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仮想世界の学園へ
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とりあえず服を着なければならない。裸で外を歩いていたら、猥褻うんたら罪なんかで、セキュリティ会社から注意されるかもしれない。
「なにか着るものはある?」
「オヌシの端末にデータを送ったから、解凍しておけ」
「りょ」
端末を開く。ノウノの目の前にディスプレイが開く。服装データファイルが送られていた。開く。学生服があった。
「学生服?」
「うむ。オヌシにはこれから、ヴェンヴ学園に行ってもらう。VDOOLたちが属する学園で、VDOOL同士のバトルが盛んに行われておる」
「編入できんの?」
「バックアップしてる企業と、アバターがあれば編入できる。そこには女王もいるし、フォロワーを集めるのにも最適じゃからな」
カメラ小僧は老獪な口をきくくせに、声音は澄んだ女性のものである。
話していると、少しばかり違和感があった。
「いよいよ、女王にリベンジってわけね。殴り込みに行くわよ」
アバターの調子を確かめるように、ノウノは腕をぶんぶんと振り回した。
周囲に浮かんでいるディスプレイに腕が当たって、ディスプレイが一時的にノイズを発生させていた。
「学園に編入しても、女王とすぐには対決できんじゃろうけどな。学園には学園のルールがある」
「そうなんだ」
「そういうわけじゃからな、学生服を着ておけ」
「わかった」
ディスプレイに投影されている学生服をタッチすると、アバターに学生服が着せられた。白いワイシャツに白黒ギンガムチェックのミニスカート。その場で一回転してみる。スカートが自然に揺れる。アバターとの動きもちゃんと連動している。布物理計算も完璧である。
「このアバター、最高!」
服を上手に着こなせると、テンションが上がる。前までノウノが使っていたウサギの着ぐるみとは大違いである。
主人を失って、ウサギの着ぐるみは寂しげに佇んでいた。自作のアバターだし、長年使ってきたので、愛着がある。
寂しげにたたずんでいるウサギの頭を、ぽんぽんと軽く叩いた。
「吾輩のモデリングは完璧じゃからな。なにせ、あのエルシノア嬢を開発したんじゃから。ロジカルンのアバターなぞ、敵ではないわ」
と、エダは誇らしげにそう言って続けた。
「それじゃあ学園へアクセスするぞ」
「オッケー」
ディスプレイとカプセルだけのある、真っ暗闇の空間に扉がひとつ現れた。
エダはその扉を開けて外に出て行った。
扉はエダの大きさに合わせているのか、ノウノにはすこし小さかった。身を屈めて通り抜ける必要があった。
外に出る。
森だった。
セミの鳴き声が聞こえた。広葉樹が周囲に茂っていた。木々の隙間から、まだら模様に陽光が差し込んでいる。鮮やかな緑の葉っぱが、風に揺られてザワついていた。
青々とした匂いのなかに、花の蜜のような甘い香りがふくまれている。足元には乾いた砂。ローファーで軽く蹴飛ばすと、砂がさらさらと舞い上がる。
すべて作り物である。セミはいる。人工知能を搭載しており、おそらくロジカルン製品のアバターのセミである。
仮想世界だから偽物ということはない。偽物だの本物だという話でなくて、作り物だということだ。
この森に限った話ではない。恒星も、空も、風も、すべてが作り物である。でもまぁ、古代の人たちが生活していた地球という惑星も、自然現象による作り物であるし、人間だって原子の作り物であったらしいから、現実世界と何が違うのかと問われると、上手く説明することは難しい。
っていうか、ノウノを含めて、この世界で生きている人にとっては、ここが現実世界である。
ノウノは生まれたときから、仮想世界の住人である。地球という惑星や現実世界のことを見たことはない。知識として知っているだけだ。
「ここが、ヴェンヴ学園のエンドポイント。つまりはログインする場所じゃな」
