DKから化け物になった。でもどうにも出来ないから誰か世話して欲しい。

Az

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馬鹿の思考。

予想外。

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それから、1週間が経ち、完治した俺は静養期間を終了して学校に復帰した。
「では皆さん、our planet becomes our  lives を適当な形に戻してくださ…」
教師の言葉がファミレスのBGMのように、俺の耳をすり抜けていく。
確かに授業は重要かもしれないが、俺の目下の悩みは成績どうのこうの以前に自分の生態である。
机の引き出しに手を入れてスマホを弄り、俺は纏めをメモに書き足していった。

[第一に、俺が小さくなるのは日が暮れてから午後12時までのいずれかの時間である。
第二に、俺の変化した姿である例の小さいもふもふは、名称のない謎の生物である。
第三に、変身する時は急激な眠気に襲われるが、眠らないように舌を噛んでおけば眠る事はほぼない。
第四に、小さいもふもふ姿で普通の生活を送るのは100%不可能である。]

ここで重要なのは第三だ。

生活が出来ない。

それはもう、介護が必要なレベルで出来ないのだ。

テレビひとつ見るにもまず机によじ登ってリモコンの硬いボタンを全身で押さなければならないし、風呂なんて入ろうものなら排水溝に流されないように泳ぐので必死だった(次から予めお湯をコップに入れておこうと誓った)。

一番最悪なのは食事だった。

夕方、まだ日が出ているうちに食べておかなければいけない。この身体、排泄はしないのに腹は空くのだ。一度、食べるのを忘れたまま小さくなった事がある…それはそれは最悪だった…冷蔵庫も開けられない上に勝手口も開けられない、食事出来ずに飢え死にするような思いをした。

まぁそれはともかく、今の俺は誰かに世話をしてもらう必要がある。
しかしながら俺の両親はあてにならない。当たり前だろう、病院に入院した息子に「大丈夫?」の一つの連絡さえもくれない親なんて親じゃない。

しかし…いざ、この身を世話して貰うとなると、矢張り始めに思い浮かぶ候補はクラスメイトだ。
だが、クラスで絡んできやがるギャルども3名、そして友人ぶってる陽キャの野郎ども4名は駄目だ。新種のこの身、売られかねない。
そして、次に思い浮かぶのがオタク連中が5名程。
気の合うやつは多いが、大して生き物に興味が無さそうだし、乱雑に扱う可能性を考慮するとやめた方が良い。
他に思い浮かぶのは、ギャルとは違うが陽キャの女子4名程、大人しく本を読んでいるタイプの女子が一名、トランスジェンダーの女子が一名、生物委員の女子3名、男子2名、陰キャの女子3名、男子3名。
ここまでで29名。俺が喋ったことがある人はこの29名だけだ。

と、キーンコーンとチャイムが鳴った。
授業が終了したようだ。

「起立ー、気を付けー、礼」
「「「「「「「「「ありがとう御座いました」」」」」」」」」」

俺は考え続ける。

(先程思い浮かんだ29名から選出した方が良い…か…?)

喋ったことがない人物ならばまだ居るが、一先ずここから候補を一人に絞るとなると生物委員の石田亮平だ。話が通じやすい上に手先が器用。思春期特有の性格の影響で女子に嫌われている事を除けば、良いヤツだ。一先ず、今日は仕方ないので学校の何処かで泊まるか。

明日、話を持ち出すだけ出してみよう。

俺の決心が固まった頃には、とうに放課後になっていた。
「要ェ~、一緒に帰ろ~」
「なぁ、今日カラオケ行かね?]
休み明けだからか、やたらと人がきたが全部断った。

特にカラオケなんて絶対にダメだ。縮み出したらどうすんだよ。

しかし明日確実に登校するには、日が沈んでいる今下校するのは危険だ。

という事は学校に泊まるしかない。どうせ夜中は縮むのだから、隠れるところも多いだろう。

俺は身体が縮む前に今夜の寝床を探す事にした。泊まるならベッドが良いし、ベッドは保健室にしかない。一先ず保健室に行ってみるか。
スリッパの音が、誰も居ない静かな校舎に響く。
先程、戸締りの先生が帰宅したのを確認した。もう出歩いても大丈夫だろう。
冬は日が落ちるのが早い。
(まだ縮まないでくれ…)
祈りながら、俺は寝床候補の保健室へと急いだ、が。

