17 / 34
第17話 実技試験開幕
しおりを挟むボクが男気バトルに勝利してちょうど1週間。
あの後、ソルイは本体に再び戻った。
孝二さんが言うに、武器の魂が具現化するなんて現状はあり得ない。
このことが世間にバレると色々大変になるから隠しておくように、とのことだ。
ソルイは少しゴネていたが、
「バレたら間違いなく、研究として武器を解体されるでしょう」
と、孝二さんに言われてから顔を真っ青にして本体へ戻っていった。
それからは武器を通して、念話のようなものでボクの頭に直接訴えかけてくる。
なんだかうるさいかったので、この1週間はあまり本体に触れていない。
そして今日は待ちに待った3級ハンター試験。
荷物もリュックに詰めたし、準備万端だ。
とはいえ実際に荷造りしたのはボクではなく、玲奈だけど。
昨日、食べ物や飲み物なんかを詰めてくれていた。
ボク達は今、その試験会場、ダンジョン『零』の前で待機している。
ダンジョンの外観ってどんなのだろうって思ってたけど、目の前には人が横並びで10人は並べそうな広い階段が地下に続いている、それだけだった。
「いやぁ~ここがダンジョン『零』の入口っ! 俺ぁダンジョンってのはタワー状に上へ連なってるもんかと思ってたんだが、違うかったんだなぁ。なっ? そうは思わねぇか、旦那っ?」
「うん、ビックリだけどさ、旦那じゃなくてボクはリュウだって何回も言ってるよね?」
「細けぇことはいいんだよっ! 強ぇやつをそう呼んでるだけだ。そりゃあハンター養成学校の代表する護衛ハンターの『前田 秦』と有名Dチューバーの『ケンタ』を素手で倒したやつが旦那じゃねぇならどこのどいつが旦那なんだっ!? 俺の前に連れてきてみろってな! ナハハッ!」
ボクの目の前にいる金髪の男の人、この人は本当におしゃべりな人だ。
男気バトルの配信を見たとかでこの1週間「旦那っ! 旦那っ!」と、しつこく話しかけてきた。
まさかハンター試験まで一緒とは。
「……まぁどう呼ぼうと君の勝手だけどさ」
最初はリュウだと否定し続けていたけど、もうめんどくさくなってきた。
「だろ? だから俺にとっては旦那なのよっ! それと俺のことは君、じゃなく鳴上とか大我とか名前で呼んでくれって言ったじゃん~!」
この人の名前は、鳴上大我というらしい。
笑った時にキラッと見える八重歯が彼の陽気さを表しているみたいだ。
その歯と同じようにその金髪もたくさんの毛束がピンッピンッと尖っている。
「わかったよ、大我くん」
とりあえずそう呼ぶことにした。
それを聞いて彼は満足そうに微笑んでいる。
「えー皆様お揃いのようですね。今年の3級ハンター試験は我々、ロベール様直属の護衛ハンター数名が取り仕切らせて頂きます。僕はその中のリーダー飛田翔眞と申します。しかしダンジョン『零』は広い。僕達少数では心許ないので、10人ほどアルバイトのハンターにも手伝ってもらうつもりです。尚、アルバイトといっても皆さん2級ハンター以上の実力を持っていますのでダンジョン内で緊急事態があれば、是非とも頼ってもらえればと思います」
目の前の身なりを整えた男性、飛田というらしい人はそう挨拶の言葉を述べ、深々と頭を下げた。
「ロベール様?」
知らない名前が出てきたので、ポロッと口に出すと
「旦那、知らねーのか!? ハンター養成学校内最強の称号を得た10人『十傑』のうちの1人、第九席:ロベール・ド・コルネ様だぞ!? ……まぁあんまりいい噂は聞かねぇけどな」
へぇ、そんな人全然知らないや。
「なぁ、今回の報酬知ってるか?」
「あ? 知らなきゃ誰もバイトしねぇだろ!」
「言われたことをするだけで、日給5万ってそんなのやるしかねぇよな」
「やっぱりロベール様は羽振りがいいお方だ」
ボク達の後方に並んでいるアルバイト?の人達がコソコソと話をしている。
あの人達もロベールがなんとか言ってるってことは本当に有名な人なんだね。
あんなにペラペラと話しているのに、周りの人は誰も気にした素振りすらない。
父さんいわくボクの耳は普通の人間よりよく聞こえるようになっていると言っていたしあの話し声、もしかしたらボクにしか聞こえないのかもしれないな。
そう思って隣の大我くんに確認すると、
「一体なんのことだっ?」
そう言ってあっけらかんとした顔をしている。
やっぱりボクだけらしい。
なんか怪しいし、ちょっと気にしている方がいいのかな?
