5 / 19
勇者編
5
しおりを挟む
俺が小説を書く理由の8割は下心である。
9割から8割へと、下心が減少を見せているではないか!
これは我ながら興味深い気持ちの揺らぎであった。
N番書庫の魔女である椎名先輩に入部を断られてしまい、俺の野望は潰えたかに見えた。実際、数日は潰えていた。自暴自棄になって、アイスを3つも食べて、お腹を壊してしまったほどだ。しかし腹痛から快復すると、まるで生まれ変わったように気持ちもサッパリしていた。
潰えたと言っても、べつにバベルの塔に雷が落っこちたわけではない。椎名先輩は「また作品を持って来てください」と言ったのだ。まだチャンスはあるということである。
そこで下心の代わりに生まれたのは、「もうちょっと面白い小説を書いて見せようではないか」という気持ちであった。
とはいえ、いまだ8割下心ではある。
作品を書いて、持って行けば、椎名先輩と話をする機会が得られるということだ。
消極的有性生殖動物である俺にとって、異性と話をする機会など滅多にないのだ。この好機。ふいにするわけにはいかぬ。地球生物たちがあの手この手で、異性を物にしようとしているなか、手をこまねいているわけにはいかぬ。こまねく手があれば、さっさと筆を進めようと決意した。
で。
大木荘。自室。
1万円をはたいて購入した中古のパソコンの前に、俺は座り込んでいた。決意したは良いものの、1文字たりとも進まない。大陸でももうちょい速く進むだろう。
「苦戦しているようだな。コウコウセイ殿」
机に端に腰かけている勇者がそう言った。
勇者。
異世界より訪れし勇者である。
ただし小人である。
俺の部屋には、異世界へと通じる穴がある。穴があったら入りたいと言うが、俺の心境たるや、まさにその額面通りのままである。今すぐにでも、心躍る大冒険にくりだしたい。冒険者になって、モンスターをなぎ倒していったり……どこぞの貴族に雇われて、他貴族との政争に明け暮れたり……地球文明をかさに着て、一国一城の主になったり……。
夢はふくらむものの、なかなか異世界へ足を踏み出せないでいる。踏み出せない原因は、いたってシンプル。出入口が小さすぎるのである。
人差し指から小指までは通るが、親指までは入らない。その程度の大きさなのだ。
「俺の身体が、もうすこし小さければ、さっさと異世界へ行くんだけどな」
「なあに。コウコウセイ殿が向こうへ行く間でもない。ここに居ながらも、コウコウセイ殿の活躍は、向こうにまでちゃんと行き届いている」
「俺の活躍?」
「コウコウセイ殿がくれたカレーのおかげで、飢餓から解放されたのだ。カレーを輸入することによって、我が国は確固たる基盤を築きあげることに成功したのだ」
「おめでとう」
香辛料諸島から、香辛料を英国に持ち帰ったフランシス・ドレークのように、勇者は異世界にカレーを運び込むことに成功したらしい。
「何はともあれ、飢えをしのいだ我らは、ふたたびチカラを取り戻し、魔王軍を押し返しはじめたのだ」
「そりゃ喜ばしい」
「魔王軍に占拠されていた国境砦を2つも取り返した。これもすべて、コウコウセイ殿のおかげだ、と向こうでは話題になっている」
「へえ」
と、生返事。
むかしむかしあるところに――と話を切り出され、いちいち相槌を打つやつはいない。いるかもしれないが、俺は打たない。他人が物語っているときは、大人しく聞く性質だった。それと同じだ。異世界の話など、足を踏み入れられないのなら、昔話と大差ない。
俺は机の下を覗き込んだ。
平積みにされた書籍の奥の壁穴。
異世界への入口。
著名な学者先生にでも見せれば、何かしらわかるのかもしれない。コヒーレンスだとか、カフェインレスだとか、小難しい理屈を並べ立てて、穴の正体をきれいサッパリと解明してくれるかもしれない。そうなりゃ、穴を広げることも出来るだろう。
物理学者のファイマンは言った。「作れてはじめて理解したって言うんや」と。ならば、解明さえされれば、自在に穴を作ることだってできよう。そこいらに穴を開けまくって、軌道エレベーターより先に、異世界エスカレーターが出来るのも夢ではない。
異世界へ通じる穴が開通してくれるのは、俺にとっても喜ばしいことである。
が――。
しかし。
悪くはないが、この穴を世間に公表しても良いものか、という悩みもある。
世間に公表でもしてみろ。そりゃもう、政府の人たちが大挙して押しかけてくるに違いない。この大木荘は、しかるべき学術機関に引きわたされることになるだろう。最終的に、学者たちの研究によって、この穴がよしんば解明されたとしても、だ。そのときには、俺でない誰かが最初に、異世界へと足を踏み入れていることだろう。
