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28 祝勝会
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村への帰路の最中、俺はずっと頬を掻いていた。
カトプレパスの荷台に積まれた食料を確認しながらも。
むず痒さを感じて集中力が続かない。原因はわかりきっている。
「くそっ不意を突かれた。ったく悪戯にも限度があるぞ」
ちなみにルーシーは顔を真っ赤にして先に村へと戻っていった。
もしかしたら返り血の味がして、気分が悪くなったのかもしれないが。
――駄目だな、俺も頭の悪い考えしか浮かばなくなっている。落ち着け。
「はわわ……見ちゃいました見ちゃいました。従者は見ちゃいました……! どうしましょう! 私まで恥ずかしくなってきちゃいました……!」
ついでにニケさんも、今にも気絶しそうなほど真っ赤になっていた。
この人は初心だから仕方がない。キスで妊娠するとかそういう与太話を信じてそうだし。
「……お兄さん、どうしたの? こんなので動揺するなんてらしくないね」
「動揺するに決まってるだろ。俺はまだこれでも思春期真っ盛りの青少年だぞ?」
「へぇ、お兄さんの事だから既に女性を何人も侍らしていると思ったんだけど。意外だ」
「はぁ? どこの誰の話だよ。言っておくが俺は彼女なんて一度も作ったことがないからな! ……別に声を高らかにして自慢するような話でもないが」
生まれつき目付きが悪く、口も悪いので女子受けはしなかった。
俺自身常に妹の事でいっぱいだったのもあり、それで不自由した事はないが。
高校で帰宅部だったのも、早く家に戻って実家にいる咲と通話する為だったのだ。
周囲に重度のシスコンであるのはバレていたから、一部の男子以外には気味悪がられていた。
他にも大きな理由があるが、大体はシスコンが原因であると自覚している。治す気はないけど。
「……ふーん。異世界の女の子って見る目がないんだね。お兄さんこんなにもカッコいいのに」
「はいはい。そういうお世辞は結構だ。どこの世界に俺なんかに好意を持つ馬鹿な女がいるんだ」
「ム、何故かバカにされた」
ノムが何か言いたげにしてるが、コイツは人をすぐ褒めたがる癖があるからな。
それにルーシーも、その場の雰囲気に乗せられたんだろう。所謂吊り橋効果って奴。
現実世界でもそうやって勘違いした男が恥を晒す姿を多く見てきた。俺は同じ轍は踏まない。
「おにぃちゃん」
「どうした? 咲」
背中で咲の甘え声が耳をくすぐる。
首元に腕を回して、子供特有の甘い匂いがする。
さすがに完徹だったので眠そうだった。しっかりと支える。
「ちゅっ」
不意に反対の頬に口づけされた。
「咲ね、おにぃちゃんだいすきだよ? すきすき」
「俺も咲が好きだ! 咲がいればそれでいい! ひゃっほう!」
咲は寝惚けているのか、たどたどしい喋りだった。
しっかりと脳に刻み込む。天にも昇る気分で俺は跳ね上がった。
傍で見ていたノムはというと釈然としない表情。勇者がシスコンで悪いか?
