異世界で魔物と産業革命

どーん

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第30話 - 魔神の娘とリッチの行方

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戦争は予想外の乱入があったが、運よく魔王軍の勝利に終わった

今回の成果はほぼリリアナのものだろう
諜報と対策が今回の戦果に最も貢献したと言っていい
人間軍の戦力の割り出し、対策のための戦力増強計画、部隊を分けたことによる効果的な戦術、体系化した組織によるスムーズな連携

これがなかった頃は戦後ほぼ兵隊は残らなかった
運よく流れを魔神が作ったこともあるが、リッチを潰したので運がよかったのか悪かったのかは判断しかねる

英雄たちが増えたことが今回最も戦争が長引いた理由の一つだ
一人運よく消えてくれたのは素直に喜んでおこう

撤退していく人間軍を偵察したところ、英雄は6人に減っていたという報告があった
最後の “崩れる霧” に巻き込まれたか?これも運がいい

連合軍はもう数年先まで出兵できないだろう
小競り合いは続くだろうが、ひとまず、シルヴァン帝国軍という脅威はしばらく立ち直れないだろう、当面の危機は回避した

さすがに懲りて交易まではいかなくとも外交を許してくれるとありがたいが、魔物に対する印象がものすごく悪い国なのでセドリオン貴族国家を攻略するのも悪くない

このあたりはリリアナに任せておこう、彼女のほうがうまくやるだろう



城へ帰還し、翌日くらいにはリッチも戻ってきた
首は森の木の枝に引っかかっていたそうだ
シトリに体は消滅させられたが、腕輪は残っており、リッチに返却された
俺はリッチを労うために魔道塔の一室へ向かう

リッチは首だけでテーブルの上に置かれ、魔神の腕輪と共に佇んでいた

「お疲れ、今回は大活躍だったな、助かったよ」

リッチは不満そうに話し出す

「腕輪の召喚魔神がシトリさまとは...」
「ハハッ、運が悪かったな」

さすがに事情を知る俺は意地悪い笑顔を隠せない
リッチの視線から隠れて笑いを堪えた

「そういえば体は元に戻るのか?」

リッチはため息をつきながら返答した

「少し時間はかかるが元に戻る、いくつか人骨が必要ではあるな」

人骨かぁ...人間軍の亡骸から拝借するしかないか、魔道塔の人達が協力してくれるだろう
シトリと言えば、城に住みたいと言っていたな
俺はそれを聞いたリッチがどんなリアクションをするか見てみたくなった

「そういえば、シトリ殿が城に住みたいと言うので部屋を用意することにしたぞ」

リッチはそれを聞いてガタガタと顎をゆらしながら話した

「ハァァァァ?シトリ様が?貴様は何者だ?竜王といいソロモン王と言いなぜそんなにも神に等しい者たちに愛されるのだ」
「知らん、成り行きでこうなったんだ、それよりシトリ殿が来るんだ、関係値修繕にはちょうどいいだろ?なんとか機嫌を直してもらったらどうだ」

リッチはまた顎をカタカタと揺らし始めた、狙っているのかどうかしらないが少しずつ頭が回っていく姿が面白い

「アワワワ、ワシは見つかるだろうか?いや見つかるじゃろうな...はぁぁぁぁぁ」

思った以上に怯えていているように見えるが絵面が面白くて可哀想にならない

「まぁ、死なないんだから成功するまでリトライすればいいだろ?」
「ぐぅぅ...」

さすがに可哀想だし時々助けてやるか

俺はふと、魔神の腕輪が目に留まった、そういえば、魔神の腕輪は魔神になれる手段だったな、リッチは何をするために魔神になりたかったんだろう

「そういえば腕輪で魔神になれるんだってな?魔神になって何したかったんだ?」
「知っておったのか、知っていながら渡すとは...なかなか肝の座った男だ」

ま、細工したんで

「魔道の研究をしておれば、魔の境地とも言える魔神に憧れるのは必然じゃ、魔道を極め、その先に何があるのか知りたいのは魔道研究者の最も強い欲求であろう」
「へえ、意外とまともな理由だな」