エンドポイントという言葉は、いろんな意味がある。端末のことを意味することもあれば、アドレスを意味することもある。
この場合は、学園の入口的な意味だろう。
エダが歩いて行く。エダは身体が小さいために、歩幅が小さい。あらためて見ると、歩き方もギコちない。
意識が破損しているとか何とか言っていたから、そのせいかもしれない。
「よっこいしょ」
と、ノウノはエダのことを抱えあげた。
「おわっ。何をするか!」
「歩くの辛そうだったから、私が運んだほうが良いでしょ」
「う、うむ。そうじゃな」とエダは、照れくさそうにうなずいた。「それでは、このまま真っ直ぐ進んで行くと良い。校舎が見えてくるはずじゃ」
と、エダは正面を指差した。
エダの身体は小さいし、たいして重量もない。簡単に持ち上げることが出来た。エダのことが、なんだかとても脆弱な存在に感じられた。
「なんだか、至れり尽くせりって感じね」
「なにがじゃ?」
「だって、私ってつい先日まで、VDOOLの応募に落ちまくってたんだよ。それなのに、こんな立派なアバターがもらえて、おまけに学園にまで入れるってんだからさ」
「お互いさまじゃ。吾輩も、味方をしてくれる、優秀な人間を探しておった。危険を承知で、吾輩に協力してくれるのじゃから、吾輩にとってオヌシの存在は都合が良かった」
たしかに、危険ではあるのだろう。
女王をバックアップしているロジカルンの不正を暴こうというのだ。
でも。
「悪いことしてるのは、向こうなんでしょ。だったら良いじゃない」
「なにをもって悪いことかと判断するのは、難しいことじゃがな」
「女王のフォロワーを超えたら、垢BANされるなんて、悪いことに決まってるじゃない」
「しかし、実際はそうではない。女王はみんなから称賛され続けているし、悪かったのはエルシノア嬢だと言われておるじゃろ」
「そりゃだって、みんな真実を知らないからね」
「吾輩が真実を語ったところで、信じてくれる者は少ないじゃろう。何が真実かは、フォロワー数の多い者が決める」
「そのために、私にインフルエンサーになれってんでしょ。わかってる。もとからそのつもりだったし」
フォロワーは、存在のステータス。イイネは幸福の証。誰かにフォローしてもらったときにだけ、生きている実感を得ることが出来る。それが手に入るためなら、ノウノは悪魔とだって手を組むつもりである。
どうしてノウノが、そういう思想を抱いているのかという質問は、まったくの無意味である。
人はどうして眠るのか、という質問と同じだ。「ESTEEM!」。人として当然の欲求である。
「見えたぞ」
と、エダが言った。
森を抜けた。空を覆っていた葉がなくなり、日差しがいっきに強くなったように感じた。何度か瞬きをした。正面。まるで中世ヨーロッパの城塞みたいな建造物があった。
RGBの値が全部80ぐらいの色。つまり、ちょっと濃いめの茶色の建物だった。地面には石畳が敷かれている。石畳は、城門棟へとまっすぐ伸びていた。
ノウノのほかにも、アバターたちが行き来している。特徴的なのは、アバターのほとんどが人型だということだ。
「人型ばっかりね」
「人型がいちばん需要があるからな」
「なるほどね」
しかし、すべてが人型というわけではない。なかには、下半身が蛇になっている者もいたし、下半身が多足になっている者もいた。
多足型は、ふつうの人間よりも稼働部位が多いから、計算が大変そうだな、と思った。
ノウノも生徒たちのなかに紛れ込んだ。流れに従うように、城門棟をくぐり抜ける。広場。廃墟なのかオブジェクトなのか、半壊した建物がいくつも建造されていた。
「ここは?」
「学園のグラウンドじゃな。ここにいるアバターたちは、みんな企業のバックアップを受けているVDOOLじゃ。VDOOL同士のバトルが盛んに行われておる」
たしかにエダの言うように、すでにバトルが行われているようだ。
廃墟の屋根のうえに飛び乗っているレーザー光線を放っている宇宙服アバターがいた。
