が主様を侮辱し挙句、拳を向けるとは……許すまじ、許すまじ、魂ごと喰らい尽くしてくれる!」
リンネもまた牙を剥き出しにし、殺意を瞳に宿して鉄針を握り締めている。
彼女がガルムに命令したのか、神獣の織りなす威圧感にギルド内が騒然となった。
「おい見ろ、Gランクテイマーのオルガが契約獣を連れているぞ!」
「契約獣と言ってもただの子供狼じゃない。落ちこぼれにお似合いだと思うけど?」
「それよりも隣に居る美しい獣人は何者だ、この重圧は只者じゃないぞ!?」
落ちこぼれのGランク、更には契約獣を持たないテイマーとして有名だっただけに。
ガルムとリンネを中心に人の輪が生まれていた。ホーガンは顔を真っ赤にしてこちらを指差す。
「くそったれ、俺に恥を掻かせやがって許さねぇぞ!!」
ここが冒険者ギルドである事も忘れて、ホーガンが腰にある得物を抜こうとする。
同じくしてリンネが凶器を向けていて、このままでは血が流れ、両者とも罰せられてしまう。
止めなければ。たかだか喧嘩で自警団を動かしてしまっては、最悪の結果を生んでしまう。
「――おいおいお前ら、俺様を抜きにして楽しそうにやってるじゃねぇか! ずりぃぞ、俺様たちも宴に混ぜてくれや!」
「んげっ、この声は……!」
重苦しい空気を切り裂く、場違いなほど呑気で豪快な音が横切った。
その聞き覚えのある声に俺は天を仰ぐ。しまった。余計な男が釣れてしまった。
「ほ、ホーガンさん不味いですって。これ以上は支障がでますよ!」
「というか、もう手遅れな気が……ああ、終わった」
事態を察した【蛇の足】にも動揺が伝わる。
「ここまで盛り上げておいて逃げるのは感心しないなぁ? 兄貴を怒らせると怖いんだぜ!」
「「「ひぃっ!」」」
筋肉隆々の大男たちが【蛇の足】の背後で腕を組み笑みを浮かべていた。
エステルでも屈指の実力者集団。Cランククラン【鋼の華】のメンバーだ。
そして、髭を擦りながら俺たちの視界に入るのは【鋼の華】を仕切るクランリーダー。
「グハハハハ、このたびの喧嘩。この【鋼の肉体美】ラングラル様が預かってやろう!」
ちょうど他の冒険者たちも、依頼を終え戻ってくる時間帯だ。
このままでは受付で順番待ちになる。その間に安宿が満室になるかもしれない。
「わうわん! うう~!」
「はぁはぁ、あと少しで……ギルドに着くよ。つ、疲れた……!」
「リンネ、いきなり慌ただしくて悪いな。もっとゆっくり街を案内したかったんだが」
「主様、お気になさらずとも、我も楽しんでおりますので」
リンネはこれまでずっと、大陸各地の山々を根城にしていたようで。
運命の相手である俺の魂を感じ取って、近くの森まで下りてきたようだ。
行き交う人々の姿を興味深く観察していた。ちなみに向こうもリンネを見ている。
獣人と呼ばれる種族はこの辺りでは珍しいので、注目を浴びていたのだ。
厳密にはリンネは獣人でなく神獣だが。この際、獣人で通した方がいいだろう。
「なんだこのちびっ子狼は。誰かのペットか?」
「小さくて可愛いわね。モフモフしてるわ」
「おっと、尻尾を踏みそうになった。悪いな」
冒険者たちの足元で、白い狼が元気よく走り回る。
何度か踏まれそうになりながらも、街の喧騒に呼応する。
「わうわう! う~うぅうぅ、わう~!」
「”ガルムちゃん”あんまり吠えたらダメだよ? 周りの人を驚かせるから……」
「わうっ! へっへっ、わうわうわん!」
「あ、もうっ……嬉しそうに飛び跳ねて。可愛いけど、ダメなんだよっ!」
白い狼――ガルムがエレナと追いかけっこを始めていた。
住処だった森とは別世界の街並み。匂いに好奇心が収まらない様子。
「ま、待って……! はぁはぁ、つ、疲れ……あうっ」
「わう? がぶがぶ」