リッチは不満そうにこちらを見て話す

「貴様ワシをなんだと思っておるのだ、魔神となった暁には貴様から滅してやるからな」
「ハハッそれは恐ろしいな、じゃあ前祝いにコレをあげるよ」

俺はろうそくに火を灯し、リッチの頭へ蝋を垂らした後、くっつけた
リッチは顎を使ってぴょんぴょん跳ねながら抵抗する

「やめんか!あぁぁぁ蝋が垂れる!!」

俺はニヤニヤしながら部屋を出た
リッチとはもっと恐ろしい生物のはずだが、あいつは見ていて飽きないな

その後はシトリの部屋を準備するため城へ戻り、ミミに魔神シトリが住む話しを伝え、部屋の準備をしてもらった



翌日

広間を通りかかると、床に魔法陣が描かれ、紫色の電気のようなものがいくつも発生する、しばらく見ていると雷鳴と共にシトリが城の中へいきなり現れた

「はろ~玄人~きたよ~」

かなり驚いた

「シ、シトリ殿、いきなり現れるとは、魔神とは皆そういったものなのでしょうか」

シトリは腰を揺らしながら近づき、抱きついてきた

「ふっふぅ~ん、シトリって呼んでぇ~、敬語もいらなぁ~い」
「そ、そういわれましても...」
「だ~め~、じゃないと~おこっちゃうぞ~」

魔神を怒らせたくはない、大人しく従うことにした

「わ、わかった、とりあえず放してくれ」

雷鳴の音を聞いた城の者たちが駆けつける
シトリは機嫌よさそうに皆に挨拶をする

「でむかえごくろ~、シトリだよ~」

ティルが様子を見て声をかける

「シトリちゃん?」

シトリはティルに気づくと懐かしそうに声をかけた

「あ~、ティルちゃ~ん、おっひさ~!あたし~今日から~いっしょだよ~」

それからしばらくティルとシトリはしばらく話し込んでいた
なかなかキャラの濃い人だ、ティルと親しそうだし、防波堤になってくれるといいが



夕食の時間になり、ティル、まめい、ミミ、リリアナにシトリを紹介した
食事の準備をしていると、まめいが厨房で悲鳴をあげる

「んあぁぁあぁぁぁ!」

何事かと厨房に駆けこむと、まめいが腰を抜かしていた

「なんだ、なにがあった!?」

まめいが涙目で返答する

「スープ、スープが...」

スープ?何があるんだ
俺はスープを煮込んでいる鍋を覗き込んだ、何か白いものが見える

シトリが厨房へ来ると、嬉しそうに話し出す

「かっくしっあじ~」

俺はおそるおそる、白いものを引き上げる...人骨だ!しかも頭
これシトリが入れたのか?発想がヤベー、スープ食えねえぞ

すると人骨がひとりでに揺れ始めた

「アワワワワワワ、シトリ様、お戯れが過ぎますぞ...」

リッチかよ、なんでお前の出汁のスープ飲まなきゃならんのだ

俺はリッチを壁に投げつけた
シトリはゲラゲラ笑っている

「ひっひっひ、あ~、おもしろ~」
「いやいやシトリ、さすがにこれは食べれないだろ」
「え~?リッチは~魔力が濃いから~力が付くよ~?」

ほんとかよ、魔神からするとリッチも食材とは恐れ入る

「玄人~ちょっと、のんでみ~」

俺は強引にシトリにスープを口に入れられた
ぐ、味付けは割といい...それほどマズくはない

すると、先日戦争で消費した魔力が凄い勢いで回復し始めた
魔力の吸収効率がいい

「意外と悪くないな」
「でっしょ~?、作るのは~ちょっと~コツがいるの~」

まめいが興味を示した

「なぁ玄人、あたしも飲んでみたい」

まめいがリッチスープを口にする
すると、まめいの体から光があふれ始めた、ぼんやりと光り始める
まめいは驚きながら俺を見た

「なぁ!これなんだ!?あたしも魔術が使えるのか?」

俺も昔それでファイヤーボール唱えたからな、気持ちはわかるぞ
シトリがそれを見て話し出した

「あれ~?あんた~すごいね~」

どういうことだ?シトリに聞いてみた

「これがなんだかわかるのか?」
「超高度な~障壁~こんなの~あたしでも~使えな~い」

シトリはまじまじと観察した

「でも~これ~この子~最初から持ってた力だね~」
「どういった効果なんだ?」
「う~ん、あらゆるダメージを~小さいダメージに~変換」

なるほど、まめいが崖から牢ごと落ちて平気だったのはこの力か

「たぶん~あたしでも~破れない」
「魔神がそういうほどなのか」
「防ぐ、なら~破れるけど~、変換されちゃうみたい~」

まめいがキラキラしながらシトリを見る

「これすごいのか?あたしも戦えるのか!?」
「あんた~攻撃魔術は~つかえる~?」

まめいはしょんぼりしながら話す

「や、使えないんだぁ、才能ないのかなぁ」
「じゃ~あ~あたしが~おしえたげるよ~」

まめいは嬉しそうに顔をあげ話し出した

「ほんと?嬉しいなぁ、シトリはかっこいいおねぇさんだ!」

シトリはまんざらでもない顔をしながらまめいを撫でた

「かわいいね~、でも~子供が生まれてからにしよ~」

まめいがハッとしながらお腹をさする

「う、うん、そうだった、今は大事にしなきゃ」

まめいもいつか魔術を使えるようになるのか、師匠は魔神か...
いつかシトリが人間軍に放ったようなレーザーをまめいが使えるのかと思うと寒気がする

シトリは魔神で見た目も黒ギャルだ、性格的にみんなと合うか不安だったが夕食を済ませる頃にはすっかりみんなと仲良くなっていた
クルハともよく遊び、割と子煩悩な一面もある

リッチの体はシトリの手により再生された
ただ、毎晩頭をスープの出汁に使う事が条件になったようだ
可哀想なリッチ、もはや完全に食材だ

これから毎晩リッチ出汁のスープかぁ...それはそれで気持ち悪いが効果は高い
リッチ出汁のスープはシトリのひと手間が必要らしいのでスープを作る係になった

夕食が終わり、自室に戻る
今回の戦は大変だったが成果も大きい、しばらく戦争の事は考えなくてもよさそうなので今年は羽を伸ばそう

そういえばまめいのお腹が随分大きくなっていたな
もうすぐ出産するだろう、男の子か、女の子か、新しい家族が増えると思うとワクワクする
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