中世騎士の恰好をしたアバターは、盾でその光線を防いでいた。
廃墟は、戦闘に使うためのオブジェクトというか、地形なのだろう。ハンマーで柱を叩こうが、機関銃をぶっ放そうが、地形に破損は起こらない。ノイズが走るだけである。
宇宙服と中世騎士の戦いを、ノウノは見ていた。二人の頭上には、ディスプレイが浮かんでいる。ディスプレイには「フォロワー数」が表示されている。宇宙服のフォロワーは「3200」。中世騎士のフォロワーは「3800」。その数字が上下している。
「戦闘の様子は配信されている。それを見ている視聴者たちが、戦闘の様子を見てフォローする」
と、エダが教えてくれる。
レーザー光線を撃って距離をとっていた宇宙服に、中世騎士がいっきに距離を詰めていた。中世騎士の剣が、宇宙服を斬りつけていた。宇宙服が一刀両断されていた。アバターであるから、べつに流血描写などはない。
ただ、宇宙服が両断されただけである。中世騎士が勝利したようだ。宇宙服のフォロワーが3000から1500まで半減していた。
それに対して、勝利した中世騎士のフォロワーが、3000から5000にまで上がっていた。
「中世騎士が勝ったみたいね」
「勝利すれば、フォロワーも増える。優れたアバターであるという証明になるからな。それだけ市場価値が上がるというわけじゃ。バックアップしている企業の宣伝にもなる」
「まあ、そうよね」
みんな優れたアバターが欲しいのだ。
「逆に負ければ、フォロワー数は下がることが多い。企業のイメージダウンにもなるわけじゃな」
「フォロワー数は戦闘力みたいなものね」
「そうとも言えるかもな。優れたアバターであればあるほど、フォロワーがつくからな」
自分のアバターこそが優秀である――と、その証明をバトルで行うのがVDOOLである。そしてその最高峰にいるのが女王だ。
女王のフォロワーは、いま300万である。
それに比べれば、宇宙服も中世騎士も雑魚と言える。しかし、ノウノと比べると、「3000」というフォロワーはすごい数である。
ノウノは0から10のあいだを行ったり来たりしているレベルである。頻繁に更新すれば二桁はゆくかもしれないが、しばらく休むとすぐにフォロワーは0になる。
「潰されたアバターは、どうなるのかしら」
一刀両断された宇宙服を、ノウノは見つめた。まわりにいた人たちに回収されている。
「バックアップしてる企業が、また修復するんじゃろう」
「私も壊されないように気をつけなくちゃね」
「そうしてくれると、ありがたい。吾輩もできれば修復作業はしたくないからな」
エダのことを抱えている、自分の身体の感覚に意識を向けてみる。今のところ、動きに不便は感じない。ウサギの着ぐるみより、はるかに着心地が良い。だが、実戦となると、どうなるかわからない。
「みんな在校生だよね?」
「じゃろうな」
「編入手続とかって、どこでするんだろ?」
「編入手続きは、校舎に入って右手の通路を行くと良い」
と、正面に見えている中世の城みたいな建物を、エダは指差した。
「詳しいんだ?」
「エルシノア嬢が、ここに在学していた時代に、吾輩もここに来たことがある」
「エダは大丈夫なの?」
「なにがじゃ?」
「だって、エルシノア嬢は垢BANされてて、その企業クロディアスは解体されてるんでしょ」
「うむ」
「エダはロジカルンから、目をつけられたりしてないわけ?」
「いろいろと複雑な身の上じゃが、端的に言うと、吾輩は指名手配中じゃ」
「へ、へぇ」
反応に困る。
安心せい、とエダは言った。
「吾輩もアバターを変えておる。この姿は誰にも知られておらんし、エルシノア嬢の開発者が吾輩であることも秘密じゃ」
「なるほど」
正直、エダのことは、まだ得体の知れないところがある。何か隠しているような気がするのだ。
けれど、こんなに立派なアバターを与えてくれたんだし、ノウノなんかのバックアップに付いてくれるのだから、文句は言うまいと思っていた。
