異世界で魔物と産業革命

どーん

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第10話 - 継承

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朝になり、沼地には霧がかかっているが俺たちは探索を開始した

サキュバスたちが沼地に詳しく、リザードマンたちは簡単に見つかった
ひとしきり、俺が話せることや連れているメンバーに驚かれたが
すぐに理解してもらえた

移住者を募っている事を伝えると、族長の所へ案内された

俺たちは会話を始めた
するとリザードマン達も移住を考えていたらしく俺たちの提案に興味津々だった
どうやらこの沼に最近現れたアンデッドの軍団と縄張り争いを繰り広げ
昼夜問わず現れるアンデッドたちに苦戦し、かなり数が減っているそうだ

数百といたリザードマン達は今はもう20に満たないらしい
あまりにもプライドが高すぎる、これは全滅するだろう

今は族長の側近とメスを残して、10匹ほどがまた討伐に向かっているらしい
敗色濃厚だそうだが、仲間の恨みを晴らすために義勇兵となり戦いに向かったとか

族長は全員移住すると約束してくれたうえで、討伐に向かった仲間たちを逃がしてほしいと依頼してきた

さすがにこれは断りたくない
移住してくれる住民達を見捨てて族長たちを迎えては禍根が残る

俺は無理のない範囲、で逃がすことを約束し、アンデッドたちの縄張りに向かった



日はだいぶ高くなってきた
だが沼地の湿気が強く、霧も晴れない

空を飛べるサキュバスたちにリザードマン達を探してもらい
俺たちはリザードマンの義勇兵と合流した

リザードマン達はもう3体しかいない
他のリザードマン達は傷だらけで沼に浮いている

かなりまずい、俺は大声でリザードマン達に声をかけた

「戦闘をやめろ!今すぐ族長のところへ帰れ!」

リザードマンは声を荒げながら返答した

「止めるな!俺たちは仲間の無念を晴らしに来たんだ!」
「族長たちはもう移住する計画を実行している!俺たちは君たちを逃がすように依頼されたんだ」

わらわらとアンデッドたちが集まってくる
俺たちも囲まれてしまった、リザードマン達と合流するべきだ

俺たちはリザードマンのところへ駆け寄り、アンデッドたちを相手にした

リザードマンは俺が人間であることや連れている魔物たちを一通り見た後
話を始めた

「俺たちだってこのまま死ぬのはわかってる、でもやられたままでいられないんだ」

簡単に引き返すわけもない、覚悟して出てきたのだから
説得は一旦休止し、目の前の戦闘に集中することにした

俺は魔物と会話するスキルがあるのだから
アンデッドとも会話できるか試みてみた

「おい、スケルトンたち!聞こえるか」



意思疎通は不可能だった、他の魔物の魔力で動いているからか
簡単な意思のみを与えられ、忠実にこなす人形と言った印象だ

会話は諦め、戦闘に励んだ
スケルトンたちは厄介だ、中途半端な斬撃などではすぐに元通りになる
左腕に寄生した木の魔獣も魔力の塊を飛ばし援護してくれるが
スケルトンたちを消滅させるほどの威力はない

猫娘やサキュバスたちも奮闘しているが大きく数が減っているわけではないようだ

アヌビスは戦ってすらいなかった、ちゃぷちゃぷと沼の中にいる俺たちの円陣の外をぐるぐると回りながら匂いを嗅いではまた回りだす

アヌビスが俺たちの周りを一周し終えると、風が巻き起こり始めた

台風のような強風がスケルトンたちを壁や木に叩きつけている
俺たちは中心にいるためか風の影響はない

アヌビスはあきれたように話し始めた

「こいつらと戦っても無駄だよ」

俺はアヌビスに顔を向け質問した

「どうやったら倒せるんだ?」
「倒せないよ、骨を集めて無限に復活するだけさ」

アヌビスは遠くを見つめながら話をつづけた

「こいつらは核がない、別のところから魔力を供給されているんだ」

アヌビスの視線の先から、アヌビスの作った強風をものともせず
宙に浮いたスケルトンの魔導士が現れた

スケルトンの魔導士が話し始める

「なんとも珍妙な集団だ、ミストラル・ガルムと役立たずの集団とは」

サキュバスたちが震えながら声をあげた

「リッチ...」

リッチ?どのファンタジーでもかなり上位の魔物だ
死者たちを束ねる不死の王、体を捨て、人であることを辞めた大魔導士たちの成れの果て
こんなところで遭遇してしまうとは...俺たちは無事帰れるのだろうか

