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その8 〜side流星〜
しおりを挟む今日の理央は最初から可怪しかった。
約束もなしに俺の大学まで来るなんて今まで一度だってなかったし、いきなり泣き出すし。
よかった、今日学校サボんないで。
講義の合間にちょっと自販機まで来てみたら、何処からともなくカモミールの香りが漂ってきた。
理央の匂いに似てるなぁ、まさかなぁ、なんて考えながらぼーっと人混みを眺めてたら、見覚えのある赤髪が小さな人影に迫ってるのが目に入った。
赤髪のそいつ、久留島弥彦とは腐れ縁だ。エスカレーター式のこの学校で、幼稚舎からずっと付かつ離れつ共にいたアルファの友人だ。そいつが学舎でナンパかと、邪魔する気満々で誂ってやろうと近付いた。
そこで気付いた。このカモミールの匂いは他の誰でもない理央のものだ。俺が間違える訳が無い。
俺の大事な理央が他のアルファに目をつけられた。
そう理解した瞬間、カッと頭に血が上った。威圧のオーラがビシビシ空気を焦げ付かせるのも構わず、走り寄ってその小さい身体を腕に囲う。
これは俺のだ!誰にもやらない!
自分の中のアルファが叫ぶ。と同時にオメガの急所である項を曝け出したまま、迂闊にこんな場所までのこのこやって来た理央にも腹が立った。
少し前から理央のオメガフェロモンが誘引力を増した。発情期でもないのに俺の官能を日増しに煽ってくる。
今だって腕の中から立ち昇る誘惑の香りに目眩がしそうだ。
何とか知り合いだった赤髪のアルファを退けて、どうして来たのか理央に問えば、思いも寄らない返答が返ってきた。
『流星くんに、会いたかったのっ』
もーーーーーっ!!!
何なのこのミラクルキュートなお返事はっ!!!
はー………。俺の心臓がぶっ壊れそうな程バクンバクンと跳ねる。
そのまま理央にキュン死にさせられそうなのを何とか落ち着け息を吹き返し、場所を移して話を聞けばこれまた想像の斜め上行く展開が待ち受けていた。
七央から“脱・保護者宣言”を受けたらしい理央は、それを受け入れられずに困り果てて俺のところにまで来たらしい。
その際に七央から『大人になった』と言われたそうな…。
その“大人”というワードがぐるぐると脳内を巡り、いつか七央から釘を刺された『身も心もまっ更』な理央には手出し禁止!という“聖人・理央”説がガラガラと音を立てて崩れ始めた。
……という事は、だ。
とうとう理央にも性の目覚めがやって来た、って事だろ?
だとしたら、こ…これはいよいよ大人のお付き合いが始まるのでは……。
俺の不埒な予測を肯定するように、理央はこの数日の内に起こったモニョモニョなあれやこれを、恥ずかしそうに教えてくれた。
あー、これもう確実だなぁ…、等と鼻の下か伸びるのをどう取り繕うか迷っていたら、特大のアッパーをカマされた。
『オメガが発情期になると赤ちゃんが欲しくなって、アルファにたくさん子種を貰わないと満足しないなんて…』
わー!わー!わー!わー!わー!
オブラートに包もう?
お願いだから!!
腰を引いて顎を上げ、色んなものが鎌首を持ち上げそうになるのをひたすらに耐えた。
危ない危ない……。
そうだった。理央ってこういう所があった。何でも素直に受け取るから言葉もストレートで嘘がない。何時だって前向きで変に卑屈にもならないんだ。理央のそういう所が大好きだ。
そんな理央が今、憂い顔で凹んでる。身体の成長に心が付いていけて無いんだろう。いわゆる反抗期みたいなものかも知れない。
こんな時こそ俺が力になってやらなくてどうする!未来の番の悩みくらい、ドドンと受け止めてやるから安心しろ!
その後ちょっとした齟齬が生じて何やかんやあったけど、最終的にお互い気持ちが通い合ってるのを実感出来てむふむふだった。
だけど………………………。
「オレに首輪を付けてください!」
な?
なななななっ!?
何言っちゃってるんだこの子はーー!!
「オレやっぱり自分じゃ決められないし、七央にはもう頼れないから。だから流星くんに選んで欲しい。………だめ?」
「う………っ」
腕の中の理央がこてんと首を傾げて『だめ?』と聞く。何この可愛い生き物。俺の人生初の究極の可愛い『だめ?』だ。
やばい……。は、鼻血出そう……。
それにしても“首輪”って。その発想は何処から来たんだ。俺の希望としては普通の大人のお付き合いなんだけど。
「ねぇ流星くん。首輪…って、何処で買えるかな? オレ、通販くらいしかアテがない」
「んへ!? あー、えー…っと。せ…、専門店、とか? かな?」
俺の知ってる首輪ならペットショップだけど。理央の言う首輪が、その…大人的な玩具を指してたら、ペットショップは違うだろ?
「そっかぁ…。流星くんは、その専門店が何処に在るのか知ってる?」
「なっ! なんで!?」
「何で…、て。今から行こうよ。…だってオレ、早く着けなきゃダメなんだろ? …流星くんがそう言ったんだよ」
「ええ!? い、いや待って!? 俺? そんな事いつ言った!?」
怪訝な顔した理央に「はぁ? 今更何言ってんの!」と怒られた。
だって!俺、そんな趣味ないぞ!?
「もぉ、流星くんが言ったんだろ!プロテクター着けるまで会わないぞ、って!」
「プ!!」
く、首輪とか言うなーー!!
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