「いいなぁ……ボクもお兄さんの妹になろうかなぁ」
◇
翌日、ピスコ村を挙げてささやかな祝勝会が開かれた。
敵陣営から奪い取った食材を生き残った住人たちにばら撒く。
とにかく飲んで食べて騒いで、少しでも戦いの傷を埋めてしまおう。
「はーい、少々お待ちくださいませ。えっと、あちらの席にお酒をお配りして、それからお料理を運んでと、あ、悪戯はダメですよ! それはご主人様の為に用意したもので――――」
俺たちのメイドさんであるニケさんが右に左に大忙しだ。
従者の本分はここぞとばかりに、人一倍精力的に働いていた。
俺は適当に彼女の料理を味わいながら、隣で水を注いでくれる女王を相手していた。
お酒も振る舞われているが俺は未成年なので飲まない。そもそも嫌いだし匂いすら苦手だ。
――現実世界でもいい思い出がないからな。あと下手すると咲が真似をしてしまうので。
「勇者様、今晩はワタクシの部屋にまで足を運んでいただけませんか?」
「ん、どうしたんだ。内密の話でもあるのか?」
「はい。是非、勇者様のこれまでの武勇伝をお聞かせ願えないかと」
ハルピュイアの女王は酔っているのか頬を赤らめさせて俺の胸にしなだれてくる。
大きな翼で視界が狭まり、野外だというのに二人っきりになっているような気分だ。
しかし、動くたび羽根が落ちてきて料理に毛が混入するのは困る。気にしないようにしてるが。
「いけません女王様! 勇者様に取り入って何を企てているのですか!」
「ルーシー、止めないでください。ワタクシは女王としての責務を果たさんとして、強い子を――」
ルーシーが間に入り込み、女王を突っぱねる。
「ヒメノはこれからも民を導く指導者として大変なんです。余計な心労を掛けないでください!」
「あぁ……勇者様……その逞しい腕でワタクシを強く抱きしめて……!」
「もうっ、酔いすぎです。代わりに私が引っ張ってあげますから! 油断も隙もないんだから……」
ルーシーが女王を引き摺っていく。よくわからんが助けてもらったようだ。
同郷のよしみかあの二人仲が良いよな。隣では咲がお肉をよく噛んで食べている。偉いぞ。
「お兄ちゃんごはんおいしいね。はい、あーん」
「あーん。もぐもぐ、そうだなぁ。ニケさんの料理は美味いよな」
異世界の料理は基本薄味で物足りなくあるのだが。
ニケさんの料理に限っては現実世界に近い味付けなのだ。
俺たちは完全に胃袋を掌握されている。もうニケさんなしで生きていけない。
「お兄ちゃん咲におかえしちょうだい!」
「ほら、口を開けて」
「あ~ん。もぐもぐおいしい!」
野外厨房では咲親衛隊がエプロンをつけて料理を作っている。相変わらずの万能ぶり。
ニケさんが総責任者として指示を出していた。今は通訳もいるので意思の疎通が楽になっている。
ちなみにだが、ハルピュイアの通訳は異能として扱われず習得ができなかった。
ザクロもすべての言葉を理解している訳ではないので、半端な技術は模倣できないのだろう。
「あ、フォーク落ちちゃった。ごめんなさい」
「ニケさん悪いけど、代わりのフォークをくれないか? 咲が手を滑らせたんだ」
作業中に申し訳ないが呼び止める。
するとニケさんはちらっとこちらに視線を向けて。
何故か顔を真っ赤にして俯いてしまった。意味が分からない。
「……俺が何かしたか?」
理由を問い詰めるべく捕まえると。
ニケさんは恐るおそるといった様子で尋ねてきた。
「あ、あの姫乃様。ルーシー様のご出産はいつ頃になるのでしょうか……?」
「まさか本当に口付けで妊娠とかいう、子供騙しの嘘を信じる人間が存在したのか……!」
仮にそれが本当だとして、実際にされたのは俺で、俺がお腹を痛める事にならないか?
仕方がないので初心で無知なニケさんに正しい性知識を伝えた。
今どき小学生でも信じないぞ。てか異世界でも似たような噂はあるんだな。
「も、申し訳ありません。勝手に勘違いして取り乱してしまって……!」
「いや、寧ろニケさんらしくて安心した。最近は有能になってしまって寂しかったからな」
「どういう意味ですか!? 私が有能だとダメなんですかぁ!? これでも頑張ってるんですよ!」
「親しい人が急に成長してしまうと置いていかれた気分になるんだ」
「一応、私の方が姫乃様よりもお姉さんなんですから、成長させてください……!」
詰め寄ってくるニケさんを躱しながら俺は冗談だと笑う。
「うぅ、すっかり姉様に騙されていました。本当に恥ずかしいですぅ……」
「ん、ニケさんってお姉さんがいたのか?」
そういえばこれまでニケさんの身の上話を聞いた事がない。
戦争で疲弊した世界だし下手に触れると地雷を踏みかねないからな。
こちらからは家族の話とか振りにくい。自分から話してくれる分には別だが。
「はい。実は私には一人姉がいるのです。今までお話しした事がありませんでしたね」
「無理して話さなくてもいいぞ?」
「お気遣いありがとうございます。ご心配なさらずとも今も姉様はお元気でいらっしゃいますよ」
「それならいいんだが」
そうか、ニケさんは妹だったのか。きっと大切に育てられたんだろうな。
彼女は抜けた一面も見せるが、育ちがいいのはその佇まいを見ていればわかる。
