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幕間の章
ユウナの決断 中編
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―ユウナ 11歳 アストラ共和国自宅内―
「そうか……。ついに、この日が来てしまったんだね」
テオドールさんから馬車の中で聞いた自身の真実を、シルメリアから帰ってきてすぐに私は両親に打ち明けた。
お父さんはその話を聞いて少し驚いた様子だったけど、それも一瞬だった。
その様子を肌で感じた私は、やっぱりテオドールさんの言っていたことは真実だったんだなって、なんとなく思い知らされた気分になり、少し悲しい気持ちになった。
「……もう、全部知ってしまったのね」
お母さんはあきらかに表情が暗くなり、今にも泣きだしそうな顔をしていた。
「テオドールさんの言ってたことって、やっぱり……」
私も我慢してたけど、目には涙が浮かんでいたと思う。鼻がツンツンしてお父さんとお母さんの顔をまともに見ることができなかった。
「これもすべてはロイヤルシード再興のため。ユウナ様、これまでの度重なるご無礼の数々をお許しください」
お父さんが突然片膝をついて、私に首を垂れた。
「ヴァルゴ様が子のない私たち夫婦に貴女様を託してから11年。本当の両親になったつもりでこれまで貴女様を必死に育てて参りました。どうか、お許しください」
「ち、ちょっと!お父さんもお母さんも、突然そういうのやめてよ!立ってよ!」
お母さんがお父さんの隣で同じ動作をし始めたので、私は混乱した。いくら私がロイヤルシードの正統な後継者だったヴァルゴさんの娘だと知ったからって、急にそんな態度をとるのはおかしいと思う。
私にとってはこの2人以外に両親はいない。どんな事情や真実があっても、それだけは絶対に揺るがない。
「行方不明だったテオドール・スターボルトが私たちに接触してきた5年前のあの日から、私たちはこの日が来ることを心底待ち望んでおりました」
お父さんは立ち上がり、私の目を真っすぐに見つめてくる。その眼差しは、力強い決意と覚悟に満ちていたけど、私は自分がこれからどうすればいいのかわからなくて、目を合わせることできなかった。
「かつて自由を重んじ栄華を誇ったロイヤルシードが、他国による度重なる謀略によって亡国に追い込まれたこと。ヴァルゴ様と遠いながらも同じ血を引く私にとって、これほど屈辱的なことはありませんでした」
お母さんも立ち上がり、すでにテオドールさんから聞いていた真実の一部を自ら明かしてくれた。
そう。全部本当のことなんだ。
私を生んですぐに本当の母が死んだこと。冒険者として活動していたヴァルゴさんが赤ん坊の私を今の両親に預け、ラストダンジョンへ挑戦したこと。そのまま帰らぬ人となり、孤児となった私を今の両親が今日まで育ててくれたこと。
元々ロイヤルシードへの思い入れが強く、いずれ機会があれば亡国の再興を願っていた今の両親。そして5年前突如としてここへ現れ、時が来たら悲願を果たすため、私を迎えに来ると言い残して去っていったテオドールさん。
なぜそんなにも無くなってしまった王国のことを、みんなが取り戻したがっているのかはわからなかった。
今の5大国が世界の中心になる前の難しい話だったから、たぶん理解できていなかっただけだと思うけど、でも、今世界はすごく平和。
それもすべて5大国が世界の秩序を守っているからだって、学校の先生はよく言っていたし、実際私が生まれてから今まで大きな争いなんてなかったと思う。
私は、今でも十分幸せだし、いくら私がヴァルゴさんの娘だからって、そんな大それたことをするために、テオドールさんに連れていかれるなんて。そんなの絶対に……。
「私は……」
いや、違う。世界がどうとかじゃない。私の本当の思いは違うの。
私は、本当はティアちゃんやアリアちゃん、セイラちゃんにいつも嫉妬していた。
私は、学園でずっと落ちこぼれだった。
彼女たちはずっとすごかった。みんな強くて賢くて、自分の道を突き進むすごいお友達だった。私はいつもすごいなぁって感心ばかりしていたけど、本心は違っていた。
とても悔しかった。追いつきたかった。私だって陰ながら努力していた。
お勉強も運動も、魔法だって早く使いこなせるようにたくさん練習した。でも、私が今いる学園には才能に溢れたすごい人たちがいっぱいいて、ティアちゃんたちに追いつくどころか、並の領域にすら収まることができなかった。
学園の評価はいつも底辺をうろついていて、ティアちゃんやアリアちゃんと仲良くしていると、周りから金魚のフンって何度もコソコソ言われているのを知っていた。
「私は……」
まともに直視できなかった両親に、この話になってから初めてまともに目線を合わせた。もしかしたら、この時感情的になっていただけで冷静な決断じゃなかったのかもしれない。でも、ずっと抱いていた劣等感に嘘はつけなかった。
「お父さん、お母さん。私は二人の悲願を叶えるために、1年後の今日、テオドールさんが迎えに来たら、一緒に連れて行ってもらおうと思ってます!」
来年またこの暑い季節が訪れたら、私はこれまで培った全てに別れを告げる。
もう、羨むだけの人生は終わりにしたい。
私は、かつて最強と謳われた伝説の冒険者の元で、ロイヤルシード再興の御旗になる。そして、強くなる。
みんなを見返してやるんだ。ユウナも本当は王女様ですごいんだぞって。
