【一〇一匹モフモフ】落ちこぼれクランから追放されたGランクテイマー、獣耳少女と出会う

お茶っ葉

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19 新しい朝

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 一つ目の闇の聖遺物を再封印してから三日目の朝。
 まだ余韻も冷めやらぬ状況の中で、俺は一人苦悩していた。

「そろそろ新しい仕事を見つけないと、次の宿代で最後だぞ……」

 薬草採取と魔石、地図の売却で得られた報酬がもう底を尽きたのだ。
 節約すればまだ少し先の予定だったのだが。現状、どうにも食費がかさんでいる。
 白き獣を召喚すればするほど力を使うのか。リンネがいつも三人分の食事を平らげていたのだ。

「すぅすぅ……わふぅ……重たい……です。ぐぅ……」

 ベッドには寝間着姿のリンネが。そのお腹の上でガルムとサイロが転がっている。
 床にはエゴームが座っており、ジッと俺の顔を見ていた。頭を撫でて朝の挨拶をする。

「もう同室なのが当たり前になったよな。追い出そうとすると泣きそうな顔をするもんだから。リンネにそういう態度を取られると、強くは言えない俺も甘やかし過ぎなのかな?」

「ワウゥ……クゥン」
 
 我儘な統率者でごめんなさいと、エゴームが代わりに謝っているように聞こえた。
 窓を開けて新鮮な朝の空気を取り込む。頬を掠める柔らかな風が淡いカーテンを揺らした。
 備え付けの椅子に座り外の景色を眺める。路上は早朝から仕事に向かう冒険者たちでいっぱいだ。

 エゴームが反対にある椅子に座り、日を浴びながら大きな欠伸をする。
 エンシェントゴーレムを再封印してから三日間。俺は召喚維持の訓練を行っていた。
 最初の契約時に一〇一匹分の召喚負荷に倒れたように、複数召喚は精神的な負荷が大きい。

 しばらく日常生活を送りながら身体が慣れるまで、ガルムたちと触れ合っていたのだ。
 再封印を施した白き獣は貴重な戦力になる。いつでも全員を召喚できるに越した事はない。
 このまま順調に仲間を増やしていけば、いずれリンネは一〇人分は食べるようになりそうだな。

「ワウ?」

 エゴームの真上に大きな影が浮かび上がった。翼を広げた青い鳥のものだ。
 窓から侵入し、脚で掴んでいた荷物を机に置くと、そのまま青空へ飛び去っていく。

 いつもの差出人不明の小包だ。俺は中身を確認せずに、鞄の中に仕舞い込む。
 中には五枚の金貨が入っている事だろう。あとで商業ギルドの銀行に預けるつもりだ。

「一体、誰なんだろうな? 多分、この大陸のどこかに差出人がいるんだろうけど」
 
 魔神王の心臓を移植されたのが原因なんだろう、俺には幼い頃の記憶が抜けている。
 自分がどこで生まれ育ったのかも定かではない。気が付いたらテイマーの里に預けられていた。

 そこは若者がいない、俗世を離れた限界集落のような土地で。
 周囲は俺が人造魔神だと知っても、気にしないような人たちばかりだった。
 それどころか里唯一の子供であったので、みんなの孫のような扱いを受けていた。

 そんな里での生活に慣れた頃、定期的に届くようになったのがこの小包だ。
 子供が持つには多すぎる金額だったので、殆どを爺さんたちが管理しているが。
 今のところ一切手を付けていない。幸運にもこれまで善意に頼らずとも生活を送れていた。
 
 昔、爺さんに頼んで小包を運ぶ鳥がどこから飛んで来るのか、調べてもらった事がある。
 そこで初めてエリュシオン大陸の存在を知ったのだ。俺が冒険者を志すきっかけの一つだ。

 差出人の正体が行方不明の両親であるという。そんな淡い期待があったりと。
 善意で大金を贈ってくる人物だ。俺にとって関わり深い人物であるのは想像できる。

「叶う事なら会ってみたい……でも、きっと迷惑になるだろうな」

 自ら名乗り出てこないというのは、それだけの理由があるのだろう。
 でもいつの日か、機会があればこれまで預かった金貨すべてを返還したいと考えている。
 そうする事で自分は立派に成長できたのだと伝えたい。そして良き隣人になれたらと願うのだ。

 ◇
 
「あ……オルガくん、リンネちゃん、おはよう。今日も……いい天気だね」

「おはようございます、エレナ様。朝から重そうな荷物を背負っていらっしゃいますね」
 
 宿から出てきた俺たちを、エレナが荷物を担ぎながら出迎えてくれた。【大地神の槌】もある。
 碌に扱えない俺が持っていても仕方がないので、馬鹿力――もとい力持ちのエレナに預けたのだ。
 男でも辛い重装備なのに涼しげな表情である。きっと傭兵時代に過酷な訓練をこなしてきたんだろう。

