全てを失った私が、黒竜王の最愛になるまで

湊一桜

文字の大きさ
24 / 43
第二章

空気が読めない聖女様集団

しおりを挟む
「あの……こんな豪華な部屋、落ち着きませんが……」

「問題ない。俺がいいって言ってるんだから」

 こんなやり取りを数十回繰り返し、とうとう諦めた豪華な部屋を出る。そして、赤いカーペットの敷かれた長い廊下を歩き、広大なホールへ出る。ホールには騎士たちやメイドたちが行き交い、

「おはようございます、エマ様」

私の姿を見つけては頭を下げる。彼らに挨拶を返しながらも思った。

 (調子狂うな、私はただの庶民なのに)

 こうして私は城を出て、働き慣れた食堂へと向かう。



「おはようございます!」

 その茶色い扉を開けると、見慣れた食堂のテーブルが目に飛び込んでくる。そのテーブルを拭いていた女将さんが、いつものように挨拶をする。

「おはよう、エマ」

 (うん。私には、やっぱりこっちのほうがいいや)

 豪華で煌びやかな城よりも、庶民的で質素な食堂のほうが落ち着くのであった。



 女将さんはテーブルを拭きながら、いつものように話をする。

「そういえば、シャーマニアの聖女様が来られるらしいわね」

 内心ビクッと飛び上がりつつも、

「そうですね」

と反応するにとどめておく。

 食堂で楽しい時間を過ごすために、聖女と知り合いだなんて思われたくもなかった。しかも、その聖女が一癖も二癖もある性格であるからだ。里果がこの国に来て、問題を起こさず帰るだなんて、到底想像がつかない。きっと街の人々を卑下し、クリフさんに付きまとうのだろう。


 そんな私の不安は、現実となるのだった。





 昼頃、にわかに外が騒がしくなる。なんだろうと女将さんと外へ出ると、白いローブを着た集団が、遠くからこちらへやってくるところだった。その白いローブを見た瞬間、シャーマニアでの出来事を思い出した。

 シャーマニアでは、あのローブを着た男性たちが、街を取り仕切っていた。聖女様が通るからと人々を跪かせ、顔を上げてしまった私を鞭打ちしようとした。
 あの時クリフさんがいたから良かったものの……もしクリフさんがいなければ、私はどうなっていたのだろう。


 黒竜国の人々は、シャーマニアの人々と違う。街もそれなりに豊かで、権力に縛られることもない。そんな人々は、聖女様を一目見ようと通りに飛び出した。そして、この自由な人々に向かって、シャーマニアの白ローブ集団は、自国でのしきたりを強要したのだ。

「聖女様のお通りだ!」

 大声で叫ぶ白ローブ集団を、街の人々は声を上げ手を振って迎えた。人々はもちろん、聖女様を歓迎していたのだが……

「聖女様に失礼だ。地に膝をつき、頭を下げよ!! 」

 白ローブ集団は大声で叫び、手に持っていた鞭を地面に打ち付けて威嚇する。それで多くの人は怯えて屋内に戻るか、言われたように座り込んで頭を下げるのであった。

 聖女は傷ついた者を癒しに来ると信じていたのに、自分はただ怒鳴られ跪かされた。人々は当然そう感じ、聖女に対して嫌悪感を持つこととなる。



 白ローブ集団と馬車が通り過ぎた後、通りは騒然としていた。多くの市民が聖女に対して疑問を持ち、聖女に対する考え方を変えていた。

 それは、女将さんも然りであった。

「ねぇー、あの聖女様の集団、おかしくない? 」

 女将さんは怪訝な顔で私に言う。

「私たち、竜王陛下にも跪いたことなんてないのに……」

「そう思います」

 ここでふと、クリフさんの言動を思い出した。クリフさんは私たちが他国のものだから、跪く必要はないと彼らに言い放った。それはもっともである。

「竜王陛下もこの様子を見て、楽しくないでしょうね」

 思わず口走ってしまったが、女将さんも首を縦に振った。

「そりゃあ、そうよ。
 自分の国民が、他国の聖女に跪かされてるんだもん。
 私は黒竜国民で本当に良かったと思うわ」

 その言葉を聞いて安心した。竜王陛下は、国民からの信頼も厚い。国民から好かれている。きっとクリフさんはこの状況に苦言を呈するだろうが……もし無反応だったら、私がちくりと言ってやろうと思った。