デザインが最高であることに違いはないのだ。こうしている今も、周りの視線を感じる。この美しいデザインに、魅入られているのだとわかる。
編入手続きをするために、足を進めた。
「なにか着るものはある?」
「オヌシの端末にデータを送ったから、解凍しておけ」
「りょ」
端末を開く。ノウノの目の前にディスプレイが開く。服装データファイルが送られていた。開く。学生服があった。
「学生服?」
「うむ。オヌシにはこれから、ヴェンヴ学園に行ってもらう。VDOOLたちが属する学園で、VDOOL同士のバトルが盛んに行われておる」
「編入できんの?」
「バックアップしてる企業と、アバターがあれば編入できる。そこには女王もいるし、フォロワーを集めるのにも最適じゃからな」
カメラ小僧は老獪な口をきくくせに、声音は澄んだ女性のものである。
話していると、少しばかり違和感があった。
「いよいよ、女王にリベンジってわけね。殴り込みに行くわよ」
アバターの調子を確かめるように、ノウノは腕をぶんぶんと振り回した。
周囲に浮かんでいるディスプレイに腕が当たって、ディスプレイが一時的にノイズを発生させていた。
「学園に編入しても、女王とすぐには対決できんじゃろうけどな。学園には学園のルールがある」
「そうなんだ」
「そういうわけじゃからな、学生服を着ておけ」
「わかった」
ディスプレイに投影されている学生服をタッチすると、アバターに学生服が着せられた。白いワイシャツに白黒ギンガムチェックのミニスカート。その場で一回転してみる。スカートが自然に揺れる。アバターとの動きもちゃんと連動している。布物理計算も完璧である。
「このアバター、最高!」
服を上手に着こなせると、テンションが上がる。前までノウノが使っていたウサギの着ぐるみとは大違いである。
主人を失って、ウサギの着ぐるみは寂しげに佇んでいた。自作のアバターだし、長年使ってきたので、愛着がある。
寂しげにたたずんでいるウサギの頭を、ぽんぽんと軽く叩いた。
「吾輩のモデリングは完璧じゃからな。なにせ、あのエルシノア嬢を開発したんじゃから。ロジカルンのアバターなぞ、敵ではないわ」
と、エダは誇らしげにそう言って続けた。
「それじゃあ学園へアクセスするぞ」
「オッケー」
ディスプレイとカプセルだけのある、真っ暗闇の空間に扉がひとつ現れた。
エダはその扉を開けて外に出て行った。
扉はエダの大きさに合わせているのか、ノウノにはすこし小さかった。身を屈めて通り抜ける必要があった。
外に出る。
森だった。
セミの鳴き声が聞こえた。広葉樹が周囲に茂っていた。木々の隙間から、まだら模様に陽光が差し込んでいる。鮮やかな緑の葉っぱが、風に揺られてザワついていた。
青々とした匂いのなかに、花の蜜のような甘い香りがふくまれている。足元には乾いた砂。ローファーで軽く蹴飛ばすと、砂がさらさらと舞い上がる。
すべて作り物である。セミはいる。人工知能を搭載しており、おそらくロジカルン製品のアバターのセミである。
仮想世界だから偽物ということはない。偽物だの本物だという話でなくて、作り物だということだ。
この森に限った話ではない。恒星も、空も、風も、すべてが作り物である。でもまぁ、古代の人たちが生活していた地球という惑星も、自然現象による作り物であるし、人間だって原子の作り物であったらしいから、現実世界と何が違うのかと問われると、上手く説明することは難しい。
っていうか、ノウノを含めて、この世界で生きている人にとっては、ここが現実世界である。
ノウノは生まれたときから、仮想世界の住人である。地球という惑星や現実世界のことを見たことはない。知識として知っているだけだ。
「ここが、ヴェンヴ学園のエンドポイント。つまりはログインする場所じゃな」
エンドポイントという言葉は、いろんな意味がある。端末のことを意味することもあれば、アドレスを意味することもある。
この場合は、学園の入口的な意味だろう。
エダが歩いて行く。エダは身体が小さいために、歩幅が小さい。あらためて見ると、歩き方もギコちない。
