落ちこぼれ魔術師なのに、王子殿下の家庭教師に任命されまして〜なぜ年下殿下から甘く口説かれているのでしょう?〜

海空里和

文字の大きさ
30 / 43
終章 恋と仕事と

第30話

しおりを挟む
「なあ、さっきの詠唱ってこうしたらどうだ?」
「ああ、いいわね。同じ状況でやってみましょう。グレイ、お願い出来る?」
「おう!」

 翌日以降も、私たちは変わらず魔法騎士団の入団試験に向けて対策を練る。

 アドは私に一切甘い態度を取らなくなり、淡々と課題をこなすようになった。

 今日も騎士団の訓練場を借りて模擬試合をしている。魔法のコントロールがすっかりお手の物になったアドには、二対二の模擬試合対策を重点に置いている。

 今日は私は試合には加わらず、客観的にアドの魔法についてアドバイスをしていた。

「……ねえ」

 今日は非番のイリスが見学に来ていて、私の隣で呼びかける。

「んー、何?」
「アドリア殿下ってば、ついにあんたに手ぇ出しちゃった?」
「ぶほっ!!」

 急にとんでもないことをイリスにぶっこまれ、思わず吹き出す。

「なっ、なっ――」

 口をパクパクさせる私にイリスが続ける。

「もー、殿下ってば何で我慢出来ないかな。てか、ミューはどうなわけ?」

 まだ何も言っていないのに、イリスがどんどん話を進めるので、私は顔が赤くなる。

「てか何で……」

 イリスに疑問をぶつければ、彼女はうーん、と少し考えて、首を横にこてんとさせた。

「ミューが殿下のことを殿下って呼んでるから?」
「そ、それは……今までが緩すぎたわけで……家庭教師として節度を持ってと……」

 あれから私はアドのことを「殿下」と呼んでいる。アドも私のことを「先生」と呼ぶようになり、そんな私たちを周りの皆は心配した様子だったけど、変わらず試験に向けて励む姿に、何も言わなかった。

「イリスさーん!」

 ゴニョゴニョと言い訳じみたことを言っていると、訓練場からアークが走って来る。

「イリスさん! この後みんなで飲みに行きましょうよー」
「あ、今日はパス」

 アークの誘いに秒で断るイリス。

「ええ~! グレイの婚約者さんにやっと会えたから、歓迎会したかったのに!」
「ふふ、ありがと。それはまた今度にしてくれる? 今日は、女子会だから」

 唇を尖らせて残念がるアークに、イリスは笑みを浮かべると、私の肩をガシッと抱いた。

「へっ?」
「あ、なーる。じゃあ、こっちは男子会といきますかー!」

 驚いてイリスを見る私とは逆に、アークは何かを察したかのように、にやりと笑った。

「その辺、はっきりさせといて」
「お任せあれ」
「????」

 今日が初対面のはずのイリスとアークは何だかわかりあったようで、二人でふふふ、と悪い顔で笑っていた。

☆☆☆

「カンパーイ! お疲れー!」
「お疲れ……」

 いつものように研究室にエールを買い込み、カップに注ぐと、イリスと乾杯をした。

「で?」

 一口ぐびっとエールを飲むと、イリスがニヤニヤと早速突っ込んできた。

「で、とは……」

 私もエールを流し込みながらイリスを見る。

「殿下とはどこまでやっちゃったわけ?」

 ブーーーーっとエールを吹き出す。

「ちょっとミュー、汚い!」
「イ、イリスこそ何言ってるの!?」

 慌てて側にあったタオルをイリスに渡し、台拭きで机を拭く。

「だって、あんたたち明らかに己を制するかのように呼び方変えちゃって。これは一線超えちゃったかー、って思うじゃない」
「下品!」

 イリスの容赦ない糾弾に思わず強い口調で遮ってしまった。

「冗談よ。ミューに限ってそんなこと無いってわかってるから。あんた堅物だもんね。で? 実際はどうなの?」

 自身を拭き終わったイリスが、ほらほら吐いちゃいなよ、と迫る。

「キ……キスされた……」

 観念した私はイリスに白状する。

 そういえば、アドに抱きしめられた時もこうやって白状させられたな、と懐かしい記憶が蘇る。

「それは、あの魔法騎士団棟から追いかけて行った時よね?」
「うん……」

 赤い顔を誤魔化すために私はエールを喉に流し込む。

 それから経緯をイリスに洗いざらい話した。

「殿下も急ぎすぎたわよね」
「へっ?」

 肩肘をつきながらイリスが呆れた表情で言うので、私は目を丸くした。

「『へっ?』じゃないわよ! 殿下があんたのこと好きなのはバカグレイ以外、皆気付いていたわよ?」
「えっ……………………えええええ!?」

 いっ、いつから……そんな……

「少なくとも、私が殿下と飲み屋に行った時はすでに好きだったと思うわよ」

 イリスが私の心を読んだかのように言った。

 真剣に気持ちを伝えてくれたアドに、今更ながら胸がえぐられるように痛む。

「でっでも、アド……殿下は、お母様を失ってから初めて頼った年上の女性が私だったって訳で……」
「ミュー、まさか、殿下にそれ言った?」

 イリスの言葉にこくん、と頷くと、彼女から呆れたような溜息が漏れる。

「そりゃ、殿下も怒るわ。可哀想に」
「えっ、えっ」

 イリスの言葉で焦慮する私に、彼女は続けた。

「いい、ミュー? 殿下は、あんたのこと女として好きなの。意識してんの。そんな態度醸し出してなかった?」

 ビシッとエールの瓶を突き出すイリスに、私の脳裏にはこれまでのアドの甘い態度が蘇る。

「――――っ!?」

 アドにとって意味のない行動だと思っていた。年下の男の子が年上に甘えるそれだと。急に恥ずかしくなる。

「はい。ここで、水面下で殿下の婚約話が動いていると噂があります」
「えっ」

 イリスの言葉に私は驚いて彼女を見た。

「ミュー、あんたが殿下の家庭教師を妹にも誰にも譲りたくないって思った気持ちは、本当に先生としてだけ?」

 イリスの問いかけに、私は答えることが出来なかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結·異世界転生したらアザラシ? でした〜白いモフモフでイケメン騎士たちに拾われましたが、前世の知識で医療チートしています〜

恋愛
ネットでアザラシを見ることが癒しだった主人公。 だが、気が付くと知らない場所で、自分がアザラシになっていた。 自分が誰か分からず、記憶が曖昧な中、個性的なイケメン騎士たちに拾われる。 しかし、騎士たちは冬の女神の愛おし子を探している最中で…… ※小説家になろう、Nolaノベルにも投稿しています ※完結まで毎日投稿します

婚約破棄された夜、最強魔導師に「番」だと告げられました

阿里
恋愛
学院の祝宴で告げられた、無慈悲な婚約破棄。 魔力が弱い私には、価値がないという現実。 泣きながら逃げた先で、私は古代の遺跡に迷い込む。 そこで目覚めた彼は、私を見て言った。 「やっと見つけた。私の番よ」 彼の前でだけ、私の魔力は輝く。 奪われた尊厳、歪められた運命。 すべてを取り戻した先にあるのは……

地味令嬢の私が婚約破棄された結果、なぜか最強王子に溺愛されてます

白米
恋愛
侯爵家の三女・ミレイアは、控えめで目立たない“地味令嬢”。 特に取り柄もなく、華やかな社交界ではいつも壁の花。だが幼いころに交わされた約束で、彼女は王弟・レオンハルト殿下との婚約者となっていた。 だがある日、突然の婚約破棄通告――。 「やはり君とは釣り合わない」 そう言い放ったのは、表向きには完璧な王弟殿下。そしてその横には、社交界の華と呼ばれる公爵令嬢の姿が。 悲しみも怒りも感じる間もなく、あっさりと手放されたミレイア。 しかしその瞬間を見ていたのが、王家随一の武闘派にして“最強”と噂される第一王子・ユリウスだった。 「……くだらん。お前を手放すなんて、あいつは見る目がないな」 「よければ、俺が貰ってやろうか?」 冗談かと思いきや、なぜか本気のご様子!? 次の日には「俺の婚約者として紹介する」と言われ、さらには 「笑った顔が見たい」「他の男の前で泣くな」 ――溺愛モードが止まらない!

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎ 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜

丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。 与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。 専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、 失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。 そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、 セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。 「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」 彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、 彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。 嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、 広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、 独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。 栄養と愛情を取り戻したセレナは、 誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、 社交界で注目される存在となる。 一方、セレナを失った伯爵家は、 彼女の能力なしでは立ち行かず、 ゆっくりと没落していくのだった――。 虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。

【完結】辺境伯の溺愛が重すぎます~追放された薬師見習いは、領主様に囲われています~

深山きらら
恋愛
王都の薬師ギルドで見習いとして働いていたアディは、先輩の陰謀により濡れ衣を着せられ追放される。絶望の中、辺境の森で魔獣に襲われた彼女を救ったのは、「氷の辺境伯」と呼ばれるルーファスだった。彼女の才能を見抜いたルーファスは、アディを専属薬師として雇用する。

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

【完結】氷狼魔術師長様と私の、甘い契約結婚~実は溺愛されていたなんて聞いていません!~

雨宮羽那
恋愛
 魔術国家アステリエで事務官として働くセレフィアは、義理の家族に給料を奪われ、婚期を逃した厄介者として扱われていた。  そんなある日、上司である魔術師長・シリウスが事務室へやってきて、「私と結婚してください」と言い放った!  詳しく話を聞けば、どうやらシリウスにも事情があるようで、契約結婚の話を持ちかけられる。  家から抜け出るきっかけだと、シリウスとの結婚を決意するセレフィア。  同居生活が始まるが、シリウスはなぜかしれっとセレフィアを甘やかしてくる!? 「これは契約結婚のはずですよね!?」  ……一方セレフィアがいなくなった義理の家族は、徐々に狂い始めて……? ◇◇◇◇  恋愛小説大賞に応募しています。  お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます( . .)"  モチベになるので良ければ応援していただけると嬉しいです! ※この作品は「小説家になろう」様にも掲載しております。 ※表紙はAIイラストです。文字入れは「装丁カフェ」様を使用しております。 ※小説内容にはAI不使用です。

処理中です...