アルダブラ君、逃げ出す

んが

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辛い時は、花でも見てね

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 イオン君は、ポライオンの帰りを待っていました。
 オライオンとポニーちゃんも落ち着かない様子で小屋の中をうろうろしていました。
 ポライオンが、そーっと小屋の中をのぞき込んでいます。
 イオン君とオライオンとポニーちゃんは、ほっと胸をなでおろしました。

「遅かったね、ポライオン」
「ごめんなさい。みんなとお話をしていたの」
 ポライオンは、なんだかもじもじしていました。
「何かあったの?」
「アルダブラおじさんが、あたしが話の途中でいなくなったから心配して後を追いかけてきてくれたの」
 ポライオンが、小さい声で言います。
「そうだったの」
 イオン君は、頷きます。
「そうしたら、あたしが歩くのが速いから追いつけなくて倒れてしまったの」
 ポライオンは顔を真っ赤にしながら、イオン君に説明します。
「それで、イオン君を探したんだけどいなくて…… りょうさんがいたからりょうさんに助けてもらったの!」
 それだけ一息に言うと、ポライオンはわーんと泣いてしまいました。
「よしよし、よく教えてくれたね」
 イオン君はポライオンの頭をなでました。
 ポニーちゃんとオライオンも、近寄ってきました。
「アルダブラ君は、平気なの?」
 ポニーちゃんが聞きました。
「さっき、りょうさんがお水をあげたらそのまま眠ってしまったの。あたし、おじさんが目を覚ますまでいようと思ったんだけど、りょうさんがこれから暑くなるからだめだって」
 ポニーちゃんが、しゃくりあげながら言いました。
「ポライオンまで倒れちまう」
 オライオンも言いました。
「じゃあ、ちょっとヘルプに行ってくるよ。ポライオン、柔らかいお肉持ってきたからお食べ。緊張して疲れただろう」
 イオン君は、お皿に入ったお肉をポライオンの前に置きました。
 
 イオン君がアルダブラ君のところへ行くと、アルダブラ君はもうリクガメの部屋に戻されていました。
「ごめんね~~~ みんな心配かけて~~~」
 アルダブラ君は、元気そうに草を食べていました。
「さっき、りょうさんから水をたくさんかけてもらったから~ もう平気~」
 イオン君は、ほっとしました。
「ポライオンが心配していたよ」
 イオン君が言うと、アルダブラ君は精いっぱいの速さで首を持ち上げました。
「ポライオンちゃんが、なにか話を聞きたそうだったんだよ~~~ だけど、なんだか僕の自慢話みたいになっちゃって~~ ポライオンちゃん、何を聞きたかったんだろう~ いつでもおいでってポライオンちゃんに伝えてください~」
 そういうと、アルダブラ君はイオン君の手に自分の前足を合わせました。
 イオン君は、ポライオンのいる小屋に戻りました。
 アルダブラ君のメッセージを伝えると、ポライオンは嬉しそうに尻尾を振りました。

 次の日の開園前、ポライオンはリクガメの部屋の前に立っていました。
 アルダブラ君は、朝のお散歩に出かけていました。
 ポライオンは、アルダブラ君を探しに行きました。
 アルダブラ君は、どこにもいませんでした。
 アルパカさんにもナマケモノのマナさんにも聞きましたが、知りませんでした。
「アルダブラおじさーん」
 ポライオンが、大きな声で呼びます。
「はあ~い」
 アルダブラ君が答えました。
「おじさん、どこにいるの?」
 ポライオンが聞きます。
「ここだよ、ここ」
 アルダブラ君は、入り口の扉のところに立っていました。
「何をしているの?」
 ポライオンが不思議そうに尋ねました。
「朝のお散歩してたんだよ~~~」
「そうなんだあ。私もお散歩してたの」
 アルダブラ君とポライオンは、なんだかおかしくてくすくす笑いました。
「毎朝、扉が開いてないか確認してるんだよ~~~ あと僕にお手紙が届いてないか見に来ているんだ~」  
「へえ」
 アルダブラ君が、毎朝きているとは知りませんでした。
「僕が脱走したときはね、ここの扉が開いてたんだよ~」
「へえ」
「りょうさんが閉め忘れたんだと思うんだけど、りょうさんは違うって言い張るんだ~~~」
 アルダブラ君は困ったような顔をしました。
「りょうさんは、嘘つく人じゃないと思うけど」
 ポライオンは、きっぱりと言いました。
「そうだね~ どうしてそれに気が付かなかったんだろう。でも昔、りょうさんがドア開け閉め係だったから……」
 アルダブラ君は考えこんでしまいました。
「それは置いといて…… ずっと聞きたかったことがあるの」
 ポライオンが言いました。
「おじさんは最初に動物園から外に出たときはどんな気持ちだった?」
 ポライオンが、アルダブラ君の目をじっと見つめました。
「わくわくしたよ~ 外は広いし~ 空気も葉っぱの味もみんな違うように思えた~」
「ふーん」
「何もかもがキラキラして見えたよ~ カタツムリ君たちやカブト虫君たちとおしゃべりしたり、楽しかったよ~~~。僕の背中にカタツムリ君たちを乗せてお散歩をしたんだ~~~。カタツムリ君とは今でもお手紙をやり取りしているんだよ」
「カタツムリってそんなに長生きなの?」
 ポライオンが、小首をかしげました。
「もうおじいちゃんだけどね~ 字は書けるんだよ~ 」
 ポライオンはカタツムリが意外と長生きだということを知りませんでした。
「海も楽しかったよ~ オライオンが計画してくれたんだよ~。僕はトラックにのせてもらったんだけど、海は広くてとても大きかったよ。しょっぱかったしね。今度ポライオンちゃんも連れて行ってもらえるといいね~」
 ポライオンは微笑みました。
 もうすぐ開園だとアナウンスが流れました。
「おじさん、楽しかったよ。またおはなし聞かせて」
 ポライオンは、帰ろうとしました。
「あ、待って~~~」
 アルダブラ君は、にっこりと笑いました。
「お花あげる~~~」
 アルダブラ君は、ポライオンに花を渡しました。
「ポライオンにピッタリの花だと思うよ~」
 アルダブラ君が言うと、ポライオンは黙ってうなずきました。
 ポライオンは、お母さんからもらったポシェットに花をそっとしまいました。
 
 後でイオン君が、花ことばを教えてくれました。
 朝顔の花ことばは、「愛情」「結束」そして「明日もさわやかに」「冷静」「はかない恋」「固い絆(きずな)」「あふれる喜び」
 ゲンノショウコの花ことばは、「愁いを忘れて」「心の強さ」だと。

 動物園は今日も暑くなりそうです。
 動物たちはみんなのどかに暮らしています。
                                                                       

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