憧れていた魔法の世界なのにしょぼい魔法しか使えない

一ノ瀬満月

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第1話 異世界転生

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 一日中この白い天井を見るようになって2年、いつ退院できるかも分からない。
 治らない病気ではないと医者に言われながらも一向によくならない病状に、わたしは現実逃避することが多くなった。

「次、目が冷めたら異世界で魔法が使えるようになっていたりしないかしら…?」

 私は多くの小説や漫画で描かれている異世界転生に憧れを抱き日々妄想しては、白い天井を見て現実に引き戻されるのだった。

「たまには病院の裏庭でも散歩しようかしら」

 私の入院費を稼ぐために毎日忙しく働いている家族がお見舞いに来ることはほとんどないので、気分転換することもなくなっていたが、何故か今日は外に出たくなった。
 病院の裏庭には多くの花壇と桜の木が植えられていて、春になると病院に関係ない人まで集まるほど見事な景色が広がるのだけれど、残念ながら今は秋。少しずつ気温も下がってきて肌寒さも感じるけれど、澄んだ空気が心地よい。

「自然に囲まれた場所で暮らして、魔法が使えたら最高ね…」

 人気のない方へ足が動き、妄想しながら歩いていると、突然立ち眩みがして…

——気がつくと、そこはいつもとは違う天井の色だった。

 えっ、いつもとは違う天井の色って???

 わたしはもうすぐ1歳になるプラム・リーヴという名前で、果物農家の子で…あれ?1歳未満の子がこんなに意識がはっきりしていたかなぁ?
 何か忘れていることがあるような気がしたけど、赤ちゃんだからそんなもんかと寝ることにした。

◇◇◇◇

 わたしは成長していくにつれ、前世の記憶が少しずつ蘇ってきている。最近、自分が異世界転生しているのかもということに気づいたこともあり、体はまだ小さいものの健康であることが嬉しくなった。
 最近はわたしがあちこち歩き回るものだから両親も気が気でない様子だけど、この世界に魔法があると知ってから体がうずうずしてしょうがない。ただ、魔法を使えるようになるのは3歳の誕生日に魔力適性検査?とういのをして魔法の杖をもらってからになるらしいので、今はまだお父さん、お母さん、お兄ちゃんの魔法をうらやましく眺めている日々だ。

 もうすぐ2歳になる私は、果物農家で体格も大きなお父さん、果樹園のお手伝いをしながら魔法療法士としても働いている美人のお母さん、そして4つ上のお兄ちゃんの4人家族。みんなの毎日の会話から、家業を継ぐ必要のなかったお父さんが村を出てこの小さな集落に移り住み、また別の村から魔法療法士としてやってきたお母さんと出会って結婚したということが分かった。

 お父さんはこの集落に移住した後、リンゴ栽培に成功してひと財産を築き上げていて、さらにこの集落をもっと活性化させたいと複数の果物の栽培を目指しているものの、ももの栽培が難しいようで、日々頭を悩ませている。
 お母さんはこの集落の魔法療法士として、水魔法を使ってここに訪れる人を癒やしながら、お父さんの果樹園のお手伝いもしている。

 二人共家族思いでとても優しく、わたしは家族に恵まれて幸せを感じている。
 いつか、二人の役に立ちたいなぁと思っていたところに、ここから少し離れた王都に魔法研究所という、ありとあらゆる分野について魔法を使って豊かにするための研究を行っている機関があること知った。
 魔法研究所にももの栽培についての研究を依頼するかどうかを悩んでいるお父さんとお母さんの会話で知ったぐらいなのでそんなに情報はないけれど、なぜかその魔法研究所のことがすごく気になった。

「お父さん、魔法研究所ってどんなところなの?」
 ある日、2歳がする質問じゃないなぁと思いつつも、すごくすごくすごく気になったので、聞いてみることにした。

「おっ、プラムは魔法研究所が気になるのか?」
「うん、知りたい!」
「魔法研究所はな、人々がより豊かに暮らせるようさまざまな魔法を考えたり、教えたりするところなんだ。例えば、砂地に花を咲かせる魔法とか、鉄をより硬く頑丈にする魔法とかな。でも、お金がものすごくかかるからほとんどが王家や貴族からの依頼らしくて、一農民が相手にしてもらえるのかどうかすら分からん」
「そっかぁ…」

 まるで異世界転生モノのお約束ごとのようだなぁと思いつつ、じゃあわたしが魔法研究所の所員になればいろいろ解決できるのでは?と思い、何となく言ってみた。

「わたしが大きくなったら魔法研究所に入ってお父さんの役に立ちたい!」
「おっ、そうかそうか」

 父は嬉しそうにわたしを頭の上まで抱き上げた。

「でも、魔法研究所に入るには15歳以上で、どれかの魔法属性がランク3以上必要だ。母さんとリカルドなら入れるが俺は入れん」
「そっかぁ。ランクを上げることはできるの?」
「ランクが上がるなんて話は聞いたことないな。でもリカルドが水魔法ランク4だからプラムも期待していいんじゃないか?」
「お兄ちゃん、すごいんだね!」
「ああ、プラムもリカルドも俺の自慢の子だ!!」

 父が使える魔法で一番ランクが高いのが土魔法でランクは2ってことだけど、果樹園の土壌がいいのは父の魔法のおかげなので、低いから役に立たないってわけではなさそう。
 でも、魔法研究所に入るために、何の属性でもいいからランク3以上あってほしい。

 兄の部屋で見つけた魔法の基礎知識の本を読んだ限りでは、魔法の属性もランクも遺伝しないことが多く、神様のお導きということだった。結構アバウトだなぁ。そうそう、早くこの世界の知識を得たかったので、母に頼んで文字を教えてもらい、回りくどかったり難しい内容でなければ本も読めるようになった。

「今どきの子ってこんな小さくても文字が読めるようになるのね」

 兄がどのぐらいで文字を読めるようになったのか分からないけれど、母は天然だと思う。

 いつでも魔法研究所に入れるように色んなことを覚えたほうがいいと思い、魔法に関係する本がたくさんほしいと両親にねだったところ、隣村や町へいくたびに本を買ってきてくれるようになったけれど…

「ぼくが先に読むんだからねっ」

 わたしが本を読むようになってから何故か兄がライバル視し始めて、両親が買ってきてくれる本は兄が読んでからでないと読ませてくれなくなった。4歳下の妹に対して大人げないなぁ、お兄ちゃん。
 この世界の本は田舎の農民が簡単に買える金額ではないらしいけれど、祖父母にお金をかけてもらえなかった父はわたしたちに同じ思いはさせたくないと、知識になりそうなものは多少高額でもすぐに買ってしまう。たまにあまり役に立たないのにムダに高い本を買ってしまった時などは、母に怒られている。お父さん、本を読むの嫌いだもんね。本の内容を理解しないで買っていること、きっと多いね。


 そんな家族と楽しい平穏な毎日を過ごし、そして今日、わたしは3歳の誕生日を迎える。
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