後に、その選択を酷く後悔する事になった。


*****


俺が保健室に向かっている途中だった。
構造上、保健室に行くまでは階段を降り、一階に行く必要があった。
一階までの階段を降り、保健室に向かう為に右に曲がった瞬間、何か背の高い物にぶつかった。
ドンッという衝撃で、ぶつかった事を認識し、「うっ」という声で、ぶつかったのが人間であると理解した。相手が俺に押されるような形で倒れる。

俺はぎょっとした。今は夜の8時だ。

戸締まりを終えた先生が校門を通り過ぎるのはこの目で確認した。
真逆、警備員がこの学校に居たのだろうか。

「すみません、ぶつかるつもりは無かったんです。学校に取り残されてしまったので帰ろうとしていたところなんです…」

相手を碌に見ずに、俺は一気に謝った。こういうのは早く謝った方が未だ後に響かないものである。

と、相手が身を起こした。

「……」
布擦れの音で、相手が立ち上がったのを悟った俺は、相手を見………、今度こそ本当に驚愕した。
「……学生…か……?」
影で顔が見えないが、そこには確かにウチの学生服を来た人間が立っていた。
「…何でこの時間に…」
いや、まぁ俺が言えた義理ではないが。
しかもよく見てみると、その学生服に俺は見覚えがあった。何故なら、其れは俺のクラスメイトの内の一人しか着ていないはずの、めちゃくちゃに改変された制服だったから。
と、その瞬間だった。
足元に怖気が走った。
麻酔のような、急激な眠気が全身を駆ける。
「しまっ……た………」
俺は眠ってしまわないよう必死に舌を噛んだ。
機械音と心臓の音が脳で激しく反響する。
と、視界が大きく揺れた。
「がっ………あっ…………」
どんどん小さくなっていく。

他人の目に、今の俺はどう映っているのだろう。

そして、その揺れが収まり、意識がはっきりして来た時には、既に視界が狭まっていた。

「……………」

(…………)

持つ手を無くした俺のバッグが地面に落ちている。
と、相手が何か明るいもので俺を照らした。懐中電灯の様だ。凄く眩しい。
そして、俺も光に照らされた相手の顔を確認し、嘆きたくなった。
相手が口を開く。

「……人間じゃ無かったのか貴方は」

この口では日本語が喋れない。口を開いてもせいぜい、「ピィ」だの「キュゥ」だのぐらいしか音が出ない。声帯が発達していないのが原因だろう。
だから、何か言いたくても聞いて貰えないのが不利な点だ。
しかも、
(よりによってコイツに見られるとは…)

織日夜学。

コイツは俺のクラスメイトだ。
そして、俺がほぼ関わったことのない部類の人間…つまり、極端にハブられている人間か余りに人との関わりを持たない人間だが…コイツは人との関係を自ら持とうとしないタイプ、つまり孤高の人間だった。
コイツを孤立でなく孤高たらしめたのは、まずその容姿。
可愛いだの、綺麗だの、そういう言葉を使うのが失礼だと思ってしまう程には整っていた。
特に瞳。薄く広がる墨の背後に散らつく血管の緋色。それにプラスして腰まであるストレートの髪に、女子か男子か分からない、滅茶苦茶に改変された制服。身長は高く、180は軽く超えていた。
現代ではトランスジェンダーに配慮して、全ての人間の性別は本人の意思によって秘匿が可能だ。そのおかげで俺を含むクラスメイトは、コイツの性別を知らない。
さらに無表情、追加でほぼ喋らないときた。
虐められそうだが、背が高い上になんとも言えない威圧感のおかげで虐めの対象にはならなかった。
その代わり…といって良いのかは不明だが、孤高と見なされ、コイツは遠巻きにされて来た。
いわば高嶺の花。話しかけてはいけない謎の雰囲気がクラス内で構成されてしまったのである。

だからこそ、俺は今、地味に驚いていた。

(コイツ喋れるのか…)

