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魔王編
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俺が小説を書く理由の7割は、下心である。
下心業界では、男性諸君の下心は常に9割であるというのが定説とされてきた。それが減少傾向を見せはじめたのだから、下心業界に激震を食らわせる大事件である。ただちに論文にして、世間に発表したいところであるが、それどころではない。
俺は小説を書かねばならんのだ。
7割下心なのだとしたら、残り3割はなんだと言うのか。それは文豪的使命感とでも言うべきものである。この俺が作品を残しておかなければ、後世の人間に甚大な痛手をあたえることになってしまう。俺のいない文学業界など、ノイマンのいなかったIT業界のようなものだ。
で。
やる気は充分なのだが、ノートパソコンの文字は1文字たりとも進まない。月ももうちょい速く、地球から離れているのではないかな、と思う。
コーヒーでも飲むか。
インスタントコーヒーを入れることにした。ケトルの湯を沸かしているときである。
ガタゴト……。
台所のほうから、何やら不審な音がしはじめた。
さては、狸だかカエルだかの怪異の類が、不穏な活動をはじめたのやもしれぬ。俺は右手に殺虫スプレー、左手にハエタタキを装備して、台所下収納の扉を開けた。
「うにゃッ。いったい何ヤツであるか!」
台所下収納には排水管が通っている。その管に腰かけている少女がいた。ただの少女ではない。親指ほどの大きさしかない少女であった。
「君は?」
「吾輩は、魔王である」
「魔王?」
魔王ということはキングになるんだろうか。でも、見るからに少女である。ならば魔女王ということになるんじゃなかろうか。
「貴君こそ、いったい何者じゃ」
「俺はいたって普通の高校生ですけども」
「ほお。コウコウセイと申すのか。魔王城をうろうろしていたら、妙なところに迷い込んでしまったようじゃ。まさか魔王城のなかに、このような巨人が住んでいようとは」
俺は魔王を名乗る少女の風貌を見定めた。
赤毛の長髪である。頭からは巻き角が生えている。ご立派な手甲と脚甲をつけているにも関わらず、着用しているのはスクール水着のような薄着である。この破廉恥きわまりない服装を、平然とした顔で着こなせるのは、たしかに魔王やもしれぬ、と思った。
破廉恥なのはよろしいことだが、残念なのはその体格である。他人の体格を残念などという人種主義者では断じてないが、さすがに数センチほどしかない体格には、残念と言わざるを得ない。俺はピュグマリオンでも、ペドフィリアでもない。ハイカラな横文字とは無縁な日本男児である。小人がどれだけ破廉恥であろうと、何も感じるところはない。
「君はどこから来たんだ?」
「馴れ馴れしい口を利くでないわ。吾輩を誰と心得ておるか」
「どこから来たんです?」
「だから言うたであろう。魔王城じゃ」
「いや、そうじゃなくてですね。入ってきた場所があるでしょう。具体的な場所を教えてください」
「なんじゃ、そんなことか。そこじゃそこ」
と、魔王は排水管のさらに奥を指さした。
ゴキブリの住処になっていそうな場所であるがゆえ、あまり覗き込みたくはない。しかし、意を決して覗き込んでみた甲斐はあった。台所下収納の奥の壁に、穴が開いていた。握りこぶしひとつぐらいなら入りそうな穴である。
「前にも似たようなことがあったな……。ったく、俺の部屋はいったいどうなってるんだ?」
俺本人はいっこうに異世界召喚されないというのに、なぜか小人が俺の部屋に召喚される。
思えば俺の人生は、そんなことばっかりな気がする。ペンが欲しいと思ったらペンは失せ、消しゴムが欲しいと思ったら、消しゴムが失せる。しかし要らぬと思ったとたんに、はじめからありましたけど――みたいな顔をして出てきやがる。
その理屈でゆくと、だ。
異世界へ行きたいと思うから、行けないのであって、行きたくないと願えば、穴が広がってくれるのかもしれない。試しに行きたくないと念じて再度、穴を確認してみた。
