純情Ωの願いごと

豆ちよこ

文字の大きさ
8 / 13

泣き虫αの告白 その4

しおりを挟む

 俺は今、恐怖に震える身体を縮こまらせ、必至に耐えていた。

「まったく…、お前という奴は。 それでも九條家のアルファかっ! このバカ者!」
「本当ですよっ、流星。叱られても仕方がないことです。反省なさいっ!」
「これ程まで鈍いとは思わなかった…。我が弟ながら、情けない…。」
「流星…。どうしてもっと考えなかったの? ごめんね、七央。こんな情けない弟で…。本当に申し訳ない」

 家族総出で怒られ、呆れられている。言われる言葉がどれもこれも“ごもっとも”な事ばっかりで、ぐうの音も出ない。



 衝撃的な再会シーンから一時間後、応接室で和気あいあいと午後のお茶を愉しんでいた時だった。まぁ…、愉しんでたのは、俺以外の家族が、だけど。
 まさか自分の兄の番が七央だなんて、本当は信じたくない。だけど、俺以外の家族は皆、何故か既にその事を知っていて、ただでさえ不貞腐れ気味だった気分は、更に下降していった。
 何だよ…。俺だけ仲間外れにしてさ。だいたい昴兄さんは、こんなおっかない奴のどこがいいんだよ。しかもチビだし。そりゃあ…顔だけ見れば、昴兄さんにも引けを取らないくらいの美形だけどさ…。でも兄さんより背の低いアルファとか…。なんかちょっと違和感とかないのかよ。
 内心ずっと七央に向かって文句を付けていたが、その矛先がその後自分に向かってくるなんて思いもよらなかった。



 事の発端は、昴兄さんのこんな質問からだった。

「ところで流星。その後、理央くんとはどうなの? あれから何度か、会いに行っているんだろう?」

 急に理央の名前が出てきてドキンとした。このところ暇さえあれば、理央の事で頭がいっぱいになってたから、不意打ちにその名を耳にして、ポッと顔が赤くなるのを止められなかった。

「何だ、流星。赤くなって。おまえは相変わらずだな。 そんなに奥手では、いつまで経っても番など持てないぞ」

 恒星兄さんにまでそんな事を言われ、増々顔が熱くなった。

「つ…番なんてっ、まだ気が早いよっ!」

 
「あら、理央さん…て、確か七央さんの元許嫁の? 松永さんと、仰ったかしら?」

ーーー…は? 元許嫁?

「えっ!? ちょ…っと母さん。それ、本当?」
「ええ? なぁに、流星。知らなかったの? あら…私、余計な事を言ったかしら」

「いいんです、おば様。いずれ流星くんにも、話そうと思っていた事ですから」

 嘘だ…。何だこのネコっ被り!
 俺の時とは声のトーンから違うぞ!

 それよりも、元とはいえ許嫁…って、どういう事だよ。

「おい、七央…。 本当なのか? 理央は本当に…」

「そうだよ。僕と理央は、親同士が決めた許嫁だったんだ。ーー…でも。僕は昴さんと出会ったから、…ね」
「七央…」

 わ…、うわ…っ!やめろっ、ハートを飛ばし合うなっ!背中がゾワゾワするっ!
 見つめ合う実兄と天敵が、ピンクのオーラを撒き散らす。身内のこういうのって、めちゃめちゃ恥ずかしい…。

「ははは。 昴は本当に、七央くんに骨抜きだな」
「あら、仲が良くって微笑ましいわ」

 兄さんもだけど、父さんも母さんも絶対に騙されてるっ!
 そいつは夜叉だぞ!? ブリザードの冷徹夜叉っ!! しかも嘘つきで意地悪だ!

「私が、理央くんから、七央を奪ってしまったようなものだからね。それに彼は七央にとって、幼い頃から仲の良かった幼馴染みでもある。七央はね、そんな理央くんをどうにか幸せにしてあげたいって、私に相談してくれたんだ。だから私は、流星はどうかな…、って」

「昴兄さん…」

「あのパーティには、昴と七央くんに頼まれて、お前を連れて行ったんだ。それなのに、途中で帰りたい等と文句ばかり言って」

「恒兄は最初から俺の事放ったらかしだっただろ。 …ちゃんと説明してくれたら良かったんだ」

 そうだ。ただ連れて行くだけで、目的も分からなきゃ動きようもないじゃないか。
 まぁ、俺の鼻が利いたから、運よく理央には出会えたけど。

「それに、何で七央が昴兄さんの番だって、教えてくれなかったんだよ。知ってたらあんな勘違い、絶対にしなかったのに」

「勘違い…? 流星。 お前、何を勘違いしたの?」
「………え? …、と」

 ヤ…ヤバい。失言だった!