体力のないエレナが早々に倒れた。心配になったのか、ガルムが戻ってくる。
地面に落ちた黒い三角帽子が気になるらしい、口に咥えて振り回し始める。エレナが涙目に。
「……悪戯好きなんだな。ガルムがああして人懐っこいのも、リンネの素の性格からか?」
「そんな意地悪を言わないでくださいませ。我ながらお恥ずかしい……主様に顔向けができません」
俺が尋ねると、リンネは頬を朱くさせ両腕で顔を隠した。
リンネの本体である白い狼には、便宜上ガルムという名が付けられた。
どちらもリンネではあるが、同じ名前だとややこしいので。命名したのはエレナだ。
「くんくん、くんくん、へっへっ」
「やっと……やっと捕まえたよ……! 帽子返してね……?」
ようやくエレナに捕まったガルムは、尻尾を振り終始きょろきょろしている。
視線の先には道沿いに並んでいる屋台。出店の数々。帽子では満足できなかったか。
涎を垂らすガルムの影響が、リンネにも届いていた。彼女もまた若干声が上擦っている。
「自然界にはない、香辛料やお酒の匂いが漂っています……少し酔いそうです」
「くぅ~ん」
「……もしかして、ガルムちゃんさっきからお腹が空いている? もう少しの辛抱だよ」
「よし、依頼報告と納品をさくっと済ませたら、すぐに宿を見つけて、それから食事だな!」
俺たちは寄り道せず冒険者ギルドの門を通る。街一番の大きな建物だ。
依頼を受けた際は疎らだった人の数も、今の時間は数十倍に膨れ上がっている。
隣に併設されている酒場が営業を開始しているからだ。年寄りたちが大騒ぎしていた。
リンネほど鼻が利かなくても、雰囲気だけで酔いそうな気分になる。
長い行列に並び、少しずつ前へ進んでいく。あと少しで受付といったところで。
酒場の方から酔っ払いの団体がやってきた。椅子を倒しながら、こちらを睨んでくる。
「おいおい、Gランクの落ちこぼれ風情が。こんな所で何をしているんだ? んん? ここはお前らのような冒険者未満が訪れていい場所じゃないぞ。さっさと家に帰って両親の乳でも吸ってな! けけけけ!」
「かーっ、ホーガンの兄貴。父親しかいない場合はどうするんっすか?」
「そりゃあお前ら、吸える場所はあそこしかないだろ!?」
「ブハハハ! きったねぇなぁ! 酒を噴き出すところでしたぜ!」
下品な会話を大声で交わす男たち。顔に見覚えがある。
エレナは眠そうにしているガルムを抱きながら、眉をひそめた。
「……Eランククラン【蛇の足】……本当、最低……」
「それは俺たちの台詞だ。仕事終わりの余韻に浸っていたというのに、てめぇらの顔を見て酒が不味くなっちまったじゃねぇか。最低な気分だ。どうしてくれるんだ? んん? 台無しになった酒代くらいは支払ってもらおうかな」
「はいはい。落ち着けって。俺たちにそんな余裕がないのは知っているだろう。こっちはGランクだ」
俺はいつものようにすぐさま間に入り、両者との距離を作る。
周囲に列を乱した事を謝りながら、穏便に済ませられるよう尽力する。
「底辺が威張るんじゃねぇよ。余裕がないって、今から依頼報酬を受け取るところだろ? 多少は金が入ってくるだろうが。景気がいい話じゃねぁか。是非、あやかりたいねぇ」
「おおう、蛇の名を冠している癖に、目聡いな」
「けけけけ」
「おらおら。ホーガン兄貴に睨まれて、ブルっちまう前に出すもの出して楽になりな!」
「出すって言っても下半身じゃねーぜ。おおっと、女のものなら大歓迎だが」
お酒の入ったジョッキを振り回し、舌なめずりする男たちが取り囲んで来る。
【蛇の足】は後方支援を専門に、罠設置や搦手を得意とするクランだ。構成員は一〇人。
人間性はともかく。支援職自体は貴重である為に、クランとしての評判は上々と聞いている。
決して、正面切っての戦いを好む連中ではないのだが。
