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パーティの閉会時間近くになったころ、アカリ様が中央に進み出ました。それに合わせるように、3人の男女が進み出ます。学生よりも私の両親に近いような年代の方々は、侯爵家の教育を思い出す限り皆さん伯爵家の方のようでした。何が始まるのかと周囲の人が集まり輪になって彼らを見守ります。ブレイグ様たちはアカリ様に一番近い場所に立っています。全員がある程度落ち着いたころ、三人の方々がアカリ様の前にひざまずきます。
「聖女アカリ様、本日は我々の悩みを解決して下さるということでこちらにはせ参じました。私の娘、フランチェスカは幼いころに馬から落ちて足を悪くし、それ以来外に出ることが出来ません。彼女を治して下さらないでしょうか」
「聖女様、私の夫は病で数年前から目が見えなくなっているのです。どうか彼を癒してください」
「聖女様、私の母が記憶をなくす病にかかっているのです。母は私のことも孫のことも忘れてしまっている。彼女を助けてください」
「「「聖女様、どうかお力をお貸しください」」」
さらに深く頭を下げる三人にアカリ様は微笑みかけます。
「大丈夫!私がみんな助けるよ!連れてきて!」
次いでアカリ様は周囲の人々に向けて言います。
「パーティの最後に何かやりたいなって偉い人に言ったら、聖女としての力をみんなに見せてほしいって言われたんだぁ。みんな見ててね?私ちょっとすごいよ?」
三人は一度退出し中央に治してほしい人々を連れてきます。車いすに乗せられてきた足の悪い少女の前でアカリ様がしゃがみ込み彼女の足に触れると、アカリ様の手が淡くピンク色に光ります。多くの人々の前で恥ずかしそうにうつむいていた少女がはっと顔をあげます。
「足が軽いわ・・・!」
少女がぴょんと立ち上がります。数歩進んでくるくると回りぱっと顔を明るくします。
「お父様!」「フランチェスカ!」
親子がきつく抱き合うそのそばでアカリ様は目に包帯を巻いた男性の顔に触れます。再び手が輝いたかと思うと男性は包帯をむしり取りました。
「見える!光が見える!あぁスザンナ、君の顔を久しぶりに見られたよ!」
アカリ様に願った女性と手を取り合って喜びあいます。
そして最後にぼんやりとした顔をしている女性の頭に触れて祈ります。彼女の息子がかたずをのんで見守る中、女性はふいと顔をあげ、
「あら、私はどうしてこんなところにいるの?これは学園のパーティでしょう?孫はまだ8歳だから入学には早いんじゃ?」
不思議そうに息子を見上げるのでした。喜びに泣きむせぶ男性。
アカリ様は現れた方々の悩みをすべてこの場で一瞬で解決してしまいました。
聖女の力に圧倒され、周囲の人々は静まり返りました。中央の人々の喜び、泣き笑う声だけが響きます。
「アカリ、やっぱり君はすごい」
ベンネル第一王子が進み出ます。アカリ様の頭を撫で、優しく彼女のことを称賛しました。
「そんなことないよー!聖女としての役目だもんね!」
うれしげに笑う彼女の顔をやさしい瞳で見つめたベンネル第一王子は静かに顔をあげこちらを、少し離れた場所から中央の出来事を見守っていた私たちの方を見つめました。
「メーレ・アウルム公爵令嬢。前に出てきてくれないか」
私の隣にいたメーレ様様の肩が一度小さく震え、軽くうつむきます。それでもメーレ様は顔をあげすっと歩き出しました。
「ここにいます。ベンネル様」
私は彼女のドレスをつかんで引き留めたい気持ちでいっぱいでした。とてもとても嫌な予感がします。絶対にこの先良いことは起こらないような予感が。それでもメーレ様はベンネル第一王子とアカリ様の前に立ち静かに礼をします。
「何の御用でしょうか」
恭しく尋ねるメーレ様にベンネル第一王子は色のない瞳で告げます。告げてしまいます。
「僕との、婚約を解消してもらいたい」
周囲にざわめきが広がります。第一王子と公爵家令嬢の婚約は王命で決められたものです。それを覆そうというのです。
「僕はアカリを愛してしまった。聖女としての力を持った彼女をこの先ずっと支えていきたいと思ってしまったんだ。このままではアカリにも君にも悪いと思う。だから婚約を解消してほしい。大丈夫、君にはきっともっと良い相手が見つかるよ」
なんてひどいことを言うのでしょう。私がそう思ったその時、
「なんてひどいこと言うの!」
そう同じことを叫んだ人がいました。誰であろうアカリ様です。
「ベンネルとずっと一緒にいた婚約者なんでしょう?いくら政略だからってこんな場所でそんなこと言うなんてひどいよ!」
ベンネル第一王子の隣で、彼の服を引っ張り、メーレ様と対峙した状態でアカリ様はそんなことを言うのです。
ベンネル様を責める厳しい口調ですが、なぜか私の目にはアカリ様が楽しそうに微笑んでいるように見えました。
押し黙っていたメーレ様がすうと息を吸い静かに頭を下げます。
「婚約解消、承りましたわ」