大きな隙があるから親しみやすさが生まれているだけで。弱点を長所にしているタイプだ。
「姉様はとても可愛らしいお人なんです。それでいて純粋で、正義感が強くて、何をやらせても非凡な才能を見せつけて、私が一番尊敬している人物です。あ……もちろん姫乃様、咲様も大切ですよ。それとはまた別で、家族としてのお話です」
「ほーう、聞いていると、まるでニケさんとは大違いだな?」
「うぐっ、私が姉様よりも劣っているのは重々承知しています。いつまでも愚図な妹なんです……」
ニケさんはそう言って落ち込む。ちょっと冗談が過ぎたな。
「うそうそ、ニケさんも努力家で心優しいのは間違いない。俺も咲もそんなニケさんが好きだぞ?」
「はうっ。姫乃様、そういうのはズルいです! その……効きますから!」
「何がズルいのかよくわからんが。俺は褒める時は褒めるぞ。……今度、その自慢の姉様とやらを紹介してくれないか? 愛すべき妹を持つ者同士親しくなれそうだ」
「もちろんです。姉様もお喜びになられると思います!」
話を終えて目的のフォークを受け取り咲の元に戻る。
すると俺の後ろをニケさんがピッタリとくっついてきていた。
「どうした? 忙しいんじゃなかったのか?」
「残りの業務は親衛隊さんにお任せして、私はもうお二人の専属従者に戻りましたから」
「お姉ちゃん! あーんしてあげるね!」
「咲様、ありがとうございます。んー少しお肉が硬いですね、喉に詰まるといけませんから」
席に座り咲に食べさせてもらいながら、ニケさんが料理を切り分けていく。
そしてフォークを使って何故か俺の口元に運んできた。これもメイドの仕事なのか。
「俺はもういらないぞ。そういうのは咲とやってくれ」
「一口だけでも、ダメですか? 私も姫乃様と咲様が大好きなんです。……ダメですか?」
「そんな悲しそうな顔をするなって。わかったわかった。一口貰うよ」
重い反撃を喰らい。渋々ニケさんに食べさせてもらう。
崖に落ちた一件で二人には随分と心配をかけてしまったから。
多少は我儘も聞いてあげるべきだろう。我儘にしては可愛らしいものだが。
「お兄ちゃん、あーん」
「姫乃様、こちらもどうぞ。私の自信作です。あーん」
「……俺に餌付けをして楽しいか?」
返事代わりに二人は春の日差しのような微笑みを浮かべた。
カトプレパスの荷台に積まれた食料を確認しながらも。
むず痒さを感じて集中力が続かない。原因はわかりきっている。
「くそっ不意を突かれた。ったく悪戯にも限度があるぞ」
ちなみにルーシーは顔を真っ赤にして先に村へと戻っていった。
もしかしたら返り血の味がして、気分が悪くなったのかもしれないが。
――駄目だな、俺も頭の悪い考えしか浮かばなくなっている。落ち着け。
「はわわ……見ちゃいました見ちゃいました。従者は見ちゃいました……! どうしましょう! 私まで恥ずかしくなってきちゃいました……!」
ついでにニケさんも、今にも気絶しそうなほど真っ赤になっていた。
この人は初心だから仕方がない。キスで妊娠するとかそういう与太話を信じてそうだし。
「……お兄さん、どうしたの? こんなので動揺するなんてらしくないね」
「動揺するに決まってるだろ。俺はまだこれでも思春期真っ盛りの青少年だぞ?」
「へぇ、お兄さんの事だから既に女性を何人も侍らしていると思ったんだけど。意外だ」
「はぁ? どこの誰の話だよ。言っておくが俺は彼女なんて一度も作ったことがないからな! ……別に声を高らかにして自慢するような話でもないが」
生まれつき目付きが悪く、口も悪いので女子受けはしなかった。
俺自身常に妹の事でいっぱいだったのもあり、それで不自由した事はないが。
高校で帰宅部だったのも、早く家に戻って実家にいる咲と通話する為だったのだ。
周囲に重度のシスコンであるのはバレていたから、一部の男子以外には気味悪がられていた。
他にも大きな理由があるが、大体はシスコンが原因であると自覚している。治す気はないけど。
「……ふーん。異世界の女の子って見る目がないんだね。お兄さんこんなにもカッコいいのに」
「はいはい。そういうお世辞は結構だ。どこの世界に俺なんかに好意を持つ馬鹿な女がいるんだ」
「ム、何故かバカにされた」
ノムが何か言いたげにしてるが、コイツは人をすぐ褒めたがる癖があるからな。
それにルーシーも、その場の雰囲気に乗せられたんだろう。所謂吊り橋効果って奴。
現実世界でもそうやって勘違いした男が恥を晒す姿を多く見てきた。俺は同じ轍は踏まない。
「おにぃちゃん」
「どうした? 咲」
背中で咲の甘え声が耳をくすぐる。
首元に腕を回して、子供特有の甘い匂いがする。
さすがに完徹だったので眠そうだった。しっかりと支える。
「ちゅっ」
不意に反対の頬に口づけされた。
「咲ね、おにぃちゃんだいすきだよ? すきすき」
「俺も咲が好きだ! 咲がいればそれでいい! ひゃっほう!」
咲は寝惚けているのか、たどたどしい喋りだった。
しっかりと脳に刻み込む。天にも昇る気分で俺は跳ね上がった。
傍で見ていたノムはというと釈然としない表情。勇者がシスコンで悪いか?