そう考えていると飛田さんが、
「では改めて簡単にルールをおさらいしますね! 試験合格の基準は、ダンジョン『零』の10階層まで到達したもの。その階層はすでに開拓されているところですので、皆さん受験生には平等にダンジョンマップのデータをお送り致します。……ただ、今年は受験される方が多いので、全員がゴールしたとしても今回の合格者は最大10人とします。皆さん、無理せず危険を感じたら後で配る『帰還石』で帰ってきてください。では早くゴールできるといいですねっ!」
スラスラとルール説明をしてくれた。
一応ルールは玲奈から散々叩き込まれていたから大丈夫だったけど、復習がてらになってちょうど良かったよ。
それにしても受験する人が多いって、たしかに今集まっているのは30人くらいいるのかな?
「おい、これきっと早くゴールできたやつが合格するんだぜ!」
その中の1人がポロッと呟いたことで、周りの受験者は皆、肩をブルっと震わせる。
「では、皆さん気をつけて攻略して下さいね! 3級ハンター試験……開始っ!」
さっきルール説明してくれた人が合図を放った瞬間、受験者は皆一様に急いで入口へ向かう。
「おい退け、俺が先に行く!」
「待て! ずるいだろ!」
「私だって早くゴールにっ!」
入口前から早速混雑し、あまりの人込みに後方へ押し出されて転倒するものも現れる。
「きゃっ」
どてんと尻もちをついたその人は女の子。
大きな大剣を背負っている。
可愛い女の子は助けないとっ!
そう思って彼女の正面へ回り、手を差し伸べた。
「大丈夫?」
「えっ! あぁ……すみません」
彼女はオロオロと目を泳がせるも、ボクの差し出した手を引いてゆっくり立ち上がった。
それにしてもやはり可愛い。
淡い水色をした長い髪は右サイドで1つ結びになっており、肩へ滑らせている。
うるうるとさせているその大きな瞳は、可愛い小動物感を醸し出し、つい守ってあげたくなりそうだ。
「えと……その~。……あの、ありがとうございました」
彼女は今にも消え入りそうな声でお礼を告げ、そそくさとダンジョンへ向かっていった。
「可愛い子を助けるなんて、旦那も隅に置けねぇな!」
「何を言ってるの? 可愛い子なら助けるのが常識でしょ?」
父さんにそう教えてもらってるんだから。
「ぷっ! 違ぇねぇ」
なぜかボクの言葉に吹き出した大我くんは
「旦那、俺達も行こうや」
「そうだね!」
これから始まる3級ハンター試験、立て続けにトラブルが起こっていくことをボクはこの時、知る由もなかった。
229
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
パワハラで会社を辞めた俺、スキル【万能造船】で自由な船旅に出る~現代知識とチート船で水上交易してたら、いつの間にか国家予算レベルの大金を稼い
☆ほしい
ファンタジー
過労とパワハラで心身ともに限界だった俺、佐伯湊(さえきみなと)は、ある日異世界に転移してしまった。神様から与えられたのは【万能造船】というユニークスキル。それは、設計図さえあれば、どんな船でも素材を消費して作り出せるという能力だった。
「もう誰にも縛られない、自由な生活を送るんだ」
そう決意した俺は、手始めに小さな川舟を作り、水上での生活をスタートさせる。前世の知識を活かして、この世界にはない調味料や保存食、便利な日用品を自作して港町で売ってみると、これがまさかの大当たり。
スキルで船をどんどん豪華客船並みに拡張し、快適な船上生活を送りながら、行く先々の港町で特産品を仕入れては別の町で売る。そんな気ままな水上交易を続けているうちに、俺の資産はいつの間にか小国の国家予算を軽く超えていた。
これは、社畜だった俺が、チートな船でのんびりスローライフを送りながら、世界一の商人になるまでの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる