10 / 21
10. 推したちが優しすぎて困るよう
しおりを挟む
ライラさんはコートを脱ぎ、さっと僕の肩にかぶせてくれた。
アヅミはへたりこんだ僕の手をぐっと力強く引っ張る。
「ほら立て、鼻血ヤロー」
アレクシスは眉をひそめて腕を組んだ。
「司法調査の権利は認めるとして。そこのヴィラン二人はなんだ。大体弁護人でもないのに聖封印庫に入れると思っているのか。君らのことを即刻処刑してもいいんだよ?」
これはまずいな…――僕が乗り切れなかったせいで、二人がそうなるのは絶対に嫌…。
僕の額に汗が流れたその時。
「もういいでしょう」
冷ややかな声が空気を裂いた。
セリーヌが優雅に歩み出ると、扇子をぱたぱたと振ってため息をつき言った。
「小汚い輩とやり取りをするのは疲れましたわ。もはや関わりたくもない。殿下、その件はまた今度にでも考えましょう」
アレクシスは彼女を一瞥し、口元に笑みを浮かべる。
「……君は本当に冷たいね、セリーヌ」
「ええ。民衆には氷血令嬢、と呼ばれていますもの」
扇子を口元にかざしてほほ、と優美に声を上げるセリーヌ。
うわなんかかっこいい!!!
「鼠ども、これで私に借りができましたわね?」
セリーヌは完璧でいて悪どい笑顔を浮かべた。
「……借りは必ず返させますわ。それが、貴方にとって幸運であるといいのですけれどねぇ」
そう呟きセリーヌは一礼してから、王子とともに悠然と城につながる扉から去ったのだった。
……え、なんか今……ちょっと怖いこと言わなかった!?気のせい!?
「…ひとまず、荒波は越えたみたいだね」
ライラさんは呟く。
そうだ、王子と令嬢は去っていった。
あぁホッとしたぁ。
僕たち4人は反対方向に進み、来た方向の扉を開ける。
どん。扉の前にはウィリアムがぴったりゼロ距離で待ち構えていた。
「うおおっっ」
僕はとっさに声を上げた。
「大丈夫だったかぁあぁ……。ミナぁぁ!おにーちゃんの胸に飛び込んできなぁ!!」
ウィリアムはその場で片膝立ちをして両手を大きく広げる。驚き目を丸くするライラさん、うげっと引くアヅミ。
「うるさい」
ミナはウィリアムの頭をぺしっとはたいた。ウィリアムは泣きながら撃沈した。いい気味だ!
「――いやぁ、ウィリアムが君ら二人のこと心配しててね。もしものために俺達に連絡してくれたんだ」
ライラさんはそこでにこやかに僕に告げた。ふんっとしながらウィリアムがそっぽを向く。この人ツンデレ属性だったっけ?…正直すごく救われた感がある。
「ぅぅ、そうだったんですか。あのままだとほんとに何かされてたかもしれないですぅ…」
僕は縮こまってぼそぼそと喋った。
「面倒だけど…まぁお前のことも放っとけねぇしな。助けたかった…いや、別に変な意味じゃねぇけど」
なぜかアヅミが赤面してるけど、まぁいいや。
「……ほんとに、ほんとにみなさんありがとうございましたっ」
「ましたっ」
僕とミナは一礼した。
「て、照れるじゃね―か~…」
「はは、これからも助けさせてよ」
「まぁこんなのお手の物ですよ。自分たちの手にかかればね」
アヅミは居心地悪そうに鼻を掻き、ライラさんは顔を綻ばせ、ウィリアムは目を瞑って笑った。
みんなが!優しすぎて!死ぬよもう!
ミナとともに僕は慌ただしく返事をし、3人の背を追いかけるように並んで歩いた。
はい、推し補給でHP全回復いたしました。
その後、推したちのかっこよさに通算100回目かと思われる鼻血が遅れて流れ、その日はアヅミに鉄分補給用のレバーを奢ってもらった。
◇
それからちょうど1週間後の今日。
ヴィラン自治区ノクス領のイーゼルハイムという栄えた都市部。
そこは政治や司法、軍事とか経済の中心で、市場地区はヴィラン特有の魔道具や薬品の取引で活気が溢れている。
イーゼルハイムは黒い石造りの街並みと、空に浮かぶ魔導ランタンが特徴的な都市だ。
僕はヴィランたちのアジトで契約確認書類の手続きを一通り終えた帰り、ミナとともに街の探索をしていた。
「……え、なにこれ!?道端で売ってるの全部、動いてるんだけど!?」
「これは魔力で自動修復する食器ですよっ」
「便利ぃ!」
などと会話しながら、僕はミナのお気に入りだという古い森を囲い込んだ公園、エルデシルヴァ樹海庭にたどり着いた。
ミナは入口付近にて僕の袖をつかみ、引き止めた。
なんだい僕のかわいこちゃんっ!
