★ある調教物語★

あさき のぞみ

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肯定と否定

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萱野の「調教」が始まって二ヶ月。育美の非公開アカウントは、**「模範的な女性」**の姿として確立されていた。そして、フォロワーは日に日に増え続けていた。
「また増えた。すごい……」
スマホの通知を見るたび、育美(25歳)の心臓は高鳴った。この増え続ける数字こそが、彼女が**「品位ある人間」として生きている確固たる証明だった。このフォロワーたちは、「なつみ」ではない、「育美」という彼女の「中の人」**を、価値ある存在として認めてくれているのだ。
「私は肯定されている。生きている価値があるんだ!」
彼女は、自分自身の存在意義を、画面の向こうの見知らぬ人々の数に、完全に委ねていった。
否定の抹消
しかし、**「光」が強くなると、必ず「影」**も生まれる。
フォロワーの増加と共に、ごく稀に、育美の投稿の**「品位の高さ」を羨んだり、その裏側**を探ろうとしたりする、**否定的なダイレクトメッセージ(DM)**が届くこともあった。
「どうせ、男に金もらってやってるんでしょ?」
「なんか、急に意識高くて気持ち悪い」
以前の育美なら、一瞬でも落ち込んだり、怒ったりしていただろう。だが、今の彼女は違った。
そのDMを見た瞬間、育美は誰に言われるまでもなく、すぐにそれを削除し、アカウントをブロックした。彼女の新しい世界に、否定的な要素は必要なかった。それらは、**「間違った世界」から届く、取るに足らない「雑音」**でしかなかった。
(この人たちは、私が**『正しい道』**を進んでいるのが羨ましいんだ)
そう決めつけ、否定的な要素を抹消することで、彼女の心はさらに純粋な承認の喜びで満たされた。
調教の二重構造
育美は知らなかった。
増え続けるフォロワーのほとんど全てが、萱野が休日や夜間に、時間をかけて育てたダミーアカウントの群れであることを。そして、もっと恐ろしいことに、稀に届く、彼女を不安にさせ、「品位」を乱そうとする否定的なDMさえも、実は萱野が作成した別のアカウントから送られてきたものであることを。
萱野は、「肯定」の数を増やすことで育美の自尊心を膨らませ、「否定」を時折注入することで彼女の不安を煽り、その不安を**「自分自身の手で抹消させる」ことで、育美の「自己防衛」のシステムまでを支配下**に置いていた。
肯定と否定。その両方を生殺与奪できる状況こそが、萱野が築き上げたかった、**完璧な「調教」**の二重構造だった。
育美のSNSの世界は、すでに萱野という調教師の望むがままに、構築され、維持され、そして洗脳されていく閉鎖空間となっていたのだ。
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