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終章 恋と仕事と
第30話
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「なあ、さっきの詠唱ってこうしたらどうだ?」
「ああ、いいわね。同じ状況でやってみましょう。グレイ、お願い出来る?」
「おう!」
翌日以降も、私たちは変わらず魔法騎士団の入団試験に向けて対策を練る。
アドは私に一切甘い態度を取らなくなり、淡々と課題をこなすようになった。
今日も騎士団の訓練場を借りて模擬試合をしている。魔法のコントロールがすっかりお手の物になったアドには、二対二の模擬試合対策を重点に置いている。
今日は私は試合には加わらず、客観的にアドの魔法についてアドバイスをしていた。
「……ねえ」
今日は非番のイリスが見学に来ていて、私の隣で呼びかける。
「んー、何?」
「アドリア殿下ってば、ついにあんたに手ぇ出しちゃった?」
「ぶほっ!!」
急にとんでもないことをイリスにぶっこまれ、思わず吹き出す。
「なっ、なっ――」
口をパクパクさせる私にイリスが続ける。
「もー、殿下ってば何で我慢出来ないかな。てか、ミューはどうなわけ?」
まだ何も言っていないのに、イリスがどんどん話を進めるので、私は顔が赤くなる。
「てか何で……」
イリスに疑問をぶつければ、彼女はうーん、と少し考えて、首を横にこてんとさせた。
「ミューが殿下のことを殿下って呼んでるから?」
「そ、それは……今までが緩すぎたわけで……家庭教師として節度を持ってと……」
あれから私はアドのことを「殿下」と呼んでいる。アドも私のことを「先生」と呼ぶようになり、そんな私たちを周りの皆は心配した様子だったけど、変わらず試験に向けて励む姿に、何も言わなかった。
「イリスさーん!」
ゴニョゴニョと言い訳じみたことを言っていると、訓練場からアークが走って来る。
「イリスさん! この後みんなで飲みに行きましょうよー」
「あ、今日はパス」
アークの誘いに秒で断るイリス。
「ええ~! グレイの婚約者さんにやっと会えたから、歓迎会したかったのに!」
「ふふ、ありがと。それはまた今度にしてくれる? 今日は、女子会だから」
唇を尖らせて残念がるアークに、イリスは笑みを浮かべると、私の肩をガシッと抱いた。
「へっ?」
「あ、なーる。じゃあ、こっちは男子会といきますかー!」
驚いてイリスを見る私とは逆に、アークは何かを察したかのように、にやりと笑った。
「その辺、はっきりさせといて」
「お任せあれ」
「????」
今日が初対面のはずのイリスとアークは何だかわかりあったようで、二人でふふふ、と悪い顔で笑っていた。
☆☆☆
「カンパーイ! お疲れー!」
「お疲れ……」
いつものように研究室にエールを買い込み、カップに注ぐと、イリスと乾杯をした。
「で?」
一口ぐびっとエールを飲むと、イリスがニヤニヤと早速突っ込んできた。
「で、とは……」
私もエールを流し込みながらイリスを見る。
「殿下とはどこまでやっちゃったわけ?」
ブーーーーっとエールを吹き出す。
「ちょっとミュー、汚い!」
「イ、イリスこそ何言ってるの!?」
慌てて側にあったタオルをイリスに渡し、台拭きで机を拭く。
「だって、あんたたち明らかに己を制するかのように呼び方変えちゃって。これは一線超えちゃったかー、って思うじゃない」
「下品!」
イリスの容赦ない糾弾に思わず強い口調で遮ってしまった。
「冗談よ。ミューに限ってそんなこと無いってわかってるから。あんた堅物だもんね。で? 実際はどうなの?」
自身を拭き終わったイリスが、ほらほら吐いちゃいなよ、と迫る。