「いいなぁ……ボクもお兄さんの妹になろうかなぁ」
◇
翌日、ピスコ村を挙げてささやかな祝勝会が開かれた。
敵陣営から奪い取った食材を生き残った住人たちにばら撒く。
とにかく飲んで食べて騒いで、少しでも戦いの傷を埋めてしまおう。
「はーい、少々お待ちくださいませ。えっと、あちらの席にお酒をお配りして、それからお料理を運んでと、あ、悪戯はダメですよ! それはご主人様の為に用意したもので――――」
俺たちのメイドさんであるニケさんが右に左に大忙しだ。
従者の本分はここぞとばかりに、人一倍精力的に働いていた。
俺は適当に彼女の料理を味わいながら、隣で水を注いでくれる女王を相手していた。
お酒も振る舞われているが俺は未成年なので飲まない。そもそも嫌いだし匂いすら苦手だ。
――現実世界でもいい思い出がないからな。あと下手すると咲が真似をしてしまうので。
「勇者様、今晩はワタクシの部屋にまで足を運んでいただけませんか?」
「ん、どうしたんだ。内密の話でもあるのか?」
「はい。是非、勇者様のこれまでの武勇伝をお聞かせ願えないかと」
ハルピュイアの女王は酔っているのか頬を赤らめさせて俺の胸にしなだれてくる。
大きな翼で視界が狭まり、野外だというのに二人っきりになっているような気分だ。
しかし、動くたび羽根が落ちてきて料理に毛が混入するのは困る。気にしないようにしてるが。
「いけません女王様! 勇者様に取り入って何を企てているのですか!」
「ルーシー、止めないでください。ワタクシは女王としての責務を果たさんとして、強い子を――」
ルーシーが間に入り込み、女王を突っぱねる。
「ヒメノはこれからも民を導く指導者として大変なんです。余計な心労を掛けないでください!」
「あぁ……勇者様……その逞しい腕でワタクシを強く抱きしめて……!」
「もうっ、酔いすぎです。代わりに私が引っ張ってあげますから! 油断も隙もないんだから……」
ルーシーが女王を引き摺っていく。よくわからんが助けてもらったようだ。
同郷のよしみかあの二人仲が良いよな。隣では咲がお肉をよく噛んで食べている。偉いぞ。
「お兄ちゃんごはんおいしいね。はい、あーん」
「あーん。もぐもぐ、そうだなぁ。ニケさんの料理は美味いよな」
異世界の料理は基本薄味で物足りなくあるのだが。
ニケさんの料理に限っては現実世界に近い味付けなのだ。
俺たちは完全に胃袋を掌握されている。もうニケさんなしで生きていけない。
「お兄ちゃん咲におかえしちょうだい!」
「ほら、口を開けて」
「あ~ん。もぐもぐおいしい!」
野外厨房では咲親衛隊がエプロンをつけて料理を作っている。相変わらずの万能ぶり。
ニケさんが総責任者として指示を出していた。今は通訳もいるので意思の疎通が楽になっている。
ちなみにだが、ハルピュイアの通訳は異能として扱われず習得ができなかった。
ザクロもすべての言葉を理解している訳ではないので、半端な技術は模倣できないのだろう。
「あ、フォーク落ちちゃった。ごめんなさい」
「ニケさん悪いけど、代わりのフォークをくれないか? 咲が手を滑らせたんだ」
作業中に申し訳ないが呼び止める。
するとニケさんはちらっとこちらに視線を向けて。
何故か顔を真っ赤にして俯いてしまった。意味が分からない。
「……俺が何かしたか?」
理由を問い詰めるべく捕まえると。
ニケさんは恐るおそるといった様子で尋ねてきた。
「あ、あの姫乃様。ルーシー様のご出産はいつ頃になるのでしょうか……?」
「まさか本当に口付けで妊娠とかいう、子供騙しの嘘を信じる人間が存在したのか……!」
仮にそれが本当だとして、実際にされたのは俺で、俺がお腹を痛める事にならないか?
仕方がないので初心で無知なニケさんに正しい性知識を伝えた。
今どき小学生でも信じないぞ。てか異世界でも似たような噂はあるんだな。
「も、申し訳ありません。勝手に勘違いして取り乱してしまって……!」
「いや、寧ろニケさんらしくて安心した。最近は有能になってしまって寂しかったからな」
「どういう意味ですか!? 私が有能だとダメなんですかぁ!? これでも頑張ってるんですよ!」
「親しい人が急に成長してしまうと置いていかれた気分になるんだ」
「一応、私の方が姫乃様よりもお姉さんなんですから、成長させてください……!」
詰め寄ってくるニケさんを躱しながら俺は冗談だと笑う。
「うぅ、すっかり姉様に騙されていました。本当に恥ずかしいですぅ……」
「ん、ニケさんってお姉さんがいたのか?」
そういえばこれまでニケさんの身の上話を聞いた事がない。
戦争で疲弊した世界だし下手に触れると地雷を踏みかねないからな。
こちらからは家族の話とか振りにくい。自分から話してくれる分には別だが。
「はい。実は私には一人姉がいるのです。今までお話しした事がありませんでしたね」
「無理して話さなくてもいいぞ?」
「お気遣いありがとうございます。ご心配なさらずとも今も姉様はお元気でいらっしゃいますよ」
「それならいいんだが」
そうか、ニケさんは妹だったのか。きっと大切に育てられたんだろうな。
彼女は抜けた一面も見せるが、育ちがいいのはその佇まいを見ていればわかる。
大きな隙があるから親しみやすさが生まれているだけで。弱点を長所にしているタイプだ。
「姉様はとても可愛らしいお人なんです。それでいて純粋で、正義感が強くて、何をやらせても非凡な才能を見せつけて、私が一番尊敬している人物です。あ……もちろん姫乃様、咲様も大切ですよ。それとはまた別で、家族としてのお話です」
「ほーう、聞いていると、まるでニケさんとは大違いだな?」
「うぐっ、私が姉様よりも劣っているのは重々承知しています。いつまでも愚図な妹なんです……」
ニケさんはそう言って落ち込む。ちょっと冗談が過ぎたな。
「うそうそ、ニケさんも努力家で心優しいのは間違いない。俺も咲もそんなニケさんが好きだぞ?」
「はうっ。姫乃様、そういうのはズルいです! その……効きますから!」
「何がズルいのかよくわからんが。俺は褒める時は褒めるぞ。……今度、その自慢の姉様とやらを紹介してくれないか? 愛すべき妹を持つ者同士親しくなれそうだ」
「もちろんです。姉様もお喜びになられると思います!」
話を終えて目的のフォークを受け取り咲の元に戻る。
すると俺の後ろをニケさんがピッタリとくっついてきていた。
「どうした? 忙しいんじゃなかったのか?」
「残りの業務は親衛隊さんにお任せして、私はもうお二人の専属従者に戻りましたから」
「お姉ちゃん! あーんしてあげるね!」
「咲様、ありがとうございます。んー少しお肉が硬いですね、喉に詰まるといけませんから」
席に座り咲に食べさせてもらいながら、ニケさんが料理を切り分けていく。
そしてフォークを使って何故か俺の口元に運んできた。これもメイドの仕事なのか。
「俺はもういらないぞ。そういうのは咲とやってくれ」
「一口だけでも、ダメですか? 私も姫乃様と咲様が大好きなんです。……ダメですか?」
「そんな悲しそうな顔をするなって。わかったわかった。一口貰うよ」
重い反撃を喰らい。渋々ニケさんに食べさせてもらう。
崖に落ちた一件で二人には随分と心配をかけてしまったから。
多少は我儘も聞いてあげるべきだろう。我儘にしては可愛らしいものだが。
「お兄ちゃん、あーん」
「姫乃様、こちらもどうぞ。私の自信作です。あーん」
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返事代わりに二人は春の日差しのような微笑みを浮かべた。
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