「ここはとても良いところですが。レオンさま、一つだけ気をつけてくださいねっ。ここの公園、たまーにですが魔物も出るらしいですよっ」
「えっまじ…!?」
「あんしんしてください。あたしがいざとなったら守りますから!」
ミナはにこおおおっと胸を張る。
「頼もしい~っ!かわいい~っ!」
「…レオンさま、かわいいは余計です…」
ミナは怒ったように頬を大きく膨らませ、こちらを見るのをやめた。
あれっ。怒らせちゃったか。
見かねた僕はミナのご機嫌を直すため、その後景色が綺麗だとされる中央の広間にて一息つくことにした。
そこは「魔力の泉」があり、古代からヴィランたちが儀式を行ってきた聖域。今は主に公演などに使う広間になっている。
たどり着いたところ、人が集まっていた。
――それも、大勢。
「おい!この貴族令嬢が!」
男たちの野太い怒声が響く。
「なんだろう」
「なにかすごくあやしいですね…」
僕とミナは顔を合わせ、人だかりの隙間を縫うように歩き、中央を覗き込んだ。すると、男が立って何者かを指さして、強く腕を掴んでいる。
「この英雄族が!!私の息子の頭をヒールで踏みつけて気絶させただって!?」
『しゃーざーい!』
『しゃーざーい!』
その場にいた老若男女のヴィランたちのコールが聞こえた。
男が腕を掴んでいた先は―――
「…民衆のみなさま。わたくしにこんなことをして、ただで済むと思っているのかしら」
セリーヌが扇子を持ち立っていた。
護衛と思われる年若い兵士3人が頼りなくあたふたとしている。え。ほんまにどした。
なんで悪役令嬢がこんなところに……!?
「いいですか貴方たち。わたくしはただ護衛を少数連れて近場の遠征に来ていただけで、少年の頭なんて踏んでいませんわ。無実、でしてよ?」
少し疲れた様子のセリーヌは呆れたように目を伏せる。
一体…どういうことかな?
きっと一筋縄ではいかない気がするなぁ。
「みなさん、少しお静かに」
ぴしゃっとその場の空気を断つように僕は声を響かせた。
「――ここはひとまず、令嬢に僕が聞き取り調査をしてみます」
僕はすっと人だかりをかき分けた。
アヅミはへたりこんだ僕の手をぐっと力強く引っ張る。
「ほら立て、鼻血ヤロー」
アレクシスは眉をひそめて腕を組んだ。
「司法調査の権利は認めるとして。そこのヴィラン二人はなんだ。大体弁護人でもないのに聖封印庫に入れると思っているのか。君らのことを即刻処刑してもいいんだよ?」
これはまずいな…――僕が乗り切れなかったせいで、二人がそうなるのは絶対に嫌…。
僕の額に汗が流れたその時。
「もういいでしょう」
冷ややかな声が空気を裂いた。
セリーヌが優雅に歩み出ると、扇子をぱたぱたと振ってため息をつき言った。
「小汚い輩とやり取りをするのは疲れましたわ。もはや関わりたくもない。殿下、その件はまた今度にでも考えましょう」
アレクシスは彼女を一瞥し、口元に笑みを浮かべる。
「……君は本当に冷たいね、セリーヌ」
「ええ。民衆には氷血令嬢、と呼ばれていますもの」
扇子を口元にかざしてほほ、と優美に声を上げるセリーヌ。
うわなんかかっこいい!!!
「鼠ども、これで私に借りができましたわね?」
セリーヌは完璧でいて悪どい笑顔を浮かべた。
「……借りは必ず返させますわ。それが、貴方にとって幸運であるといいのですけれどねぇ」
そう呟きセリーヌは一礼してから、王子とともに悠然と城につながる扉から去ったのだった。
……え、なんか今……ちょっと怖いこと言わなかった!?気のせい!?
「…ひとまず、荒波は越えたみたいだね」
ライラさんは呟く。
そうだ、王子と令嬢は去っていった。
あぁホッとしたぁ。
僕たち4人は反対方向に進み、来た方向の扉を開ける。
どん。扉の前にはウィリアムがぴったりゼロ距離で待ち構えていた。
「うおおっっ」
僕はとっさに声を上げた。
「大丈夫だったかぁあぁ……。ミナぁぁ!おにーちゃんの胸に飛び込んできなぁ!!」
ウィリアムはその場で片膝立ちをして両手を大きく広げる。驚き目を丸くするライラさん、うげっと引くアヅミ。
「うるさい」
ミナはウィリアムの頭をぺしっとはたいた。ウィリアムは泣きながら撃沈した。いい気味だ!