「キ……キスされた……」
観念した私はイリスに白状する。
そういえば、アドに抱きしめられた時もこうやって白状させられたな、と懐かしい記憶が蘇る。
「それは、あの魔法騎士団棟から追いかけて行った時よね?」
「うん……」
赤い顔を誤魔化すために私はエールを喉に流し込む。
それから経緯をイリスに洗いざらい話した。
「殿下も急ぎすぎたわよね」
「へっ?」
肩肘をつきながらイリスが呆れた表情で言うので、私は目を丸くした。
「『へっ?』じゃないわよ! 殿下があんたのこと好きなのはバカグレイ以外、皆気付いていたわよ?」
「えっ……………………えええええ!?」
いっ、いつから……そんな……
「少なくとも、私が殿下と飲み屋に行った時はすでに好きだったと思うわよ」
イリスが私の心を読んだかのように言った。
真剣に気持ちを伝えてくれたアドに、今更ながら胸がえぐられるように痛む。
「でっでも、アド……殿下は、お母様を失ってから初めて頼った年上の女性が私だったって訳で……」
「ミュー、まさか、殿下にそれ言った?」
イリスの言葉にこくん、と頷くと、彼女から呆れたような溜息が漏れる。
「そりゃ、殿下も怒るわ。可哀想に」
「えっ、えっ」
イリスの言葉で焦慮する私に、彼女は続けた。
「いい、ミュー? 殿下は、あんたのこと女として好きなの。意識してんの。そんな態度醸し出してなかった?」
ビシッとエールの瓶を突き出すイリスに、私の脳裏にはこれまでのアドの甘い態度が蘇る。
「――――っ!?」
アドにとって意味のない行動だと思っていた。年下の男の子が年上に甘えるそれだと。急に恥ずかしくなる。
「はい。ここで、水面下で殿下の婚約話が動いていると噂があります」
「えっ」
イリスの言葉に私は驚いて彼女を見た。
「ミュー、あんたが殿下の家庭教師を妹にも誰にも譲りたくないって思った気持ちは、本当に先生としてだけ?」
イリスの問いかけに、私は答えることが出来なかった。
「ああ、いいわね。同じ状況でやってみましょう。グレイ、お願い出来る?」
「おう!」
翌日以降も、私たちは変わらず魔法騎士団の入団試験に向けて対策を練る。
アドは私に一切甘い態度を取らなくなり、淡々と課題をこなすようになった。
今日も騎士団の訓練場を借りて模擬試合をしている。魔法のコントロールがすっかりお手の物になったアドには、二対二の模擬試合対策を重点に置いている。
今日は私は試合には加わらず、客観的にアドの魔法についてアドバイスをしていた。
「……ねえ」
今日は非番のイリスが見学に来ていて、私の隣で呼びかける。
「んー、何?」
「アドリア殿下ってば、ついにあんたに手ぇ出しちゃった?」
「ぶほっ!!」
急にとんでもないことをイリスにぶっこまれ、思わず吹き出す。
「なっ、なっ――」
口をパクパクさせる私にイリスが続ける。
「もー、殿下ってば何で我慢出来ないかな。てか、ミューはどうなわけ?」
まだ何も言っていないのに、イリスがどんどん話を進めるので、私は顔が赤くなる。
「てか何で……」
イリスに疑問をぶつければ、彼女はうーん、と少し考えて、首を横にこてんとさせた。
「ミューが殿下のことを殿下って呼んでるから?」
「そ、それは……今までが緩すぎたわけで……家庭教師として節度を持ってと……」
あれから私はアドのことを「殿下」と呼んでいる。アドも私のことを「先生」と呼ぶようになり、そんな私たちを周りの皆は心配した様子だったけど、変わらず試験に向けて励む姿に、何も言わなかった。
「イリスさーん!」
ゴニョゴニョと言い訳じみたことを言っていると、訓練場からアークが走って来る。
「イリスさん! この後みんなで飲みに行きましょうよー」
「あ、今日はパス」
アークの誘いに秒で断るイリス。
「ええ~! グレイの婚約者さんにやっと会えたから、歓迎会したかったのに!」
「ふふ、ありがと。それはまた今度にしてくれる? 今日は、女子会だから」
唇を尖らせて残念がるアークに、イリスは笑みを浮かべると、私の肩をガシッと抱いた。
「へっ?」
「あ、なーる。じゃあ、こっちは男子会といきますかー!」
驚いてイリスを見る私とは逆に、アークは何かを察したかのように、にやりと笑った。
「その辺、はっきりさせといて」
「お任せあれ」
「????」
今日が初対面のはずのイリスとアークは何だかわかりあったようで、二人でふふふ、と悪い顔で笑っていた。
☆☆☆
「カンパーイ! お疲れー!」
「お疲れ……」
いつものように研究室にエールを買い込み、カップに注ぐと、イリスと乾杯をした。
「で?」
一口ぐびっとエールを飲むと、イリスがニヤニヤと早速突っ込んできた。
「で、とは……」
私もエールを流し込みながらイリスを見る。
「殿下とはどこまでやっちゃったわけ?」
ブーーーーっとエールを吹き出す。
「ちょっとミュー、汚い!」
「イ、イリスこそ何言ってるの!?」
慌てて側にあったタオルをイリスに渡し、台拭きで机を拭く。
「だって、あんたたち明らかに己を制するかのように呼び方変えちゃって。これは一線超えちゃったかー、って思うじゃない」
「下品!」
イリスの容赦ない糾弾に思わず強い口調で遮ってしまった。
「冗談よ。ミューに限ってそんなこと無いってわかってるから。あんた堅物だもんね。で? 実際はどうなの?」
自身を拭き終わったイリスが、ほらほら吐いちゃいなよ、と迫る。
「キ……キスされた……」
観念した私はイリスに白状する。
そういえば、アドに抱きしめられた時もこうやって白状させられたな、と懐かしい記憶が蘇る。
「それは、あの魔法騎士団棟から追いかけて行った時よね?」
「うん……」
赤い顔を誤魔化すために私はエールを喉に流し込む。
それから経緯をイリスに洗いざらい話した。
「殿下も急ぎすぎたわよね」
「へっ?」
肩肘をつきながらイリスが呆れた表情で言うので、私は目を丸くした。
「『へっ?』じゃないわよ! 殿下があんたのこと好きなのはバカグレイ以外、皆気付いていたわよ?」
「えっ……………………えええええ!?」
いっ、いつから……そんな……
「少なくとも、私が殿下と飲み屋に行った時はすでに好きだったと思うわよ」
イリスが私の心を読んだかのように言った。
真剣に気持ちを伝えてくれたアドに、今更ながら胸がえぐられるように痛む。
「でっでも、アド……殿下は、お母様を失ってから初めて頼った年上の女性が私だったって訳で……」
「ミュー、まさか、殿下にそれ言った?」
イリスの言葉にこくん、と頷くと、彼女から呆れたような溜息が漏れる。
「そりゃ、殿下も怒るわ。可哀想に」
「えっ、えっ」
イリスの言葉で焦慮する私に、彼女は続けた。
「いい、ミュー? 殿下は、あんたのこと女として好きなの。意識してんの。そんな態度醸し出してなかった?」
ビシッとエールの瓶を突き出すイリスに、私の脳裏にはこれまでのアドの甘い態度が蘇る。
「――――っ!?」
アドにとって意味のない行動だと思っていた。年下の男の子が年上に甘えるそれだと。急に恥ずかしくなる。
「はい。ここで、水面下で殿下の婚約話が動いていると噂があります」
「えっ」
イリスの言葉に私は驚いて彼女を見た。
「ミュー、あんたが殿下の家庭教師を妹にも誰にも譲りたくないって思った気持ちは、本当に先生としてだけ?」
イリスの問いかけに、私は答えることが出来なかった。
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