推し様たちを法廷で守ったら気に入られちゃいました!?〜前世で一流弁護士の僕が華麗に悪役を弁護します〜

ホノム

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15. 待ちに待った大決闘!

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 グルムに最後の情報をもらい固く握手を交わした後、僕はその足でヴィランたちと裁判所へ向かった。
 王都大法廷――高い塔が青空を突き刺す。石造りの壁は冷たくて、まるで罪人を拒むようにそびえ立っていた。
 グルムも傍聴席で最後まで見届けてくれることになった。

 傍聴席には英雄族とヴィラン族が入り混じり、何やら不穏な空気である。英雄族側にはアレクシス王子、公爵グレイブ家のエリオット卿が中央の席を陣取っていて、それぞれ下卑た笑いを浮かべている。

 当の僕はカイが座る被告人席の後ろの席に座っていた。少しだけ、手が震える。緊張と興奮でわけがわからない。

「…っ」

 近くにはヴィランたちが座っていて、ゼオスさんはそんな僕を見かねたのか近づいてきた。

「?ゼオスさ…」
 言いかけた時、ぎゅっと手を握られた。

「レオンくん。私は君をどこまでも信じてるから、大丈夫だよ」
 ゼオスさんは極めて優しげに笑った。
 ほんとにこの人、ヴィランのボスらしくないよな。
 僕は辺りのヴィランが座る席を見渡した。

 ライラさんやアヅミ、ウィリアムにミナ、グルムも僕を見て覚悟したような笑みを浮かべていた。うわぁ。…信じてくれる人がいるってこんなに幸せなんだな。

「…まぁ、頑張ったらどうですか」
 視線をそらしながら照れたように励ましの言葉をかけるウィリアム。
「相変わらずツンのデレですが今日はデレ多めですね?」僕は茶化す。
「んなわけないでしょうっ…」

「とにかく!無茶だけはすんなよ!?」
「分かった分かった」
「いや分かってないだろぉ!」
 僕に忠告をして最後まで釘を差すアヅミ。

「レオンさまのかっこいい所、みんなに伝えるんですっ!」
「うんミナのかわいさで僕頑張れる」
 張り切っているミナは僕がそう言って笑うとすごく嬉しそうにした。

「弁護士サマ、証言台でずっこけるなよ?」
「失礼な」
 僕が即返事をするとくくくと笑うグルム。

「悲しいことの連続が、きみのお陰で終わりになる気がするなぁ」
「…っはい!僕に、任せてくださいっっ」
 ライラさんの言葉に僕は呼吸を整えてにこっと笑った。

 カイは前の席でその様子にふっと笑っていた。
 心の準備は出来た!
 裁判長がガベルをカンカンと打つ。指先は震えているのに、胸の奥はドラムロールみたいに高鳴っていた。
 よく考えれば、ちゃんと弁護するなんて前世ぶりだなぁ~…!

「―――これより、被告人カイ・ヴァン=ノクスに対する晩餐会毒殺事件の第一審を開廷する。まず、オスカー検事。起訴状の読み上げを」

 裁判長の言葉に立ち上がる、淡褐色の髪の生真面目そうな英雄族の検察官。
 この方が今回僕が戦う相手だね。

「はい。被告人カイ・ヴァン=ノクスは、ヴィラン自治区もといヴィラン全体の取りまとめをするゼオス・ヴァン=ノクスの息子であり、英雄族への嫌悪、恨みから犯行を行った。
 英雄族の貴族に招待された晩餐会にて、高官アダムス・アークエットが飲むグラスに毒物を混入させ殺害した疑いがある。
 現場にて目撃したセリーヌ・ド・グラディス嬢により発覚しその場で現行犯逮捕された。
 その場の貴族たちの目撃証言によって犯行が裏付けられている。
 ――以上のことから、当検察局は被告を『英雄族殺人罪』の罪に問う…!」

 オスカーは真剣な顔で読み上げた。
 英雄族側のエリオット卿とアレクシスが「ふん」と笑った。

 この検事はおそらく、この起訴状の内容を本気で信じてるんだろーな。

 僕の通り魔殺人の時はでっち上げの証拠は最低限あったけれど、今回はほぼ無い。
 なのにここまでさも正しいかのように言葉を並べるなんてね。しかもセリーヌが目撃したと捏造するとは。
 恐れいったよ。ははあ。

「それでは被告人、この起訴状の内容は、間違いありませんか?」

 裁判長は理知的な目で被告人席にうなだれて座るカイに問う。ちなみにこの裁判長は僕が疑われた通り魔殺人の審理の時と同じ人物。

「……俺はほんとに、何もやってない……」


 カイはうんざりした顔でつぶやく。他のヴィランたちは緊張した面持ちになる。
 オスカー検事は立ち上がってから憎々しげにカイに尋ねた。
「被告人、あなたは事件当夜、被害者のすぐそばにいた。何をしていた?」

