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2章-2節.ヘルデス家の争続に巻き込まれた私は…
5.大人の都合に激昂しました。
しおりを挟む「………」
ついつい癖でテルマに説明して、その中でたまたま閃いて、はからずも暗号を解いてしまった。
何か釈然としないし、何なら腹立たしい。
暗号を解くつもりなんてなかった。解いても連中を喜ばせるだけだからな。
「まさか、こんな仕掛けがあったとは……流石『名匠マサール』と謳われただけの事はあるな。」
「名匠?そういえば、薬慈院でもカラクリが好きだって言ってたけど、そんなに有名なのか?」
「当然だ。なんたって、元々ヘルデス家はものづくりで成り上がった一族だ。そのノウハウを活かして調薬器具類やらの製作を初めて手掛けたのがマサール爺さんだ。爺さん本人も職人として相当な腕を持っているし、職人達との太いパイプで大量生産も実現してる。薬師はおろか、王都でも知らない奴は居ないだろうな。」
「へぇ。そうなると、この家の人間も職人としての腕を磨いてたりするのか?」
「いいや、全く。てか、一族の誰も工房にすら入った事がないって聞くな。」
「…………」
そうなると、尚更面倒な事になりそうだな。
「職人達に秘伝の技術を提供する対価に売上の一部を受け取ればそれだけで収益を得られるし、契約書で縛れば技術の盗用を法的に罰する事だって出来る。けど、それは職人とマサールさんとの契約だからって所か?」
「何故わかるんだ?」
私の前世には特許という仕組みがあって……とか、説明するとややこしくなりそうだな。今は伏せておこう。
「……そうか。予想はしてたけど、あれが当主とかこの家の未来は無いね。」
「まぁ、アイツが勝手に豪語しているだけだからな。」
「随分な言われ様だね。流石に聞き捨てならないな。」
「「………」」
「どうやら、暗号は解けたようだな。」
いつの間にか男が戻って来ていた。そりゃそうだ。あんな大きな音がすれば誰もが異変に気付く。その上、話に夢中でこちらが気づけなかったのだから。
「えぇ、あなたが遅いものですから暇つぶしに換字をしてみたら解けたみたいです。とは言っても、『応接間』って単語しか読み取れなかったので当てずっぽうで部屋を弄ってみたらたまたま正解しましたよ。」
ダメ元で弁明をしてみる。あんまり意味はないかも知れないけど。
「謙遜しなくても良い。やはり、私の目に間違いはなかった様だ。」
まぁ、腑に落ちない所は幾つかあるけど、これで約束は果たした。さっさと帰るとするかな。
「では、気をつけて行って来てくれ。」
………何となく予想は付いていたが、こんなに堂々と約束を反故にされると胸糞悪いな。
「……何言ってんですか。約束ではこの暗号を解けば帰っても良いはずですよね?約束は果たしたんですから、帰らせて貰います。」
「では、約束を更新しよう。地下へ行き、探索してきなさい。」
「………バカバカしい。テルマ、行くぞ。」
「(パチンッ)」
「「「(ザザッ)」」」
応接室の扉の前に、黒服が並ぶ。
「これは、何のつもりでしょうか?」
「何って、お願いをしているのだよ。」
「お願いって……拒否権を与えず指示や要求を一方的に押し付ける事が、あなたがたのお願いの仕方ですか?これでは、脅迫ではないでしょうか?」
「旦那(スチャッ)コイツ、ガキだからわかんないんじゃ無いっすかね?」
黒服の男の一人が、メリケンサックを手に付けてそんな事を曰った。
「おいガキ、お前の言い分も確かだ。だが、それはあくまでも対等な相手だったらの話だ。なぁ?そうだろう?」
「その通り(スラァ)立場が違うんだよ、立場が。」
「(チャキッ)お前はただ旦那のお願いに『はい、わかりました。』と答えれば良いんだよ。」
残りの二人も、武器を構えた。
「旦那、いつでも準備は良いですぜ?」
「指示さえ有れば確実に……」
「舐めたガキをわからせてやりますよ。」
「(フゥ)……わかったかな?これが、大人の世界だ。私には頼もしい友人が沢山いるのでね。例え屋敷を出られたとしても面倒な事になってしまう。わかってくれるかい?わかって貰えたなら」
「あ゛?」
「「「「(ビクッ)!?」」」」
結構、自分が短気だという自覚はある。そんな私が、私なりに頑張って耐えてはいたが、流石に限界かな。
「………失礼、どうぞ話を続けてください。」
とはいえ、話の途中でぶった切ってしまった。一応最後まで話を聞かなきゃな。
「……っ……っ……」
「……(ガクガクガクガク)」
「……(チキチキチキチキチキ)」
「……(カタカタカタカタカタカタ)」
返答の代わりに、各々が静かに轟いていた。
「話さないのですか?では、今度はこちらの言い分を聞いていただきます。」
それにしても、なんとも奇妙な絵面だね。武装した大の大人3人とその主人が、目の前の丸腰の少年一人に萎縮しているなんて。
「……力で従わせるのがあなた方の礼儀ですか?ならば、私もそれに従いましょう。」
受けた礼節には同じ礼節で返すって言うのが、私の主義だ。寧ろそっちの方がやりやすくて助かる。
「そもそも、私やテルマである必要はないじゃないですか。徒弟に行かせれば良いだけの話です。少なくとも、我々よりは忠実に指示に従うのでは?」
「…それじゃ、間に合わないんだよ!!」
「…はい?」
「詳しい事情は省くが、アイツらは全員街に駆り出している。戻って来るまで待っていては間に合わない!!」
「でしたら、尚の事ではありませんか?大勢抱えていらっしゃる徒弟の皆さんを一斉に投入して探索した方が圧倒的に手取り早い筈です。」
「人数は問題ではない!!今すぐに突入しなければ……」
「でしたら直ぐに呼び戻す事ですね。」
「うぐっ……」
「というか、そこにいらっしゃるご友人に依頼しては如何でしょうか?」
「「「へ!?」」」
「何にせよ、もはや私たちの役目は終わってます。それでは……」
「(ガチャッ)こんにちわー、商品をお届けに…」
「「「「「「…………」」」」」」
配達員らしき少年が入って来た。全員の視線が集まる。
「……(ニヤリ)」
視線の端で、男が気味の悪い笑みを浮かべたのが見えた。
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