意識が破損しているとか何とか言っていたから、そのせいかもしれない。
「よっこいしょ」
と、ノウノはエダのことを抱えあげた。
「おわっ。何をするか!」
「歩くの辛そうだったから、私が運んだほうが良いでしょ」
「う、うむ。そうじゃな」とエダは、照れくさそうにうなずいた。「それでは、このまま真っ直ぐ進んで行くと良い。校舎が見えてくるはずじゃ」
と、エダは正面を指差した。
エダの身体は小さいし、たいして重量もない。簡単に持ち上げることが出来た。エダのことが、なんだかとても脆弱な存在に感じられた。
「なんだか、至れり尽くせりって感じね」
「なにがじゃ?」
「だって、私ってつい先日まで、VDOOLの応募に落ちまくってたんだよ。それなのに、こんな立派なアバターがもらえて、おまけに学園にまで入れるってんだからさ」
「お互いさまじゃ。吾輩も、味方をしてくれる、優秀な人間を探しておった。危険を承知で、吾輩に協力してくれるのじゃから、吾輩にとってオヌシの存在は都合が良かった」
たしかに、危険ではあるのだろう。
女王をバックアップしているロジカルンの不正を暴こうというのだ。
でも。
「悪いことしてるのは、向こうなんでしょ。だったら良いじゃない」
「なにをもって悪いことかと判断するのは、難しいことじゃがな」
「女王のフォロワーを超えたら、垢BANされるなんて、悪いことに決まってるじゃない」
「しかし、実際はそうではない。女王はみんなから称賛され続けているし、悪かったのはエルシノア嬢だと言われておるじゃろ」
「そりゃだって、みんな真実を知らないからね」
「吾輩が真実を語ったところで、信じてくれる者は少ないじゃろう。何が真実かは、フォロワー数の多い者が決める」
「そのために、私にインフルエンサーになれってんでしょ。わかってる。もとからそのつもりだったし」
フォロワーは、存在のステータス。イイネは幸福の証。誰かにフォローしてもらったときにだけ、生きている実感を得ることが出来る。それが手に入るためなら、ノウノは悪魔とだって手を組むつもりである。
どうしてノウノが、そういう思想を抱いているのかという質問は、まったくの無意味である。
人はどうして眠るのか、という質問と同じだ。「ESTEEM!」。人として当然の欲求である。
「見えたぞ」
と、エダが言った。
森を抜けた。空を覆っていた葉がなくなり、日差しがいっきに強くなったように感じた。何度か瞬きをした。正面。まるで中世ヨーロッパの城塞みたいな建造物があった。
RGBの値が全部80ぐらいの色。つまり、ちょっと濃いめの茶色の建物だった。地面には石畳が敷かれている。石畳は、城門棟へとまっすぐ伸びていた。
ノウノのほかにも、アバターたちが行き来している。特徴的なのは、アバターのほとんどが人型だということだ。
「人型ばっかりね」
「人型がいちばん需要があるからな」
「なるほどね」
しかし、すべてが人型というわけではない。なかには、下半身が蛇になっている者もいたし、下半身が多足になっている者もいた。
多足型は、ふつうの人間よりも稼働部位が多いから、計算が大変そうだな、と思った。
ノウノも生徒たちのなかに紛れ込んだ。流れに従うように、城門棟をくぐり抜ける。広場。廃墟なのかオブジェクトなのか、半壊した建物がいくつも建造されていた。
「ここは?」
「学園のグラウンドじゃな。ここにいるアバターたちは、みんな企業のバックアップを受けているVDOOLじゃ。VDOOL同士のバトルが盛んに行われておる」
たしかにエダの言うように、すでにバトルが行われているようだ。
廃墟の屋根のうえに飛び乗っているレーザー光線を放っている宇宙服アバターがいた。
中世騎士の恰好をしたアバターは、盾でその光線を防いでいた。
廃墟は、戦闘に使うためのオブジェクトというか、地形なのだろう。ハンマーで柱を叩こうが、機関銃をぶっ放そうが、地形に破損は起こらない。ノイズが走るだけである。
