上 下
9 / 26

9話 馬鹿と再会

しおりを挟む
「兄ちゃんこっちだよ。ここに冒険者たちがたむろしているんだ!」

 勇敢な男の子であるロク(後で聞いた)に案内されて森の中に戻って来る。
 魔物が出没する森に、子供を連れ出すのはマズいのだが彼には土地勘がある。 
 鬱蒼と茂った草木をかきわけると、ダンジョンが目の前に現れる。

 この場所に既視感があった。

「……ここは、そうか。ミノタウロスが出てきた穴か。元々あったダンジョンなんだな」
「えっ、そんな魔物まで出てきたのか!? 早く村の皆に知らせないと……!」
「大丈夫です! マスターがささっと退治しましたから!」
「えぇ!? 兄ちゃんそんなに強いの!? 本当!?」
「マスターは誰よりも強いのです。フランのマスターなのですから当然です。えっへん」

 ロクが尊敬の眼差しを向けてくる。俺は子供に足を蹴られて悶絶していた男だぞ?
 全部フランのおかげなんだが。本人がそう言うのであればそういう事にしておこう。
 人に説明するのに魔剣の話は出し辛いからな。俺がやったと言う方が誤魔化しやすい。
 
「それでどうするの? 兄ちゃんが追い出してくれるの?」
「そうだな……フラン。魔物の気配とかわかるか? いつもやってるやつ」
「――獣型の魔物が二匹。それ以外は人……人間がいます。争ってはいないみたいです」
「そんな事がわかるんだ!? フラン姉ちゃんも兄ちゃんもすげぇ!!」
「これでも”元”冒険者だからな。ただ頭の悪い暴力を振るうのが冒険者じゃないんだぞ?」

 素人の前で威張ってしまったが。俺は現役時代からずっと素人なんだが。
 子供の前では強がるのが大人の仕事だからな。実はちょっと怖いのは内緒だ。

 入り口周辺に罠がないか確かめる。
 今は手持ちに回復薬が無いので怪我は負いたくない。
 安全を確認したのちに、ロクにお礼を告げる。

「案内助かった。ここから先は危険だから村に戻った方がいい」
「え、なんで? オレもついていくよ! 荷物持ちくらいするし!」
「相手は魔物を操る冒険者だぞ。俺は俺の事で精一杯だし君を守ってやれる自信はない」

 フランの探知能力のおかげで確信が付いた。
 このダンジョンには魔物と人間の気配があり。お互い争う気配はない。
 
 スキルの中に【調教師】と呼ばれる魔物を使役する力がある。 

 村に魔物が現れ、それを退治したという冒険者。
 それからしばらくして再び魔物が現れ……全てが連中の自作自演だ。許されない行為だ。
 俺は臆病者だが、それでも冒険者だったんだ。困っている人を助けたいという信念はある。

 そしてなにより、冒険者を穢す連中に怒りがこみ上げているんだ。

「兄ちゃん、頼むよ。オレ、かあちゃんの宝物を取り返したいんだ」
「宝物?」
「お守りなんだけど、奪われたんだ。もしかしたらもう売られているかもしれないけど……アイツらがまだ持ってるかもしれない……」
「……そうか」

 俺にはそのお守りの事はわからないし。見逃す可能性もある。
 大事な物を取り返したい、か。危険だが、それでも連れていく理由にはなる。
 
「お前も男だな――フラン。この子の事を頼めるか?」
「わかりました! 私がお守りします!」
「……兄ちゃんに姉ちゃんもありがとう!」

 三人でダンジョンの中を進んでいく。
 少し奥に入ると、壁に松明が掛けてあった。
 あまり深くないのかすぐに終点のドアの前に辿り着く。

「ははは、村を脅すだけでこんなに簡単に金が手に入るとはな!」
「真面目に冒険者やってるのが馬鹿らしいぜ。さて、今度は酒でも貰ってくるかな」
「あーくそっ尻の火傷がいてぇ。カイルの野郎、何処に行ったか知らんが次会ったらぶっ殺してやる!」

 ドアの向こうで男たちの笑い声が聞こえてくる。
 ん? 今、俺の名前を出していなかったか。声にも聞き覚えがある。

「――そこまでだ、お前たち。不当な手段で奪った財産を村の人たちに返してもらうぞ!」

 勢いよく蹴り開けて中に突入する。
 男が三人。侵入者に驚いて慌てて装備を手にしていた。

「げ、カイルに、剣を持った餓鬼!? どうしてここに!?」
「……それはこっちの台詞だ。尻が燃えて反省したと思ったんだがな。まだ足りなかったのか」

 以前フランベルクを奪おうとした、Eランク冒険者リーカスとその取り巻きだ。
 前々から碌でもない奴らだったが、それでも頭が悪いだけで一線は越えていないと思っていたんだが。

 もう随分と前から悪党に堕ちていたんだな。

「み、見られたからには逃がしはしない。今度は本気でぶっ殺してやるよ!!」
「そうだそうだ。ついでにその高そうな剣も奪ってやる」
「リーカスさん、やっちまいましょう!」

 威勢は良いが連中の足が震えている。
 前回ボッコボコにされたのが効いているのか。
 コイツらの怯えた姿を見ていたら余裕が出てきた。

「次は尻がなくなるかもな? 怒らせた【ぼっち】を舐めんなよ」
しおりを挟む

処理中です...