異世界へ最初に足を踏み入れるのはこの俺でなくてはいかぬ、という使命感を抱いているのだ。その使命感の強さたるや、月面に足をつけたアームストロングに負けぬ自負がある。異世界転移の特権を、他人に奪われてなるものか。
そう考えると、やはり黙っているほうが良い、という結論にいたる。
「コウコウセイ殿は、それほどまでに、私の国へ行きたいのか?」
と、勇者は首をかしげた。
「何か行く手段でもあるのか?」
「いいや。私には思いつかぬ」
「魔法とかあるんじゃないのか? 身体を小さくする魔法とかないのか?」
「魔法はある。しかし、図体を変化させる魔法など、私は聞いたことがない」
「魔法はあるのか?」
「うむ」
「なにか使って見せてくれよ」
魔法などという怪異は、そうそうあってはならない。そんなものが存在したら、熱力学うんちゃら法則とやらが、どうにかなってしまう。うんちゃらがどうなるかは、わからぬが、いちおう俺とて現代人だ。安っぽい手品などには騙されぬ。弁惑物さながらに、その種を暴いて見せようではないか。
机の上に立つ勇者に目を凝らし、耳をすました。
「これでどうであろうか?」
と、勇者は手のひらに、炎を発生させて見せた。
「ほほっ!」
と、俺は喜悦の声を漏らした。
間違いなく魔法である。
今日をもってして、熱力学うんちゃら法則は、どうにかなってしまった。
「たいした魔法ではないが」
と勇者は照れるように、そそくさと魔法を消し去った。
「いやいや、たいしたものだったよ。俺には魔法が使えないからね」
「コウコウセイ殿にも、そのような欠点があるのだな。しかし、気を落とすことはない。人には誰しも欠点があるものだから」
「いや。慰められるにはおよばないよ。俺の欠点は、魔法を使えないというただその一点だけだから」
「ふふっ。それは頼もしい御仁だ」
と、勇者は微笑んだ。
その微笑みに、俺はちょっと心揺らぐものがあった。
ブロンドに碧眼。現実離れした美女である。
百歩ゆずって、異世界へ行けないにしても、だ。せめて人間サイズであって欲しかった。勇者のこの美貌で、人間サイズだったならば、それはもう凄まじい美女だっただろう。クレオパトラの鼻が3センチ高かったら歴史が変わっていたと言う。勇者よ。君の身長があと160センチほど高かったら、それはそれで歴史が変わっていたことだろう。椎名先輩には申し訳ないが、俺の気持ちも揺らいでいたことだろう。
「勇者はどうして勇者なんだ?」
「はて。どういう意味だろうか?」
と、勇者は首をかしげた。
ブロンドの長髪がはらりと揺れる。
「生まれたときから勇者ってわけでもないんだろ? どうしてその地位におさまることになったのかと思ってさ」
「私は、もともと農村の生まれだった。家は貧しく、食う物も少なかった。そこで冒険者になって、すこしでも稼ごうと決意したわけだ」
「なるほど。その決意には、親近感があるな」
俺も、高校2年生という時間を、有意義に過ごそうと決意して、こうしてノートパソコンを前にすることになったのだ。
「そして冒険者としてモンスターを討伐していくうち、私の武勇が広まっていった。モンスターに困っている村を救い、町を救い、都市を救ってきたのだ。そしてついには国王陛下の耳にまで届いた」
俺の小説も、そのうち世界中に名をとどろかせ、ギルガメッシュ叙述史ぐらい有名になる予定であるから、やはり俺と勇者の境遇は似ている。
「それで勇者に?」
「そう。爵位ではないが、特別な位を用意していただいたのだ。勇者には重要な任務がある。それは、魔王軍総大将である魔王を討つことである」
と、勇者は使命感からか、握りこぶしを固めていた。
異世界。冒険者。モンスター。国王。勇者。耳に入ってくる言葉には、どれも非常になじみがある。実家の間取りでも聞いている気分だ。聞けば聞くほどに、異世界へ訪問したい気持ちに駆られる。
何かの間違いで、穴が大きくなってないだろうか……と、机の下を覗き込んでみるものの、穴は依然小さいままだ。
「勇者は独り身なのか? そもそもそっちの世界に結婚っていうものはあるのか?」
「私の国にも結婚という概念はある。しかし、私は冒険者として身をささげてきたゆえ、独り身だ」
「わかるよ」
戦場に身を置く戦士には、恋だの愛だのと軟弱なことを語る暇はないというわけだ。その境遇には、俺も共感をおぼえる。学生という苛烈な立場にさらされて、女の子とイチャイチャするような余裕はなかったのだ。
「私のことよりもコウコウセイ殿」
「ん?」
「私は先日、こちらの国で奇怪なる生物を発見したのだ」
君がいちばん奇怪なる生物だと思うけどね。
他人の外見を揶揄するというのは低俗きわまった発言であるため、口には出さなかった。
「まあ、俺の部屋には、有象無象の連中がいろいろといるからね。蜘蛛やら蛇やらカエルやら」
部屋を見渡す。
その悪魔の手先どもは、いまのところ鳴りをひそめている。夜になるとヒョッコリ顔を出しやがる。
弁解しておくが、俺が不潔というわけではない。俺が快く迎え入れるのは乳酸菌と納豆菌ぐらいのもので、その他もろもろの不潔なる輩には、お帰りいただいている。ゴキブリやらムカデやらが我が城に出没するのは、俺の警備がゆるいのではなく、大家さんの不手際である。そもそもアパートがボロいのだ。
「我々、冒険者はそういった異形の者たちと戦うことも、また仕事のうちである。良ければ討伐してしんぜよう」
「良いのか?」
「まだコウコウセイ殿にカレーのお返しができていないからな」
「それはありがたい」
害虫駆除に悩まされる日々だったのだ。小人たちが追い払ってくれるのなら、殺虫剤やらなにやらを買い揃える手間もはぶける。
「冒険者組合のほうに、招集をかけてみよう。腕に自信のある冒険者たちが集まってくることだろう」
9割から8割へと、下心が減少を見せているではないか!
これは我ながら興味深い気持ちの揺らぎであった。
N番書庫の魔女である椎名先輩に入部を断られてしまい、俺の野望は潰えたかに見えた。実際、数日は潰えていた。自暴自棄になって、アイスを3つも食べて、お腹を壊してしまったほどだ。しかし腹痛から快復すると、まるで生まれ変わったように気持ちもサッパリしていた。
潰えたと言っても、べつにバベルの塔に雷が落っこちたわけではない。椎名先輩は「また作品を持って来てください」と言ったのだ。まだチャンスはあるということである。
そこで下心の代わりに生まれたのは、「もうちょっと面白い小説を書いて見せようではないか」という気持ちであった。
とはいえ、いまだ8割下心ではある。
作品を書いて、持って行けば、椎名先輩と話をする機会が得られるということだ。
消極的有性生殖動物である俺にとって、異性と話をする機会など滅多にないのだ。この好機。ふいにするわけにはいかぬ。地球生物たちがあの手この手で、異性を物にしようとしているなか、手をこまねいているわけにはいかぬ。こまねく手があれば、さっさと筆を進めようと決意した。
で。
大木荘。自室。
1万円をはたいて購入した中古のパソコンの前に、俺は座り込んでいた。決意したは良いものの、1文字たりとも進まない。大陸でももうちょい速く進むだろう。
「苦戦しているようだな。コウコウセイ殿」
机に端に腰かけている勇者がそう言った。
勇者。
異世界より訪れし勇者である。
ただし小人である。
俺の部屋には、異世界へと通じる穴がある。穴があったら入りたいと言うが、俺の心境たるや、まさにその額面通りのままである。今すぐにでも、心躍る大冒険にくりだしたい。冒険者になって、モンスターをなぎ倒していったり……どこぞの貴族に雇われて、他貴族との政争に明け暮れたり……地球文明をかさに着て、一国一城の主になったり……。
夢はふくらむものの、なかなか異世界へ足を踏み出せないでいる。踏み出せない原因は、いたってシンプル。出入口が小さすぎるのである。
人差し指から小指までは通るが、親指までは入らない。その程度の大きさなのだ。
「俺の身体が、もうすこし小さければ、さっさと異世界へ行くんだけどな」
「なあに。コウコウセイ殿が向こうへ行く間でもない。ここに居ながらも、コウコウセイ殿の活躍は、向こうにまでちゃんと行き届いている」
「俺の活躍?」
「コウコウセイ殿がくれたカレーのおかげで、飢餓から解放されたのだ。カレーを輸入することによって、我が国は確固たる基盤を築きあげることに成功したのだ」
「おめでとう」
香辛料諸島から、香辛料を英国に持ち帰ったフランシス・ドレークのように、勇者は異世界にカレーを運び込むことに成功したらしい。
「何はともあれ、飢えをしのいだ我らは、ふたたびチカラを取り戻し、魔王軍を押し返しはじめたのだ」
「そりゃ喜ばしい」
「魔王軍に占拠されていた国境砦を2つも取り返した。これもすべて、コウコウセイ殿のおかげだ、と向こうでは話題になっている」
「へえ」
と、生返事。
むかしむかしあるところに――と話を切り出され、いちいち相槌を打つやつはいない。いるかもしれないが、俺は打たない。他人が物語っているときは、大人しく聞く性質だった。それと同じだ。異世界の話など、足を踏み入れられないのなら、昔話と大差ない。
俺は机の下を覗き込んだ。
平積みにされた書籍の奥の壁穴。
異世界への入口。
著名な学者先生にでも見せれば、何かしらわかるのかもしれない。コヒーレンスだとか、カフェインレスだとか、小難しい理屈を並べ立てて、穴の正体をきれいサッパリと解明してくれるかもしれない。そうなりゃ、穴を広げることも出来るだろう。
物理学者のファイマンは言った。「作れてはじめて理解したって言うんや」と。ならば、解明さえされれば、自在に穴を作ることだってできよう。そこいらに穴を開けまくって、軌道エレベーターより先に、異世界エスカレーターが出来るのも夢ではない。
異世界へ通じる穴が開通してくれるのは、俺にとっても喜ばしいことである。
が――。
しかし。
悪くはないが、この穴を世間に公表しても良いものか、という悩みもある。
世間に公表でもしてみろ。そりゃもう、政府の人たちが大挙して押しかけてくるに違いない。この大木荘は、しかるべき学術機関に引きわたされることになるだろう。最終的に、学者たちの研究によって、この穴がよしんば解明されたとしても、だ。そのときには、俺でない誰かが最初に、異世界へと足を踏み入れていることだろう。
異世界へ最初に足を踏み入れるのはこの俺でなくてはいかぬ、という使命感を抱いているのだ。その使命感の強さたるや、月面に足をつけたアームストロングに負けぬ自負がある。異世界転移の特権を、他人に奪われてなるものか。
そう考えると、やはり黙っているほうが良い、という結論にいたる。
「コウコウセイ殿は、それほどまでに、私の国へ行きたいのか?」
と、勇者は首をかしげた。
「何か行く手段でもあるのか?」
「いいや。私には思いつかぬ」
「魔法とかあるんじゃないのか? 身体を小さくする魔法とかないのか?」
「魔法はある。しかし、図体を変化させる魔法など、私は聞いたことがない」
「魔法はあるのか?」
「うむ」
「なにか使って見せてくれよ」
魔法などという怪異は、そうそうあってはならない。そんなものが存在したら、熱力学うんちゃら法則とやらが、どうにかなってしまう。うんちゃらがどうなるかは、わからぬが、いちおう俺とて現代人だ。安っぽい手品などには騙されぬ。弁惑物さながらに、その種を暴いて見せようではないか。
机の上に立つ勇者に目を凝らし、耳をすました。
「これでどうであろうか?」
と、勇者は手のひらに、炎を発生させて見せた。
「ほほっ!」
と、俺は喜悦の声を漏らした。
間違いなく魔法である。
今日をもってして、熱力学うんちゃら法則は、どうにかなってしまった。
「たいした魔法ではないが」
と勇者は照れるように、そそくさと魔法を消し去った。
「いやいや、たいしたものだったよ。俺には魔法が使えないからね」
「コウコウセイ殿にも、そのような欠点があるのだな。しかし、気を落とすことはない。人には誰しも欠点があるものだから」
「いや。慰められるにはおよばないよ。俺の欠点は、魔法を使えないというただその一点だけだから」
「ふふっ。それは頼もしい御仁だ」
と、勇者は微笑んだ。
その微笑みに、俺はちょっと心揺らぐものがあった。
ブロンドに碧眼。現実離れした美女である。
百歩ゆずって、異世界へ行けないにしても、だ。せめて人間サイズであって欲しかった。勇者のこの美貌で、人間サイズだったならば、それはもう凄まじい美女だっただろう。クレオパトラの鼻が3センチ高かったら歴史が変わっていたと言う。勇者よ。君の身長があと160センチほど高かったら、それはそれで歴史が変わっていたことだろう。椎名先輩には申し訳ないが、俺の気持ちも揺らいでいたことだろう。
「勇者はどうして勇者なんだ?」
「はて。どういう意味だろうか?」
と、勇者は首をかしげた。
ブロンドの長髪がはらりと揺れる。
「生まれたときから勇者ってわけでもないんだろ? どうしてその地位におさまることになったのかと思ってさ」
「私は、もともと農村の生まれだった。家は貧しく、食う物も少なかった。そこで冒険者になって、すこしでも稼ごうと決意したわけだ」
「なるほど。その決意には、親近感があるな」
俺も、高校2年生という時間を、有意義に過ごそうと決意して、こうしてノートパソコンを前にすることになったのだ。
「そして冒険者としてモンスターを討伐していくうち、私の武勇が広まっていった。モンスターに困っている村を救い、町を救い、都市を救ってきたのだ。そしてついには国王陛下の耳にまで届いた」
俺の小説も、そのうち世界中に名をとどろかせ、ギルガメッシュ叙述史ぐらい有名になる予定であるから、やはり俺と勇者の境遇は似ている。
「それで勇者に?」
「そう。爵位ではないが、特別な位を用意していただいたのだ。勇者には重要な任務がある。それは、魔王軍総大将である魔王を討つことである」
と、勇者は使命感からか、握りこぶしを固めていた。
異世界。冒険者。モンスター。国王。勇者。耳に入ってくる言葉には、どれも非常になじみがある。実家の間取りでも聞いている気分だ。聞けば聞くほどに、異世界へ訪問したい気持ちに駆られる。
何かの間違いで、穴が大きくなってないだろうか……と、机の下を覗き込んでみるものの、穴は依然小さいままだ。
「勇者は独り身なのか? そもそもそっちの世界に結婚っていうものはあるのか?」
「私の国にも結婚という概念はある。しかし、私は冒険者として身をささげてきたゆえ、独り身だ」
「わかるよ」
戦場に身を置く戦士には、恋だの愛だのと軟弱なことを語る暇はないというわけだ。その境遇には、俺も共感をおぼえる。学生という苛烈な立場にさらされて、女の子とイチャイチャするような余裕はなかったのだ。
「私のことよりもコウコウセイ殿」
「ん?」
「私は先日、こちらの国で奇怪なる生物を発見したのだ」
君がいちばん奇怪なる生物だと思うけどね。
他人の外見を揶揄するというのは低俗きわまった発言であるため、口には出さなかった。
「まあ、俺の部屋には、有象無象の連中がいろいろといるからね。蜘蛛やら蛇やらカエルやら」
部屋を見渡す。
その悪魔の手先どもは、いまのところ鳴りをひそめている。夜になるとヒョッコリ顔を出しやがる。
弁解しておくが、俺が不潔というわけではない。俺が快く迎え入れるのは乳酸菌と納豆菌ぐらいのもので、その他もろもろの不潔なる輩には、お帰りいただいている。ゴキブリやらムカデやらが我が城に出没するのは、俺の警備がゆるいのではなく、大家さんの不手際である。そもそもアパートがボロいのだ。
「我々、冒険者はそういった異形の者たちと戦うことも、また仕事のうちである。良ければ討伐してしんぜよう」
「良いのか?」
「まだコウコウセイ殿にカレーのお返しができていないからな」
「それはありがたい」
害虫駆除に悩まされる日々だったのだ。小人たちが追い払ってくれるのなら、殺虫剤やらなにやらを買い揃える手間もはぶける。
「冒険者組合のほうに、招集をかけてみよう。腕に自信のある冒険者たちが集まってくることだろう」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~
華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』
たったこの一言から、すべてが始まった。
ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。
そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。
それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。
ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。
スキルとは祝福か、呪いか……
ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!!
主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。
ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。
ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。
しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。
一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。
途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。
その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。
そして、世界存亡の危機。
全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した……
※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる