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5話 社内、思ったより立派だった件
しおりを挟む俺と西奈さんはこの擬似ダンジョンを脱出した。
ついでに絶賛気絶中のおじさんもだ。
やはりこの出入り口、何度確認しても非常口なんだよな。
なんでこんなところが擬似ダンジョンなんだろうか。
「それで西奈さん、俺は今からこっちに入ればいいのね? 」
彼女に確認したのは、目の前の扉。
大きく 『レベルアップコーポレーション』と縦書きで書いてあるそれだ。
何やら本部に呼び出されているみたいだが、まぁ近くて何よりだな。
「いえここは第2支部で本部は別の場所ですよ 」
違うんかい。えらい会社名強調してたから勘違いしましたわ。
「えっとじゃあどこに……? 」
「ふふっ! それはですねっ! 」
◇
そんな彼女に連れられたのは、東京都港区。
都内1ビルが多いと言われている土地だ。
ちなみにここまではさっきのビルの下に黒いセダン型の自動車が止まっていて、それに乗ってやってきた。
いや~完全にビビったね、あれは。
そしてあのおじさんはというと、その運転手だったThe 執事みたいな人が自動車に荷物のように積み、レベルアップコーポレーションが提携しているらしい病院まで送り届けたのだった。
なんて親切な会社なんだ。
なんか裏がありそうで怖いっちゃ怖いけど。
今俺達はちょうど目的地らしきところに到着したらしく、このイカつい車は会社前の道路端にハザードをつけて停車している。
「さ、戸波さん着きましたよっ! 降りましょう 」
「そうですね。 なんか緊張してきた 」
「大丈夫ですよ! 優しい人ばかりなので 」
優しい人だとかはこの際なんでも良いのだが、今俺は『冒険者』とかいうわけの分からない職業の根城へ唐突に呼び出しをされたわけで、もう何が起こるかも予測がつかない。
これより怖い状況なんてあるだろうか。
いや、ないだろう。
怖すぎて反語表現を使ってしまうほどだ。
それにこの運転手、さっきから一言も話さない。
見た目に関してもスーツにサングラスの男性で、そんな男が黙っている絵面は最早ただのホラーである。
バタッ――
西奈さんはドアを開け早々に車から出ていったため、俺もその後に続いていった。
バタンッ――
その車が去っていった後、その足で会社へ向かう。
「このビルですか? 」
「はいっ! 立派でしょ? 」
自慢げに西奈さんは胸を張っている。
その姿、一生拝んでおきたい。
いやきっとそれは無理なので今のうちに目に焼き付けておく。
「スゴい高層ビルですねほんとに 」
傍から見るとなんの会社か分からないようなビルだが、何せ高い、大きい、そんな感想が出てくる。
「行きますよっ! 」
そう言う西奈さんはもう既に会社の入口を通ろうとしているところだ。
俺はそんな彼女に急いでついて行った。
入り口に入った彼女はまず1番に受付へ向かい、
「あの……人事部鑑定科の西奈です。同じ部署の安田専務にただいま到着致しましたとご連絡賜われますか? 」
「はい、少々お待ちください 」
ここからの流れは全て西奈さんの言われるがままに過ごそう。
俺はもう考え続けることに疲れたのだ。
今日1日で色々ありすぎた。
その受付の方は電話が終わったようで、
「西奈様、安田専務が14階の会議室に来るようにと仰っておりました 」
「わかりました。 ありがとうございます 」
気がかりなことは『冒険者』というだけで、中の会話を聞くともう普通の会社だ。
その後のエレベーター移動でも、14階まで移動する間に色んな社員さんが出入りしているが、皆スーツで身だしなみをきちんとされている。
こんなところで働くのも悪くないかもしれないな。
そう思わせてくれる雰囲気がこの社内には存在している。
そして指定された場所、14階の会議室はもう目の前だ。
「戸波さん、今開けますね? 」
「は、はい。 あ、ちょっと待って! 俺よく考えたらめちゃくちゃ私服なんだけども!? 」
「あー大丈夫ですよ、冒険者の方は服装自由なのでっ 」
「あ、そうなのか? 」
なら今社内にいた人達はなんなんだ……。
またも疑問が増えていく。
コンコンッ――
「失礼します 」
ついにドアが開けた。
仕方ない。覚悟を決めるしかないな。
そう心に決めて、俺は会議室に足を踏み入れた。
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