2人に背を向けメーレ様が私たちのところに戻ってきます。無表情を装っていますが、唇をかみしめています。私たち三人はメーレ様を支えながら急いでパーティ会場を後にしました。パーティの礼儀なんて気にしてられません。今大事なのは傷ついた友人を助けることです。
こうして私たちの最初の学園パーティはあまりにも最悪な出来事で幕を閉じました。
「聖女アカリ様、本日は我々の悩みを解決して下さるということでこちらにはせ参じました。私の娘、フランチェスカは幼いころに馬から落ちて足を悪くし、それ以来外に出ることが出来ません。彼女を治して下さらないでしょうか」
「聖女様、私の夫は病で数年前から目が見えなくなっているのです。どうか彼を癒してください」
「聖女様、私の母が記憶をなくす病にかかっているのです。母は私のことも孫のことも忘れてしまっている。彼女を助けてください」
「「「聖女様、どうかお力をお貸しください」」」
さらに深く頭を下げる三人にアカリ様は微笑みかけます。
「大丈夫!私がみんな助けるよ!連れてきて!」
次いでアカリ様は周囲の人々に向けて言います。
「パーティの最後に何かやりたいなって偉い人に言ったら、聖女としての力をみんなに見せてほしいって言われたんだぁ。みんな見ててね?私ちょっとすごいよ?」
三人は一度退出し中央に治してほしい人々を連れてきます。車いすに乗せられてきた足の悪い少女の前でアカリ様がしゃがみ込み彼女の足に触れると、アカリ様の手が淡くピンク色に光ります。多くの人々の前で恥ずかしそうにうつむいていた少女がはっと顔をあげます。
「足が軽いわ・・・!」
少女がぴょんと立ち上がります。数歩進んでくるくると回りぱっと顔を明るくします。
「お父様!」「フランチェスカ!」
親子がきつく抱き合うそのそばでアカリ様は目に包帯を巻いた男性の顔に触れます。再び手が輝いたかと思うと男性は包帯をむしり取りました。
「見える!光が見える!あぁスザンナ、君の顔を久しぶりに見られたよ!」
アカリ様に願った女性と手を取り合って喜びあいます。
そして最後にぼんやりとした顔をしている女性の頭に触れて祈ります。彼女の息子がかたずをのんで見守る中、女性はふいと顔をあげ、
「あら、私はどうしてこんなところにいるの?これは学園のパーティでしょう?孫はまだ8歳だから入学には早いんじゃ?」
不思議そうに息子を見上げるのでした。喜びに泣きむせぶ男性。
アカリ様は現れた方々の悩みをすべてこの場で一瞬で解決してしまいました。
聖女の力に圧倒され、周囲の人々は静まり返りました。中央の人々の喜び、泣き笑う声だけが響きます。
「アカリ、やっぱり君はすごい」
ベンネル第一王子が進み出ます。アカリ様の頭を撫で、優しく彼女のことを称賛しました。
「そんなことないよー!聖女としての役目だもんね!」
うれしげに笑う彼女の顔をやさしい瞳で見つめたベンネル第一王子は静かに顔をあげこちらを、少し離れた場所から中央の出来事を見守っていた私たちの方を見つめました。
「メーレ・アウルム公爵令嬢。前に出てきてくれないか」
私の隣にいたメーレ様様の肩が一度小さく震え、軽くうつむきます。それでもメーレ様は顔をあげすっと歩き出しました。
「ここにいます。ベンネル様」
私は彼女のドレスをつかんで引き留めたい気持ちでいっぱいでした。とてもとても嫌な予感がします。絶対にこの先良いことは起こらないような予感が。それでもメーレ様はベンネル第一王子とアカリ様の前に立ち静かに礼をします。
「何の御用でしょうか」
恭しく尋ねるメーレ様にベンネル第一王子は色のない瞳で告げます。告げてしまいます。
「僕との、婚約を解消してもらいたい」
周囲にざわめきが広がります。第一王子と公爵家令嬢の婚約は王命で決められたものです。それを覆そうというのです。
「僕はアカリを愛してしまった。聖女としての力を持った彼女をこの先ずっと支えていきたいと思ってしまったんだ。このままではアカリにも君にも悪いと思う。だから婚約を解消してほしい。大丈夫、君にはきっともっと良い相手が見つかるよ」
なんてひどいことを言うのでしょう。私がそう思ったその時、
「なんてひどいこと言うの!」
そう同じことを叫んだ人がいました。誰であろうアカリ様です。
「ベンネルとずっと一緒にいた婚約者なんでしょう?いくら政略だからってこんな場所でそんなこと言うなんてひどいよ!」
ベンネル第一王子の隣で、彼の服を引っ張り、メーレ様と対峙した状態でアカリ様はそんなことを言うのです。
ベンネル様を責める厳しい口調ですが、なぜか私の目にはアカリ様が楽しそうに微笑んでいるように見えました。
押し黙っていたメーレ様がすうと息を吸い静かに頭を下げます。
「婚約解消、承りましたわ」
2人に背を向けメーレ様が私たちのところに戻ってきます。無表情を装っていますが、唇をかみしめています。私たち三人はメーレ様を支えながら急いでパーティ会場を後にしました。パーティの礼儀なんて気にしてられません。今大事なのは傷ついた友人を助けることです。
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