婚約破棄されたら、隣国の侯爵に求婚されました。 『理屈屋と感覚派』

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「1つ目。私は特に何もしていません。エルヴェ様とは婚約が破棄された時点で関係は無いものとなりましたし、一介の貴族令嬢である私に王宮で取り調べをする権利や職を失わせる力はありません。父にも頼んでません。外国の方もいらっしゃるパーティでのあの騒ぎですから、然るべき処置がなされた。ということではないでしょうか。
2つ目。あなたは先ほどどうでもいいと仰られましたけど、本当にどこから侵入したのですか?ここはウィールライト侯爵家の本邸です。侵入者が易々と入り込めるようにはなっていないはずです。あなたはどこから、どうやってここに入り込んだのか、聞かせてもらってもよろしいですか?
3つ目。ベルトラン様に近寄らないでくださいますか?先ほどからじりじりと近づいてきているのは分かっています。私の婚約者です。あなたにはエルヴェ様がいるのでは?」
「おー、いいね。シルヴェーヌ。もう一声!」
「…いいえ、これで終わりです。ベルトラン様。楽しまないでください。ミリーさん。あなたは本当にどこから…」
「……もういいわよ!エルヴェのことを助けてくんないのね!じゃあもういいから!」
「あっ、待ってください、話は…」
くるりと背を向け走っていくミリーさんを追いかけようとする私を制するようにモーヴが走り出す。ぐんぐん走る白い体は私が庭に入ってきた時よりも過激にミリーさんの体を全力で押し倒した。
「ぐぎゃっ!」
変な声をあげてミリーさんが倒れる。モーヴが抑えてくれている間に私は使用人と衛兵を呼ぶことにした。

「…なかなか、レアなケースだと言えるんじゃない?」
「…申し訳ありません。ベルトラン様。ご迷惑をおかけしました」
ミリーが家に侵入できた理由。
それはうちの庭師が引き入れたからだった。
ウィールライトライト侯爵家の夫人自慢の庭はなかなか広い。庭を手入れする庭師もなかなかの人数雇っている。その中の1人、まだ年若き庭師の男が彼らの出入りする裏口からこっそりとミリーを引き入れたのだった。
「…そういえば、あそこの庭師の紹介はアレオン公爵家でしたっけ。関係は切ったつもりでしたがそこが残っていましたか…」
男はクビにしたが、他に誰か同じような人間がいないか確認しなくてはならない。今から頭が痛い。
しかも婚約者とはいえ、隣国の侯爵家の人間と侵入者を鉢合わせてしまったのだ。家の問題になる。
私は深くベルトランに頭を下げる。
「…申し訳ありませんでした。今後このようなことの無いよう深く注意致します」
「やめてよ、そんな感じにするの」
ベルトランが困ったような声を出す。
「…あ、それならさ、ほら顔上げて」
ベルトランが私の肩に触れる。私はゆっくりと顔を上げる。
「ベルトラン、って呼んでよ。それでいい。できれば敬語も無くしてくれると嬉しいけど」
ふわりとベルトランが微笑む。
「…えぇ、分かったわ。ベルトラン」
「うん、そっちの方がいい、シルヴェーヌ」
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