酔っているのと、こちらがGランクとわかって喧嘩を売りに来ている。
「主様、話の流れが理解できないのですが。何故、主様たちが金銭を要求されて……?」
「何と説明すればいいのか、まあ、いつもの事だな。リンネは気にしなくていい」
「は、はぁ……?」
俺は、まだ状況を把握し切れていないリンネに下がっているよう伝える。
基本【鍋底】で依頼を探す際は俺が出向いていたので、もう慣れてはいるが。
人見知りのエレナはすっかり怯えていた。腕の中でガルムが唸り声を鳴らしている。
「大の男がお酒の勢いに任せて、寄って集って恥ずかしくないのか? 俺がお前の立場なら、明日思い出して憤死するけどな。せっかくEランククランに所属しているんだ。落ちこぼれの俺たちの模範となるような行動を心掛けてくれると助かる」
「……オルガ、女連れだからって調子に乗るなよ? 世の中には痕跡を残さず対象の息の根を止める毒だって存在するんだぜ? つまり、楯突く相手は慎重に選んだ方が賢明って話だ」
「それはわざわざ教えてくれてどうも。今後は毒に侵されたら最初にお前を疑うとしよう」
「ちっ、ヘラヘラ笑いやがって。相変わらず脅しがいのない野郎だ」
望んでいた反応を引き出せず、苛立つホーガン。
この手の連中は一度弱みを見せればそこに付け込んでくる。
虚勢でもふてぶてしく笑って受け流せば、勝手に向こうから飽きてくれる。
「いい加減、Gランクに関わるのはやめようぜ。無駄な時間だし、お前たちにも利がないだろ?」
「んなっ、関わってきているのはお前たちの方だろうが!! 今日だって、お前たち【鍋底】の失敗の後始末をさせられたんだぞ!? 落ちこぼれたちが馬鹿な真似をするたび、迷惑を被る人たちが存在するという自覚もないのか!! ギルドに保護されているからって、好き勝手していい訳じゃねぇぞ!?」
「ぐっ、そういう人間がいるのは……謝るが。すまない」
受け流すつもりが、余計な事を言ってしまった。しかも結構耳が痛い。
Gランク冒険者は能力の低さから、一回の仕事での稼ぎがとにかく少ない。
まとまったお金を稼ぐ為に、手当たり次第依頼を引き受ける愚者が居るのは確かだ。
当然、失敗すれば他の誰かが尻拭いをしないといけない。ビッグボア討伐戦がいい例だ。
悪評が立たぬよう【鍋底】では教育を徹底していた。が、一部は以前暴走したままで。
その一部にグラディオが存在したのが、頭の痛い問題だった。
結局、俺たちがどれだけ徹底していても、一度付いた印象は拭えない。
多くのクランに迷惑を掛けたのも事実で、ホーガンの怒りもそれなりに正当性はある。
「理解したらさっさと迷惑料を出しな。出せないなら俺たちに詫びとして一発づつぶん殴らせろ。少しでも利口なら格上クランの機嫌を損ねる真似はするなよ。大切な後輩たちにもまた悪影響が出るぜ?」
「お前ら、俺の後輩にも手を出していたのか……」
「少々金の無心をさせてもらっただけだ。散々世話をしてやったんだ。使った道具代くらいは出してもらえないかと頼んだら、利子を付けて返してくれたぜ。優しいよな?」
「はぁ……殆ど脅しじゃないか」
しかしだ。こちらにも非があるとはいえ、すべてを許容できる訳ではない。
冒険者は一度舐められたらお終いだ。依頼人にすら足元を見られるようになる。
ここは金銭で解決するのは愚策。俺は溜め息を一つ付いて、【蛇の足】の前に立つ。
「主様?」
「オルガくん……?」
「お、何だ? やるってのか。契約獣のいないテイマーが俺たちに敵うと思っているのか?」
「……ここに居るリンネは部外者で、エレナは血が苦手なんだ。殴るなら俺だけにしろ」
「けけっ、けけけけけ! お前ら聞いたか? 落ちこぼれは喧嘩のやり方もわからないらしい。笑えるよな! これで冒険者を自称しているんだぞ!」
