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クロヴィスサイド1
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実は、今現在この部屋にはエレナ嬢と俺の二人つきりだ。
普通なら有り得ない。
それは、俺がここへやって来た時に遡る。
俺は王城で近衛騎士をしている。
名をクロヴィス・エトワー
公爵家の三男な為に家を継ぐでない俺は家から独立する為の収入を得るべく騎士の道に入った。
28歳で未だに結婚をしていないのは、一重に爵位がない男だからだ。
決してモテない訳ではない……はず。
だいたいにして、俺の今の収入では王都に家を一軒買うのがやっとで、それに見合うだけの使用人を雇う金はない。
故に、普段は独身寮で暮らして長期休暇は実家へと厄介になっている訳だ。
が、夜勤明け後一週間の長期休暇を貰った俺が実家に帰った所、本日の午後三時に此方の家に見合いに行けと言われた。
何でも、匿名希望と書かれた神の啓示?が届き、エレナ・ハワードとの見合いを成功させれば更なる繁栄がもたらされるらしい。
俺が士官学校に行っている辺りから良く届くようになった怪文書だが、その予言は百発百中。
外れた事がない。
例えば、士官学校時代に釣りに行って謝って船から落ちて3日ほど意識が無かった事とか、サンドイッチを食べていて間違って蜂を口の中に入れてしまった時とか、長男が王宮からの帰りに銃撃された事とか。
まぁ、兄はちゃっかり腹に鉄板を入れていて助かったが、俺の事件を見て念のためとか鉄板を入れておく辺り兄はちゃっかりしている。
自分では、俺への怪文書は「こんなのあるはずがない」と言われたものだが、蜂を間違って食べてしまった後からは誰も何も言わなくなった。
まぁ、それもあって俺も26歳の時の遠征時には夜は調子が悪いと田舎の下町の娼館には行かなかったのだから、ある意味怪文書は神の啓示になっていたのだと思う。
後から知ったのだが、娼館に行った同僚の何名かが性の病にかかり数ヶ月大変な目にあったらしい。
クワバラクワバラだ。
まぁ、それもあり我が公爵家はその匿名希望の怪文書を神の啓示などと言っては崇めている始末である。
「さて、どうするか……」
正直、一度寝たら夕方まで起きれる自信がなかった俺は、時間前だと言うのにその見合い相手の家に押し掛けたのだ。
ハワード公爵家には子供は彼女しかいない。
今年21歳になる彼女は貴族の中では行き遅れの部類だが、そんな婚期を逃した女の伴侶になれば、未来の公爵の地位が約束される。
但し、そうとう変わった女だと言う噂はあるし、本当の実子ではないとの話もある。
それと言うのも彼女は黒髪に黒い瞳なのだと言う。
ハワード夫妻はどちらもその色を持っていない。
故に、婦人が浮気したとの専らの噂だ。
が、古くからの家の者は『ハワード家に希に黒髪黒瞳の巫女が生まれる』との噂もあり、それほど大々的には中傷するものはいない。
何故なら、下手に中傷して呪われるのは嫌だからだ。
そんなこんなでハワード邸に着けば、エントランスで何やら揉め事が起きていた。
騒動の中心にいるのは
「あれって、ジャックじゃないか」
同じ近衛騎士で、同じ様に公爵家の三男だ。
「あいつも見合いだったのか」
どうやら相当揉めていて、誰も俺に気付いていない。
「どうすっかな~」
思わず頭をかくと、一人の令嬢が俺の側へとやって来た。
「こんにちは。エレナ・ハワードと申します。今少々込み入ってまして、どう言ったご用件でしょうか?」
黒髪に黒曜石の様な瞳。
幼い印象の令嬢エレナは俺にそう問い掛けて来た。
「あっ。私はクロヴィス・エトワーと申します。三時にお約束しておりましが、少々早く着いてしまいました」
現在11時になろう頃だから少々早いと言うには齟齬がある。
はっきり言えば嫌がらせと思われるレベルでの訪問だ。
けど、そんな俺の言葉に令嬢は「では、此方へは」と手を差し伸べて来る。
そして、あろう事か近くにいた女中に食事の用意を頼むと部屋へと誘導した。
部屋はちょっとした会談が出来るような所で、中央にある席にと誘導される。
「すみません。ちょっと手をかざして下さい」
椅子に座ると横に立つ彼女へ向けて手をかざした。
これに何の意味が?
そう思うと、彼女の手がそれにそっと添えられる。
「わぁ~大きい」
まるで子供が大人と手のひらを合わせて大きさを比べているように彼女は喜ぶ。
「素敵です。見て下さい。こんなに大きさが違うなんて」
武骨な俺の手に添えられた柔らかな小さな白い手。
「そうですか?他の者よりも手が大きいので『無駄に手だけ大きいな』と、軍の支給品の手袋が何時もオーダーメイドになってしまい、事務方から何時も文句を言われるんですよ」
その言葉に彼女の喉が鳴った。
何故に?