「――いやぁ、ウィリアムが君ら二人のこと心配しててね。もしものために俺達に連絡してくれたんだ」
ライラさんはそこでにこやかに僕に告げた。ふんっとしながらウィリアムがそっぽを向く。この人ツンデレ属性だったっけ?…正直すごく救われた感がある。
「ぅぅ、そうだったんですか。あのままだとほんとに何かされてたかもしれないですぅ…」
僕は縮こまってぼそぼそと喋った。
「面倒だけど…まぁお前のことも放っとけねぇしな。助けたかった…いや、別に変な意味じゃねぇけど」
なぜかアヅミが赤面してるけど、まぁいいや。
「……ほんとに、ほんとにみなさんありがとうございましたっ」
「ましたっ」
僕とミナは一礼した。
「て、照れるじゃね―か~…」
「はは、これからも助けさせてよ」
「まぁこんなのお手の物ですよ。自分たちの手にかかればね」
アヅミは居心地悪そうに鼻を掻き、ライラさんは顔を綻ばせ、ウィリアムは目を瞑って笑った。
みんなが!優しすぎて!死ぬよもう!
ミナとともに僕は慌ただしく返事をし、3人の背を追いかけるように並んで歩いた。
はい、推し補給でHP全回復いたしました。
その後、推したちのかっこよさに通算100回目かと思われる鼻血が遅れて流れ、その日はアヅミに鉄分補給用のレバーを奢ってもらった。
◇
それからちょうど1週間後の今日。
ヴィラン自治区ノクス領のイーゼルハイムという栄えた都市部。
そこは政治や司法、軍事とか経済の中心で、市場地区はヴィラン特有の魔道具や薬品の取引で活気が溢れている。
イーゼルハイムは黒い石造りの街並みと、空に浮かぶ魔導ランタンが特徴的な都市だ。
僕はヴィランたちのアジトで契約確認書類の手続きを一通り終えた帰り、ミナとともに街の探索をしていた。
「……え、なにこれ!?道端で売ってるの全部、動いてるんだけど!?」
「これは魔力で自動修復する食器ですよっ」
「便利ぃ!」
などと会話しながら、僕はミナのお気に入りだという古い森を囲い込んだ公園、エルデシルヴァ樹海庭にたどり着いた。
ミナは入口付近にて僕の袖をつかみ、引き止めた。
なんだい僕のかわいこちゃんっ!
「ここはとても良いところですが。レオンさま、一つだけ気をつけてくださいねっ。ここの公園、たまーにですが魔物も出るらしいですよっ」
「えっまじ…!?」
「あんしんしてください。あたしがいざとなったら守りますから!」
ミナはにこおおおっと胸を張る。
「頼もしい~っ!かわいい~っ!」
「…レオンさま、かわいいは余計です…」
ミナは怒ったように頬を大きく膨らませ、こちらを見るのをやめた。
あれっ。怒らせちゃったか。
見かねた僕はミナのご機嫌を直すため、その後景色が綺麗だとされる中央の広間にて一息つくことにした。
そこは「魔力の泉」があり、古代からヴィランたちが儀式を行ってきた聖域。今は主に公演などに使う広間になっている。
たどり着いたところ、人が集まっていた。
――それも、大勢。
「おい!この貴族令嬢が!」
男たちの野太い怒声が響く。
「なんだろう」
「なにかすごくあやしいですね…」
僕とミナは顔を合わせ、人だかりの隙間を縫うように歩き、中央を覗き込んだ。すると、男が立って何者かを指さして、強く腕を掴んでいる。
「この英雄族が!!私の息子の頭をヒールで踏みつけて気絶させただって!?」
『しゃーざーい!』
『しゃーざーい!』
その場にいた老若男女のヴィランたちのコールが聞こえた。
男が腕を掴んでいた先は―――
「…民衆のみなさま。わたくしにこんなことをして、ただで済むと思っているのかしら」
セリーヌが扇子を持ち立っていた。
護衛と思われる年若い兵士3人が頼りなくあたふたとしている。え。ほんまにどした。
なんで悪役令嬢がこんなところに……!?
「いいですか貴方たち。わたくしはただ護衛を少数連れて近場の遠征に来ていただけで、少年の頭なんて踏んでいませんわ。無実、でしてよ?」
少し疲れた様子のセリーヌは呆れたように目を伏せる。
一体…どういうことかな?
