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一章 ベロリン王国編

本当の特殊能力

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 な、なんだっ!? 急に身体が光り始めたぞ! 異世界の病気かっ!? 俺は何もしてないぞ!

「グルぁああああああ!」

「ぎゃあああ!」

 でっかい狼が涎を撒き散らしながら襲って来た! く、喰われ……って、あれ? 

「な、何やってるんだ? あいつ」

 一足飛びに飛びかかられて喉笛を噛みちぎられるかと思っていたのに、あの狼、コマ送りみたいな動きでめっちゃくちゃ遅いぞ? 襲う気がない……わけないよなぁ。『お前、喰ってやる!』って感じで、大口開けて前脚を広げて飛びかかって来てるんだもん。でも、これだけ遅かったら俺でも余裕で躱せる! 左横に素早く躱して……あ痛っ! つ、爪が頬を掠った! こ、こいつ!

「痛いじゃないか! この野郎!」

「ギャバ……キュ、ギュゥゥ……」

 うげっ! な、なんだ!? この感触はっ! ギトギトの毛皮の感触がしたと思ったら生温かい肉の感触が……

「う、うわぁああ! 腕が、腕が突き刺さってるぅうううう!」

 怒りに任せて突き出した拳は狼の腹を貫通していた。腹の中のぬちゃりとした不快で柔らかい物が手ににへばりついているのがわかる。これって、絶対にアレだよなぁ。か、考えないようにしよう。それより、狼がピクリとも動かなくなったぞ。
 
「こ、これって俺がやったって事か? こんなでかい狼を素手で? う、嘘だろ? そんな馬鹿な、うっ……!」

 な、なんだ? 急に眩暈と脱力感が……立ってられない。助かって緊張の糸が切れたのか。こんなでかい狼に襲われて助かったんだから当然と言えば当然か。
 地面に横たわった狼は改めて見ても本当にでかかった。狼なんて子供の頃に行った動物園でしか見た事ないからわからないけど、明らかに俺が知っている狼よりはでかい。本当によく生き残れたもんだよ。先に済ませてなかったら確実に漏らしてたね。

「助かったんなら何でもいいか。しかし、一体何が起こったんだ?」

 襲いかかってくる狼を避けて腹を拳で突き破るなんて、俺に出来るわけがない。平日は朝から晩まで会社勤めで、休日はずっと寝ているかスマホいじってるだった。特に鍛えているわけもないし、鍛えていたとしても狼の腹を突き破るなんて出来るわけがない。命拾いしたのは有難いけど、自分の身に何が起こったかわからないのは怖いなぁ。何か調べる方法は……そうだ! 鑑定があるじゃないか! 自分自身を鑑定すれば何かわかるかもしれないぞ!
 
「よし、頼むぜ! 【鑑定】」

 詠唱と共に自分の前に半透明のウィンドウが現れた。えっと……なになに。

 セイゴ・シノアザ 30歳 男 人間種
 レベル5
 HP   (体力)  100 
 MP  (魔力)  50
 STR(筋力)  75
 AGI  (敏捷)  60
 DEX(器用)  80
 TEC(技量)        75
 INT(知力)         60
 RINT(抵抗力)   50
 LUC(幸運)        50
 
 特殊能力タレント 四字熟語 
 能力スキル 鑑定

 こ、これが俺のステータスか! すげぇ、本当にゲームみたいじゃないか! でも……なんだ? この特殊能力タレント【四字熟語】って。確かに俺は四字熟語とかは好きでよく調べてたけど、それが特殊能力タレントって、どういう意味だ? わけがわからないぞ。
 
「ん? よくわからない? あっ! そうか! 大臣の言っていた『わけのわからない特殊能力タレント』って、これの事だったのか! そうだよ! 異世界の人が昭和の末期に日本で広まった四字熟語なんて知るわけないもんなぁ」

 確信はないけど、それなら辻褄が合う。それにさっきの力もこの特殊能力タレントの力だったんじゃないか? あの時、俺がたまたま口にした【窮鼠嚙猫きゅうそごうびょう】。あれは弱い者でも追い詰められると強い者に反撃するって意味の言葉だ。その意味が特殊能力タレントとして発動して、何らかの力が俺に加わったから狼に勝てたと考えられる。ゲーム的に言えばバフがかかったって感じかな? 身体が光ったのは効果が発動したからか。なるほどね。
 
「そして、レベル10の森狼を倒した事で俺はレベルが5に上がったわけだ。ステータスにばらつきがあるのは、レベルが上がった事でステータスが上昇したからってとこか。益々ゲームみたいだな。あれ? そういえば特殊能力タレントは【四字熟語】だけで、鑑定は能力スキルになってるぞ? 違うものなのか? まぁいいか。特殊能力タレント能力スキルがどう違うかまではわからないけど、とりあえず発動できるなら問題ないね」

 レベルにステータス、特殊能力タレント能力スキルか。本当にゲームの世界みたいだ。いいね。これこそが俺が望んだ世界なのかもしれない。周りから変だと思われないようにやりたくもない仕事を繰り返し、他人の顔色ばかり窺うだけの日々。下剋上も逆転もない、同じ立ち位置で生かされるだけの人生を強要されるくらいなら、命の危険があろうとも一発逆転を狙える方がいい。この世界では冒険するのも商売をするのも何をするのも、全て俺の自由だ! この世界を俺はこの特殊能力タレント【四字熟語】で生き抜いてやる! 俺の人生はつまらないまま終わらないって事を証明してやるんだ!

「よおし! やってやるぜぇえええ!」
 
 ぐぅううう、きゅるるるるるる~
 
 気の抜けた音が俺の新たな門出に水を差した。は、腹が減った……このままじゃ餓死しちゃう。さすがに鳴蝉潔飢めいせんけっきとはいかないよなぁ。
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