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犬
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「書類を用意しておきますから、シルヴェーヌ、彼に家を案内してきたらどうかしら?庭の花が見頃なのよ」
お母様が小首を傾げて私に言う。ベルトランを見ると立ち上がったので、私も急いで席を立つ。
「ベルトラン様、こちらにどうぞ」
ベルトランに背中を向け、先導する。横並びの方が良かっただろうか。でも今更変えるのも変な気がするし。
「シルヴェーヌのご両親は優しい人だね。娘を案じる顔をしていた」
穏やかな声で話しかけられる。背を向けたまま返した。
「いい人達です。私のことをずっと心配していました」
エルヴェ様が横暴に振る舞うたびに両親は婚約解消の話をしてくれた。断ったのは私自身だ。多少の階級差は私にエルヴェ様に対しての少しの遠慮を生んだ。あのパーティの日に婚約破棄を言い出されなかったら私は彼と結婚することを選んでいたかもしれない。まぁ今となっては無い未来となったわけだが。
庭へと続く扉を開けた瞬間私に向けて大きな白い影が飛びついてきた。
「キャッ」
「シルヴェーヌ!」
影に倒され私は尻餅をつく。
「…こら、モーヴ。飛びついてはいけないと何度も言っているでしょう」
「…犬?」
モーヴ。4歳の真っ白な毛並みの大型犬。紫のタレ目が愛くるしい。私の可愛いペットはばたばたと嬉しげに尻尾を振っていた。
「かわいいね。シルヴェーヌの飼い犬かな?瞳の色も似ている気がする」
ベルトランがモーヴの顔に手を近づけて匂いを嗅がせる。ふんふんと鼻を動かしたモーヴは私から離れてベルトランに飛びついた。たたらを踏んだベルトランはそれでも転ばずにモーヴを支えて立っていた。
「…申し訳ありません、ベルトラン様。いつまでも子犬のままで…。躾はしているのですが」
「いいよいいよ。犬はこれぐらい元気な方が可愛い。犬が好き?僕は猫が好き。子猫を3匹飼ってる。猫も可愛いよ」
「…私は犬の方が好きですね。猫も可愛いとは思いますが」
よしよしとベルトランがモーヴの頭を撫でる。嬉しそうにぴすぴすと鼻を鳴らすモーヴが可愛くて私は目を細めた。
「…シルヴェーヌもかわいいね」
私に向けて微笑むベルトランに返事が出来なくて私はじっとモーヴの顔を見つめていた。
お母様が小首を傾げて私に言う。ベルトランを見ると立ち上がったので、私も急いで席を立つ。
「ベルトラン様、こちらにどうぞ」
ベルトランに背中を向け、先導する。横並びの方が良かっただろうか。でも今更変えるのも変な気がするし。
「シルヴェーヌのご両親は優しい人だね。娘を案じる顔をしていた」
穏やかな声で話しかけられる。背を向けたまま返した。
「いい人達です。私のことをずっと心配していました」
エルヴェ様が横暴に振る舞うたびに両親は婚約解消の話をしてくれた。断ったのは私自身だ。多少の階級差は私にエルヴェ様に対しての少しの遠慮を生んだ。あのパーティの日に婚約破棄を言い出されなかったら私は彼と結婚することを選んでいたかもしれない。まぁ今となっては無い未来となったわけだが。
庭へと続く扉を開けた瞬間私に向けて大きな白い影が飛びついてきた。
「キャッ」
「シルヴェーヌ!」
影に倒され私は尻餅をつく。
「…こら、モーヴ。飛びついてはいけないと何度も言っているでしょう」
「…犬?」
モーヴ。4歳の真っ白な毛並みの大型犬。紫のタレ目が愛くるしい。私の可愛いペットはばたばたと嬉しげに尻尾を振っていた。
「かわいいね。シルヴェーヌの飼い犬かな?瞳の色も似ている気がする」
ベルトランがモーヴの顔に手を近づけて匂いを嗅がせる。ふんふんと鼻を動かしたモーヴは私から離れてベルトランに飛びついた。たたらを踏んだベルトランはそれでも転ばずにモーヴを支えて立っていた。
「…申し訳ありません、ベルトラン様。いつまでも子犬のままで…。躾はしているのですが」
「いいよいいよ。犬はこれぐらい元気な方が可愛い。犬が好き?僕は猫が好き。子猫を3匹飼ってる。猫も可愛いよ」
「…私は犬の方が好きですね。猫も可愛いとは思いますが」
よしよしとベルトランがモーヴの頭を撫でる。嬉しそうにぴすぴすと鼻を鳴らすモーヴが可愛くて私は目を細めた。
「…シルヴェーヌもかわいいね」
私に向けて微笑むベルトランに返事が出来なくて私はじっとモーヴの顔を見つめていた。
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