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15話 笑顔と黒霧に満ちた街
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「もう少しでハーミルが見えてくるな。これで王都まで三分の一ってところか。まだまだ先は長い」
クレルを仲間に加え順調に歩みを進め。彼女の力を借りる事で道にも迷わなくなった。
中継地点であるハーミルは目と鼻の先だ。野宿も悪くないが、やはりベッドじゃないと落ち着かない。
ここからはダンジョンで手に入れたお宝を売って馬車を借りれば楽だろうし。一気に余裕が生まれる。
「ハーミルですか。何事もなければいいのですが……」
雲一つない晴天下、クレルは心配そうに地平線を眺めていた。
彼女は俺たちよりも長く旅を続けていたのもあって情報を持っている。
そんな彼女がこう言っているのだ。それだけの懸念材料があるんだろう。
「曰くつきの街なのか?」
「これはあくまで噂話なのですが。どうやらこの近辺で旅人や商人たちの失踪事件が立て続けに起こっているとか。何度か調査団を向かわせたのにも関わらず原因がわからず仕舞いで。国も頭を抱えているらしいのです」
「……ここもボルスタ村のような何か根深い問題でも抱えているのか」
「わかりません。ですが、気を付けた方が良いかと。あまり近付かない方が賢明だと思います」
「フランがお傍についていますから大丈夫です!」
フランが無い胸を張っている。
とはいえロクから伝言を預かっているし。
ベール姉ちゃんだったかの無事を確かめる必要がある。
それに問題があるのならその発端となった何かが眠っているはず。
クレルの魔剣の件もあるし、少しでも現地で情報を集めた方がいい。
「滞在するにしてもたったの一日だけだ。そう問題に巻き込まれる事はないだろう」
「杞憂だといいのですが……」
◇
「……なんだこの街は。俺の知らない変わった風習でもあるのか?」
門を潜って初っ端から度肝を抜かされた。
通りを歩く住人たちの全員が笑顔を浮かべているのだ。
庭の手入れをしている者も、店の前で呼び込みをしている者も。子供も大人もお年寄りも。
一人、二人ならともかく見る顔全てが同じ表情である。正直、気味が悪い。
「やあやあ旅人さん。ハーミルの街にようこそ。歓迎するよ!」
「あーら。可愛らしい嬢ちゃんたち。美味しいお菓子はいかが?」
「あー結構だ。俺たちは疲れているんだ。宿の場所を知りたい」
俺たちの姿を見つけるなり何人かが集まって来る。
やはり全員が同じ表情。歓迎はしてくれているようだが。
ボルスタ村とは真逆の状況だ。あれは村人たちが無理をしてそれを演じていたが。
ここの人たちは自然だった。
あまりにも自然で、逆に違和感しか覚えない。
宿の場所を教えてもらい、逃げるようにその場を後にする。
それからも次々と声を掛けられた。誰もが親切で。悪意なんてものはない。
「そこのカッコいいお兄さん。美味しいお肉を試食していかない?」
「搾りたてのミルクだよ! もちろんお代は要らないよ!」
「どれも結構だ! タダより高い物はないからな!!」
「ごめんなさい……フランはお腹が空いていません!」
さっきから食べ物ばかり勧められているが。食欲なんて湧かない。
襲い掛かる誘惑を振り切って街中を走る。食いしん坊のフランですら断っていた。
彼らはどうも操り人形のような。人としての感情が含まれていないような気がする。
旅人なんてそう珍しくもないのに。どうして皆がこんなにも歓迎してくれるのか。謎だ。
「カイルさん……先程から妙な感じがしませんか?」
「先程どころか最初から変な感じしかしないが……頭がおかしくなりそうだぞ」
「それもあるのですが、この街全体が薄暗くありませんか? 霧がかっているというか」
「そういえばそうだな。街に入るまでは晴天のはずだったんだが」
「……マスター、空が暗いです」
空を見上げるとお日様が霧で遮られている。
奥に進めば進むほど、視界が狭まり寒気が襲ってくる。
この現象はもはや呪いと言ってもいいだろう。この街に確実に何かが起こっている。
「ロクの憧れの姉ちゃんが心配だ。急ごう!」
教えてもらった情報を手掛かりに街を探索する。
途中、宿を通り過ぎたが、もうこの街に長く滞在するつもりは無かった。
早く外に出たい。解放されたい。その一心で走り続ける。
「はぁはぁ……やっと見つけたぞ!」
「えっと……どちら様でしょうか?」
俺より少し年若い女性だった。
庭先で洗濯物を干している。見た目からも家庭的な印象を受ける。
突然現れた俺たちの姿を不審そうに見ていた。
当たり前の反応だがどこか安心する。この人はまともだ。
