18 / 29
カーティア、夜道を歩く。
夜の森の中をカーティアは一人歩いていた。
翌朝には学外訓練は終了し学生たちは学園に戻ることになる。疲れ切って熟睡している学生たちを起こさないようにカーティアはこっそりとテントを抜け出しあてもなく歩いていた。
三日間の訓練で心身ともに疲れている。それでもカーティアは眠れなかった。考えることが多すぎて。
「・・・眠れないのか」
ぼんやりと考え事をしていたカーティアは突然目の前に現れたアルドを一瞬幻覚かと思った。返事をしないカーティアにアルドは不審そうな顔になる。
「どうした。何かあったのか」
「・・・いいえ、大丈夫。眠れなかっただけ。もう少ししたら戻るわ」
少し遅れて返事をしたカーティアにアルドはもの言いたげにしたがそれ以上何も言わなかった。
「・・・テントまで送ろう」
「えぇ。ありがとう」
肩を並べて歩く。無言がなんとなく気まずくてカーティアは話題を探す。
「・・・あ」
隣を歩くアルドの顔を見上げる。頬の傷には真新しい包帯が当てられていて、傷がどうなっているのかはわからなかった。アルドが傷がある方と逆の自分の頬に触れる。
「問題ない。数日もすれば治る。傷も残らないはずだ」
傷を見つめた後俯いたカーティアを慰めるようにアルドは優しい声を出した。初めて聞くような声だった。
カーティアはその場に立ち止まった。俯いたまま顔は上げられない。
「・・・アルドは」
「なんだ」
「アルドは私のことをどう思っているの」
質問を間違えたような、一番聞きたかったことを聞けたような。どちらともつかずにカーティアは唇を噛んだ。
アルドの沈黙が怖い。
「・・・前を見てくれ」
アルドの声にカーティアはゆっくりと顔をあげた。そして目を見開く。
カーティアの目の前には一角獣が立っていた。正確に言えば水で出来た一角獣が。優美な姿で立つ一角獣はその場でくるりと一回りするとカーティアの足元に膝を折る。まるでカーティアがその背に乗るための準備をするように。
「・・・乗っていいの?」
「大丈夫」
アルドの手を借りて恐る恐るカーティアは一角獣の背に座る。ご丁寧に鞍まで形成された水の一角獣はカーティアを乗せたままで歩き出した。
「・・・まるで『青の森に帰るとき』の場面みたいね。最近出たばかりの本なのにアルドももう読んでいたの?」
はしゃいだ声をあげたカーティアにアルドはわずかにほほ笑んだ。『青の森に帰るとき』は恋物語だ。真面目な青年と浮世離れした少女が出会い様々な苦難を乗り越え結ばれる物語。一角獣が出てくるのは主人公である青年がヒロインである少女に愛の言葉を告げるときだ。一角獣に乗った少女に向けて朴訥な主人公が一生懸命に紡ぐ愛の言葉が本当に素晴らしくてカーティアはほぅっと息を吐いたものだった。そして今、カーティアは気づいた。アルドがその場面を再現していることに。
「・・・物語のように、とは、言えないが。・・・俺は、君がどう思っていようと、君のことが好きだよ」
まっすぐに見つめるアルドの視線にカーティアの顔は知らず知らずのうちに真っ赤に染まっていた。
翌朝には学外訓練は終了し学生たちは学園に戻ることになる。疲れ切って熟睡している学生たちを起こさないようにカーティアはこっそりとテントを抜け出しあてもなく歩いていた。
三日間の訓練で心身ともに疲れている。それでもカーティアは眠れなかった。考えることが多すぎて。
「・・・眠れないのか」
ぼんやりと考え事をしていたカーティアは突然目の前に現れたアルドを一瞬幻覚かと思った。返事をしないカーティアにアルドは不審そうな顔になる。
「どうした。何かあったのか」
「・・・いいえ、大丈夫。眠れなかっただけ。もう少ししたら戻るわ」
少し遅れて返事をしたカーティアにアルドはもの言いたげにしたがそれ以上何も言わなかった。
「・・・テントまで送ろう」
「えぇ。ありがとう」
