芸術という名の殺人

真白なつき

文字の大きさ
13 / 23
第1章 幕開けの章

第12話 芸術(1)

しおりを挟む
 男の家――の地下へとつながる階段。

 二人分の足音がコンクリート打ちっぱなしの薄暗い空間に響く。
 目の前には例のスーツケースを抱え、勝手知ったる様子で歩を進める男。

 僕はそいつにこの家を訪れて生じた疑問をぶつけてみた。

「ここの1階、家っていうよりは事務所みたいな感じだったけど」

 もちろん1階のすべての部屋をのぞいたわけではないのだが。
 机にイス、ソファーや本棚、そして棚からあふれてそこら辺に積み上げられたファイル。
 玄関から入ってすぐの、居住スペースとは思えない雑然とした一部屋を思い出す。

「ああ。あの部屋、お前の言う通り事務所みたいなもんだからな。
 一応俺、会社経営してるから」

 あやうく段を踏み外しかけた。
 たたらを踏み、今しがた聞き入れた内容に耳を疑う。

「はあ?」
「つっても、従業員なんか雇ってないけど」

 こんなクレイジー野郎、絶対ニートか良くてフリーターだと思ってたのに。
 働いているどころか社長だなんて――。

「そんなの信じられるか」
「ひでえ! え、なんなの? お前から見た俺ってどうなってんの?」
「社会に馴染めないイカれ野郎」
「ブッ殺す」

 声を低くする男。
 やはりこんな物騒な男が勤労などという社会貢献をしているなんて到底信じがたい。しかもましてや社長だなんて。

 そのとき、スマホがメッセージを受信していることに気づく。
 妹からだ。どうやら僕からのメッセージに気づいたようだった。

 夕飯づくりを任せた上に、それどころか突然の外泊を一方的に告げたのだ。
 どんなお怒りの言葉が並んでいるのかと身構えて画面を見るも――。

『わかった』

 たった、四文字。
 了承の意を示すその一言だけがそこにはあった。

 やけに物分かりがいい。というか普段の妹からすると素っ気なさすぎるくらいだ。
 内容はもちろんだが、顔文字や絵文字などの装飾がないのも妹らしくない。
 まあ兄相手にそんな可愛らしいメッセージを送ってくる妹もどうかと常日頃思ってはいたが。

 もしかして怒りのボルテージが振り切れたとか? ――正直、それはとても面倒くさい。
 今のうちから明日帰るのが嫌になってきたぞ。

 思わずため息を吐いた。



 そうこうしているうちに地下に到着し、これまた薄暗い廊下を歩く。
 そしていくつかある扉のうちの一つ――ひと際大きな扉の前で男が立ち止まった。
 合わせて僕も足を止める。

 取っ手すらない無機質な扉。
 温かみの欠片もない打ちっぱなしのコンクリート。

 その右隣の壁にある突起部分に男は人差し指を押しあてた。

 ここまで男からなにがしかの説明は一切ない。
 言われるがままに男付いてきた僕には、この先に何があるのかさっぱり分からない。

――分からないけれど。

 ほのかに期待している僕もいた。
 おそらく僕の趣味に関わる何かにお目にかかれるのではないか、と。


 男は指紋認証をしていたのか。
 まもなく、ピッという電子音とともに目の前の扉がスライドしていく。

 どろり、と。

 冷気が僕らの立つ廊下へ流れ込んできた。
 頬を撫でるその冷気に招かれるように、僕らは一歩、足を踏み出す。

 その先に、あったものは。


「――これが、俺の芸術だ」


 大小様々なガラスケースと

 その中で眠る、みずみずしい肉体をあらわにした死体だった。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
現代文学
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...