むろん、なんの変化もない。
「魔王城を散策していると、ここに行き着いたのじゃ。しかし面白いのぉ。巨人がいたとはな。こうして出会えたのも何かの縁じゃ、吾輩の傘下に入れてやらんでもないぞ」
傘下に加えていただけるのは、大変光栄なことである。だが、傘の下には入れても、穴をくぐれないのでは意味がない。
「そんなところにこもってないで、表に出てきたらどうです? コーヒーでも淹れますよ」
「コーヒー? なんじゃそれは」
「ただの飲み物ですよ」
コーヒーを知らないということは、異世界にはイスラムの僧侶が現れなかったのだろう。
俺は自分のカップにコーヒーを注ぎ、それから、ミニチュアのカップにも注いでやった。以前に勇者が訪れたときに、用意しておいたものである。両者畳のうえに座って向かい合った。
魔王を名乗る小人は、コーヒーをズズズとすすった。
「うむ、うむむっ」
と、魔王はうなった。
「どうしたんです?」
まさか、植物一族のあみだしたカフェインという究極奥義が、小人にとっては致死量だったのではないか、と懸念した。
「これは不思議の飲み物じゃ。飲むと頭が冴えわたり、意識が覚醒してきたではないか! なんという妙薬か!」
「ブラックですからね」
どうやら、ヨーロッパ諸国を興奮の渦に巻き込んだ、アラビアンパワーに魅入られているだけのようだ。
「この飲料、買い取らせてはもらえぬか?」
「べつにお金は要りませんよ。好きなだけ持って行ってください」
俺がそう言うのは、ジャン・ウルジャンを改心させるような深い慈愛の心を持っているわけではない。小人に取られるぐらい、たいした痛手でもないからだ。
「それはありがたい。これがあれば、我ら魔族は、ふたたびかつてのチカラを取り戻すことが出来るやもしれん」
「かつてのチカラ?」
うむ、と魔王はミニチュアカップを床に置いた。
「かつて魔族は、この世界全土におよぶほどのチカラを手にしていたのじゃ。人間どもを恐怖のどん底に叩き落して、あと少しのところで、世界全土を完全に掌握できるというところまで来ておった」
「それはそれは、結構なことで」
「しかし、あと一歩というところで、人間どもが再起しおった。飢餓から立ち直り、勇者を筆頭に、我ら魔族を押し返しはじめたのじゃ」
してやられたわ、と魔王は握りこぶしで床を叩いた。
その程度の拳ではドスンとはゆかず、だからといってペチンとも違う、コツンと軽やかな音が鳴った。
「あー」
と、俺は間延びした声をあげた。
どうせ俺には行けぬ別世界の話だと、適当に聞き流していたのだが、よくよく聞いてみると、どうも他人事とは思えない。
「なんじゃ、その腑抜けた声は。今日日、ゾンビでもそんな情けのない声を出さぬぞ」
「そっちの世界には、ゾンビがいるんで?」
「そりゃアンデッドは、我の傘下に入っておるでな」
「それは面白そうな世界ですねぇ」
「ゾンビなど、どこにでもおるわ。それよりも奇怪なのは、勇者どもが乗り回しているあの得体のしれぬ生物じゃ」
「得体の知れぬ?」
「ほれ。こう……なんと言うか、肌がぬらぬらしており、目玉をぎょろつかせた、大口の……」
「カエルですか」
「ほお。カエルと言うのか。貴君はなかなか博識じゃな。ともかく、カエルとかいう怪物のせいで、我ら魔族は一網打尽である」
やはり、異世界にて人間が魔族を追いやりはじめたのは、どうも俺の責任のようである。
勇者にカレーとカエルを提供したのは、つい先日のことだ。
人間が手を加えたせいで、生態系が崩れてしまったり、生物が絶滅してしまったりという事件が頻発している昨今、ついに俺もその加害者側に回ってしまったらしい。
俺が勇者に手を貸してしまったせいで、異世界の生態系は大きく傾いてしまった、というわけだ。
それは申し訳ないことをした。
俺は、ガンジーの生まれ変わりを自負するほどの平和主義者なのだ。どちらか一方に肩入れするような贔屓など、生まれてこのかた一度もしたことがない。巨人ファンでもなければ、阪神ファンでもないし、紅白歌合戦だって、どちらかが片方を応援したこともない。まあ、そもそもテレビがないので、野球も歌合戦も見たことがないのだが。