「……用意された飯を食ってた。それだけ」
 カイは無表情で答えた。その瞬間にアレクシスの失笑が聞こえる。

「では、これをご覧ください」

 オスカーは論理魔法を手から繰り出して展開した。
 魔法映写に映る――被害者の近くに立つカイ、直後に高官が倒れる映像を流し、オスカーは声を張った。

「これ以上の動かぬ証拠はない! しかも被告には――」

 オスカーは誇らしげに書類を掲げる。
「英雄族に対する明確な敵意がある!」

 いや何言ってんの?
 傍聴席から大勢の拍手が聞こえる。英雄族の者たちだ。

「検察側の陳述を記録する…では弁護人、レオン・カーティス。意見陳述を」




 ふう。やっと出番だねっ。

 僕は憤りを抑えてにこっと立ち上がった。
 周囲の視線が僕に一挙に刺さる。軽蔑の表情、失笑の表情、憎悪の表情。
 それは全部どうでもいいよ。
 ただ、助けを求めているであろう者――カイ、そしてセリーヌの顔を僕は目に焼き付けた。


「検察の映像は、事件の全体を映してませんっ。映像の直前、カイは転んだ給仕の少年を助けようとして被害者の近くへ移動していますっ」

 僕はすっととある少年の方を見た。
「証人、前へ」





「はい…」

 小柄な少年が当事者席から証言台に歩み出る。ぎこちない足取り。そんな足音がやけに響く。
 法廷はざわつき、ヴィランたちは「ほう」とでも言いたげに身を乗り出した。
 貴族たちの証言はほとんど信用ができないので、一般市民に頼ることにしたのだ。

 少年は両手をぎゅっと握りしめ、視線を床に落としたまま声を振り絞った。

「…っぼくは!その当時、皿を落としそうになった拍子に焦って転んでしまいそうになりました…。その時に、被告人のカイさんが真っ先にぼくを支えようと乗り出してくれたんです!」
 少年は緊張していた様子だったが、意を決したかのようにはっきりと口にした。あなたの気持ちは僕が継ぐよ、ありがと。

 オスカーは眉をひそめた。少年は証言を終えて席に下がり、僕は堂々と弁論を続ける。

「さらに毒はマチズの種子由来。
 東の国で採取することが出来ますが、限定された農園で主に輸出を許可した取引相手しか手に入らない。
 よってこの国では権限をもつ王族の封印庫からしか持ち出せない。
 被告は封印庫への立ち入り権限を持たない。
 この点だけでも〝犯行不可能〟は明白ですよ?」

 僕がわざとらしくきょとんとして首をかしげると、傍聴席はやはり騒がしくなった。
 裁判長がオスカーに視線を向ける。
「検察側、反論は?」

「……現時点では、確かに被告の犯行可能性は低いと認めます」
 しぶしぶといった様子でオスカーがうなずく。

 裁判長はうむとうなずくとガベルをカンカン鳴らした。

「よって、被告人カイへの嫌疑は暫定的に取り下げる」

 傍聴席のヴィラン陣営が安堵の息。
 僕は椅子に深く腰掛けて息をつこうとした。

「……すまない、ありがとう」

 それは前の席から聞こえた。一瞬誰に何を言われたのか僕はわからなかった。
「……!」
 あの面倒くさがりのカイが、僕に礼を?
 頬が一気に熱くなる。
 きゃあああああああぁ!カイの照れ顔のギャップすごすぎい!!
 周囲のヴィランたちも目を丸くしてこっちを見た。
 僕は顔を押さえてから、急いで平常心を取り戻した。




 オスカーが今度は再び立ち上がった。

「では……次の証人を呼びましょう。セリーヌ・ド・グラディス嬢!」

 …え!?
 僕は目をまん丸くしてきょろきょろと見回す。

 ヒールの音が一歩、また一歩と響くたび、法廷のざわめきが吸い込まれるように消えていった。

 悠々としたセリーヌが証言台に立った。僕はセリーヌを凝視する。
 なんであのセリーヌが、証人に?
 何かとてつもないものを抱えている苦しげな顔をしているように見えた。その瞳の奥に、一瞬だけ―――助けを求めるような光がちらついた。僕の心臓が跳ねる。

 ―――セリーヌ。勝負はここからだよ。

 僕が君に勝って…君を救ってみせるから。
 人知れず、僕はうつむき決意し笑った。

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