殴られる為だけに出てきた俺を、ホーガンは大声で笑い者にする。
周囲の冒険者たちからも失笑を受けた。いつもの事だ。そう自分に言い聞かす。
残念だが、俺の実力では【蛇の足】に対抗する術はない。
勝てない相手に無策で挑むのは、冒険者として落第だ。
悔しさはあるが、ここは一発殴らせて満足させた方がいい。
ギルド関係者の目もある中で、無意味に長引かせる意味もない。
寧ろ、殴られただけで解決できるだなんて、とても楽な話ではないか。
「はっ、最初からそうやって素直に頭を下げていれば良かったんだよ! Gランクの雑魚は雑魚らしく、土に頭を擦り付けておけ!!」
「……やめてっ! 迷惑料を支払うから、暴力だけはやめて!」
エレナを無視してホーガンが拳を振り上げる。俺は歯を食い縛った。
「ぐるるるるるる、わうわう! がりがりがりがり」
「な、なんだこの狼は!? いってえぇぇぇ、足を噛むな、引っ掻くな! 誰のペットだ!?」
「よせ、ガルム! そこに居ると蹴られるぞ!」
ガルムがホーガンの汚い足を噛んで、相手の身体を吹き飛ばしていた。
俺の命令を聞いてすぐに戻ってくるが、盾となって相手に牙を向けている。
「うぅぅぅぅ!」
「我が主様を侮辱し挙句、拳を向けるとは……許すまじ、許すまじ、魂ごと喰らい尽くしてくれる!」
リンネもまた牙を剥き出しにし、殺意を瞳に宿して鉄針を握り締めている。
彼女がガルムに命令したのか、神獣の織りなす威圧感にギルド内が騒然となった。
「おい見ろ、Gランクテイマーのオルガが契約獣を連れているぞ!」
「契約獣と言ってもただの子供狼じゃない。落ちこぼれにお似合いだと思うけど?」
「それよりも隣に居る美しい獣人は何者だ、この重圧は只者じゃないぞ!?」
落ちこぼれのGランク、更には契約獣を持たないテイマーとして有名だっただけに。
ガルムとリンネを中心に人の輪が生まれていた。ホーガンは顔を真っ赤にしてこちらを指差す。
「くそったれ、俺に恥を掻かせやがって許さねぇぞ!!」
ここが冒険者ギルドである事も忘れて、ホーガンが腰にある得物を抜こうとする。
同じくしてリンネが凶器を向けていて、このままでは血が流れ、両者とも罰せられてしまう。
止めなければ。たかだか喧嘩で自警団を動かしてしまっては、最悪の結果を生んでしまう。
「――おいおいお前ら、俺様を抜きにして楽しそうにやってるじゃねぇか! ずりぃぞ、俺様たちも宴に混ぜてくれや!」
「んげっ、この声は……!」
重苦しい空気を切り裂く、場違いなほど呑気で豪快な音が横切った。
その聞き覚えのある声に俺は天を仰ぐ。しまった。余計な男が釣れてしまった。
「ほ、ホーガンさん不味いですって。これ以上は支障がでますよ!」
「というか、もう手遅れな気が……ああ、終わった」
事態を察した【蛇の足】にも動揺が伝わる。
「ここまで盛り上げておいて逃げるのは感心しないなぁ? 兄貴を怒らせると怖いんだぜ!」
「「「ひぃっ!」」」
筋肉隆々の大男たちが【蛇の足】の背後で腕を組み笑みを浮かべていた。
エステルでも屈指の実力者集団。Cランククラン【鋼の華】のメンバーだ。
そして、髭を擦りながら俺たちの視界に入るのは【鋼の華】を仕切るクランリーダー。
「グハハハハ、このたびの喧嘩。この【鋼の肉体美】ラングラル様が預かってやろう!」
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※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
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