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第8話 約束はちゃんと守ってね?
しおりを挟む「これより模擬戦を開始する。いざ尋常に……試合開始っ!」
理事長の一言により、戦いの火蓋は切って落とされた。
「一撃で仕留める」
床を強く踏み込んだ秦は、一直線にボクへ迫ってきた。
だけど避けれないほどじゃない。
あっという間に彼は目の前、右拳のストレートが飛んでくる。
うん、これくらいなら腕で防げば……!?
「うっ!」
左へ飛ばされたボクはこのままだと直撃するはずの壁に足裏を接地させることで衝撃を緩和し、無事地上へ着地する。
まさかあの構えから左の蹴りが来るなんて思いもしなかった。
あの人肉弾戦に慣れているみたいだね。
"何これ"
"多分秦がシルバーを蹴ったんだろ"
"いや、殴ったんじゃない? 腕振りかぶってたし"
"それフェイクだよ。殴るふりして蹴ってた、多分"
"[悲報]視聴者誰も動きを目で追えてない"
"それよりあんなん喰らって平気なシルバーが1番やばいと思う"
「わりと頑丈じゃねーか」
「なんとか、ね」
「ならこれはどうだっ!」
秦はボクがいる壁際まで一気に詰め寄り、蹴りをぶちこんでくる。
ドンッ――
壁を足場に後方へ宙返ることで間一髪避けることができた。
危ない、蹴られた壁もめり込んでるし当たったらさすがに痛そう。
それから壁際はマズイと思い、部屋の中央へ再び移動する。
「避けるのは一丁前だな。次は全力で行く。これを止めれるかっ!?」
そう言った彼は言葉に二言は無く、今まで見せなかった速度で駆け寄ってきた。
「はあっ!」
蹴りと突きの応酬。
だけどボクはそれを全て避け、連撃の最中に見せたほんの一瞬の隙に拳のカウンターを懐へ打ち込む。
「ぐっ!!」
秦は大きく後ろへ飛ばされるが、かろうじて姿勢を崩さず立ち止まった。
「……たまたま攻撃が当たったからって調子乗んなよ」
ボクの拳が命中した腹部を押さえながら彼は乱暴にそう吐き捨てた。
「父さんには『まずは相手の力量をはかれ』って言われてるんだ。もうそろそろいいよね」
うん、充分相手の実力は分かった。
攻撃は速いし、当たったら痛い。
でもそれだけだ。
"出たよ、父さんのお言葉"
"シルバーは父さん信者だから"
"何その宗教、入りたい"
"秦くん、もしかして大したことない?"
"いや、シルバーが規格外なだけだと思われる"
"シルバー様の反撃か……楽しみ"
"いけぇぇぇっ!!"
"シルバーくんかっこええところ見せてくれ!"
グッと足場に力を入れた。
力いっぱい踏み込むことで、真下の床に亀裂が入っていく。
メキメキッ――
「力量? 今の戦いで何が分かったって言うんだ!?」
「秦、理事長、ボクがハンターになれるって約束、ちゃんと守ってね?」
秦が何か言ってるみたいだけど、これで戦い終わるから関係ないよね。
「竜装甲……いや、これはやりすぎか……」
一瞬竜細胞を使った技を使おうと思ったけど、相手だって武器を使っていない。
ここはボクも正々堂々、拳で迎え討とう。
ドンッ――
まるで堅い何かが壊れた、そんな音が空間に鳴り響いた。
しかしそれはただボクが地面を蹴っただけ。
「な……」
相手が何を言おうとしたのか分からない。
その時にはボクの拳が秦の顔に叩き込まれていたから。
ドサッ――
後ろへ飛ばされた彼はそのまま壁に激突、そしてその場に倒れ込んだ。
「し、試合終了っっっ!!!!」
"うおおおおおお"
"僕達のシルバーは最強でした"
"シルバーッ! シルバーッ! シルバーッ!"
"うん、とりあえずシルバーが勝ったことだけは分かった"
"そだね。秦さんが飛ばされたことだけ分かった"
"誰かっ! この試合スロー再生して投稿してくれ"
"すでに動画編集の猛者が投稿している模様"
"え、まじ! 見てくるわ"
ふぅ。これでボクも立派なハンターになれるんだね。
父さんに近づけた、そんな気分だ。
「秦さんをぶっ倒してたぞあの子」
「いや、武器持ってないならノーカンだろ」
「少なくとも俺らよりは強いのは確定だ」
声がする方をふと見ると、この訓練所の入口からたくさんの人間が顔を覗かせている。
なぜか中には入らずに。
どうやら戦いを見にきてたみたい。
「リュウくんっ!! 絶対勝つって思ってたよっ!!」
たくさん人間がいる中、一番に駆け寄ってきたのは玲奈だった。
とても嬉しそうな顔をしてくれているところをみるに、彼女はボクがハンターになることを心から祝福してくれているのだろう。
"この数時間でさらにレナちゃんのデレ度が上がってる……"
"おい、ダンジョン『零』で配信切ってる間にナニしたんだよシルバー"
"レナちゃんと付き合うにはあのシルバーってやつを倒さないといけないのか……"
"俺たちじゃシルバーを倒せないし、レナも付き合ってくれないって"
"シルバー、レナ、幸せになれよっ!!"
"結婚式も生配信でよろ"
"その後の初夜も生配信求ム"
"↑通報しました"
"通報民いて草"
「き、君ら二人は付き合ってるのか……?」
"レナパパがコメント見てあからさまに不機嫌になってるww"
"理事長も所詮一人の父親だったってわけだ"
"理事長の力を持ってすればコメントからすぐサーバーまで割り当てられそう"
"明らかにコメント数減ってんの草"
「パパ!! そんなわけないでしょ!! 何言ってんのよ、もうっ!」
「ち、違うならいいんだ……」
"レナちゃん、顔に手を当てて恥ずかしそう"
"まんざらでもないんだろうな"
"照れてる君も可愛いよ"
「リュウくんっ! ここまでウチの秦を圧倒させるとは思わなかったよ。約束通り今日から君は我がハンター養成学校の生徒になることを認める!」
「やったーっ!! てことはボク、今日からハンターなのかな?」
「ここへ入学した時点で4級ハンターの資格が与えられる。つまり君はハンターだ!」
"ハンターだって! シルバー様おめでとうございます"
"シルバーくんよかったね。嬉しそうにしてるところ萌えるわ"
"てかこの実力でハンターじゃなかったのおもろ"
「じゃあさボク、ダンジョンに挑戦していいの?」
「いや、それはダメだ。4級ハンターは学校の授業でのみダンジョンへ向かうことができる」
ハンターになればすぐにダンジョンへ行けると思ってた。
そんな簡単な話じゃないのか、ちょっと残念……。
「まぁそう落ち込むな」
理事長は顎に手を置き、ふむと考えた後
「……もしリュウくんが良ければだけど、3級ハンター試験受けてみる気はないか?」
そう提案してきたのであった。
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