きっと一筋縄ではいかない気がするなぁ。
「みなさん、少しお静かに」
ぴしゃっとその場の空気を断つように僕は声を響かせた。
「――ここはひとまず、令嬢に僕が聞き取り調査をしてみます」
僕はすっと人だかりをかき分けた。
93
あなたにおすすめの小説
悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】
瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。
そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた!
……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。
ウィル様のおまけにて完結致しました。
長い間お付き合い頂きありがとうございました!
悪役令息の兄って需要ありますか?
焦げたせんべい
BL
今をときめく悪役による逆転劇、ザマァやらエトセトラ。
その悪役に歳の離れた兄がいても、気が強くなければ豆電球すら光らない。
これは物語の終盤にチラッと出てくる、折衷案を出す兄の話である。
絶対に追放されたいオレと絶対に追放したくない男の攻防
藤掛ヒメノ@Pro-ZELO
BL
世は、追放ブームである。
追放の波がついに我がパーティーにもやって来た。
きっと追放されるのはオレだろう。
ついにパーティーのリーダーであるゼルドに呼び出された。
仲が良かったわけじゃないが、悪くないパーティーだった。残念だ……。
って、アレ?
なんか雲行きが怪しいんですけど……?
短編BLラブコメ。
『君を幸せにする』と毎日プロポーズしてくるチート宮廷魔術師に、飽きられるためにOKしたら、なぜか溺愛が止まらない。
春凪アラシ
BL
「君を一生幸せにする」――その言葉が、これほど厄介だなんて思わなかった。
チート宮廷魔術師×うさぎ獣人の道具屋。
毎朝押しかけてプロポーズしてくる天才宮廷魔術師・シグに、うんざりしながらも返事をしてしまったうさぎ獣人の道具屋である俺・トア。
でもこれは恋人になるためじゃない、“一目惚れの幻想を崩し、幻滅させて諦めさせる作戦”のはずだった。
……なのに、なんでコイツ、飽きることなく俺の元に来るんだよ?
“うさぎ獣人らしくない俺”に、どうしてそんな真っ直ぐな目を向けるんだ――?
見た目も性格も不釣り合いなふたりが織りなす、ちょっと不器用な異種族BL。
同じ世界観の「「世界一美しい僕が、初恋の一目惚れ軍人に振られました」僕の辞書に諦めはないので全力で振り向かせます」を投稿してます!トアも出てくるので良かったらご覧ください✨
悪役の僕 何故か愛される
いもち
BL
BLゲーム『恋と魔法と君と』に登場する悪役 セイン・ゴースティ
王子の魔力暴走によって火傷を負った直後に自身が悪役であったことを思い出す。
悪役にならないよう、攻略対象の王子や義弟に近寄らないようにしていたが、逆に構われてしまう。
そしてついにゲーム本編に突入してしまうが、主人公や他の攻略対象の様子もおかしくて…
ファンタジーラブコメBL
不定期更新
伯爵令息アルロの魔法学園生活
あさざきゆずき
BL
ハーフエルフのアルロは、人間とエルフの両方から嫌われている。だから、アルロは魔法学園へ入学しても孤独だった。そんなとき、口は悪いけれど妙に優しい優等生が現れた。
婚約破棄されてヤケになって戦に乱入したら、英雄にされた上に美人で可愛い嫁ができました。
零壱
BL
自己肯定感ゼロ×圧倒的王太子───美形スパダリ同士の成長と恋のファンタジーBL。
鎖国国家クルシュの第三王子アースィムは、結婚式目前にして長年の婚約を一方的に破棄される。
ヤケになり、賑やかな幼馴染み達を引き連れ無関係の戦場に乗り込んだ結果───何故か英雄に祭り上げられ、なぜか嫁(男)まで手に入れてしまう。
「自分なんかがこんなどちゃくそ美人(男)を……」と悩むアースィム(攻)と、
「この私に不満があるのか」と詰め寄る王太子セオドア(受)。
互いを想い合う二人が紡ぐ、恋と成長の物語。
他にも幼馴染み達の一抹の寂寥を切り取った短篇や、
両想いなのに攻めの鈍感さで拗れる二人の恋を含む全四篇。
フッと笑えて、ギュッと胸が詰まる。
丁寧に読みたい、大人のためのファンタジーBL。
他サイトでも公開しております。
【完結】婚約破棄された僕はギルドのドSリーダー様に溺愛されています
八神紫音
BL
魔道士はひ弱そうだからいらない。
そういう理由で国の姫から婚約破棄されて追放された僕は、隣国のギルドの町へとたどり着く。
そこでドSなギルドリーダー様に拾われて、
ギルドのみんなに可愛いとちやほやされることに……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる