婚約破棄されたら、隣国の侯爵に求婚されました。 『理屈屋と感覚派』

しぎ

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自覚

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「また頭抱えてるね、悩み事?」
「…えぇ、ベルトラン。大きな悩み事」
私とベルトランが婚約してから一月が経った。ベルトランは数日と置かずに我が家を訪ねてくる。最初から好意的だった母はもちろん、警戒していた父までたらし込んでしまった。このままだと我が家の爵位まで彼にあげてしまうかもしれない。従兄弟のアレクが号泣してしまう。
私の大きな悩み事はそれではなく、私の手の中にあった。一つの封筒。中には手紙と招待状。
「王宮でのパーティ?婚約者同伴で?」
「まさか呼ばれるとは…手紙は友人からの物です」
パーティは半月後。新しい王位を継ぐ者を祝うパーティだ。
「ドレスを用意しなくちゃ!僕の礼服とお揃いにしよう!」
るんたるんたと楽しげなベルトラン。ドレスは贈ってくれるつもりらしい。エルヴェ様は一度も贈り物などしてくれなかったから新鮮な感じだ。
「僕の国では婚約者とか恋人のドレスは男が全部仕上げて贈る日まで内緒にしておくんだ。事故も結構起こるけど、楽しいんだよ。それでもいい?」
「ベルトランがそうしてくれるのなら。仕立て屋を教えてください。サイズを測ります」
流石にベルトランに直接は言えない。
「分かった、よろしく。…ちなみに手紙の送り主は男?」
「いいえ、女性。私の昔からの友人ですよ」 
「そう?それなら良かった。ちょっと嫉妬しちゃうとこだった」
ベルトランがにこりと微笑む。よく笑う人だ。
「ドレス、楽しみにしててね」

「モーヴ。彼って素敵な人なのかしら。比較対象がエルヴェ様だからよく見えるのかしら」
モーヴの柔らかい背中を撫でながら話しかける。気持ち良さそうに目を細めるモーヴはごろりと庭に転がったまま鼻を鳴らしもしない。
「笑顔が素敵ね。よく笑う人はみんなに好かれる人よ。私とは正反対。彼は私のことをよく褒めるわ。可愛いとか、面白いとか。…面白いは褒め言葉かしら。女性を褒める時に使う言葉ではあまり無いけれど…。」
撫でる手を止めるとモーヴがもっと撫でてとばかりにじっとこちらを見つめるのでまた撫でてやる。
「あの青い瞳、最初に会った時は暖かい海のようだと思ったの。最近はなんだか明ける前の夜空みたいだと思うわ。なんでかしら。明るい日中に見ると瞳の色って変わるのかしらね」
ねぇモーヴ。
「嫉妬しちゃうんですって、私が男の人から手紙をもらっていたら」
モーヴ。聞いて。
「私きっと彼のことが好きなの」
彼も私のこと、少しは好きかしら。
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