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40話 お前ら、ダンジョン行ってるかい?
しおりを挟む歪んだ異空間。
誰かが空間を通っている時、異空間ってこんな感じで歪むなんだな。
紗夜さんが戦闘態勢に入ったことでヨウスケは剣を抜き、ヒナは彼氏の後ろへ身を隠す。
とりあえず俺もファイティングポーズをとってみる。
彼女の言うとおり、そこから本当に人が現れた。
え、ちょっと待って。
見たことあるぞ。
そして完全に姿を現したそれを見て、俺と紗夜さんは同時に叫んでしまった。
「「久後さんっ!!!!! 」」
そう、我らがリーダー『久後 渉』だ。
「よぉお前らっ! ダンジョン行ってるかい? 」
「いやいや、ここダンジョンですからっ!! 」
凛太郎がいないので、今回は俺がツッコミを入れた。
「おーそうか! で、お前ら何してんだ? 」
その問いに対して紗夜さんが、
「私達はダンジョン攻略一区切りついたので、1回帰ろうかなって。久後さんこそ何してるんですか? 」
「あー俺? 《翠楼組》ってギルドのリーダーがね、集合場所に行っても誰もいなかった、先に出発してしまうなど言語道断だ!とか言ってキレるもんだからさ、しゃーなし様子見に来たんだよ。てかなんで俺が行かなきゃなんねーんだよっ! 本部のクソ野郎っ! 」
どうやら今回の大型ダンジョン、翠楼組のB級冒険者2人がいて初めて攻略可能と判断されていたらしい。
ということは浦岡と池上は翠楼組に成りすまして攻略に参加していたことになる。
一体どんな手を使ったんだ……。
まぁ大型ダンジョン攻略にB級冒険者2人が抜けたとなると本部としては話が違うというわけか。
そして久後さんが呼ばれた。
それについてグチグチ言っているところ久後さんらしいというかなんというか。
「まぁーなんだ、一応ここまで来たわけだし、経過報告頼むわ 」
久後さんはそう言ってその場に腰をかける。
「よいしょっと 」
おぉ……。
この人堂々と森の中で座り込むとは。
余裕の表れというやつである。
それを見た俺達も順に腰をかけていく。
そして全員が座ったところで、ここまでの経緯を久後さんに伝えた。
◇
「ほぉーB級冒険者を2人ねぇ。やるじゃねぇか、海成っ! 」
バシッ――
「痛ってぇ――っ! 久後さん痛いっすよっ! 」
紗夜さんの肩パンと全然違う。
そして全く嬉しくない……。
「ま、どーやってB級冒険者を倒したかは後で無理やり吐かせるとして、おそらくその遺跡の奥、中ボス級のやつがいるな 」
無理やり!?
怖いっ! 怖いよリーダー。
「はい、おそらくあの魔力量、中ボスかと 」
ヒナはあの遺跡内で何か感じ取ったらしい。
そういえば彼女、【 魔力感知⠀】を何回か遺跡で使ってたもんな。
「へぇ。D級冒険者で奥部屋にいるモンスターの魔力を正確に感じ取るとはなかなかやるじゃねぇか 」
「あのS級冒険者、久後 渉さんに褒めてもらえるなんてとても光栄ですっ!! 」
ヒナは嬉しそうに「えへへ 」と微笑んでいる。
「よしっ! そんな優秀なお前達に任務だっ! その縛っているクソ冒険者共を本部に連行せよっ! 俺はちょっとその遺跡を見てくるわ 」
ハキハキと物申した久後さんは突然立ち上がり、さらにはふざけているのか俺達にビシッと敬礼を向ける。
我々は軍人ですかいな。
するともう1人立ち上がり、
ビシッ――
「田口 陽介っ! 久後さんからの任務……完遂致しまするっ!! 」
果たして合ってるのかよく分からない日本語を使ってヨウスケは久後さんに答礼している。
それを見た残りメンバーも順に立ち上がった。
すると紗夜さんは、
「わ、分かりました。じゃあみんな、今からこのダンジョンから出て本部に向かいましょっ! まぁさすがにバインドロープで2人を縛ったまま街を歩くのは怪しいから本部の送迎車を頼みましょ 」
久後さんの敬礼を見ても全くいつもと変わらず淡々と話を進めている。
こうなると、未だに敬礼している2人がもはや可哀想だ。
さすが紗夜さん……。
そんなところも素敵だ。
「よし、頼んだぞ。じゃあ俺は遺跡に向かう 」
「分かりました。じゃあ俺達は戻りますね 」
久後さんに挨拶をして異空間を通ろうとすると、
「あ、海成、お前こっちな 」
「グェッ!! 」
急に首根っこ掴まれたから変な声が出てしまった。
久後さんが高身長なため、首を掴まれている俺は宙ぶらりんになっている。
「ちょっと久後さん! 海成くんをどうするんですか!? 」
紗夜さんが速足でこちらへ向かってきている。
助けてくれるのかな……嬉しいな。
さすが俺の先輩だ。
「うるせぇ! 社会勉強だよっ! じゃっあとは頼んだ 」
「ちょっと待っ…… 」
俺が言葉を発している途中で久後さんは少し膝を曲げて屈み、強く地面を蹴り上げた。
するとその威力で森に生えている大木なんかよりも遥か上を飛び、そのまま森を越えていく。
あまりにも彼の動きが速すぎて紗夜さんも言葉を返す間がなかったようだ。
俺自身断る暇もなかったし。
「うわぁ――っ!!! 」
怖い怖い怖い怖い怖い――
今俺、空飛んでる。
久後さんに首根っこ掴まれながら。
「わはははっ!!! 気持ちいいだろー? 」
「いやぁ――――――っ!! 」
そして彼のその一蹴りで、俺達が一生懸命渡り歩いた森を一瞬で越えていったのだ。
そんなイージーダンジョン探索が少し続いて、俺達はあの遺跡の前まできた。
「はぁ……はぁ……はぁ……気分悪い…… 」
ダメだ、乗り物酔いした。
全くアブねぇ乗り物だぜ。
あと腰も抜けた、情けない。
「快適な空の旅は如何だったでしょうか? 」
久後さんはキャビンアテンダントのようなポーズをして、腰の抜けた俺をいじってくる。
くそ、このおっさんニヤニヤしやがって。
「う、動けねぇっす…… 」
「ったく情けねぇ野郎だ。まぁ今日は社会勉強だっつったろ? そこで見てな 」
久後さんの手には剣身がなく、柄だけの剣が握られている。
いや、もはやそれを剣と呼べるのかも分からない。
あの人……何するつもりだ?
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