「もしかして、これから一人でどこかへ出掛けるのか?」

「うん……お父さんがね。そろそろ顔を見せに戻って来いって、手紙でうるさく言ってくるから……」

 俺に家族の内輪話を明かすのが恥ずかしいのか、エレナは帽子を深く被って誤魔化す。

「エレナのお父さん――バーハルトさんはかなりの過保護だったよな。相変わらず親子仲がいいようで何よりだ」

「……巷では現代の英雄と呼ばれているけど、身内に対しては、いつまでも子供みたいな人だから」

 多忙な方なのでお会いする機会はなかったが、エレナがよく愚痴を零していたので知っている。
 彼女の母親の事件もある。父親としては冒険者になった一人娘が心配なだけだろう。
 男として気持ちは理解できるし、どちらかといえば俺はバーハルトさんの肩を持ちたいな。

「手紙で毎回、男の影はないか余計な詮索をしてくるんだよ? ……お父さん、以前お酒の席で、私の婚約者を殴って追い返すのが夢だって語ってて……。身内から犯罪者なんて出したくないよ……!」

 普段大人しいエレナも家族の話題になると感情豊かだ。
 親しい友人だけに見せてくれる裏の顔って感じで微笑ましい。

「そ、そうか。エレナは一生独り身の覚悟をした方がいいかもな」

 オルレアン傭兵団なんて、世界で知らない人の方が少ないほどの実力者集団だ。
 それを束ねるバーハルト団長は元Sランク冒険者であり、生ける伝説的な人物である。
 そんなのと殴り合いになったら一方的な虐殺になるぞ。俺は急に娘の肩を持ちたくなった。

「待てよ。男の影って、異性の友人すら許さないように聞こえてくるんだが。……大丈夫なのか?」

 子煩悩の父親がたった一人の愛娘を、男の手によって汚されたくないという執念が伝わる。

「え……? もちろん、オルガくんの事もお父さんはよく知ってるよ……? クランを抜けて、いつも同じ宿に泊まって一緒に活動してるって。わ、私の、大切な友人……だから。隠したくないから」

「はぁ、死んだな、俺」

「主様!? お気を確かに!!」
「わうっ!?」

 エレナの友情から伝わる幸福感と、謎の絶望感に挟まれ息が詰まった。短い人生であった。

「そこは、大丈夫だと思う……よ? お父さん、オルガくんは信用してるみたいだから。だって【鍋底】では、創設時から……んっ――三年の長い付き合いだもん。喜びも、苦労も、分かち合った仲だし。私たち、きっと兄妹みたいなものだと、思われてる」

「それなら一安心だが。うむ、エレナの兄貴分としては俺はまだまだ不出来だろうな。精進するよ」

「私だって、いつも迷惑かけてばかりで、不甲斐ない妹でごめんね?」

 何故だかお互いに頭を下げ合って、しばらく黙って視線を交わす。
 エレナは一瞬、寂しそうな表情を浮かべていたが、すぐ元に戻っていた。

「わふっ、そうしていると我の目からも、お二方は本物のご兄妹のように映ります!」
「わう~!」

 リンネが俺たちの間に入り込んで、二人分の手を握って微笑む。
 何だかくすぐったい空気になってきた。ガルムも跳ねて参加したがっている。

「と、とにかく。お父さんのご機嫌を取りに戻るね。リンネちゃんの件もあるし、なるべく早く戻るから。それまで、しばらくお別れ。サイロちゃんたちも、みんなに、お土産持って帰るから……!」

「くぅんくぅ~ん……」

 サイロが元気なく鳴いていた。別れたくないと足元を回っている。

「サイロ、我儘を言わないのです。エレナ様の決心を邪魔してはなりません」

「……サイロちゃん、すぐに、戻るからね?」

「くーん。ぺろぺろ」

 エレナに抱きかかえられ、サイロは別れを惜しみ必死に彼女の頬を舐めていた。
 しばらくして俺がサイロを預かり、エレナは重たい荷物を背負ったまま歩き出す。

「帰省中はご家族と仲良くな。きっと寂しいんだよ。愚痴なら帰った時に幾らでも付き合うからさ」

「……うん。ありがとう。喧嘩にならないよう気を付けるね」

「エレナ様、お身体に気をつけていってらっしゃいませ。再会の日を心待ちにしております!」
「わうわん! わんわんわんわん!」
「わぅん、わう~ん、くぅ~ん!」
「ワオーン」

 エレナが小さく手を振りながら離れていく。暴れるサイロをなだめつつ俺も応える。
 すぐに傭兵仲間と思われる人たちと合流して、さすがに道中は護衛が付いているようだ。

 俺も彼女を見習って気合を入れて行動するか。ひとまず今日の食費くらいは何とかして稼がねば。

 ◇

「んー、気合を入れたところで簡単に依頼は見つからないよな。どれも制限が課せられるものばかりだ」

 張り出された依頼を確認していくも、なかなか好条件の内容が見つからない。
 クラン所属の者に優先して依頼が回される仕組みなので、あとは残り物ばかりなのだ。
 その残り物にもランク制限が掛かり、Gランクとなると少ない枠の奪い合いになってしまう。