 
 その日の食堂は、聖女様の噂でもちきりだった。もちろん、悪い噂で、だ。

「聞いてよ!私なんて、頭が上がっていたからって、鞭で殴られたのよ? 」

 鳥の獣人は、羽が抜けて傷ついた腕を見せる。それで私は慌ててその腕に触れ、傷を治療した。

「優しい心を持つ聖女様なら、それを止めるはずだよね? 」

「うんうん。聖女様って外を見たりもしないし、私たちを見ても無反応だよな!」

「エマが聖女様になればいいのに!! 」

 最後の言葉には、

「それは遠慮しときます」

苦笑いをして答えた。

「私はただ治療の能力を持つだけで、聖女なんて大それたものでもないし……
 それよりも、この食堂で楽しくやっているほうがよっぽど自分らしいです」

 私の言葉に、女将さんやお客様が大笑いする。そして、こうして素敵な人々に囲まれて過ごせる幸せを感じた。

 里果が近くにいると、こういう幸せをぶち壊していってしまうから。だが、今も里果は私の近くにいる。その事実に、不安を感じている。


 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています

鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。 けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。 指示を出さない。 判断を奪わない。 必要以上に関わらない。 「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。 それなのに―― いつの間にか屋敷は落ち着き、 使用人たちは迷わなくなり、 人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。 誰かに依存しない。 誰かを支配しない。 それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。 必要とされなくてもいい。 役に立たなくてもいい。 それでも、ここにいていい。 これは、 「何もしない」ことで壊れなかった関係と、 「奪わない」ことで続いていった日常を描く、 静かでやさしい結婚生活の物語。

私に用はないのでしょう?

たくわん
恋愛
サクッと読める短編集

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

声を聞かせて

はるきりょう
恋愛
動物の声が聞こえる彼女と冷たい第二王子の物語。完成しました。 「……反対されない、というのは、寂しいことだと思いますの。だから…私が反対してさしあげます」  サーシャは最上級の笑顔を浮かべた。そして、思い切り息を吸い込む。 「何でも思い通りいくと思うなよ、くそ王子!!」 「サ、サーシャ様!?」  なりゆきを見守っていたハリオが慌てたようにサーシャの名を呼んだ。一国の王子への暴言は不敬罪で捕まりかねない。けれど、言わずにはいられなかった。  そんなサーシャの言動にユリウスは一瞬目を丸くし、しかしすぐに楽しそうに笑った。  「お前面白いな。本当に気に入った」 小説家になろうサイト様にも掲載してします。

断罪ざまぁも冴えない王子もお断り!~せっかく公爵令嬢に生まれ変わったので、自分好みのイケメン見つけて幸せ目指すことにしました~

古堂 素央
恋愛
【完結】 「なんでわたしを突き落とさないのよ」  学園の廊下で、見知らぬ女生徒に声をかけられた公爵令嬢ハナコ。  階段から転げ落ちたことをきっかけに、ハナコは自分が乙女ゲームの世界に生まれ変わったことを知る。しかもハナコは悪役令嬢のポジションで。  しかしなぜかヒロインそっちのけでぐいぐいハナコに迫ってくる攻略対象の王子。その上、王子は前世でハナコがこっぴどく振った瓶底眼鏡の山田そっくりで。  ギロチンエンドか瓶底眼鏡とゴールインするか。選択を迫られる中、他の攻略対象の好感度まで上がっていって!?  悪役令嬢? 断罪ざまぁ? いいえ、冴えない王子と結ばれるくらいなら、ノシつけてヒロインに押しつけます!  黒ヒロインの陰謀を交わしつつ、無事ハナコは王子の魔の手から逃げ切ることはできるのか!?

学園では婚約者に冷遇されていますが、有能なので全く気になりません。〜学園でお山の大将されてても、王宮では私の方が有能ですから〜

織り子
恋愛
王都カラディナにある国立魔術学園では、満十六歳の生徒たちの社交界デビューを兼ねた盛大なパーティーが開かれていた。 侯爵令嬢タレイア・オルトランは、婚約者である第二王子アスラン・オグセリアの迎えを待つも、結局ひとりで会場へ向かうことになる。 学園では身分の差がないとはいえ、アスランが公然とタレイアを侮辱し続けてきたことで、彼女は生徒たちから冷笑と蔑視の的となっていた。しかしタレイアは、王城で政務を担ってきた聡明さと矜持を失わず、毅然と振る舞う。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

【完結】婚約者の真実の愛探しのお手伝い。私たち、愛のキューピッドなんです?

buchi
恋愛
家の都合で決められた婚約者の扱いがひどい。招待状は無視する、学園では目も合わさない。メガネっ子の私になんか、関心がないんだと思っていました。それならいっそ解放して欲しいものです。と、思っていたら、婚約者は真実の愛を求めてパーティ会場で婚約破棄! でも、事情もあったみたい。元婚約者には幸せになって欲しい。私、彼の真実の愛探しを一生懸命お手伝いしました。知り合いのご令嬢も紹介しましたのよ? だのに強硬に再婚約を迫られて大弱り。一度婚約破棄されたら戻すのなんか至難の業。母だって、私のために他の縁談を探してますし、彼の友達だって私に親身になって寄り添ってくれたり。これはそんな私たちの愛と友情(と下心)の物語です! 12万字くらい。58話。単純な恋愛物語です。

処理中です...