「ロクに頼まれて無事を確かめに来たんだ。この街はおかしい。早く外に出た方がいい!」
「ロクのお知り合いの……そうですか。……急いでこちらに。誰かに見つかる前に」
クレルを仲間に加え順調に歩みを進め。彼女の力を借りる事で道にも迷わなくなった。
中継地点であるハーミルは目と鼻の先だ。野宿も悪くないが、やはりベッドじゃないと落ち着かない。
ここからはダンジョンで手に入れたお宝を売って馬車を借りれば楽だろうし。一気に余裕が生まれる。
「ハーミルですか。何事もなければいいのですが……」
雲一つない晴天下、クレルは心配そうに地平線を眺めていた。
彼女は俺たちよりも長く旅を続けていたのもあって情報を持っている。
そんな彼女がこう言っているのだ。それだけの懸念材料があるんだろう。
「曰くつきの街なのか?」
「これはあくまで噂話なのですが。どうやらこの近辺で旅人や商人たちの失踪事件が立て続けに起こっているとか。何度か調査団を向かわせたのにも関わらず原因がわからず仕舞いで。国も頭を抱えているらしいのです」
「……ここもボルスタ村のような何か根深い問題でも抱えているのか」
「わかりません。ですが、気を付けた方が良いかと。あまり近付かない方が賢明だと思います」
「フランがお傍についていますから大丈夫です!」
フランが無い胸を張っている。
とはいえロクから伝言を預かっているし。
ベール姉ちゃんだったかの無事を確かめる必要がある。
それに問題があるのならその発端となった何かが眠っているはず。
クレルの魔剣の件もあるし、少しでも現地で情報を集めた方がいい。
「滞在するにしてもたったの一日だけだ。そう問題に巻き込まれる事はないだろう」
「杞憂だといいのですが……」
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「……なんだこの街は。俺の知らない変わった風習でもあるのか?」
門を潜って初っ端から度肝を抜かされた。
通りを歩く住人たちの全員が笑顔を浮かべているのだ。
庭の手入れをしている者も、店の前で呼び込みをしている者も。子供も大人もお年寄りも。
一人、二人ならともかく見る顔全てが同じ表情である。正直、気味が悪い。
「やあやあ旅人さん。ハーミルの街にようこそ。歓迎するよ!」
「あーら。可愛らしい嬢ちゃんたち。美味しいお菓子はいかが?」
「あー結構だ。俺たちは疲れているんだ。宿の場所を知りたい」
俺たちの姿を見つけるなり何人かが集まって来る。
やはり全員が同じ表情。歓迎はしてくれているようだが。
ボルスタ村とは真逆の状況だ。あれは村人たちが無理をしてそれを演じていたが。
ここの人たちは自然だった。
あまりにも自然で、逆に違和感しか覚えない。
宿の場所を教えてもらい、逃げるようにその場を後にする。
それからも次々と声を掛けられた。誰もが親切で。悪意なんてものはない。
「そこのカッコいいお兄さん。美味しいお肉を試食していかない?」
「搾りたてのミルクだよ! もちろんお代は要らないよ!」
「どれも結構だ! タダより高い物はないからな!!」
「ごめんなさい……フランはお腹が空いていません!」
さっきから食べ物ばかり勧められているが。食欲なんて湧かない。
襲い掛かる誘惑を振り切って街中を走る。食いしん坊のフランですら断っていた。
彼らはどうも操り人形のような。人としての感情が含まれていないような気がする。
旅人なんてそう珍しくもないのに。どうして皆がこんなにも歓迎してくれるのか。謎だ。
「カイルさん……先程から妙な感じがしませんか?」
「先程どころか最初から変な感じしかしないが……頭がおかしくなりそうだぞ」
「それもあるのですが、この街全体が薄暗くありませんか? 霧がかっているというか」
「そういえばそうだな。街に入るまでは晴天のはずだったんだが」
「……マスター、空が暗いです」
空を見上げるとお日様が霧で遮られている。
奥に進めば進むほど、視界が狭まり寒気が襲ってくる。
この現象はもはや呪いと言ってもいいだろう。この街に確実に何かが起こっている。
「ロクの憧れの姉ちゃんが心配だ。急ごう!」
教えてもらった情報を手掛かりに街を探索する。
途中、宿を通り過ぎたが、もうこの街に長く滞在するつもりは無かった。
早く外に出たい。解放されたい。その一心で走り続ける。
「はぁはぁ……やっと見つけたぞ!」
「えっと……どちら様でしょうか?」
俺より少し年若い女性だった。
庭先で洗濯物を干している。見た目からも家庭的な印象を受ける。
突然現れた俺たちの姿を不審そうに見ていた。
当たり前の反応だがどこか安心する。この人はまともだ。
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