この道はたぶん、行ってはいけない道なんだと思う。幸せになれる道では絶対にないと思う。でも……
それでも、私は――
「そうか……。ついに、この日が来てしまったんだね」
テオドールさんから馬車の中で聞いた自身の真実を、シルメリアから帰ってきてすぐに私は両親に打ち明けた。
お父さんはその話を聞いて少し驚いた様子だったけど、それも一瞬だった。
その様子を肌で感じた私は、やっぱりテオドールさんの言っていたことは真実だったんだなって、なんとなく思い知らされた気分になり、少し悲しい気持ちになった。
「……もう、全部知ってしまったのね」
お母さんはあきらかに表情が暗くなり、今にも泣きだしそうな顔をしていた。
「テオドールさんの言ってたことって、やっぱり……」
私も我慢してたけど、目には涙が浮かんでいたと思う。鼻がツンツンしてお父さんとお母さんの顔をまともに見ることができなかった。
「これもすべてはロイヤルシード再興のため。ユウナ様、これまでの度重なるご無礼の数々をお許しください」
お父さんが突然片膝をついて、私に首を垂れた。
「ヴァルゴ様が子のない私たち夫婦に貴女様を託してから11年。本当の両親になったつもりでこれまで貴女様を必死に育てて参りました。どうか、お許しください」
「ち、ちょっと!お父さんもお母さんも、突然そういうのやめてよ!立ってよ!」
お母さんがお父さんの隣で同じ動作をし始めたので、私は混乱した。いくら私がロイヤルシードの正統な後継者だったヴァルゴさんの娘だと知ったからって、急にそんな態度をとるのはおかしいと思う。
私にとってはこの2人以外に両親はいない。どんな事情や真実があっても、それだけは絶対に揺るがない。
「行方不明だったテオドール・スターボルトが私たちに接触してきた5年前のあの日から、私たちはこの日が来ることを心底待ち望んでおりました」
お父さんは立ち上がり、私の目を真っすぐに見つめてくる。その眼差しは、力強い決意と覚悟に満ちていたけど、私は自分がこれからどうすればいいのかわからなくて、目を合わせることできなかった。
「かつて自由を重んじ栄華を誇ったロイヤルシードが、他国による度重なる謀略によって亡国に追い込まれたこと。ヴァルゴ様と遠いながらも同じ血を引く私にとって、これほど屈辱的なことはありませんでした」
お母さんも立ち上がり、すでにテオドールさんから聞いていた真実の一部を自ら明かしてくれた。
そう。全部本当のことなんだ。
私を生んですぐに本当の母が死んだこと。冒険者として活動していたヴァルゴさんが赤ん坊の私を今の両親に預け、ラストダンジョンへ挑戦したこと。そのまま帰らぬ人となり、孤児となった私を今の両親が今日まで育ててくれたこと。
元々ロイヤルシードへの思い入れが強く、いずれ機会があれば亡国の再興を願っていた今の両親。そして5年前突如としてここへ現れ、時が来たら悲願を果たすため、私を迎えに来ると言い残して去っていったテオドールさん。
なぜそんなにも無くなってしまった王国のことを、みんなが取り戻したがっているのかはわからなかった。
今の5大国が世界の中心になる前の難しい話だったから、たぶん理解できていなかっただけだと思うけど、でも、今世界はすごく平和。
それもすべて5大国が世界の秩序を守っているからだって、学校の先生はよく言っていたし、実際私が生まれてから今まで大きな争いなんてなかったと思う。
私は、今でも十分幸せだし、いくら私がヴァルゴさんの娘だからって、そんな大それたことをするために、テオドールさんに連れていかれるなんて。そんなの絶対に……。
「私は……」
いや、違う。世界がどうとかじゃない。私の本当の思いは違うの。
私は、本当はティアちゃんやアリアちゃん、セイラちゃんにいつも嫉妬していた。
私は、学園でずっと落ちこぼれだった。
彼女たちはずっとすごかった。みんな強くて賢くて、自分の道を突き進むすごいお友達だった。私はいつもすごいなぁって感心ばかりしていたけど、本心は違っていた。
とても悔しかった。追いつきたかった。私だって陰ながら努力していた。
お勉強も運動も、魔法だって早く使いこなせるようにたくさん練習した。でも、私が今いる学園には才能に溢れたすごい人たちがいっぱいいて、ティアちゃんたちに追いつくどころか、並の領域にすら収まることができなかった。
学園の評価はいつも底辺をうろついていて、ティアちゃんやアリアちゃんと仲良くしていると、周りから金魚のフンって何度もコソコソ言われているのを知っていた。
「私は……」
まともに直視できなかった両親に、この話になってから初めてまともに目線を合わせた。もしかしたら、この時感情的になっていただけで冷静な決断じゃなかったのかもしれない。でも、ずっと抱いていた劣等感に嘘はつけなかった。
「お父さん、お母さん。私は二人の悲願を叶えるために、1年後の今日、テオドールさんが迎えに来たら、一緒に連れて行ってもらおうと思ってます!」
来年またこの暑い季節が訪れたら、私はこれまで培った全てに別れを告げる。
もう、羨むだけの人生は終わりにしたい。
私は、かつて最強と謳われた伝説の冒険者の元で、ロイヤルシード再興の御旗になる。そして、強くなる。
みんなを見返してやるんだ。ユウナも本当は王女様ですごいんだぞって。
この道はたぶん、行ってはいけない道なんだと思う。幸せになれる道では絶対にないと思う。でも……
それでも、私は――
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