肩を並べて歩く。無言がなんとなく気まずくてカーティアは話題を探す。
「・・・あ」
隣を歩くアルドの顔を見上げる。頬の傷には真新しい包帯が当てられていて、傷がどうなっているのかはわからなかった。アルドが傷がある方と逆の自分の頬に触れる。
「問題ない。数日もすれば治る。傷も残らないはずだ」
傷を見つめた後俯いたカーティアを慰めるようにアルドは優しい声を出した。初めて聞くような声だった。
カーティアはその場に立ち止まった。俯いたまま顔は上げられない。
「・・・アルドは」
「なんだ」
「アルドは私のことをどう思っているの」
質問を間違えたような、一番聞きたかったことを聞けたような。どちらともつかずにカーティアは唇を噛んだ。
アルドの沈黙が怖い。
「・・・前を見てくれ」
アルドの声にカーティアはゆっくりと顔をあげた。そして目を見開く。
カーティアの目の前には一角獣が立っていた。正確に言えば水で出来た一角獣が。優美な姿で立つ一角獣はその場でくるりと一回りするとカーティアの足元に膝を折る。まるでカーティアがその背に乗るための準備をするように。
「・・・乗っていいの?」
「大丈夫」
アルドの手を借りて恐る恐るカーティアは一角獣の背に座る。ご丁寧に鞍まで形成された水の一角獣はカーティアを乗せたままで歩き出した。
「・・・まるで『青の森に帰るとき』の場面みたいね。最近出たばかりの本なのにアルドももう読んでいたの?」
はしゃいだ声をあげたカーティアにアルドはわずかにほほ笑んだ。『青の森に帰るとき』は恋物語だ。真面目な青年と浮世離れした少女が出会い様々な苦難を乗り越え結ばれる物語。一角獣が出てくるのは主人公である青年がヒロインである少女に愛の言葉を告げるときだ。一角獣に乗った少女に向けて朴訥な主人公が一生懸命に紡ぐ愛の言葉が本当に素晴らしくてカーティアはほぅっと息を吐いたものだった。そして今、カーティアは気づいた。アルドがその場面を再現していることに。
「・・・物語のように、とは、言えないが。・・・俺は、君がどう思っていようと、君のことが好きだよ」
まっすぐに見つめるアルドの視線にカーティアの顔は知らず知らずのうちに真っ赤に染まっていた。
あなたにおすすめの小説
幼馴染が最優先な婚約者など、私の人生には不要です。
たると
恋愛
シュタイン伯爵家の長女エルゼは、公爵子息フィリップに恋をしていた。
彼の婚約者として選ばれた時は涙を流して喜んだが、その喜びもいまは遠い。
『君は一人でも大丈夫だろう。この埋め合わせは必ずする。愛している』
「……『愛している』、ですか」
いつも幼馴染を優先するアルベルトに、恋心はすっかり冷めてしまった。
9時から5時まで悪役令嬢
西野和歌
恋愛
「お前は動くとロクな事をしない、だからお前は悪役令嬢なのだ」
婚約者である第二王子リカルド殿下にそう言われた私は決意した。
ならば私は願い通りに動くのをやめよう。
学園に登校した朝九時から下校の夕方五時まで
昼休憩の一時間を除いて私は椅子から動く事を一切禁止した。
さあ望むとおりにして差し上げました。あとは王子の自由です。
どうぞ自らがヒロインだと名乗る彼女たちと仲良くして下さい。
卒業パーティーもご自身でおっしゃった通りに、彼女たちから選ぶといいですよ?
なのにどうして私を部屋から出そうとするんですか?
嫌です、私は初めて自分のためだけの自由の時間を手に入れたんです。
今まで通り、全てあなたの願い通りなのに何が不満なのか私は知りません。
冷めた伯爵令嬢と逆襲された王子の話。
☆別サイトにも掲載しています。
※感想より続編リクエストがありましたので、突貫工事並みですが、留学編を追加しました。
これにて完結です。沢山の皆さまに感謝致します。
「退屈な女だ」と婚約破棄されたので去りましたが、翌日から国政が止まったそうです。え、私はもう存じませんけど?