「主様……我が考えもなしにびーふしちゅうを食べ過ぎて、ご負担をお掛けして申し訳ありません」
「わぅ……くぅーん」
 
 リンネとガルムが反省してか、さっきから後ろの方でしょげている。
 特に明言していないが、食費が負担になっていると何となく察したのだろう。
 まぁ今朝の朝食では俺はパン一つで済ませていたし、隠し通すのは無理があった。

「好きな物を好きな時に食べさせてやれない甲斐性なしの俺が悪いんだ。もっと頑張るからな?」

 俺はリンネと目線を合わせて、心配するなと可愛い耳をくすぐる。
 できれば使わずに済みたいが。最悪、貯金を崩せば餓死する事はないのだ。

「主様っ……! 我も全身全霊でお支えいたします! この身朽果てようとも恩義に報います!!」
「わうわん! わお、わお~ん」

 テイマーが契約獣に気を遣われて、無理をさせているなんて知られれば同業者に笑われる。
 男として、テイマーとして、意地でもこの子たちには苦労を掛けさせない。そのつもりで励む。
 胸に飛び込んでくるリンネとガルムを受け止める。こうしていると大きな妹が増えたみたいだな。
 
「……あれれ、オルガにリンネちん。今日はエレナちんと一緒じゃないんだ。ふぁ~ねむい」

 そこへ大きな欠伸をしながら、アホ毛を伸ばしたフェールがやってくる。
 乱れた服装で男たちの視線を釘付けにしているが、本人はまるで気にしていない。
 荒くれ者たちを誘惑しても、腕っ節が強すぎるので、誰も彼女に手を出そうとしないのだ。

 昔はよく怪我人がゴミ山に散乱していたものだ。それは酷い有り様だった。
 二年も経つと街の要注意人物として警戒され、その辺の軟派な男たちだって学ぶ。

「エレナは父親の傭兵団に帰省中だ。しばらく俺とリンネだけで……お前こそ何やってるんだ?」

「ん~クラン活動も下火だし、暇潰しにフラフラっと。今日は屋根の上でお日様を浴びてたよ。それにも飽きてきたから、忙しく働き回る連中をのんびり遠くから眺めてようかと思ってたところ」

「いいご身分だな、仕事しろよ……! Fランクは課せられたノルマがあるだろうに」

「大丈夫、大丈夫。まだ半年の猶予があるから」

 冒険者は昇格試験の前日に降格が発表される。
 一年に二度、規定ノルマを達成する必要があるのだ。
 ちなみにノルマ未達成は一度目なら許される。が、二度目はない。

 大怪我など余程の理由がない限りは、問答無用で強制的に一ランク降格となる。

「そうやって今は余裕をかましているが。前回一ヵ月間【鍋底】に顔を出さなかったのも、降格ギリギリだったからじゃないのか?」

「ひゅ、ひゅ~、な、何の事やら。ただ体調を崩していただけだもん!」

 フェールが下手くそな口笛で誤魔化している。わかりやすい。図星のようだ。
 最後の追い込みで取り戻せる実力があるんだ、日頃からコツコツ励めばいいものを。

 あとになればなるほど、他のサボり癖のある冒険者と限られた依頼の奪い合いになる。
 この分だと、次もノルマに追われる日々を過ごす羽目になるだろう。面倒を見てやらねば。

「よし、いい機会だから今日は俺たちとパーティを組もう。どちらにも利があるからな」

「え、えぇ……。嫌だよぉ働きたくない。今日はお腹の具合が悪いから許して~!」 

「フェール様、先程堂々とサボると仰っていませんでしたか……?」
「わう?」

 フェールが弱々しく泣き言を喚き出す。普段は飄々としてる癖にだ。
 俺に泣き落しは通用しない。もう何回騙されたと思ってる。絶対に逃さんぞ。

「そうは言っても、前回のダンジョン探索には付き合ってくれただろ?」

「面白そうだったからだよ。普通の依頼はつまんな~い」

「こらこら、依頼の数だけ困っている人がいるんだから。そういう愚痴は声に出さない」

 そういう自分も依頼を内容と報酬で選んでいるのだが、建前は大事。

「フェール様。主様の安定した暮らしを守る為にも、何卒ご協力をお願いいたします。時間は有限でありますので、あまり主様を困らせないでくださいませ」

 ニッコリと、リンネは微笑んでいる。が、背後から刺々しいオーラが漂っていた。
 全身全霊で俺を支えるという宣言通り、リンネは俺の希望を叶えようと動き出していた。
 フェールの足元ではガルムが、靴を噛んで引っ張っている。少々やり方が強引過ぎるような。

「リンネちんから謎の圧力を感じる……。あいあい、わかったよ。お仕事頑張ればいいんでしょ~!」

「はい! フェール様のご助力に感謝いたします!」
「わう~♪」

 一転して晴れやかなオーラで、リンネはガルムを抱え礼儀正しくお辞儀を返した。
 こうして俺たちの説得? により、面倒臭がり屋のフェールが先に折れたのであった。
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