人間ならばふつうは、人間側の肩を持つべきなんじゃなかろうか、と思われるかもしれない。しかし俺は魔族に何か恨みがあるわけでもない。なんなら、異世界転移をしたあかつきには、魔族側として活躍するのも悪くはないと思っているぐらいだ。べつに魔族が好きというわけでもない。要するに、転移させしてくれれば、どっちでも良いのである。
「まあ、穴が小さいですからね。俺が直接そっちに行くことは出来ないんですけど」
「貴君のような巨人が来てくれれば、心強かったのじゃが、致し方ない。とにかく、この飲料をもらって帰るとする」
「どうぞ」
インスタントコーヒーの瓶を渡した。魔王は瓶を抱き上げるようにした。が、重かったのだろう。倒れた瓶にのしかかられて、「助けてくりゃれっ」と悲鳴をあげていた。魔族の王を名乗る為政者が、コーヒー瓶の下敷きになって死なれては困る。俺の責任問題になりかねない。あわてて魔王をすくいあげた。
「俺が穴まで運びますよ」
「うむ。それは助かる。貴君は頼りになるなぁ」
「代わりと言っては、なんなんですが、こちらからもお願いがあるんですけれど」
「なんじゃろうか。言うてみよ」
と、魔王は胸を張った。
スクール水着みたいな身体の輪郭のわかる服を着ているものだから、そのつつましい乳房の形がハッキリわかった。小人のバストがわかったところで、べつに何かあるわけでもない。勇者よりは、小さめだな、と失礼きわまりない感想を抱いたぐらいだ。
「そっちの世界に、身体を小さくする方法がないか、調べてはもらえませんか」
「身体を小さく? せっかくそのような、たくましい巨躯を持っているというのに、貴君は小さくなりたいのか?」
「この身体では、そっちの世界に入れないんで」
と、俺は台所下収納に開いた穴に目をやった。
「なるほど。あの穴を通り抜けたいわけじゃな」
「ええ」
「今のところ、そのような方法に心当たりはないが、しかしコーヒーの代わりじゃ。何か方法がないか調べてみるとしよう」
「助かります」
「それでは、また会おう」
と、コーヒーの瓶をずりずり引きずり、魔王は穴の向こうへと消えていった。
下心業界では、男性諸君の下心は常に9割であるというのが定説とされてきた。それが減少傾向を見せはじめたのだから、下心業界に激震を食らわせる大事件である。ただちに論文にして、世間に発表したいところであるが、それどころではない。
俺は小説を書かねばならんのだ。
7割下心なのだとしたら、残り3割はなんだと言うのか。それは文豪的使命感とでも言うべきものである。この俺が作品を残しておかなければ、後世の人間に甚大な痛手をあたえることになってしまう。俺のいない文学業界など、ノイマンのいなかったIT業界のようなものだ。
で。
やる気は充分なのだが、ノートパソコンの文字は1文字たりとも進まない。月ももうちょい速く、地球から離れているのではないかな、と思う。
コーヒーでも飲むか。
インスタントコーヒーを入れることにした。ケトルの湯を沸かしているときである。
ガタゴト……。
台所のほうから、何やら不審な音がしはじめた。
さては、狸だかカエルだかの怪異の類が、不穏な活動をはじめたのやもしれぬ。俺は右手に殺虫スプレー、左手にハエタタキを装備して、台所下収納の扉を開けた。
「うにゃッ。いったい何ヤツであるか!」
台所下収納には排水管が通っている。その管に腰かけている少女がいた。ただの少女ではない。親指ほどの大きさしかない少女であった。
「君は?」
「吾輩は、魔王である」
「魔王?」
魔王ということはキングになるんだろうか。でも、見るからに少女である。ならば魔女王ということになるんじゃなかろうか。
「貴君こそ、いったい何者じゃ」
「俺はいたって普通の高校生ですけども」
「ほお。コウコウセイと申すのか。魔王城をうろうろしていたら、妙なところに迷い込んでしまったようじゃ。まさか魔王城のなかに、このような巨人が住んでいようとは」
俺は魔王を名乗る少女の風貌を見定めた。
赤毛の長髪である。頭からは巻き角が生えている。ご立派な手甲と脚甲をつけているにも関わらず、着用しているのはスクール水着のような薄着である。この破廉恥きわまりない服装を、平然とした顔で着こなせるのは、たしかに魔王やもしれぬ、と思った。
破廉恥なのはよろしいことだが、残念なのはその体格である。他人の体格を残念などという人種主義者では断じてないが、さすがに数センチほどしかない体格には、残念と言わざるを得ない。俺はピュグマリオンでも、ペドフィリアでもない。ハイカラな横文字とは無縁な日本男児である。小人がどれだけ破廉恥であろうと、何も感じるところはない。
「君はどこから来たんだ?」
「馴れ馴れしい口を利くでないわ。吾輩を誰と心得ておるか」
「どこから来たんです?」
「だから言うたであろう。魔王城じゃ」
「いや、そうじゃなくてですね。入ってきた場所があるでしょう。具体的な場所を教えてください」
「なんじゃ、そんなことか。そこじゃそこ」
と、魔王は排水管のさらに奥を指さした。
ゴキブリの住処になっていそうな場所であるがゆえ、あまり覗き込みたくはない。しかし、意を決して覗き込んでみた甲斐はあった。台所下収納の奥の壁に、穴が開いていた。握りこぶしひとつぐらいなら入りそうな穴である。
「前にも似たようなことがあったな……。ったく、俺の部屋はいったいどうなってるんだ?」
俺本人はいっこうに異世界召喚されないというのに、なぜか小人が俺の部屋に召喚される。
思えば俺の人生は、そんなことばっかりな気がする。ペンが欲しいと思ったらペンは失せ、消しゴムが欲しいと思ったら、消しゴムが失せる。しかし要らぬと思ったとたんに、はじめからありましたけど――みたいな顔をして出てきやがる。
その理屈でゆくと、だ。
異世界へ行きたいと思うから、行けないのであって、行きたくないと願えば、穴が広がってくれるのかもしれない。試しに行きたくないと念じて再度、穴を確認してみた。
むろん、なんの変化もない。
「魔王城を散策していると、ここに行き着いたのじゃ。しかし面白いのぉ。巨人がいたとはな。こうして出会えたのも何かの縁じゃ、吾輩の傘下に入れてやらんでもないぞ」
傘下に加えていただけるのは、大変光栄なことである。だが、傘の下には入れても、穴をくぐれないのでは意味がない。
「そんなところにこもってないで、表に出てきたらどうです? コーヒーでも淹れますよ」
「コーヒー? なんじゃそれは」
「ただの飲み物ですよ」
コーヒーを知らないということは、異世界にはイスラムの僧侶が現れなかったのだろう。
俺は自分のカップにコーヒーを注ぎ、それから、ミニチュアのカップにも注いでやった。以前に勇者が訪れたときに、用意しておいたものである。両者畳のうえに座って向かい合った。
魔王を名乗る小人は、コーヒーをズズズとすすった。
「うむ、うむむっ」
と、魔王はうなった。
「どうしたんです?」
まさか、植物一族のあみだしたカフェインという究極奥義が、小人にとっては致死量だったのではないか、と懸念した。
「これは不思議の飲み物じゃ。飲むと頭が冴えわたり、意識が覚醒してきたではないか! なんという妙薬か!」
「ブラックですからね」
どうやら、ヨーロッパ諸国を興奮の渦に巻き込んだ、アラビアンパワーに魅入られているだけのようだ。
「この飲料、買い取らせてはもらえぬか?」
「べつにお金は要りませんよ。好きなだけ持って行ってください」
俺がそう言うのは、ジャン・ウルジャンを改心させるような深い慈愛の心を持っているわけではない。小人に取られるぐらい、たいした痛手でもないからだ。
「それはありがたい。これがあれば、我ら魔族は、ふたたびかつてのチカラを取り戻すことが出来るやもしれん」
「かつてのチカラ?」
うむ、と魔王はミニチュアカップを床に置いた。
「かつて魔族は、この世界全土におよぶほどのチカラを手にしていたのじゃ。人間どもを恐怖のどん底に叩き落して、あと少しのところで、世界全土を完全に掌握できるというところまで来ておった」
「それはそれは、結構なことで」
「しかし、あと一歩というところで、人間どもが再起しおった。飢餓から立ち直り、勇者を筆頭に、我ら魔族を押し返しはじめたのじゃ」
