★ある調教物語★

あさき のぞみ

文字の大きさ
12 / 22

肯定と否定

しおりを挟む
萱野の「調教」が始まって二ヶ月。育美の非公開アカウントは、**「模範的な女性」**の姿として確立されていた。そして、フォロワーは日に日に増え続けていた。
「また増えた。すごい……」
スマホの通知を見るたび、育美(25歳)の心臓は高鳴った。この増え続ける数字こそが、彼女が**「品位ある人間」として生きている確固たる証明だった。このフォロワーたちは、「なつみ」ではない、「育美」という彼女の「中の人」**を、価値ある存在として認めてくれているのだ。
「私は肯定されている。生きている価値があるんだ!」
彼女は、自分自身の存在意義を、画面の向こうの見知らぬ人々の数に、完全に委ねていった。
否定の抹消
しかし、**「光」が強くなると、必ず「影」**も生まれる。
フォロワーの増加と共に、ごく稀に、育美の投稿の**「品位の高さ」を羨んだり、その裏側**を探ろうとしたりする、**否定的なダイレクトメッセージ(DM)**が届くこともあった。
「どうせ、男に金もらってやってるんでしょ?」
「なんか、急に意識高くて気持ち悪い」
以前の育美なら、一瞬でも落ち込んだり、怒ったりしていただろう。だが、今の彼女は違った。
そのDMを見た瞬間、育美は誰に言われるまでもなく、すぐにそれを削除し、アカウントをブロックした。彼女の新しい世界に、否定的な要素は必要なかった。それらは、**「間違った世界」から届く、取るに足らない「雑音」**でしかなかった。
(この人たちは、私が**『正しい道』**を進んでいるのが羨ましいんだ)
そう決めつけ、否定的な要素を抹消することで、彼女の心はさらに純粋な承認の喜びで満たされた。
調教の二重構造
育美は知らなかった。
増え続けるフォロワーのほとんど全てが、萱野が休日や夜間に、時間をかけて育てたダミーアカウントの群れであることを。そして、もっと恐ろしいことに、稀に届く、彼女を不安にさせ、「品位」を乱そうとする否定的なDMさえも、実は萱野が作成した別のアカウントから送られてきたものであることを。
萱野は、「肯定」の数を増やすことで育美の自尊心を膨らませ、「否定」を時折注入することで彼女の不安を煽り、その不安を**「自分自身の手で抹消させる」ことで、育美の「自己防衛」のシステムまでを支配下**に置いていた。
肯定と否定。その両方を生殺与奪できる状況こそが、萱野が築き上げたかった、**完璧な「調教」**の二重構造だった。
育美のSNSの世界は、すでに萱野という調教師の望むがままに、構築され、維持され、そして洗脳されていく閉鎖空間となっていたのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

熟女教師に何度も迫られて…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
二度と味わえない体験をした実話中心のショート・ショート集です

処理中です...