にたまご
恋愛
公爵令嬢クラーラは、ユリウス王太子殿下に婚約を破棄された。
「退屈な女だ」「何の取り柄もない」と。
否定はしない。
けれど殿下が知らないだけで、通商条約も予算案も外交書簡も、この国の政務の大半を六年間匿名で回していたのは──この「退屈な女」だ。
婚約破棄の翌朝、宰相補佐官のレオンが焼き菓子と四十二件の緊急報告を携えて公爵邸を訪れる。
「貴女がいなくなった王宮は、控えめに申し上げて、地獄です」
──存じません。私はもう、ただの無職ですので。
世継ぎは他の妃が産めばいい——子を産めない私ですが、帝の寵愛を独占して皇后になりました
由香
恋愛
後宮に入る女の価値は、ただ一つ。
——皇子を産めるかどうか。
けれど私は、産めない。
ならば——
「世継ぎは他の妃に任せます。私は、陛下に愛される女になります」
そう言い放ったその日から、すべてが狂い始めた。
毒を盛られても、捨てられず。
皇子が生まれても、選ばれたのは私だった。
「お前は、ここにいろ」
これは、子を産めない女が
ただ一つの武器“寵愛”だけで頂点に立つ物語。
そして——
その寵愛は、やがて狂気に変わる。
結婚式の翌朝、夫に「皇太子の愛人だろう」と捨てられました――ですが私は、亡き国王の娘です
柴田はつみ
恋愛
母の遺した薬草店を守りながら、慎ましく暮らしていたアンリ。
そんな彼女に求婚してきたのは、国内でも名高い騎士にして公爵家当主、アルファだった。
真っすぐな想いを向けられ、彼を信じて結婚したアンリ。
けれど幸せなはずの結婚式の翌朝、夫は冷たく言い放つ。
「君を愛していると本気で思っていたのかい? 」
彼はアンリが第一皇太子と深い仲にあり、自分との結婚は身を隠すための偽装だと誤解していたのだ。
アンリは実は、亡き国王の婚外子。
皇太子にとっては、隠して守らなければならない妹だったのである。
死ぬまでに叶えたい十の願い
木風
恋愛
「あなたを妻として、愛することはない。おそらく、生涯抱くこともないだろう」
三年間の白い結婚——捨て置かれた王太子妃エリアーナに、側妃が『死の呪い』をかけ余命一年を宣告する。
離縁を願うも拒否され、代わりに「死ぬまでに十の願いを叶えて」と契約する——
二人きりの外出、星空、海…ささやかな願いが王太子の心をほどいていく。
【今さら遅い】毒で声を失い公爵に捨てられた私。妹では精霊が応えず国は滅びへ。ですが隣国皇帝に溺愛される私に、今さら縋ってきても遅いです
唯崎りいち
恋愛
国一番の歌姫だった私は、妹に毒を盛られ声を失い、婚約者に捨てられた。
すべてを奪われた私を救ったのは、隣国の皇帝。
「お前の歌がなければ国は滅びる」と言われた私の歌は、精霊に届く“本物”の力を持っていて――
一方、私を追放した国は偽物の歌では加護を失い衰退。
今さら元婚約者が縋ってきても、もう遅い。
あなたの隣に私は必要ですか?
らんか
恋愛
政略結婚にて、3年前より婚約し、学園卒業と共に嫁ぐ予定であったアリーシア。
しかし、諸事情により結婚式は延期され、次の結婚式の日取りさえなかなか決められない状況であった。
そんなアリーシアの婚約者ルートヴィッヒは、護衛対象である第三王女ミーアの傍を片時も離れようとしない。
月1回の婚約者同士のお茶会もすぐに切り上げてしまい、夜会へのエスコートすらしてもらった事がない。
そんな状況で、アリーシアは思う。
私はあなたの隣に必要でしょうか? あなたが求めているのは別の人ではないのでしょうかと。
* 短編です。4/4に完結します。
ご感想欄は都合により、閉じさせて頂きます。