喋ったところを見た事が無かった故に、勝手にコイツは喋る事が出来ないのだと思っていた。
まぁ今そんな事はどうでもいい。
問題は、コイツにこの形態に変化する事を目撃された事だ。
もし、俺の変化する形態がこんな小さなモフモフでなく、もっとデカくて強い怪物だったなら、俺は迷わずコイツを殺しただろう。
しかしながら、この小さな体躯でそんな事が出来る訳がない。
その上、なんの武器も持っていないと来た。という事は、別の作戦を考えるしかない。ならばどうすれば良いのか。
先ず、前提として、俺は目撃された者に世話をして貰うしかない。一昨日の夜の様な惨状は御免だ。
しかし、しかしだ。
(俺、コイツと一回も喋った事ないんだが…?)
一回も喋った事がない、即ち、コイツという人間を全く理解していないという事だ。
人間を選定しようにも、測る物差しが無ければ測りようがない。
しかも選定する前に鉢合わせてしまった。
さぁどうしようかと思っていると、急に巨大な手が伸びて来て身体を抱えられた。
「キュッ」
「何だ貴方は…?見た事の無い生物だな」
俺は織日夜の手の上に乗っていた。
綺麗な手だ。爪も整っていて、汗腺が見当たらない。
(にしてもコイツの声は聞き取り易いな…)
今まで、どんな音もかなり五月蝿く感じた。
男の声は酷い地鳴りの様だったし、女の声はライオンの唸り声の様だった。しかしコイツの声は低音の囁き声の様だ。聞いてて眠くなる。恐らく元の姿に戻ったら此の音はアルトぐらいの音程なんだろう。
と、指の腹で頭を撫でられ、長い人差し指で背骨の辺りをくすぐられる。
(…案外器用じゃねぇか)
扱いが上手い事に若干驚きつつも俺が上を見上げると、織日夜は口端を吊り上げた。微笑んだというより、悪人がほくそ笑んでいる感じの笑顔だった。
こいつ、こんな風に笑えるのか…と驚愕した。コイツの笑顔はアルカイックスマイル以外に見た事が無い。
しかし問題は、その笑顔が下手な盗賊頭の顔より怖いという点だろうか。美人は笑うと迫力がある。
「貴方、可愛いな。持って帰っていいか?」「……!?」
(本気で言っているんだろうか)
幾ら姿が可愛いからって元はクラスメイトだぞ?…いやまぁ世話して貰うには其れも…ありか?
と、織日夜が屈んで俺のバッグを拾った。
「……燐堂……」「キュルルルゥ」
(それ俺の名前な)
「…もしかしてクラスメイトか?」「…ピィ」
(知らなかったのかよ)
「貴方は宇宙人なのか?」「…」
(知らん)
「…まぁ何でも良い。可愛いからウチに連れて帰ろう」
そう云うと織日夜は身を起こした。
急激に視界が高くなり、落ちる恐怖から織日夜の指にしがみつく。
織日夜は静かに歩き出した。視界が少し揺れるが、酔うほどではない。椅子形式のハンモックにでも乗ってるかの様だ。
上から織日夜の楽しそうな声が聞こえる。
「一度ペットを飼ってみたかったんだ。貴方程小さければ何の問題もないだろう」「…キュゥル」
(おい、ペットじゃねぇぞ)
「貴方は何を食べるんだ?」「……ピュィ」
(……割となんでも)
「昔何かで魚人がハムを食べる映像を見た。貴方も食べるのかも知れないな。もしかしたら果物も食べれるかもな。その姿なら果物も巨大に見えるのか?素晴らしいな。何が食べたい?バナナか?黄色いモンスターがバナナを食べていたな。貴方も食うのか?それとも林檎か?色々買ってみようか…試すのは楽しそうだ」
「…………………………キュゥ」
「そうだ、カットフルーツを買おう。今日財布を持っておいてよかったな。ああ、心配無用だ。ペットに金は払わせない。だから貴方の財布から金を抜き取るような事はしない。貴方を持って帰っているのも本当は良くない事かも知れないしな。まぁどうでも良いが」

(……………コイツ……こんなに喋るキャラだったか?)

……。
まあ何でもいい。

…そういえば何でコイツ学校に居たのか聞くの忘れてたな。
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