リッチはサキュバスたちに目をやった

「淫魔どもか、人間の精を死ぬまで吸う魔物ではなかったか?なぜ人間と一緒にいる」

サキュバスは反論した

「私たちは彼と一緒に行くことにしたの!精も枯れた骸骨風情が口を出さないで!」

リッチは反論したサキュバスへ指を向けた
その瞬間、巨大な雷がサキュバスを直撃し、サキュバスは燃え上がった

サキュバスが叫ぶ

「アンドラ!!!!!」

アンドラは灰になってしまった、一瞬の事だった
サキュバスたちは恐怖に震え、一歩も動けなくなっていた
姉妹を奪ったリッチを涙を浮かべながら睨んでいる

灰になったアンドラがぼんやりと光りはじめ
その光がまた、俺の中へ吸い込まれていく

何かいつもと違う、その様子を見たリッチが俺に興味を示した

「ほぅ、貴様も不死者か?なぜサキュバスの魔力をお前が宿している」

どういうことだ?二度目の光は、彼女の力を受け取ったのか?
俺のスキルはもしかしたら罪深いものかもしれない

リッチは急に饒舌になった

「そのような能力は初めて見る、お前は何者だ?」

俺は正直に答えた

「俺自身も俺の能力についてよくわかっていない、こんなことは初めてだ」

リッチは明らかに強い興味を示した

「フフフ、死者の力を得る力か、その力をよこせ、我ら不死者にこそふさわしい力だ」

リッチは一瞬で目の前に移動し、左腕に寄生していた木の魔獣を焼き殺した
冷たい手で俺の首をつかみ、宙に持ち上げる

木の魔獣からも光が現れ、二度目の光を受け取った
力が溢れる感覚がある、抵抗しようとはしているが、体が動かない
強大すぎるリッチの力にはまだ及ばないようだ

「グルルルルルルル」

アヌビスがリッチに飛び掛かる
リッチの頭をくわえ、口に風を集め始めた

リッチは慌てた素振りで俺を投げ飛ばし、アヌビスを振り払った

「ミストラル・ガルムめ...貴様がなぜ人間に味方するのだ」

アヌビスはリッチを見つめながら、全身の毛を逆立てて話し出した

「ボクはこの人間が好きなんだ、うまい飯もくれるんだ」

リッチは少し怯えたように反論した

「食い意地のはった犬め...」

リッチとアヌビスの戦いが始まった
俺たちの周りの台風はより一層勢いを増し
リッチを逃がすまいと荒々しくうねる風となって水や木、あらゆるものを巻き上げ始めた

リッチが指をアヌビスにかざす
アヌビスはどこからともなく燃え上がり、炎に包まれる

アヌビスは炎をものともせず、リッチへ突進した
腕へかみつくと風が口に集まり、リッチの腕を吹き飛ばした

リッチは唸りながら宙でよろけるように左右へ体が揺れる
アヌビスの体の炎はいつの間にか消えていた

リッチはさらに残った腕でアヌビスを指さした
強烈な風の刃が放たれ、アヌビスに向かう
だがアヌビスは避けようともせず、風を受け止めた
アヌビスが風の刃を受けた瞬間、風は霧散してしまった

リッチは悔しそうに語りだす

「くっ風の魔術では貴様に敵わんか...」

リッチはさらにアヌビスを指さした

「これならばどうだ!」

アヌビスの周りに水が集まり、アヌビスが水に包まれる

「フハハ、内側から風は使えまい、窒息してしまえ!」

アヌビスは抵抗することもなく、水の中を漂っている
アヌビスの目が赤く光り、アヌビスを包む水の周りに激しい風が産まれた

風は際限なくアヌビスの周りに集まり、密度が増していく
激しく回転しアヌビスを包む水を霧に変え始めた

アヌビスは水牢から脱出し、集まった風を大きく開けた口の前に集め始めると、リッチがつぶやいた

「忌々しい犬め...今のままではまだ勝てんか...」

するとリッチは徐々に薄くなり、消えてしまった
アヌビスは風を起こすのをやめ、いつものアヌビスに戻っていった

「フン、逃げるなら勝負するなよ」

俺たちはあまりに次元の違う戦いに開いた口がふさがらなかった
また今回もアヌビスに助けられた、あまりに強大な敵とアヌビスの戦いを見て
俺は不安になった
いつまで助けてくれるんだろう、いつか、俺たちのもとを離れるのではないか、そんな不安が脳裏をよぎる



スケルトンたちはもう起き上がらなくなっていた
俺はリザードマンの生き残りに、族長の意思を伝え、集落へ来るように伝えた

リザードマン達は礼を述べ、巣へ戻っていく

サキュバスたちはアンドラの灰の前でシクシクと泣いている
激しい戦いだった、俺は何もできなかった自分が一層みじめで、悔しい思いをした

正直ショックだ、このままではいつか、俺は築き上げてきたものを全て失う可能性がある
強くなりたい

そんな事を思いながら、集落へ戻る準備を始めた



俺たちは集落へ戻り、家へ向かった
日は落ち、すっかり暗い
家に入ると、まめいとミミが出迎えてくれた

まめいが声を張り上げて話し出した

「おかえり!!キレイなおねーさんたちを連れて帰ってきたのか?ナンパはうまくいったようだな!」
「相変わらずだなお前は、彼女らはサキュバスだ、子宝に恵まれるってよ」
「ほんとうか?男同士でも子供は産まれるようになる?」

BLかよ、あいつ元の世界では腐女子だったのか?
まめいの能天気な会話が傷心の俺たちの心を少しずつ癒してくれた
自分の実力を思い知らされた旅だったが、みんなの笑顔を守るために頑張ろうという気にさせてくれる
そして、厨房からミミが出てきて、夕飯の準備をしながら声をかけてくれた

「おかえりなさい、お疲れですね、今夜はゆっくりなさってください」
「ありがとう、頂くよ」



疲れ果てたのか、夕食を食べた後は自室に入るなりベッドへ横たわると、吸い込まれるように眠った
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