宇宙服と中世騎士の戦いを、ノウノは見ていた。二人の頭上には、ディスプレイが浮かんでいる。ディスプレイには「フォロワー数」が表示されている。宇宙服のフォロワーは「3200」。中世騎士のフォロワーは「3800」。その数字が上下している。
「戦闘の様子は配信されている。それを見ている視聴者たちが、戦闘の様子を見てフォローする」
と、エダが教えてくれる。
レーザー光線を撃って距離をとっていた宇宙服に、中世騎士がいっきに距離を詰めていた。中世騎士の剣が、宇宙服を斬りつけていた。宇宙服が一刀両断されていた。アバターであるから、べつに流血描写などはない。
ただ、宇宙服が両断されただけである。中世騎士が勝利したようだ。宇宙服のフォロワーが3000から1500まで半減していた。
それに対して、勝利した中世騎士のフォロワーが、3000から5000にまで上がっていた。
「中世騎士が勝ったみたいね」
「勝利すれば、フォロワーも増える。優れたアバターであるという証明になるからな。それだけ市場価値が上がるというわけじゃ。バックアップしている企業の宣伝にもなる」
「まあ、そうよね」
みんな優れたアバターが欲しいのだ。
「逆に負ければ、フォロワー数は下がることが多い。企業のイメージダウンにもなるわけじゃな」
「フォロワー数は戦闘力みたいなものね」
「そうとも言えるかもな。優れたアバターであればあるほど、フォロワーがつくからな」
自分のアバターこそが優秀である――と、その証明をバトルで行うのがVDOOLである。そしてその最高峰にいるのが女王だ。
女王のフォロワーは、いま300万である。
それに比べれば、宇宙服も中世騎士も雑魚と言える。しかし、ノウノと比べると、「3000」というフォロワーはすごい数である。
ノウノは0から10のあいだを行ったり来たりしているレベルである。頻繁に更新すれば二桁はゆくかもしれないが、しばらく休むとすぐにフォロワーは0になる。
「潰されたアバターは、どうなるのかしら」
一刀両断された宇宙服を、ノウノは見つめた。まわりにいた人たちに回収されている。
「バックアップしてる企業が、また修復するんじゃろう」
「私も壊されないように気をつけなくちゃね」
「そうしてくれると、ありがたい。吾輩もできれば修復作業はしたくないからな」
エダのことを抱えている、自分の身体の感覚に意識を向けてみる。今のところ、動きに不便は感じない。ウサギの着ぐるみより、はるかに着心地が良い。だが、実戦となると、どうなるかわからない。
「みんな在校生だよね?」
「じゃろうな」
「編入手続とかって、どこでするんだろ?」
「編入手続きは、校舎に入って右手の通路を行くと良い」
と、正面に見えている中世の城みたいな建物を、エダは指差した。
「詳しいんだ?」
「エルシノア嬢が、ここに在学していた時代に、吾輩もここに来たことがある」
「エダは大丈夫なの?」
「なにがじゃ?」
「だって、エルシノア嬢は垢BANされてて、その企業クロディアスは解体されてるんでしょ」
「うむ」
「エダはロジカルンから、目をつけられたりしてないわけ?」
「いろいろと複雑な身の上じゃが、端的に言うと、吾輩は指名手配中じゃ」
「へ、へぇ」
反応に困る。
安心せい、とエダは言った。
「吾輩もアバターを変えておる。この姿は誰にも知られておらんし、エルシノア嬢の開発者が吾輩であることも秘密じゃ」
「なるほど」
正直、エダのことは、まだ得体の知れないところがある。何か隠しているような気がするのだ。
けれど、こんなに立派なアバターを与えてくれたんだし、ノウノなんかのバックアップに付いてくれるのだから、文句は言うまいと思っていた。
デザインが最高であることに違いはないのだ。こうしている今も、周りの視線を感じる。この美しいデザインに、魅入られているのだとわかる。
編入手続きをするために、足を進めた。
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