普通なら有り得ない。
それは、俺がここへやって来た時に遡る。
俺は王城で近衛騎士をしている。
名をクロヴィス・エトワー
公爵家の三男な為に家を継ぐでない俺は家から独立する為の収入を得るべく騎士の道に入った。
28歳で未だに結婚をしていないのは、一重に爵位がない男だからだ。
決してモテない訳ではない……はず。
だいたいにして、俺の今の収入では王都に家を一軒買うのがやっとで、それに見合うだけの使用人を雇う金はない。
故に、普段は独身寮で暮らして長期休暇は実家へと厄介になっている訳だ。
が、夜勤明け後一週間の長期休暇を貰った俺が実家に帰った所、本日の午後三時に此方の家に見合いに行けと言われた。
何でも、匿名希望と書かれた神の啓示?が届き、エレナ・ハワードとの見合いを成功させれば更なる繁栄がもたらされるらしい。
俺が士官学校に行っている辺りから良く届くようになった怪文書だが、その予言は百発百中。
外れた事がない。
例えば、士官学校時代に釣りに行って謝って船から落ちて3日ほど意識が無かった事とか、サンドイッチを食べていて間違って蜂を口の中に入れてしまった時とか、長男が王宮からの帰りに銃撃された事とか。
まぁ、兄はちゃっかり腹に鉄板を入れていて助かったが、俺の事件を見て念のためとか鉄板を入れておく辺り兄はちゃっかりしている。
自分では、俺への怪文書は「こんなのあるはずがない」と言われたものだが、蜂を間違って食べてしまった後からは誰も何も言わなくなった。
まぁ、それもあって俺も26歳の時の遠征時には夜は調子が悪いと田舎の下町の娼館には行かなかったのだから、ある意味怪文書は神の啓示になっていたのだと思う。
後から知ったのだが、娼館に行った同僚の何名かが性の病にかかり数ヶ月大変な目にあったらしい。
クワバラクワバラだ。
まぁ、それもあり我が公爵家はその匿名希望の怪文書を神の啓示などと言っては崇めている始末である。
「さて、どうするか……」
正直、一度寝たら夕方まで起きれる自信がなかった俺は、時間前だと言うのにその見合い相手の家に押し掛けたのだ。
ハワード公爵家には子供は彼女しかいない。
今年21歳になる彼女は貴族の中では行き遅れの部類だが、そんな婚期を逃した女の伴侶になれば、未来の公爵の地位が約束される。
但し、そうとう変わった女だと言う噂はあるし、本当の実子ではないとの話もある。
それと言うのも彼女は黒髪に黒い瞳なのだと言う。
ハワード夫妻はどちらもその色を持っていない。
故に、婦人が浮気したとの専らの噂だ。
が、古くからの家の者は『ハワード家に希に黒髪黒瞳の巫女が生まれる』との噂もあり、それほど大々的には中傷するものはいない。
何故なら、下手に中傷して呪われるのは嫌だからだ。
そんなこんなでハワード邸に着けば、エントランスで何やら揉め事が起きていた。
騒動の中心にいるのは
「あれって、ジャックじゃないか」
同じ近衛騎士で、同じ様に公爵家の三男だ。
「あいつも見合いだったのか」
どうやら相当揉めていて、誰も俺に気付いていない。
「どうすっかな~」
思わず頭をかくと、一人の令嬢が俺の側へとやって来た。
「こんにちは。エレナ・ハワードと申します。今少々込み入ってまして、どう言ったご用件でしょうか?」
黒髪に黒曜石の様な瞳。
幼い印象の令嬢エレナは俺にそう問い掛けて来た。
「あっ。私はクロヴィス・エトワーと申します。三時にお約束しておりましが、少々早く着いてしまいました」
現在11時になろう頃だから少々早いと言うには齟齬がある。
はっきり言えば嫌がらせと思われるレベルでの訪問だ。
けど、そんな俺の言葉に令嬢は「では、此方へは」と手を差し伸べて来る。
そして、あろう事か近くにいた女中に食事の用意を頼むと部屋へと誘導した。
部屋はちょっとした会談が出来るような所で、中央にある席にと誘導される。
「すみません。ちょっと手をかざして下さい」
椅子に座ると横に立つ彼女へ向けて手をかざした。
これに何の意味が?
そう思うと、彼女の手がそれにそっと添えられる。
「わぁ~大きい」
まるで子供が大人と手のひらを合わせて大きさを比べているように彼女は喜ぶ。
「素敵です。見て下さい。こんなに大きさが違うなんて」
武骨な俺の手に添えられた柔らかな小さな白い手。
「そうですか?他の者よりも手が大きいので『無駄に手だけ大きいな』と、軍の支給品の手袋が何時もオーダーメイドになってしまい、事務方から何時も文句を言われるんですよ」
その言葉に彼女の喉が鳴った。
何故に?
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