してやられたわ、と魔王は握りこぶしで床を叩いた。
その程度の拳ではドスンとはゆかず、だからといってペチンとも違う、コツンと軽やかな音が鳴った。
「あー」
と、俺は間延びした声をあげた。
どうせ俺には行けぬ別世界の話だと、適当に聞き流していたのだが、よくよく聞いてみると、どうも他人事とは思えない。
「なんじゃ、その腑抜けた声は。今日日、ゾンビでもそんな情けのない声を出さぬぞ」
「そっちの世界には、ゾンビがいるんで?」
「そりゃアンデッドは、我の傘下に入っておるでな」
「それは面白そうな世界ですねぇ」
「ゾンビなど、どこにでもおるわ。それよりも奇怪なのは、勇者どもが乗り回しているあの得体のしれぬ生物じゃ」
「得体の知れぬ?」
「ほれ。こう……なんと言うか、肌がぬらぬらしており、目玉をぎょろつかせた、大口の……」
「カエルですか」
「ほお。カエルと言うのか。貴君はなかなか博識じゃな。ともかく、カエルとかいう怪物のせいで、我ら魔族は一網打尽である」
やはり、異世界にて人間が魔族を追いやりはじめたのは、どうも俺の責任のようである。
勇者にカレーとカエルを提供したのは、つい先日のことだ。
人間が手を加えたせいで、生態系が崩れてしまったり、生物が絶滅してしまったりという事件が頻発している昨今、ついに俺もその加害者側に回ってしまったらしい。
俺が勇者に手を貸してしまったせいで、異世界の生態系は大きく傾いてしまった、というわけだ。
それは申し訳ないことをした。
俺は、ガンジーの生まれ変わりを自負するほどの平和主義者なのだ。どちらか一方に肩入れするような贔屓など、生まれてこのかた一度もしたことがない。巨人ファンでもなければ、阪神ファンでもないし、紅白歌合戦だって、どちらかが片方を応援したこともない。まあ、そもそもテレビがないので、野球も歌合戦も見たことがないのだが。
人間ならばふつうは、人間側の肩を持つべきなんじゃなかろうか、と思われるかもしれない。しかし俺は魔族に何か恨みがあるわけでもない。なんなら、異世界転移をしたあかつきには、魔族側として活躍するのも悪くはないと思っているぐらいだ。べつに魔族が好きというわけでもない。要するに、転移させしてくれれば、どっちでも良いのである。
「まあ、穴が小さいですからね。俺が直接そっちに行くことは出来ないんですけど」
「貴君のような巨人が来てくれれば、心強かったのじゃが、致し方ない。とにかく、この飲料をもらって帰るとする」
「どうぞ」
インスタントコーヒーの瓶を渡した。魔王は瓶を抱き上げるようにした。が、重かったのだろう。倒れた瓶にのしかかられて、「助けてくりゃれっ」と悲鳴をあげていた。魔族の王を名乗る為政者が、コーヒー瓶の下敷きになって死なれては困る。俺の責任問題になりかねない。あわてて魔王をすくいあげた。
「俺が穴まで運びますよ」
「うむ。それは助かる。貴君は頼りになるなぁ」
「代わりと言っては、なんなんですが、こちらからもお願いがあるんですけれど」
「なんじゃろうか。言うてみよ」
と、魔王は胸を張った。
スクール水着みたいな身体の輪郭のわかる服を着ているものだから、そのつつましい乳房の形がハッキリわかった。小人のバストがわかったところで、べつに何かあるわけでもない。勇者よりは、小さめだな、と失礼きわまりない感想を抱いたぐらいだ。
「そっちの世界に、身体を小さくする方法がないか、調べてはもらえませんか」
「身体を小さく? せっかくそのような、たくましい巨躯を持っているというのに、貴君は小さくなりたいのか?」
「この身体では、そっちの世界に入れないんで」
と、俺は台所下収納に開いた穴に目をやった。
「なるほど。あの穴を通り抜けたいわけじゃな」
「ええ」
「今のところ、そのような方法に心当たりはないが、しかしコーヒーの代わりじゃ。何か方法がないか調べてみるとしよう」
「助かります」
「それでは、また会おう」
と、コーヒーの瓶をずりずり引きずり、魔王は穴の向こうへと消えていった。
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