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その女、慇懃無礼である

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俺はこの国でも一番のウイルノット公爵家の嫡男でケヴィン・ウイルノットと言う。

これでも王太子の筆頭秘書官をしている。
故に情報収集に色々な婦人と食事をしたりその後もゴニョゴニョであるが、そんな俺に危機感を抱いた父がお茶会と言う名のお見合いをさせようとしている。
挙げ句、それを知った王太子が面白がって今朝早くから遊びに来ている。

「お前。婚約者がいるだろう」

そう、俺の友人でまだ婚約者がいない者も集まって来ているが、こいつは既に俺の妹と婚約したばかり。
「まぁ。ほら俗に言うだろう?マリッジブルーって」
「それは女な」
そう言いながら馬を走らせる。

だから、これは本当に偶然だと言える。
朝食前の散歩と称して殿下と敷地内を散策している時に、それは起こった。
地平線の彼方から颯爽と現れた馬を。
多分インパクトが凄かったんだと思う。
何せあの笑顔しか見せない殿下でさえも顔を硬直させたのだから。 

「すみません。ウイルノット公爵家はこの辺りで宜しいかしら?」
乗馬様の帽子をかぶった女が高圧的に見て来る。
気のせいか股間を踏まれそうな気配さえしてしまった。

ブルル………………。

「君はもしかして明日行われるウイルノット公爵家のお茶会の招待客かい?」
固まる俺に変わって王太子が彼女に問い掛ける。
「はい。ハウリン侯爵家の長女でメリッサと申しますわ」
何処と無くつんけんしている。
この方が誰だか判っているのだろうか?
「では、我が家の客人ですね。丁度我らも家に戻るところ。ご一緒致しましょう」
そう言って彼女を見ると思いっきり睨まれてしまった。

彼女の第一印象は変わった女。
それにつきた。

厩舎きゅうしゃの馬番に馬を預けて客人を連れて館に戻る。

改めて彼女を見ると余りにも変わった出で立ちだった。
簡素な時代遅れのドレスに布製の鞄を背負い、髪はボサボサ、顔には無数のソバカス、縁の大きい眼鏡をかけていて、とても見合いにのぞむ姿には見えなかった。
「朝食は?」
「まだですわ」
即答である。
「私達も今からです。ご一緒しませんか?」
王太子がスマートにエスコートするが
「申し訳ございません。朝から馬を飛ばして来たので疲れました。お部屋で頂いても宜しいでしょうか?」
あろう事か殿下のお誘いを無視して慇懃無礼にもそう言って来た。
「まぁ。ハウリン侯爵領からですと馬で三~四時間はかかりますからね。今日は明日に備えてゆっくりお休み下さい」
こんな女と食事なんてしたくないね。
そう思い彼女の提案に乗る。

それに、何故か彼女に見られると股間を踏まれそうな光景が浮かんで来るからだ。
「所で荷物はそれだけ?それとも後から届くのかな?」
王太子が興味有り気にそう尋ねる。
「これだけですが何か?」
嫌みかよと言う目で此方を見ると、そのまま家の侍女を促し颯爽とその場を退散して行った。
「面白い娘だね。案外ケヴィン好みかもよ」
そう言ってクックッと笑う王太子を俺は冷めた目で見ていた。

何処が俺の好みなものか……と。
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