「昴さん…。 もう、いいじゃないですか。きっと流星くんが一番、よく分かってると思うし、後悔もしてるはずなんですから」
「後悔…? 待って七央。それは何? どういう事なの?」

 こいつ……。わざとだ。誘導するように気になるワードを出しやがった。
 俺の失言を逆手に取って、やり玉に上げるつもりだ。

「流星、お前。 何を勘違いして、何を後悔しているの? 私に言ってごらん」
「え? あ…、いや、あの……」

 昴兄さんが“言ってごらん”と言った時は、有無を言わせぬ謎の迫力がある。幼い頃からの刷り込みだ。今まで俺は、これで散々言いたくなかった事を言わされてきた。
 母さんの大事にしていたハンカチを、ちょっと気になってた女の子に勝手にプレゼントしちゃった時も、恒星兄さんが本命の彼女から貰ったバレンタインのチョコを黙って食べちゃった時も、父さんが隠してたエッチな本をコッソリ見ちゃった時だって、昴兄さんの“言ってごらん”の圧に負けて、全部白状させられた。

 だけど今回のは言えない。言ったら叱られるだけじゃ済まない気がする。

「い…言いたくない」

「流星っ!」
「こら、流星。私達は、理央くんにお前を紹介した責任もある。お前の失態は今に始まったことではないし、多少の事なら援護もしよう。だから話してみなさい」

「そうよ、流星。言わなきゃ分からないでしょう」
「皆の言う通りだぞ、流星。誤解があるなら解けばいいし、後悔しているなら反省すればいいんだ」

 どんなに唆されても言えないよ。
 
「無理だよ…。やっぱり、言いたくな…」
「なら、僕から話そうか?」

 さも気の毒そうに七央が口を開いた。助け舟を出したつもりか? やめろっ!おまえの舟は泥舟だ!

「や、やめろよ…、言わなくてい……」

「あのね昴さん。実は……」

 七央はコソッと、昴兄さんだけ聞こえるように耳打ちをした。

「お…おい、やめろ…って、い…って……」

 七央の言葉に耳を傾けていた昴兄さんの顔付きが、みるみる青褪めていく。
 驚愕に見開かれた目が、ウロウロと彷徨ったあと、俺を捉えた。


ーーー あ…、俺、死んだ。


「流星っ!! そこに座れっ!」

 人生で二度目に聞く、昴兄さんの怒鳴り声に、ただ項垂れて従うほかなかった。

 普段大人しくて優しい人ほど、怒ると怖い事を俺は身を以て知っている。


「本当なのか? 七央と理央くんを間違えたというのは」
「ーーーー……はぃ」

「間違えた挙げ句、七央に向かって『番になってください』等と言ったのも?」

 あー…、くそっ! そんな余計な事まで言ったのかよっ! 

「どうなんだ、流星っ!」
「はっ、はい! ーーー…その通りです」

「な…っ!」
「流星…」
「なんて事だ……」


 ほらな…。こうやって白状させられちゃうんだよ……。




 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

俺の居場所を探して

夜野
BL
 小林響也は炎天下の中辿り着き、自宅のドアを開けた瞬間眩しい光に包まれお約束的に異世界にたどり着いてしまう。 そこには怪しい人達と自分と犬猿の仲の弟の姿があった。 そこで弟は聖女、自分は弟の付き人と決められ、、、 このお話しは響也と弟が対立し、こじれて決別してそれぞれお互い的に幸せを探す話しです。 シリアスで暗めなので読み手を選ぶかもしれません。 遅筆なので不定期に投稿します。 初投稿です。

あの頃の僕らは、

のあ
BL
親友から逃げるように上京した健人は、幼馴染と親友が結婚したことを知り、大学時代の歪な関係に向き合う決意をするー。

そんなの聞いていませんが

みけねこ
BL
お二人の門出を祝う気満々だったのに、婚約破棄とはどういうことですか?

全速力の君と

yoyo
BL
親友への恋心に蓋をするために、離れることを決めたはずなのに

【完結 一気読み推奨】片想いの相手が「そろそろ恋愛したい」と言ったので、用済みの俺はニートになることにしました。

はぴねこ
BL
 高校生の頃、片想いの親友に告白した。  彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。  もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。  彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。  そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。  同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。  あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。  そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。 「俺もそろそろ恋愛したい」  親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。  不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。

ランドセルの王子様(仮)

万里
BL
大学生の森下優太(20)は、ある日の夕暮れ、ひったくり犯に襲われ絶体絶命のピンチに陥る。そんな彼を救ったのは、鮮やかなシュートで犯人を撃退した小学生の少年、日向蒼だった。 ランドセルを背負いながらも、大人顔負けの冷徹さと圧倒的なカリスマ性を持つ蒼。その姿に、優太はあろうことか「一目惚れ」をしてしまう。「相手は小学生、これはただの尊敬だ」と自分に言い聞かせる優太だったが、蒼のクールな瞳と救われた手の温もりが頭から離れない。 親友には「自首しろ」と呆れられながらも、理性と本能(ときめき)の狭間で葛藤する。禁断(?)のドキドキが止まらない、20歳男子による「かっこよすぎるヒーロー(小学生)」への片思い(自認はリスペクト)。

だって、君は210日のポラリス

大庭和香
BL
モテ属性過多男 × モブ要素しかない俺 モテ属性過多の理央は、地味で凡庸な俺を平然と「恋人」と呼ぶ。大学の履修登録も丸かぶりで、いつも一緒。 一方、平凡な小市民の俺は、旅行先で両親が事故死したという連絡を受け、 突然人生の岐路に立たされた。 ――立春から210日、夏休みの終わる頃。 それでも理央は、変わらず俺のそばにいてくれて―― 📌別サイトで読み切りの形で投稿した作品を、連載形式に切り替えて投稿しています。  エピローグまで公開いたしました。14,000字程度になりました。読み切りの形のときより短くなりました……1000文字ぐらい書き足したのになぁ。

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

処理中です...